“見える化”でムダが見えてくる  新時代の業務改善「HIT.s法」

シナノケンシ株式会社 100年企業は未来創造企業へ ワークライフバランスと生産性を両立させる力

生まれた時間が仕事の創造性をもたらす

シナノケンシ株式会社
グローバル事業推進本部
副本部長

寺尾 雄二郎

Yujirou Terao

ではS-BPI活動は、シナノケンシの“働き方改革”にどのように結び付いたのか?

「人事の観点で目に見える効果として挙げられるのは、何と言っても社員の総労働時間が大幅に削減されたことです」と語るのは、同社グローバル事業推進本部 副本部長の寺尾雄二郎氏。本連載の第1回で金子元昭代表取締役社長が明らかにしたように、シナノケンシの社員1人当たりの月平均残業時間は、S-BPI活動がスタートする前の約11時間から約7時間に短縮された。

「当社はS-BPI活動を始める以前から、社員のワークライフバランスを改善しつつ、業務の生産性も同時に向上させていくことを重要な方針として掲げてきましたが、それが目に見えて達成されてきたという手応えを感じています」(寺尾氏)

寺尾氏が語るように、シナノケンシがワークライフバランスの改善に向けて取り組んできた歴史は長い。育児休業制度を取り入れたのはいまから20年以上も前の1992年4月、在宅勤務(テレワーク)制度を導入したのは2007年3月のことだ。その積極的な取り組みによって同年度には「社員の子育て応援企業長野県知事賞」、2008年度には「ファミリー・フレンドリー企業」として厚生労働大臣表彰を受けるなど、華々しい受賞歴もある。HIT.s法を活用した“業務のムダ取り”は、そうした同社の取り組みをさらに後押しする力となったようだ。

もちろん、ムダな業務の時間が減れば、その分、技術開発や設計など、クリエーティブで生産性の高い業務に費やせる時間が増える。「改善を重ねることが結果として時間の創出に結び付き、社員1人ひとりや会社全体の創造性が高まるという好循環が生まれているようです」と寺尾氏は指摘する。それを踏まえ、今後は人材育成においても「生まれた時間を生かしながら、社員1人ひとりが着実にステップアップできるような教育体制づくりが必要だと考えています」と寺尾氏は抱負を語る。

一方、「HIT.s法の活用によって、部門間や社員同士のコミュニケーションが以前にも増して活発化するようになったのは、もうひとつの大きな成果だと思います」と語るのは、同社広報チームのチームマネージャーで、グローバル事業推進本部 総務・法務グループ グループマネージャー付/RSTトレーナーも兼務する畑典之氏。

HIT.s法のチャートや用語は、改善のための“共通言語”として用いられている。だからこそ部門の垣根を越えた対話が容易になり、改善に向けての社内協業関係も進んだ。

「当社はビジネスユニット制を導入しているので基本的に自部門の課題は自部門で解決しますが、部門を越えて解決しなければならない課題も決して少なくはありません。部分最適ではなく、会社全体の業務プロセスを最適化させる上でも、部門の垣根を越えたコミュニケーションや協業は非常に重要だと思います」(畑氏)

シナノケンシ株式会社
グローバル事業推進本部
総務・法務グループ
グループマネージャー付/RSTトレーナー

畑 典之

Noriyuki Hata

受賞歴

■ファミリー・フレンドリー企業部門
厚生労働大臣優良賞受賞(2008年度)

■均等・両立推進企業表彰
長野県労働局長賞優良賞受賞(2008年度)

■社員の子育て応援企業
長野県知事賞受賞(2007年度)

■子育て同盟
最優秀子育て応援企業賞受賞(2014年度)

2008年「くるみんマーク」取得 子育てサポートしています 2008年認定事業主

シナノケンシは、ワークライフバランスや“働き方改革”といったキーワードが今日のように注目される以前から、社員が働きやすい環境づくりに取り組んできた。華々しい受賞歴はその努力の証しである。

産休がもたらした業務の見直し

シナノケンシ株式会社
グローバル事業推進本部
人事グループ 人事チーム チームリーダー

川本 希美

Kimi Kawamoto

最後に、シナノケンシの社員がHIT.s法を応用して目に見える“働き方改革”を実践した個別事例を紹介しておこう。

同社グローバル事業推進本部 人事グループ 人事チーム チームリーダーの川本希美氏は、2015年6月から2人目の子どもを出産するため産休に入った。休業に向けての準備として、川本氏は自らが抱えていた業務を同僚や部下に移管したが、その際、「移管した業務によって、同僚や部下たちの業務時間が目標を上回らないように配慮しただけでなく、これを機に若手層をキャリアアップさせるという視点を加えて、移管する業務の中身にも工夫を凝らしました」と川本氏は語る。

