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日経ビジネスオンラインSpecial

15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと

  • 定価:
    1,400円+税
  • 著者:
    正田 圭
  • 出版社:
    CCCメディアハウス
  • ISBN-10:
    4484162075
  • ISBN-13:
    978-4484162072

インタビュー

豊臣秀吉や矢沢永吉さんなど、「成り上がり」の物語に胸を熱くしたことはないだろうか。貧しい環境から自分の力で道を切り開き、成功者に上り詰めるストーリーは、勇気をもらえるものだ。

この「成り上がり」ストーリー、今では名経営者と言われる人物が当てはまることが多い。松下幸之助、孫正義氏もそうだ。恵まれない環境から一代で企業を大きくしてきた。

お金持ちに憧れていた普通の少年が『金持ち父さん 貧乏父さん』やお金持ちの友人に触発され、15歳にして起業。ビジネスの道に入り込み、幾多の失敗や挫折を経験し、29歳になった今、資産10億円以上の「お金持ち」になったというストーリーを聞けば、「どんなにすごい人なのだろう」と思うだろう。

正田圭さんの著書である『15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと』(CCCメディアハウス刊)を読むと、経営者として駆け抜けてきた正田さんの半生はまさに「成り上がり」そのものだ。「お金」という人間の欲望を増幅させるものが飛び交う世界の中で、「ビジネス」をいかにして学び、自分の手にしてきたのか。

正田さんは、とても落ち着いた口調で丁寧に、29歳の彼自身が見てきた景色を教えてくれた。

(新刊JP編集部)

「お金持ちになりたい」からビジネスをはじめた中学生

―― まず、中学3年生で起業されたという経歴についておうかがいしたいのですが、その前に、「お金持ちになりたい」という漠然とした想いを実際に行動に移すきっかけとなった『金持ち父さん 貧乏父さん』との出会いについてお聞きしていきます。初めて読んだときの印象はどのようなものでしたか?

正田: いくら学校の成績が良くても、お金持ちにはなれないということはとても衝撃的でした。私はこの本を中学3年生の春休み、ハワイに行く飛行機の中で読んだのですが、眠気も覚めてしまって、そのときに最後まで読破しましたね。その後は日本に帰ってから、書店に行って不動産投資の本を読みあさり、不動産を買おうと思って銀行に行ったんですよ。

ただ、銀行にはまともに取り合ってもらえなかったですね。最初は「お父さまの物件ですか?」と聞かれましたし、「自分のです」と伝えると、「収入報告書を出してほしい」と言われ、「収入はありません」と答えると「それではお金は貸せない」と。

―― 不動産投資は諦めたものの、そこからすぐに株式投資をはじめるわけですよね。中学3年生という若さで特別なことをやっている感覚はありましたか?

正田: 実は当時、アメリカに9歳で会社を立ち上げて、15歳でCEOをやっていたキャメロン・ジョンソンさんという人がメディアを賑わせていて、来日して講演なんかをされたりしていたんですね。だから、中学3年生でビジネスを始めるということも特別な感じはしなかったですし、「同じ15歳でもこういう風に活躍している人がいるんだ」と刺激になりました。

―― もしキャメロン・ジョンソンさんと出会わなければ、今のような人生を歩んでいなかったかもしれない。

正田: それはどうでしょうか。『金持ち父さん 貧乏父さん』やキャメロン・ジョンソンさんとの出会い、お金に対するコンプレックスなどいくつもの要素がかみ合って今の人生があると思います。

さまざまな偶然が重なって必然となる「セレンディピティ」という考え方もありますし、どんな偶然であってもこういう人生を歩んでいたのかもしれません。

―― 中学生が0からビジネスを始めるというのは、やはりすごいエピソードだと思いますよ。

正田: はじめは、名刺の作り方も知らなくて、学校で「どこで作るの?」と聞いたことがありましたね。そうすると、クラスメイトの中に親の関係でロータリークラブなんかに出入りしている友達がいて、その人に作り方を教えてもらうということもありました。本当に最初は手探りでしたね。

若き経営者が考える「日本のお金の教育」

―― 正田さんはご結婚されていて、お子さんもいらっしゃるとのことですが、ご自身が影響を受けた『金持ち父さん 貧乏父さん』をお子さんに読ませたいと思いますか?

