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IoT時代における企業のありかた

vol.4

IoT

IoTと
モノづくりの未来

IoTのひろがりはモノづくりのあり方だけでなく、
モノの流通や「知」の継承の方法さえも変えつつある。
日本の製造業の優位性を高め、世界の標準品質を上げるためにも、
タイプの異なる多様な企業の力を連携し、
IoTを活用して問題解決にあたることが求められている。

村井純

慶應義塾大学 環境情報学部長・教授/
IoT推進コンソーシアム会長

モノづくりの未来を変える
デジタル・ファブリケーション

 IoTの世界ではあらゆる機械がコンピューター化して、直接インターネットにつながるわけですが、このことが特に大きなインパクトをもたらすのが「モノづくり」の世界だと思います。

 デジタルデータをもとにして、木や紙、プラスチックといった物理素材を加工・成型する「デジタル・ファブリケーション」という技術がありますが、3Dプリンターやデジタルミシン、レーザーカッターといった工作機器が普及したことで、モノづくりはインターネットを介してアイデアやデータを交換して、かなりの部分を自分でできる時代へと変わっていきます。これが「ファブ社会」の到来です。

 私が教鞭を執っているSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)では、これまで研究室ごとにばらばらに置かれていた工作機器を一元管理して、3Dプリンターなどを学生が自由に使える「ファブ(FAB)キャンパス計画」を進めています。授業でもMRIでスキャンした脳のデータから3Dプリンターでモデルをつくり、視覚化して教育に活用するといった取り組みなどを行っていますが、とにかく3Dプリンターを使って自分で何かをつくってみることで、自分たちで世の中を変えられるという可能性を実感してほしいというのが狙いです。

 このように3Dプリンターがインターネットと結びつき、誰でも簡単にモノをつくれるようになるということは、物流を一変させる可能性も持っています。たとえば、家電や家具の部品が壊れたら、これまではメーカーに連絡して取り寄せていたのが、3Dプリンターがあればオリジナルをコピーすれば済むわけです。しかし、ここでも新たな問題が生まれています。「品質管理(quality control)」「知的財産権(intellectual property)」「製造物責任(product liability)」といった社会的な問題や、IoTによって得られるプライバシーに関するデータをどうクリアするかという問題です。

 プライバシーの議論は現在、「経済協力開発機構(OECD)」や「アジア太平洋経済協力(APEC)」が進めていて、ここではエコノミーのためのルールを決めようとしています。つまり、データを利用して経済を発展させるためにはどうすればいいのかを決めているわけです。プライバシーをリスクの点から見れば、そのデータは使わない、共有しないに越したことはありません。だからこそ、プライバシーをあえて経済から見ることが大切なのです。

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村井純

慶應義塾大学 環境情報学部長・教授 /
IoT推進コンソーシアム会長

1984年、日本初の広域コンピューターネットワーク「JUNET」を設立。以来、インターネット研究のパイオニアとして、日本の「インターネットの父」と呼ばれる。WIDEプロジェクト立ち上げや、政府の委員会メンバーなど幅広く活躍し、2013年には世界的権威Internet Society(ISOC)によるインターネットの殿堂に選出。SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)では創立時から、最先端のテクノロジー、サイエンス、デザイン、ポリシーを連関させながら、既存の学問分野を解体した実践的な教育に尽力する。

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“「見つける」「考える」「生み出す」を支援する”をコンセプトにするSFC内にある湘南藤沢メディアセンターは、従来配置していた図書館を上階に移すことで、1階に「ファブスペース」を設けた。学生たちは、3Dプリンターやデジタルミシン、レーザーカッターなど、さまざまなものづくりのための機器を自由に使用できる。

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IoTが匠の技をデジタル化し
「知」の継承を可能にする

 一方、IoTが進展することで匠の技をデジタルのデータとして保存できるようになったため、これまで長い時間を費やして積み上げてきた「知」の継承が可能になりました。一例を挙げましょう。

 IoTではさまざまな計測や分析のセンサーを使うわけですが、最近は多様なジャンルで非破壊計測のデバイスが発達しています。たとえば、みかんなどの果物の糖度を計測するとき、これまではみかんに高価な検査器具を刺して測っていましたが、最近はレーザー光線を当ててその反射光を分析することで分子構造を解明し、そのパターンで糖度が高いかどうかがわかるようになっています。昔、小惑星探査機はやぶさに載っていたようなレーザー光線は何十億円もしたのに、それがコモディティ化してどんどん安くなってきたため、誰もがみかんを破壊せずに糖度を測れるようになったわけです。

 さらに、いろいろなみかん農家のセンサーから集められたビッグデータを分析することで、甘いみかんを上手につくれる農家と、同じような条件の土地でやっていても甘くつくれない農家との差もわかるようになりました。遺伝子分析で甘みの原因を成分から解明するのではなく、「なぜだかわからないとしても、この条件下なら甘いみかんになる」という結果にたどり着くことができるんですね。つまり、優れた測定と分析の技術によって、「匠の技」のデジタル化が可能になったのです。私は以前、伝統芸能の伝承のために、能の人間国宝という人の舞いを3次元モデリングして動画をつくったことがありますが、あの頃は非常にお金がかかりました。でも、今はとても簡単にできるようになりました。これもIoTの力だと思います。

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非破壊の技術の活用は、脳のメカニズム解明の研究にも貢献する。「脳の本質を理解する」ことを目指すSFCの青山敦氏の研究室では、人間の脳を詳細に計測する脳磁界計測法(MEG)や磁気共鳴画像法(MRI)、高精度の脳波計といった最先端の計測手法を用いた研究が行われており、それを元にした講義が開講されている。

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この日の講義の課題は、学生たちが3Dプリンターで視覚化した脳モデルの作成。最新のテクノロジーを活用しながら、ヒトや社会へ貢献できる実践知を目指す、SFCならではの試みだ。
(写真上/青山敦研究室 上野太郎氏提供)