また川本氏は、人事の業務として出向者の賃金計算なども行っていたが、この業務については総務部門で出向者の手続きなどを処理している社員に移管した。同じ出向者向けの業務でありながら、以前から賃金関係は人事、手続き関係は総務が別々に処理していることがHIT.s法で明らかになり、これを機に一体化を図ったほうが業務のムダを省けると判断したためだ。

こうして川本氏は抱えていた業務を割り振った。それぞれの社員が抱えている業務状況が把握できていたため、そのままの状態で移管しても目標時間に収めることができるのはわかった。しかし一方で、引き受けた社員の業務負担が増えてしまうことは目に見えていた。そこで産休に入る前に、自らの業務について57件もの改善提案を行い、後継者の負担軽減を図った。これによって、川本氏は安心して産休に入ることができたのである。

創意工夫によって自らのワークライフバランスを最適化し、同時に後輩の育成や業務の合理化・平準化を両立する川本氏の取り組みは、HIT.s法の考え方が存分に生かされた“働き方改革”の好事例と言えるだろう。

「おかげさまで2人目の子どもを無事出産し、1年余りの育児休業を経て職場復帰できました。以前の仕事はすべて移管したので、同じ仕事をすることはなく、まったく新しいキャリアを積んでいます。業務の改善に積極的に取り組めば、会社全体の生産性が上がるだけでなく、個人としてのキャリアチャンスも広がるのだということを実感しました」と川本氏は語る。

HIT.s法の活用によって、シナノケンシの“働き方改革”は着実に成果を上げている。2018年の創業100周年に向けて、さらなる進化と成長が続きそうだ。

Dさん(川本氏)は自らの産休取得に先駆けて、抱えていた業務を同僚や部下に分担。しかもただ移管するだけでなく、57件もの改善提案を行って後継者の業務負荷を減らした。

用語 解説
カウンセル HIT.s法は、人材育成型カウンセル活動。一般的に「コンサル」はヒアリング方式でコンサルタントが業務の可視化を行い改善手法を示唆するのに対し、「カウンセル」では、活動の主役は活動する担当者自身が行う。
基本活動 HIT.s法の前半6カ月の活動を指す。社内で1人ひとりが分担する業務をSチャート化し、身の回りのムダ取り改善を通じてHIT.s法の基礎を習得。6カ月で15%の節減効果を目指す。
専門活動 HIT.s法の後半6カ月の活動を指す。基本活動の成果を基に、システム構築の見直しや人材育成の仕組みづくり、リードタイム短縮などの企業ニーズに合わせた活動を行う。
テーマ活動 基本活動で見つけた大きな改善(改善テーマ)について、問題となる業務を業務体系から特定し、各種チャート精度を向上しながら改善方法を策定し実施していく。
Sチャート StraightChart(ストレートチャート)の略語。HIT.s法の基本となるチャートで、各業務の作業手順を表す図。 Sチャートで使用する作業記号により、作業のムダを誰もが同一目線で把握することができる。
Bチャート BlockChart(ブロックチャート)の略語。業務体系図をベースとし、部門内の業務の流れをマクロ的に把握することができる。
Mチャート ManagementChart(マネジメントチャート)の略語。Bチャートを全社的に網羅し、全社機能を一目で把握することができる。
業務体系 業務の機能を4階層構造でまとめたもの。一番下の階層である4次業務にはSチャートが格納されている。
アウトプット検討会 HIT.s法基本活動の進捗状況と成果、および課題を経営者・管理者・担当者の三者で共有するための月に1度の報告会。各部門リーダーからの進捗発表、改善提案書の事例発表、活動における課題の共有と解決を目的に開催する。
進捗管理表 各担当者ごとの可視化進捗状況を数値で可視化した一覧表。
改善提案書 自身の業務プロセスにおいて、共通フォーマットにテーマや改善内容、Sチャートを使った改善の詳細、改善効果(年間作業量・リードタイム・年間削減費用)を記載したもの。
有効工数 Sチャートを構成している作業の原単位(単位作業)で、作業間に中断・手待ち・休憩などのロスを含まない最短時間を指す。
可視経営協会 2011年に発足したHIT.s法の教育・資格認定などの事業、および普及活動を行うための一般社団法人。
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