正田: 読んでほしいとは思いますが、すでに家の中で私が話しているのを聞いているので、あまり新鮮さはないかもしれませんね(笑)。

『金持ち父さん 貧乏父さん』は、15歳くらいの子が「お金」について興味を持つ上では良いきっかけになる本だと思います。本当は自分の本をそういう役割で読んでもらえると一番良いのですが。

―― よくある議論が、日本はお金に対する教育が遅れているというものです。大学を卒業するまでお金の教育が入ってこない。その点についてはどうお考えですか?

正田: お金に対する教育は必要だと思いますが、10代でお金のことを理解するのは、ハードルが高いように思います。実際に海外はちゃんとお金の教育をしているのかというと、実はそうではありません。日本が特別、海外よりもリテラシーが低いということでもないですし。

―― この本を読んでいて、正田さんは失敗のエピソードを隠さずに披露されているように思いました。

正田: 私は社会人経験がないまま起業をしてしまったので、そのせいでよけいに失敗してしまったのかもしれません。どこかの会社で働いてから独立するというケースが多いと思うので。

―― 正田さんが経営者として最も成長したエピソード、体験して良かったと思うことはなんですか?

正田: 私が20歳のときに、兵庫県の芦屋に住んでいる投資家の自宅に住み込ませていただいて、3ヶ月くらい一緒に行動を共にしたことがあります。

そこではその人が進めている案件や、どんな風に意思決定をしているのかを見させていただいたのですが、例えばある会社が「お金を出す」と言ったのに、その2日後に「今日は出さない」と言ってきた。この2日間に、相手にどんな心境の変化があったのか、なぜ言っていることを変えたのか投資する側の考えを聞くわけですね。こうした体験はとても良い勉強になりました。

―― 今では有名社長の鞄持ちをするインターンシップもありますが、住み込みでやるとなるとかなり濃い時間を過ごせそうですね。

正田: そうですね。今思うと図々しかったかもしれません(笑)。実はその方と初対面のときにいきなり頼みこんだので。相手が独身だったから快く受け入れて下さったのでしょうけど。

それまで、他の社長がどのようなことをしているのか分からなかったので参考になりましたね。経営は意思決定のゲームですから、どの部分を意思決定のポイントにしているのかとても興味がありました。これも20歳だったからこそ、OKをもらえたのかもしれませんね。

経営者はアスリートと似ている

―― 正田さんが15歳で起業したときに、10年後、20年後、30年後の未来をどのように見ていらっしゃったのですか?

正田: 私は当時、仕事は長くするものではないと思っていました。だから、10年後はもうリタイアしていて、海外を旅行しながら遊んでいるという生活をイメージしていたんですね。

でも今は、仕事の楽しさや、自分の能力を上げる楽しさに気付いているので、生涯仕事をしていたいなと思っています。体が動き続ける限りはぎりぎりまで一戦で戦い続けたいです。

―― そのお気持ちが変わったのはいつくらいの頃ですか?

正田: 22歳のときです。実は15歳で起業をするときに、22歳までに見通しが立たなければ(経営者を)やめようと思っていました。22歳だと大学卒業の年齢ですし、そこからであれば軌道修正ができると考えたんですね。

ただ、その年に実は大失敗をしていて、年商35億円くらいの会社を吹き飛ばしているんです。だから、自分の計画通りにいけばそこで(経営者は)やめていたのですが、「まだできる、やろう」と思ったんですね。その直感というか、選択は間違えていなかったように思います。

―― 逆境に強いのですね。

正田: どうなのでしょう。経営は一回のミスが命取りになることもあります。スポーツ選手と似ていて、全戦全勝という世界ではないんですよ。だから、「不敗はない」と肝に銘じるようにしています。

―― 最近では正田さんよりも若い起業家も多くなっています。彼らをどう見ているのかについて教えていただけますか?

