インダストリーX.0 なぜ日本の製造業はデジタルトランスフォーメーションの波に乗り切れないのか?

INDUSTRY X.0

「自律型エコノミー」時代に備えるための
「インダストリーX.0」とは、どのような新概念か?

──澤近さんがこれから10~20年後にやってくるとおっしゃった「自律型エコノミー」時代とは、どのような時代でしょうか?

澤近 「モノからコトへ」の転換が進んでいる現在は、統合化されたエコシステムやプラットフォームの下で、モノの販売よりも成果払いによるサービス提供が主体となる「成果型エコノミー」時代への過渡期にあると言えますが、「自律型エコノミー」時代にはさらに一歩進んで、絶え間ないデマンドセンシング(短期の需要感知)に基づき、開発・設計から製造、サービスに至るまでのすべてが、統合化された自動制御の仕組みによって動くようになります。そんな時代が2030~40年ごろには確実にやってくるとアクセンチュアでは予想しているのです。

河野 そうした「自律型エコノミー時代」の到来に備えるべく、アクセンチュアが製造業のデジタル時代における価値創造の新概念として提唱しているのが、「インダストリーX.0」です。
製造業変革に向けた動きとしては、ドイツが国家ぐるみで進めている「インダストリー4.0」や「インダストリアル・インターネット・オブ・シングス(IIoT)」などがありますが、「インダストリーX.0」はそれらの概念をすべて包括します。なおかつ、開発・製造などの「モノづくり」だけでなく、顧客との接点やサービスの提供方法に至るまで、ビジネスの全フェーズを相互に関連付け、自動制御していくための概念であると言えます。日本企業の皆さまに、この概念の重要性を理解していただき、これからの時代に向けて企業がどう変革していくべきかお伝えすべく、「インダストリーX.0」実践に向けた書籍を日本でも出版する予定です。

澤近 この本では、「インダストリーX.0」の考え方だけでなく、具体的な導入方法についても「6つの投資分野」として提案しています。①効率的な商品企画、②ソフト化に対応したハードの商品企画、③製造の効率化・自動化の推進によるアジリティへの対応、④データ分析の積極的活用によるオペレーションの最適化および効率化、⑤プロダクトをサービスに転換する(As-a-Service)、⑥エコシステムの活用の6つです。
ただ変化を待っているだけでなく「6つの投資分野」のうち、ひとまずどれかひとつを始めるだけでも、「自律型エコノミー」時代に対応する第一歩を踏み出せるのではないでしょうか。

VISION

「ガラパゴス化」の苦い経験を繰り返さないためにも
日本の製造業には早期対応が求められている

──すでに「インダストリーX.0」を実践している代表例があれば教えてください。

河野 タイヤをモノとしてではなく、サービスとして提供するようになった仏ミシュランの例などは典型的ですね。通常タイヤは、交換する時点でもトレッド(地面と接触する部分)がかなり残っているものですが、ミシュランはその無駄をなくしてユーザーに利益をもたらすため、タイヤを履く車両にセンサーを搭載し、トレッドの減り具合に応じて課金するというサービスを導入しました。先ほど紹介した「6つの投資分野」のうち「As-a-Service」を実践したわけです。
こうしたサービスを始めれば、当然ミシュランのタイヤは売れなくなります。しかし、「モノからサービスへ」という時代の変化に逆らえば、やがて淘汰の波にさらされてしまう。そこで自らが変化の波を起こし、新しい時代をリードしていくことを選んだのです。

澤近 iPhoneの登場からわずか10年でスマートフォンが世界中に普及したように、イノベーションによる変化の波は想像を絶するスピードで急速に広がります。時代に追い付こうとするのではなく、自らか変化を巻き起こすのだという気概を持たなければ、生き残れない時代がすでに訪れているのかもしれません。

河野 先ほど、シェアリングや自動運転化の進展によって「クルマが売れなくなる」ことを危惧する自動車産業のジレンマについて話しましたが、ドイツのダイムラーは、「クルマを売る」ことよりも「移動手段を提供する」ことがユーザーにとっての価値であるという発想の転換を図り、従来のカーシェアリングとともに、公共交通機関やタクシー、バイクまで最適な移動方法を提案する「Moovel(ムーベル)」というサービスを開始しています。自社や自業界の既得権益にとらわれることなく、他業界も巻き込んだエコシステムによってユーザーのニーズに応えた好事例だと言えます。
また、「Moovel」が画期的なのは、このサービスをお膝元のドイツだけでなく、世界の自動車先進国であるアメリカでもいち早く展開したことです。日本の製造業が新規事業を立ち上げる際には、どうしても国内市場を優先しがちですが、積極的にグローバル展開をしていかないと「ガラパゴス化」の苦い経験を繰り返すことになりかねません。視野を広げることが大事ですね。

澤近 幸い「自律型エコノミー」時代の到来までにはまだ時間があるので、日本の製造業が一歩先んじてグローバル市場を押さえるチャンスは十分あります。このチャンスをつかみ、自社のビジネス利益や成長につなげるために、いますぐにでも先ほど挙げた「6つの投資分野」のどれかを始めるべきです。変革の傍観者ではなく、先駆者としてビジネスを再定義し推進していくことが重要です。

具体的かつ実用的なデジタル時代における価値創造の指南書

アクセンチュアのシニア・マネジング・ディレクターであるエリック・シェイファー氏が、実践的な戦略指針の綿密な分析を通じて、企業がデジタル時代に創造すべき価値について、具体的かつ実用的な提言を行う1冊。

INDUSTRY X.0

『インダストリーX.0』
製造業の「デジタル価値」実現戦略

エリック・シェイファー 著 井上大剛 訳
河野真一郎、丹羽雅彦、花岡直毅 監訳
日経BP社 8月31日発売予定
予価:2,000円+税
ISBN:978-4-8222-5532-9

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