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デザイン思考の先にあるもの

田中一雄

GKデザイン機構代表取締役社長/JIDA理事長

vol.1

DESIGN THINKING

拡大するデザイン

従来のデザインの枠組みを超えて 新しいモノゴトを創出する手法として注目を集める 「デザイン思考(デザイン・シンキング)」。
すべてを1人の天才型イノベーターに頼るのではなく、 チームの集合知を活用するこの創造的発想法は、 いかにしてイノベーションを促すのか?

グッドデザインと単なる技術
その分かれ目とは?

 私が理事長を務めるJIDA(公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会)の主催で、2014年から2016年にかけて開催してきた「デザイン思考」の連続フォーラムは、定員を増やしてもなおキャンセル待ちが出るほどの人気でした。しかも、参加者の7割が会員以外の方であり、いわゆる“非デザイナー”の方たちが、自分たちもデザインというものをもっと活用できるのではないかと考えるようになっているということを、改めて実感しました。

 こうしたデザインに対する関心の高まりの背景には、デザインの“意味”がひろがっているという前提があります。色、形をつくって機能を発想するというのが従来のデザインだったのに対し、今日のデザインにはイノベーションや問題解決を生み出す力としての役割も期待されている。つまり、「デザイン」という言葉の意味が非常にひろくなっているのです。

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田中一雄

(株)GKデザイン機構 代表取締役社長 /
JIDA(公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会)理事長

1983年に東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了後、GKインダストリアルデザイン研究所に入社。プロダクトから都市環境まで多様なデザインを手掛ける。グッドデザイン大賞内閣総理大臣賞、SDA大賞ほか受賞多数。現在は日本デザイン振興会理事、国際インダストリアルデザイン団体協議会(ICSID)Regional Advisor、すみだ地域ブランド推進協議会理事・審査委員長、中国・国際デザイン産業協会(CIDIU)副委員長としても活躍するほか、グッドデザイン賞、都市景観大賞、ドイツRed Dot Design賞、Australian International Design賞など国内外で審査員を歴任。

 この傾向は優れたデザインに贈られるグッドデザイン賞においても、顕著に表れています。たとえば2005年度のグッドデザイン大賞に輝いた「痛くないインスリン用注射針」は、ただ針を「細くつくる」という“モノの技術”だけでなく、毎日注射をしなくてはならない子どもでも「痛くない」ということがQOLを向上させる“コトのデザイン”まで可能にしました。デザインとは生活者の潜在的なニーズを発見し、それを形にして見せてあげることです。そこには「人のため、社会のためによいことをどれだけやっているのか?」という視点が必要であり、その有無こそが「グッドデザイン」と「単なる技術」を区別するポイントなのです。いまやグッドデザイン賞の意味合いも、明日をひらく“グッドイノベーション賞”へと変わってきています。

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戦後日本を代表するインダストリアルデザイナーであり、GKデザイングループの生みの親である榮久庵憲司(1929-2015)。「モノには心がある」と語る彼の意匠がこらされたキッコーマンのしょうゆ卓上びんは、その機能性と審美性の追求によって1961年の誕生以来、変わらず親しまれてきた。

 ちなみに、グッドデザイン賞には2015年度から「フォーカス・イシュー」という制度が設けられました。これは日本社会や私たちがこれから向き合っていかなければならない課題や、今後デザインの重要性が増すであろうという領域に対して、社会的視点(ソーシャル・イシュー)からフォーカスし、グッドデザイン賞の審査や受賞作を通じてメッセージとして発信しようというものです。2016年度は地域社会、地球環境、医療と健康、安心と安全など9つのイシューが設定されています。

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2010年度にグッドデザイン賞を受賞した災害支援空間システム「QS72」は、災害発生直後から即時に展開し、快適な空間の提供を実現するポータブルアーキテクチュア。合理的な備蓄や供給とともに、被災者の精神的な安定・安心を目的として開発された。

天才型イノベーターを超える
集合知による創造的発想法

 このようにデザインの意味がひろがったいま、狭義のデザインの手法や枠組みを超えて、新しいモノゴトを創出する手法として注目されているのが、「デザイン思考(デザイン・シンキング)」です。これはユーザー視点に基づき異なる専門性や職能を持つ人材がチームとなって考えることで、1人の天才型イノベーターを乗り越える気づきやアイデアといった“集合知”を形成しようという創造的発想法のこと。世の中の事象がこれだけ複雑になったいま、たとえ天才型イノベーターやワンマン経営者といえども、自分1人だけの専門分野でやれることには限界があるし、チームでなければ解けないことも増えています。そこで、その思考法を誰でも使えるように方法論化し、チーム全員で共有できるようにしたわけです。

 デザイン思考の基本プロセスは、対象を観察し共感する「客観化」、問題の本質に焦点を当てて見極める「構造化」、ワークショップやブレストによって解決策を考える「共有化」、ラピッドプロトタイピングなどを用いて具体的に表現する「認識化」という4つに分かれます。このプロセスを繰り返すことでイノベーションを促すというのが、デザイン思考の狙いです。じつはこのデザイン思考のプロセスは、優れたデザイナーがこれまでも無自覚的に1人でやっていたことと大差なく、それをひとつのメソッドにしたという点にバリューがあるのです。

 デザイン思考の普及推進には経済産業省も力を入れていて、『デザイン政策ハンドブック2016』では、デザイン政策の3つの柱として「経営」「教育」「国際化」を掲げています。なかでも教育については、「グラフィックやプロダクトだけでなく、サービスやまちづくり、ひいては社会問題の解決といった拡大するデザインを活用できる分野で、デザイン・シンキングができる人材を育てるためのデザイン教育が不可欠(要約)」と、その重要性を強調しています。同省では各地でデザイン思考の活用セミナーを開催するなど、その普及を後押ししています。

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