正田: この15年で起業家はより賢くなってきていると思いますし、レベルも上がっていると思います。

15年前というと、ソフトバンクやライブドアといった企業がベンチャーとして注目を浴びていましたが、あの時点ですでに上場していましたからね。当時、資本金100万円で立ち上げましたというベンチャー企業は見向きもされませんでした。そんな企業に銀行がお金を貸すわけもないですし、自分の両親に説明をして理解してもらえるビジネスでないと、ビジネスじゃないと言われていた時代ですから。

今ではベンチャー企業をサポートする制度も整っていますし、学生起業家も増えました。資金調達もだいぶやりやすくなっていると思いますね。そういう意味では、起業が若い人に定着してきているのかもしれません。

普段本を読んでいて、ふと「なんのために自分は本を読んでいるのか」と考えるときがある。楽しむため、仕事のため、いろいろ思い浮かぶが、これというものはない。ただ、なんとなく血肉になっているという実感はある。

そうした理由をはっきりと言えるのが、読書を推薦する経営者だ。M&Aに関する事業を行う会社を経営する正田圭さんは、中学生のときに起業し、29歳になった今では資産10億円以上を築いている。そして、その血肉になったのが500冊以上のビジネス書を読破したという読書量だという。

正田さんの自伝的な著書である『15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと』(CCCメディアハウス刊)にもたびたび本のタイトルや読書にまつわるエピソードが登場する。正田さんへのインタビュー後編では、経営者としての正田さんに迫りながら、読書についてのお話をうかがった。「本を読むメリット」についてどう回答したのか?

「お金を持ったら近寄ってくる人たちがいる」

―― この15年間で、ご自身で成長されたと思う部分はなんですか?

正田: だいぶ打たれ強くなったと思います。資金繰りに苦しんだことも過去に何度かありました。胃を掴まれているような想いでしたね。そういう意味では先ほどお話した、年商35億円くらいの会社を吹き飛ばしたときは、精神的にきつかったですよ。白髪が増えましたから。

―― 22歳の時のお話ですね。

正田: そうです。それまで仲が良かった人たちが、資金繰りが苦しくなると一気に態度を変えてきますし、お金を持ったらまた態度を変えて急に近寄ってきたり。経営者はそういう人間関係のストレスが大きいと思います。

―― 人間不信になりそうです。

正田: どこで聞いたのか分からないけれど、私が企業を売却した直後に、不動産や金融商品を売りつけてくる人もいますね。

―― お金は人を変えますね。

正田: お金に振り回されてしまう人と、そうではない人、2種類いると思いますが、お金に振り回されてしまう人が大半だと思います。

「この分野でどこまで自分の力を発揮しているかが楽しみ」

―― 正田さんは現在、M&A事業を展開する会社を経営されています。その業界の中において、正田さんのご経歴はかなり独特なのではないですか?

正田: M&A業界で事業を行っている人は、金融機関出身だったり、外資系証券会社出身だったりという方々がファンドを設立して参入するというのが基本ですから、私のようにそういったバックボーンがなく、全てを自己資金で運営するというケースはかなり珍しいと思います。

―― 現在、業界内で正田さんはどのような立ち位置にいらっしゃるのでしょうか。

正田: 立ち位置というものはありません。実は業界の人同士の接点があまりないので、それぞれが自分の案件を探しています。

ビジネスモデルとしては、経営難だったり後継者不足だったり、何かしらの問題を抱えている会社を買収し、その会社に何かしらの付加価値をつけたり、業績を良くしたりして、3年から5年ほど保有して売却し、利益を出すというものです。だから、一つの案件が平均して3年から5年がかかるので、同業の人たちをあまり意識していない部分があります。

―― 今後、正田さんがやっていきたいことはなんですか?

正田: 私はこのM&Aという仕事がとても好きです。自分の経営能力に依拠するところが大きく、能力が上がればより大きな案件、社会的に意義のある案件を手掛けられるようなるので、しばらくはこの分野でどこまで自分の力を発揮しているかというところを楽しみたいと思っています。

―― 非常にストイックな姿勢ですね。まさにアスリートの発想です。

正田: 例え業績が上手く上がっていても、このままその通りにいけるわけがないですから。今回、このような本を出版することになりましたが、確かに資産10億円といった数字だけを見れば私は富裕層になるのかもしれません。でも、常にお金持ち状態でいられるわけではありませんし、お金を失うときもあります。

ただそういう状態とは関係なく、仕事のやりがいをM&Aに感じています。そこはお金のあるなしに関わらず、変わりたくないところですね。

実務経験だけでは学べないことを読書で補う

―― この本の中で正田さんは読書、特にビジネス書を読むメリットやデメリットについて言及されていますし、本の紹介も率先して書かれています。非常に共感を覚える内容だったのですが、改めて本を読むメリットについて教えていただけますか?

