デジタルトランスフォーメーション デジタルの力で未来を変える

Microsoft Foresight Report 02
人を中心とするデザインとコグニティブ(認知)で顧客経験価値を向上させるには?ソフトバンクロボティクス、トヨタメディアサービスの事例に学ぶ

最新のデジタル技術を駆使してビジネスモデルの転換や新ビジネスモデルの創出を成し遂げる、デジタルトランスフォーメーション。一方で、デザイン思考を取り入れながら顧客経験価値を高めるための新しいサービスを生み出すという取り組みが進み始めている。進化を続ける技術を取り入れながら、新しいビジネスを生み出し推進するにはどのような考え方が必要なのか、ディスカッションを通じさまざまな視点から考察を深めた。

※本記事は、Microsoft Foresightでのセッション「顧客中心デザインとコグニティブによる顧客経験価値向上」をもとに作成しています。

デザイン思考で変革を生むには
顧客経験価値を高める変革には“人中心”のデザインシンキングが最適

IDEO Tokyo
デザインディレクター
グレゴリー・ペレズ氏

デザイン思考とは、デザインの手法・考え方を企業活動の変革や社会の問題解決に生かすためのアプローチである。その特徴は、利用する人、作り手など、そのビジネスやプロダクトに関わるすべての人の視点を重視し、実利用できるプロトタイプを早期に作り試行錯誤を繰り返すというアプローチである。デザイン思考はデジタルとの直接の関係はないが、人中心のデザインから顧客経験価値向上を目指すタイプのデジタルトランスフォーメーションに適するとされる。

IDEO Tokyoのデザインディレクターであるグレゴリー・ペレズ氏は、デザイン思考の第1原則を「アプローチであって、ソリューションではない」と紹介。何かを作り出すツールというより、アイデアを生み出すための手法と説明した。

さらに、デザイン思考でイノベーションを生み出すための3要素として「Feasibility (技術的実現性)」「Viability (経済的実現性)」「Desirability (有用性)」を挙げ、「IDEOはDesirabilityがもっとも重要だと考え、ここからデザインを始めています」と明かす。

デザイン思考の具体的な進め方は、フェーズ1(調査とインスピレーション)→フェーズ2(統合と戦略立案)→フェーズ3(ブレーンストーミングとコンセプト作成)→フェーズ4(プロトタイピングとストーリーテリング)といった流れだ。生まれたアイデアをいったん統合し、コンセプトをプロトタイプで検証するというプロセスは、最長2年に及ぶこともあるという。

第2の原則としてペレズ氏が挙げたのは「人々が欲しい物は、真に求めているニーズとは異なることがある」とのこと。そこで、利用者の言動を観察するだけでなく、その人の視点に立ち共感することが重要だと指摘する。第3の原則は、「考えるために作る」。デザイン思考の価値は、プロトタイピングによる試行錯誤にかかっているのである。

顧客の認識・認知・知覚を重視せよ
インクルーシブデザインと併せてコグニティブを活用して顧客経験価値を高める

日本マイクロソフト株式会社
エンタープライズ&パートナーサービス統括本部
デジタルアドバイザリサービス本部
チーフデジタルアドバイザー
田澤 孝之 氏

日本マイクロソフト チーフデジタルアドバイザー 田澤孝之氏からは、デザイン思考の拡張版にあたる「インクルーシブデザイン」について、マイクロソフトとしての考えを語った。顧客経験価値を高めるには、多くの人々をインクルーシブ(包含)するインクルーシブデザインも適用し、「顧客を知り、顧客に心地よいサービスを提供」する際に、マイクロソフトが提供するさまざまなテクノロジーの活用の可能性もあるとの考えを示した。

例えば、インクルーシブデザインが目指しているのは「製品やサービスから除外(エクスクルーシブ)される人をなくす」こと。田澤氏は“優れた制約”という考え方を取り上げて、「歩道の切り下げは車椅子の利用者を想定してデザインされていますが、ベビーカーを押す母親や自転車に乗る子供、台車を利用する大人のためにも役立っています」と説明し、「ある制限」を持った人に対する「デザイン」は実は多くの人にも役に立つという分かりやすい例を紹介した。

