製薬業界の再編が進む中、世界のメガファーマの一角であるロシュ・グループの一員となってから15年が経過しましたが、中外製薬は独立した研究・開発体制を保ち、「バイオおよび低分子医薬品で創薬のリーディングカンパニー」として、次々と画期的な医薬品を世に送り続けている。2017年11月には、世界初のバイスペシフィック抗体技術を活用した薬剤が米国食品医薬品局(FDA)の承認をうけるなど、中外製薬の躍進はとどまるところを知らない。その原動力はどこにあるのだろうか? 同社の上席執行役員であり研究全体を管掌する岡部尚文氏と、新たな抗体技術を活用した医薬品の創製を担う、中外ファーマボディ・リサーチCEOの井川智之氏にお話を伺った。

地力に差がある相手とも対等に渡り合うため、技術力を武器とし、あえて困難な領域に挑む

地力に差がある相手とも対等に渡り合うため、技術力を武器とし、あえて困難な領域に挑む

中外製薬株式会社 上席執行役員 研究・トランスレーショナル クリニカルリサーチ管掌 岡部 尚文氏

―御社の製品ラインアップや研究開発活動からは、独自性・革新性への一貫したこだわりが感じられます。例えば主力製品の一つであるリウマチ治療薬は、国産初の抗体医薬品ですね。

岡部これまでにない新しい薬を創製するファーストインクラス*1は、我々の基本戦略の一つです。既存の技術で作れる薬であれば、多くの企業がこぞって開発競争に参入しますので、メガファーマには太刀打ちできません。そこで、従来の壁を超えた革新的な技術を開発し、我々でなければ創れない薬を生み出そうという考えです。

中外製薬株式会社 上席執行役員 研究・トランスレーショナル クリニカルリサーチ管掌 岡部 尚文氏

井川また、既にある薬も新たな技術を使えばより有用性が高い薬に進化させることができます。例えば、当社の「リサイクリング抗体®」という技術を駆使することによって作用時間を延長することで、投与回数を減らすことを目指しています。こうしてベストインクラス*2の薬をつくることも、我々の重要な戦略です。

岡部競合優位性を保つには継続的に技術を開発し続ける必要があります。また、新薬の創出によって生まれた収益を研究開発に充て、さらに新たな薬を創出するという健全な製薬企業のサイクル(図)を回していくためには、創薬を加速させていく必要があります。そこで新規抗体技術を活用した開発抗体の創製に特化した研究所を2012年に開設しました。

イノベーションの源泉

―シンガポールの中外ファーマボディ・リサーチ社(CPR)ですね。

岡部はい。シンガポール政府の協力の下、手続きや研究員の採用もスムーズに進みました。
取り組みは順調に進んでおり、CPRが創製した抗体で臨床フェーズに入ったものもあります。2017年からは、それまで日本で抗体の技術開発を担ってきた井川がCEOに就任し、自らが開発した技術を使った創薬の指揮を執っています。

多彩なアンメット・メディカル・ニーズに対応できる技術とプラットフォーム、自由な発想を育む企業文化が中外製薬の強み

多彩なアンメット・メディカル・ニーズに対応できる技術とプラットフォーム、自由な発想を育む企業文化が中外製薬の強み

中外ファーマボディ・リサーチ CEO 井川 智之氏

―技術開発に力を入れた戦略が成功しているようですね。

井川新たな技術が手に入れば、新たな発想が生まれます。2017年11月に米国で承認された薬剤は、1つの抗体で2種類の抗原を同時に捕捉するバイスペシフィック抗体技術の開発によって実現した薬です。「1つの抗体が結合する抗原は1つだけ」というのは生物学の基本ですが、その常識を覆し、2つの抗原と結合する抗体を作ることにより、抗体を使って2つのものをつなぐという新たな着想から生まれた薬剤です。
技術が創薬の原動力であることは確かですが、それ以上に大きな原動力は、アンメット・メディカル・ニーズ(いまだ解決法が見つかっていない医療ニーズ)に応えたいという気持ちです。真に患者さんに必要とされる薬を創り出していくことが我々の使命だと考えていますし、中長期的な成長につながると思います。また、もう一つの当社の強みは、多様で柔軟な発想を育む企業文化です。先ほどお話しした薬剤のアイデアも当初は妄想のようなものでしたが、誰も頭ごなしに否定せず、何が問題なのか、どうすれば課題を打開できるかということを皆でディスカッションし、一つひとつ課題を解決し、着想から15年近くかけて製品化にこぎつけました。

中外ファーマボディ・リサーチ CEO 井川 智之氏

岡部当社の特徴として、スイスのロシュ社との戦略的アライアンスも重要な要素です。年間約1兆円の研究開発費を投じるロシュ社の様々なプラットフォーム(研究基盤)をグループで共有できることで、研究効率が高まります。また、ロシュ・グループ内でのよい意味での競争が当社社員の大きな刺激ともなっており、イノベーション創出の原動力となっています。
ここまでバイオの話が中心となっていますが、当社はバイオ医薬品だけでなく、低分子医薬品や次世代のコア技術として中分子医薬品の技術を高いレベルで保有していることで、いろいろな創薬ターゲットに対して最適なアプローチを選択できる点が他社にはない強みだと考えています。また、アカデミアとの連携にも注力しています。2016年5月には、大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)との包括連携契約を大阪大学と締結しました。IFReCが有する世界最先端の免疫学研究と、当社独自の技術で培った創薬研究のノウハウが組み合わされることで、革新的な新薬の創製が期待されます。このように、様々な取り組みを通じて、日本の科学、ライフサイエンスの発展にも貢献していきたいと思います。

*1:新規性・有用性が高く、これまでの治療体系を大幅に変えうる独創的な医薬品

*2:標的分子が同じなど、同一カテゴリーの既存薬に対して明確な優位性を持つ医薬品

創造で、想像を超える。中外製薬の挑戦 新CM

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「未来人からのバイオメッセージ」篇