正田: やはり実務経験だけでは学べないことはたくさんあります。会社の経営をしていて複式簿記を自然に体得できるかといったら、それは無理です。座学で学んだほうが効率が良いんですよね。

これは税務会計も、経営理論もそうです。また、知識や教養といった大学でしか学べないようなことも勉強するには、本はすごく良いと思いますね。ビジネス書の中でも、特に専門的な内容の本は情報収集の速度を上げてくれる効果があります。

―― 経営に携わっている方は、読書家が多いイメージがあります。

正田: 実際のところは、本が大好きでいつも読んでいるという人と、読んでも役に立たないから読まないという二者に分かれますね。これについては、どちらが良いかということではなく、それぞれのスタイルがあってその上で読むか読まないかを決めているのだと思います。

ただ、「読む」という行為は仕事をする上で必要不可欠です。例えば仕事に関する資料を読む。そのときに普段から「読む」ことを訓練していないと、そこに書かれていることがうまく理解できなかったり、読むのが遅くなってしまったり、ということがあります。そうすると、成果に大きな影響が出ますよね。

情報収集のスピードや理解する力はビジネスにおいてのメリットになります。知らないことを学ぶのも、ビジネスの練習になると思うのですね。そういう意味では、本を読むメリットは非常に多いのかなと思います。

―― 正田さんはどのようにして本を選んでいるのでしょうか。

正田: 私の選び方は、芋づる式で読むという方法です。今、読んでいる本に出てきた本ですとか、登場人物を検索してみて、その人物が本を書いていたらそれを読むというような形ですね。そういう読み方をしていくと、一つの事象を複数の視点から捉えられるようになるんです。

また、何かのノウハウを手に入れたいと思った時は、「逆から読む」という読み方をしています。逆とは、「立場」のことです。例えば銀行からお金を借りるための勉強をしたいと思ったら、お金を借りるためのノウハウが書かれている本ではなく、銀行員に向けに書かれた、お金の融資業務や貸出業務についてのノウハウ本ですね。こうすることで貸す側の視点に立つことができます。

―― 視点を増やすということですね。

正田: 貸している側の心理ですとか、何を基準しているのかを学ぶことは必要だと思いますね。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という孫子の言葉もあります。

―― 同じ視点のままですと、ずっとその視点でしか考えられなくなってしまうんですよね。

正田: 本棚には性格がよく出ますよね。その人の本棚を見たら、だいたいはその人にどんな知識があって、どんな能力があるのかが分かります。

生々しい起業のリアルを知れる一冊

―― 本書はどのようなことを伝えようと思って執筆されたのですか?

正田: 起業のリアルさを伝えたいと思いました。失敗についての記述が多いのも、リアルを書こうと思ったからです。そういったところから生々しさを感じてもらって、参考にしてもらえたら嬉しいですね。

社長というと、華やかなイメージがありますよね。だけど、実態は全然違います。私の社長としてのスタートは4畳半のボロアパートでしたし、もちろん自動車で迎えに来てくれる人もいませんから。

―― 本書をどのような方に読んでほしいとお考えですか?

正田: 特に自分が何をやりたいのか分からない人に読んでほしいですね。私自身、やりたいことがあったから起業をしたわけではなく、「お金持ちになりたい」という一心でスタートして、お金に振り回されながら、挫折や失敗を通して、自分のやりたいことを見つけていきました。そこに至る経緯をこの本に書いています。

この本を読んでいただいて、自分の手元にあることを頑張るなかで、やりたいことに気付く方が、一人でも増えたら、私としてはこの本を書いた意味があったのではないかと思います。

解説

 騙されまいと思って気を付けていても、人はどうしても騙されてしまうもの。特に0から会社を立ち上げ、自分の手で市場を切り拓いてきた経営者は会社を大きくする過程で、何度も騙され失敗をしている。

 中学生で起業し、紆余曲折ありながらも会社を拡大。29歳になった現在は、ストラクチャードファイナンスや企業グループ内の再編サービスを提供するティガラグループを率いている正田圭さんは、自身の著書『15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと』(CCCメディアハウス/刊)の中で、「経営とは何たるか」を説明しながら、起業という道を選んだがゆえの困難と、20代の間に10億円の資産を築いた自らの半生を明かす。

■経営者を騙す人物のやり口がスゴイ!

