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日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016 第5回 ビジネスとソーシャルをつなぐ人材育成の最前線

9月末に東京で開催された日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016では、「“2枚目の名刺”が新しい社会を創る――ビジネスとソーシャルをつなぐ最先端の仕掛け」と題した分科会が行われた。ビジネスセクターとソーシャルセクターの協業は、複雑化する社会課題の解決に向けた重要なテーマのひとつだ。その実践を後押しするべく、NPO法人「二枚目の名刺」は、社会人チームとNPOが共に社会活動事業を推進する「サポートプロジェクト」を展開している。近年は企業もこの取り組みに注目しており、ギャップジャパン株式会社では人材育成プログラムの一環として同プロジェクトを導入した。その背景と期待する効果について、Gap人事部 シニア・ディレクターの志水静香氏に聞いた。

外部の組織とつながり多様な価値観に触れる越境学習

CAPTER 01 外部の組織とつながり多様な価値観に触れる越境学習

――二枚目の名刺が展開する「サポートプロジェクト」を導入したきっかけは?

志水 ギャップジャパンでは、米国本社の主導でさまざまな人材育成のトレーニングを取り入れています。ただ、コーチングの手法や部下との接し方などを学べるそれらのリーダーシッププログラムは、いわば“アプリ”のような位置付けです。会社の将来を背負うリーダーを育てるためには、まずは物事の考え方の基盤となる“OS”をつくらなければならないという課題意識を持っていました。

そんなとき、大学院時代の知人である石山恒貴先生(法政大学大学院政策創造研究科教授)の書籍『パラレルキャリアを始めよう!』を読みました。石山先生は、一組織のなかで経験や知識を培っていく垂直型の教育ではなく、外部の組織とつながり多様な価値観に触れる越境学習の重要性を説いています。二枚目の名刺の活動についても本のなかで紹介されていて、「これをやってみよう!」と直感的に思ったのがきっかけです。

――人材育成の観点のほかに、魅力を感じた点はありますか?

志水 ひとつは、「サポートプロジェクト」が社会に寄与する活動である点です。私がギャップジャパンに勤めて18年になりますが、この会社がとても好きで誇りに思うのは、地域社会に還元していく価値観が組織にねづいているところです。社会課題の解決に向けた取り組みを世界でも先駆的に行ってきた経緯があり、そうした企業文化に合致すると思いました。

また、社員のセカンドキャリアの道を開くきっかけになりうるとも考えています。Gapが日本に進出して20年が経ち、平均年齢も上がってきています。一方で、この会社で身につけた経験とスキルのみで長い人生を考えたときに、第二のキャリアを築いていくことはなかなか難しいでしょう。外部の団体に身を置くことで改めて自分を見つめ直すと同時に、そこで培った新たなネットワークを生かしてリタイアした後もキラキラ輝いてほしいと思っています。

マネジメントの視点で事業に携わることができる

CAPTER 02 マネジメントの視点で事業に携わることができる

――社内の反応はどうでしたか?

志水 新しい試みですから最初が肝心と思い、石山先生を会社にお招きしてパラレルキャリアについて講演してもらいました。対象は、本社の課長・部長クラスと地区統括マネージャーの50人くらいです。人事部の押し付けには決してしたくなかったので、自発的に手が挙がらなければやらないと決めていました。

ところが、「自分の人生を豊かにするために、仕事と家庭に加えて3つ目の世界を持とう」という石山先生の話に共感したようで、多くの社員からポジティブな反応がありました。その後、参加希望者と個別に面談を行い、「なぜ参加したいのか」「自分自身の成長にどんな課題を持っているのか」といったことを話し合いました。たくさんの応募があり、9人選出しました。今まさにプロジェクトを進めているところです。

――実際にどんなプロジェクトを行っているのですか?

志水 Gapでは、若者のキャリア支援と女性の自立支援を中心にさまざまな社会貢献活動に取り組んでいます。そのテーマから離れないように、3つの団体を選びました。一団体につきギャップジャパンの社員3人、NPO、公募による一般の方を合わせた約8人のチームを組成し、4カ月で課題解決を目指します。

そのうちのひとつ、NPO法人ArrowArrow(アローアロー)は、産育休取得に向けたコンサルティングサービスや女性社員活用研修を行っています。中小企業の女性社員が子どもを産みやすく、復帰しやすい環境を整えるためのサポートプログラムを提供しているのですが、なかなか導入企業が増えない課題を抱えています。4カ月という短い期間で結果を出すことは簡単ではありませんが、参加している社員に話を聞くととにかく楽しそうで、充実ぶりが伝わってきます。マネジメントの視点で事業に携わることができ、単純に労働力や時間を提供するだけでないところに面白さがあるようです。

同じ価値観を持つ人たちの間にイノベーションは生まれにくい

CAPTER 03 同じ価値観を持つ人たちの間にイノベーションは生まれにくい

――会社としてどんな効果を期待していますか?

志水 座学では手に入らない経験を、ぜひ“1枚目”に持って帰ってきてほしいですね。考え方や文化が異なる人たちと一緒にいると脳が活性化されることは、科学的に証明されているんです。自分の職場の居心地が良いと感じているとしたら、それは同じ価値観を持つ人たちと共通言語を使って働いているからでしょう。もちろん実行力などプラスに作用する部分もありますが、そこからイノベーションは生まれづらいと思っています。

実際、プロジェクトを開始してまだ1カ月ほどしか経っていませんが、9人のうち2人は明らかに行動が変わったと上司から報告を受けています。4カ月が終わったときに1人でも「こんな学びがありました」「私はこういう風に変わりました」と言ってくれればいいなと思っていたので、嬉しい限りです。

――こうした取り組みは日本に定着するでしょうか?

志水 他社の人事担当者と話をする機会がありますが、興味を示す会社はとても多いです。上手くいったところ、そうでないところ、全て私たちの取り組みはシェアしていきたいと考えています。

その一環として、現在進行中のプロジェクトの前後で社員がどう変わったかを前述した石山先生に分析してもらいます。本人、上司、同僚、人事にインタビューを行い、どのコンピタンシ―(発揮能力)に効いたのかを数字で算出する予定です。客観的なデータで成果を示すことができれば、導入を前向きに検討するひとつの判断材料になるでしょう。どんな結果が表れるか、今から楽しみにしています。

*  *  *

人材育成の新たなアプローチとして、パラレルキャリアを選択できる制度を導入する企業が増えつつある。日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016の統括を務めた日本財団の青柳光昌氏は、「自分の経験やスキルを生かして社会課題の解決に向けた活動に関わりたいという一般企業に勤める社員の層が厚くなってきています。こうした人材を活用できれば、ソーシャルセクターにおいて、イノベーションのきっかけとなるアイディアやアクションがより生まれやすくなります」と期待を込める。

日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016 詳細はこちら日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016 チケット申し込み

日本財団

9月28日~30日開催
日本財団ソーシャル
イノベーションフォーラム
2016

日本財団は、これまでのアプローチでは解決が困難な社会課題に対し、ソーシャルイノベーションのハブとしての役割を実行するため、各セクターからの参加を募った大型イベント「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016」を開催
時期:2016年9月28日~30日
場所:虎ノ門ヒルズフォーラム
参加人数:延べ2,200名

フォーラム詳細

日本財団とは

ボートレースの収益金や寄付金を活用し、子ども、障害者、高齢者、災害などの分野で社会貢献活動を行っている公益財団法人。国内外の様々な社会課題解決に向け、企業や行政機関との連携事業にも力を入れている。

日本財団公式サイト

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