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イノベーションが生まれる場

vol.5

INNOVATION

イノベーション経営
という考え方

日本的なモノづくり経営では
もはや世界と互角に戦うことが難しくなったいま、
閉塞状況を打開する切り札となるのがイノベーションである。
「VUCA」と呼ばれる世界に直面しているなかで、
日本企業はどのような思考と手法で
イノベーションを起こしていけるのだろう。

紺野登

多摩大学大学院・教授/
KIRO(知識イノベーション研究所)株式会社代表

モノづくりで成功した強みが
不確実な時代の弱みになる

 日本企業のモノづくりの強さは、おそらく時代が変わっても揺るがないと思います。しかし、モノづくりに優れているからといって世界を相手にした戦いで勝てるとは限りません。いまや勝つためのポイントは以前とは大きく変わり、世界のなかではモノづくりの“あとの部分”が競争の主戦場です。ところが、多くの日本企業はモノづくりに必要な工場や設備はじめハードな重たいアセットを持っているため、必然的に変化に柔軟に対応できず、次の投資を生み出しにくい状況になっている。すでにある仕組みから利益を生み出そうとする傾向が強くなると、何もないところから新しいものを生み出すための投資は、その仕組みに反することと捉えられがちです。つまり、日本企業の成功の強みが弱みになってしまっているということです。

 最近は日本でもよく「VUCA」という言葉が使われていますね。これは「Volatility(不安定)」「Uncertainty(不確実)」「Complexity(複雑)」「Ambiguity(曖昧)」の頭文字をとった言葉で、予測不能で混沌とした世界を指します。現代はまさにこのVUCAの時代にあり、危機的状況があっという間に訪れる世界です。モノづくり企業にとってもそれは同じで、海外企業に買収されたある日本のモノづくり企業のトップは「ひとつの得意分野に集中していたため、あまりに速すぎる変化に対応できなかった」と語っています。 自社の強みであるコア事業に集中しすぎれば、ビジネスは非常に脆弱になり、さらにモノ以外のところでもビジネスが見えにくくなってしまいます。一瞬にして変わる市場の潮目に対応できるように、平時に十分イノベーションに対する準備をし、有事に対処できるバラエティのある戦略的知識創造が求められるのです。

vol5-1

紺野登

多摩大学大学院・教授 /
KIRO(知識イノベーション研究所)株式会社代表

イノベーション、デザインマネジメント、ワークプレイスなどの観点から知識創造経営の研究を行う。大企業・中堅企業のイノベーション経営や、「場」の支援にも尽力。京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授や、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェローなどとして活躍するほか、日建設計顧問、一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)やFuture Center Alliance Japan(FCAJ)の代表理事を務める。近刊は『イノベーションの起こし方』(東洋経済新報社)。

vol5-2

VUCAという言葉はもともと1990年代に米軍が使い始めた。東西の鉄のカーテンという明快な競争の時代から、ソ連崩壊によって先が読めない状況へ突入していった当時。冷戦時代と同じような戦略やシステムではもはや優位性を築けなくなった世界を示す言葉として生まれた。現代ではビジネスなどに幅広く使われている。

モノ中心の品質経営
知識創造のイノベーション経営

 VUCAの状況が標準となってしまった世界では、企業は日頃から組織を知識創造できる体質にしておく必要があります。これまでの日本の企業はモノづくりを中心にした「品質経営」にこだわってきましたが、これからは知識が経済の源泉となる、「イノベーション(新たな知識創造)経営」に移行していかなければならないのです。モノの品質で優位性を築くのではなく、その背後にあるアイデアやノウハウ、情報、人の流れといったものがうまく活用されるプラットフォームを使って、ビジネスをつくっていく時代に入ったということです。

 企業の時価総額と有形資産の比率は、1970年代まで8割が有形資産でした。つまり、設備やモノを持つ企業が強い時代が長く続いていた。ところが、1980年代から1990年代にかけてグローバリゼーションが進むと、モノよりもアイデア、パテント、プログラム、ブランド、提供する経験といった知識によって生み出される価値のほうが圧倒的に大きくなってきたのです。たとえば、ディズニーランドはそこにある建物が美しいから人々が訪れるわけではないですよね。そこで得られる経験を求めて多くの人が訪れるという、経験産業です。

 品質経営ではクローズドなシステム、クローズドな経営の企業が多かったのですが、イノベーション経営では内部だけでなく外部に対してもオープンです。オープンな構造のなかにネットワークをつくり、そこから新たなものを生み出していくわけです。知財についても品質経営では防御的知財戦略だったのが、イノベーション経営では活用的でプラットフォーム的な知財戦略をとるといったように、それぞれがまったく違う使われ方をしています。

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急速なグローバリゼーションを予見した1980年代から1990年代の幸福に満ちた(euphoric)時代は、競争優位性の戦略が優位を誇り、経済的にも日本のバブル崩壊を尻目にダウ・ジョーンズ指標は一貫して伸びていた。しかし2000年のネットバブル崩壊、「9.11」、それに続くエンロンの破たんでその傾向は終焉し、ダウ・ジョーンズ指標も低迷、乱高下し、振れ幅も大きくなった。憂鬱で不快な、不確実性の時代が始まった。

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そもそもイノベーションとは、時代や社会の変化(問題や課題、障壁)を先取りして新たな状況・状態・知識の獲得・普及を生み出すことであり、単なる技術革新ではない。その工程として必要となるのが、デザイン思考などに代表されるようなイノベーションの組織的能力、イノベーションを加速させるために活用できる技術や方法・知識である。ここから生ずる新たな観点があってはじめて技術も活かされる。