こうした人中心のデザインの考え方は、顧客経験価値を向上させるためにも役立つ。顧客経験価値とは、マーケティングや製品ライフサイクルの基礎となるカスタマージャーニーのブランドとのタッチポイント(接点)における“良い体験”が顧客に与える価値のこと。逆に「悪い経験」をすれば顧客経験価値は低下する。顧客の経験価値を上げるためには顧客視点でカスタマージャーニーを描き分析することが最も重要とも語る。昨今の顧客はブランドが考える通りには決して行動しないからである。

そしてデザインする上で重要なのは、デザイン思考に倣い、Desirability(顧客価値)・Viability(ビジネス価値)・Feasibility(ソリューション価値)の3つのバランスをとりデザインすることが重要であると田澤氏は語る。これはデザイン思考の肝でありIDEOのペレズ氏と視点は同様である。

また、マイクロソフトには「顧客を知り顧客に心地よいサービスを提供」するための様々なテクノロジー・サービスが揃っている。顧客接点から得られる認識、認知、知覚をマイクロソフトのコグニティブサービスで分析し、顧客の状態をより理解することで、顧客に寄り添った顧客経験を届けることができると考える。

例えば、Windows Hello(顔認証)、HoloLens(複合現実)、Cortana Intelligent Service(認知、深層、機械学習、分析)、Skype Translator(音声逐次翻訳)、Universal Windows Platform apps(デバイス共通インタフェースアプリケーション)などが挙げられる。「顧客接点で取得したデータをMicrosoft Azureに集めてCortana Intelligent Serviceの深層学習や機械学習で分析することにより、伝統的なデモグラフィック情報に加えて、顧客のデジタル上の行動を読み解いたり、顧客の感情や気分に寄り添ったサービスを提供することが可能になる。これも一つのデジタルトランスフォーメーションだ」とテクノロジー活用の具体例を示した。

顧客中心デザインの考え方は、顧客接点における“良い体験”を
顧客に与えることによって顧客経験価値を向上させる

顧客経験価値向上の現場
Azureを活用し顧客経験価値向上にむけた取り組みの実際とさらなるテクノロジーの進化への期待

この2つの講演に続くパネルディスカッションでは、Azureを活用して、顧客経験価値向上に取り組む企業が加わり、最新の技術がどう活用できるかを議論した。

ソフトバンクロボティクス株式会社
事業推進本部 本部長
吉田 健一 氏

トヨタメディアサービス株式会社
技術本部  取締役
堂原 淳也 氏

その一社が、人型ロボット「Pepper(ペッパー)」を手がけるソフトバンクロボティクスだ。Pepper for Bizのユーザーは、2016年9月時点で国内1500社。ソフトバンクロボティクス 事業推進本部 本部長 吉田健一、「Pepper は、店頭で顧客経験価値を高めるロボットとして活躍の場を広げています」と状況を説明する。来店客を売り場に立ち止まらせる効果は店員よりも高く、それは医療の現場でも、検診センターに来院したお客様に対し「骨粗鬆症検診のお勧め」といった働きかけもロボットからのほうが耳を傾けてもらいやすいというのだ。高度な認知能力を備えたPepperは直接的なコミュニケーションに強いと吉田氏は評価する。

もう一社は、G-Link(レクサス車向け)とT-Connect(トヨタ車向け)などのテレマティクスサービスを展開しているトヨタメディアサービスである。トヨタメディアサービス 技術本部 取締役 堂原淳也氏はこの2つのサービスがMicrosoft Azure上に実装されていると明かし、「ドライバーとの音声対話や、車の行動の先読み情報案内などにもMicrosoft Azureを活用しています」と紹介した。

さらに、2017年度以降は車載通信機の装着率が高まってコネクテッドカーが急増するというのが同社の予測。「大量のIoTデータをクラウドで収集・分析・活用するための基盤として、当社は『トヨタビッグデータセンター』もMicrosoft Azure上に構築し始めています」と堂原氏はいう。