 この本は、正田さんが半生を語る「独白」の部分と、経営のエッセンスをまとめた「コラム」部分を交互になって進んでいく。「コラム」が普遍性を帯びているのに対して、「独白」は思わず声をあげてしまうほどのエピソードが満載だ。

 その中でも特に目を引くのが、とある老紳士に騙されたときの話である。すでに起業をして会社を経営していたものの、まだ高校を卒業したての正田さんはその人物に踊らされてしまうのだ。

 では、正田さんを見事に嵌めた詐欺師のやり口は一体どんなものだったのだろうか。

  1. 1、有名人との交流をアピール

     正田さんと営業部長が老紳士から誘われ、パーティーに参加する。そこには、芸能人やスポーツ選手、格闘家などの著名人たちも大勢おり、老紳士の交流の幅の広さを見せつけるようだった。

     その会場で、老紳士は当時絶大な人気を誇っていた若手格闘家を呼び捨てにして、実に親しげに激励したのだ。格闘家も「ありがとうございます!」と答え、正田さんはまんまと「この老紳士は本当に凄い人なんだ」と信じ込んでしまった。
  2. 2、常に景気の良い話をする

     もともとは、営業部長の紹介で老紳士と出会った正田さん。そのときから「とにかく羽振りがいい」と聞かされており、実際に出会ってからも高級な飲食店に連れて行ってくれたり、誕生日に豪華なプレゼントをいただいたりして、常に景気の良さを醸し出していたという。もちろん話も景気の良い話ばかり。

     正田さんたちはまだ東京に出てきてばかりの頃。少しずつ売り上げは立っていったものの、まだ会社としては小さな規模だった。「知り合いになっておくことは自分のビジネスにとってもプラスになりそうだった」とは本書の中の正田さんの弁だが、東京で頼れる人を必要としていたのだろうか。
  3. 3、自分と同じ名前のものを利用する

     ある日、正田さんと営業部長をランチに誘った老紳士は、そのお店が入っている、自分と同じ名前のビルの前で、「オレの持ってるビルの1つなんだよ」と豪語する。

     店に入り、席に着くと、老紳士はその料理店のシェフを呼び付けて「どうだ、おまえ、最近がんばってるか?」と激励。シェフも「はい、おかげさまでどうにか」と頭を下げて答える。さらに老紳士はトイレが汚いと小言を言い出す。

     正田さんはそんな老紳士の振る舞いを見て「もしかしたら会長はこのレストランのオーナーなのかも」と思い込み、より信頼を傾けていくのだった。
  4. 4、身内に芸能人がいるアピールをする

     (1)にも通じるが、この老紳士は著名人とのつながりの深さを思わせる言動を巧みに使っている。代官山付近を一緒にドライブしていたとき、高級そうなマンションの前で「このマンションもオレのでさ、娘が今ここの一番上の階に住んでんだよ」と自慢げに語ったそうだ。

     娘は老紳士のネタの一つだが、実際に芸能人としても活躍していた。だからこそ、老紳士の景気の良さの信憑性を与える一つの道具となったのだ。
  5. 5、時に助けてくれることがある

     ここまで読んできたならもう分かるだろう。老紳士は正田さんを信じ込ませ、心をがっちりつかんでいたのだ。そのやり口は、非常に巧妙で、恐ろしさを感じる。

     ある時、正田さんにある財団への出資の話が持ちかけられるが、その話を老紳士にすると、「自分も(投資の)説明会に行く」と言い張り、実際に参加する。そして「あのじじい(出資の話を持ちかけてきた人物)は詐欺師だ」と正田さんを叱った。

     その財団はその後存在がなくなり、詐欺だったと分かるのだが、こうした「アドバイス」を通して「この人には見る目がある」という自分のブランディングを築き上げていったのだ。

■お金を渡してからでは遅い

 老紳士が変わり始めたのは、ビジネスの話をされて、彼に1000万円ほど預けることにしてからだった。

 彼はブラックタイガーの養殖ビジネスへの出資、シンガポールに新設されるカジノへの出資、近々上場される予定の未公開株の購入など、次々に胡散臭い儲け話を正田さんに持ってくるようになった。正田さんたちはこのとき老紳士を信じきっており、正田さん以下、会社の従業員たちもこぞってお金を出していたのだ。

 ところが、そこから頻繁にかかってきていた老紳士からの電話は途絶えてしまう。そして、いつまで経っても連絡はこない。ようやく真実を正田さんたちが知ったのは、彼と知り合って3ヶ月が過ぎた頃だった。

■騙された経験を「高い授業料」に転化できるか

 老紳士の正体は一体なんだったのか? 顛末の全貌はぜひこの本を読んでいただくとして、正田さんは個人的に2000万円以上のお金を老紳士に預けていた。しかし、自分たちを騙したことに対して詰めてもさらに騙そうとする老紳士や、それにまた引っかかってしまう正田さんたちの姿を、誰が滑稽といえるだろうか。このエピソードはビジネスの汚い部分をしっかりと描ききっていて、「こういう人っているよな」と思わず納得してしまうはずだ。

 こうした経験は普通なら黒歴史にしてしまうだろう。しかし、高い授業料を払って社会を学んだと考えてその後に生かしたり、正田さんのように振り返りながら、やり口を多くの人に伝えたりするのも必要なことだ。

 経営者の自伝は、普通の人はなかなか味わえない驚きのエピソードがたくさんでてくるが、『15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと』もその例に漏れず、読み応えのある一冊となっている。

(新刊JP編集部)

目次

  1. はじめに
  2. 第1章 お金持ちになりたい!
    大金持ちの同級生
    お金があれば何でも有利になる
    「金持ち父さん」と「貧乏父さん」
    教育熱心な母親
    珍しがられたユニクロのシャツ
    中学生が不動産投資!?
    コラム① 学校の勉強は必要か?
    初めてのお金儲け
  3. 第2章 お金儲けの始まり
    株を始める
    資金を使い果たす
    「2億円出資してください!」
    中学生のデイトレーダーたち
    3日間の「ビジネス合宿」
    合宿の成果
    出資元との軋轢
    コラム② 資金調達
    コラム③ 「お金儲け」と「お金集め」の違い
    ケータイ没収で大損害の危機
  4. 第3章 詐欺と裏切り
    インターネットで大儲け
    会社を手に入れる
    コラム④ 「キャリア」を意識していない起業家が多い
    営業マナーを知らない営業マン
    食い逃げ覚悟で食事をする
    憂鬱な給料支払日
    コラム⑤ 採用について
    ネット広告の仕組み
    東京進出
    はったりばかりの営業トーク
    親切な社長
    コラム⑥ 失敗を繰り返さないためにすべき3つのこと
    順調に伸びていったホームページ制作事業
    老紳士との出会い
    儲け話に乗せられるカモ
    会長の正体
    会長の逃げ切り
    嘘のカラクリ
  1. 第4章 バブルの到来
    一晩で30万円
    コラム⑦ マネジメント
    カジノ通いの始まり
    従業員の4割が韓国滞在!?
    コラム⑧ カジノで客が勝てない理由
    ホテル暮らし
  2. 第5章 模索と修業
    会社売却
    コラム⑨ 事業計画を作る際に見落としがちな点
    フリーペーパーと女子大生
    再スタートの兆し
    コラム⑩ 常に勉強が必要
    将来のための「修業期間」
    コラム⑪ 読書のメリットとデメリット
    事業立ち上げサポート業務を始める
    コラム⑫ アイデアとビジネス
    芦屋の投資家のかばん持ち体験
    コラム⑬ 人脈作りよりも自分作り
    乗り越えられなかった危機
    コラム⑭ ストレス耐性
  3. 第6章 再出発
    新たな挑戦
    コラム⑮ 小さなサインを見逃さない
    コラム⑯ 時間軸を意識する
    500冊の本とバフェットとの“出会い”
    コラム⑰ 経営者に求められる能力
    事業再生案件を手掛ける
    コラム⑱ M&A
  4. 第7章 ある会社の買収&売却劇
    ホールディングス設立
    コラム⑲ 起業とは非上場株式投資である
    ある社長との出会い
    度を越した無駄遣い
    税金の滞納
    社長の会社を買収
    次から次へと降ってくる問題
    裁判沙汰にまでなったトラブル
    裁判に勝つためのスパルタ特訓
    そして売却へ
  5. おわりに

プロフィール

正田 圭

1986年奈良県生まれ。
15歳で起業。インターネット事業を売却後、未公開企業同士のM&Aサービスを展開。
事業再生の計画策定や金融機関との交渉、企業価値評価業務に従事。現在は、自身が代表を務める
ティガラグループにてストラクチャードファイナンスや企業グループ内の再編サービスを提供。
その他、複数の企業の社外取締役やアドバイザリー、出資を行っている。

対談

coming soon