中外製薬は、米国食品医薬品局(FDA)が画期的新薬と認めるBreakthrough Therapy制度でこれまでに5件の指定を受けるなど、あらためて創薬技術の高さを国内外に印象づけている。製薬業界に新たな風を吹かせた永山治会長にお話を伺った。聞き手は日経ビジネスや医療局担当などを歴任した酒井綱一郎が務めた。

バイオ医薬品の開発で培った知見と技術力を持つ強み

バイオ医薬品の開発で培った知見と技術力を持つ強み

日経BP社 取締役 総研事業統括 酒井 綱一郎
日経BP社 取締役 総研事業統括 酒井 綱一郎

酒井2017年、世界有数の大手製薬メーカーであるロシュ社と戦略的アライアンスをスタートされて15周年を迎えました。その間の事業の手応えは。

永山弊社はアライアンス後も自主経営を継続してきたので、積極的な研究開発投資を行い、革新的な創薬に独自に取り組むという姿勢は変わっていません。ただスタート当時、遺伝子解析の研究が急速に進み、それによって医薬品開発もバイオテクノロジーの時代に入ったことは中外製薬のさらなる成長を後押ししたと思います。

酒井確かに、御社はもともとバイオ医薬品に先駆的に取り組んでおられましたし、ロシュ社も欧州ではアドバンテージを持っています。またロシュ社傘下である米国のジェネンテック社もバイオ医薬品のパイオニアでしたね。

永山そうです。バイオ医薬品の開発には高度な製造技術も必要ですし、そうした技術の習熟には長い時間がかかります。委託生産ではなく、自社で技術開発に取り組んできた3社が協力できることは大きな強みであり、中外製薬がグローバル市場で存在感を示すための推進力にもなると考えています。幸い、この15年間で既にいくつもの新薬を上市できましたし、売り上げや利益の拡大とともに、時価総額は約9倍になりました。期待していた以上の成果を得られたと感じています。

研究から開発まで新薬を創造する技術的アプローチ

研究から開発まで新薬を創造する技術的アプローチ

中外製薬株式会社 代表取締役会長 永山 治氏
中外製薬株式会社 代表取締役会長 永山 治氏

酒井御社は抗がん剤の開発で高い実績がありますが、最近は血友病など他の疾患領域にも開発パイプラインを広げておられます。今後も疾患領域を増やされていくのでしょうか。

永山我々の創薬戦略は技術的アプローチといって、疾患領域を定めて開発するのではなく、創薬に適切な疾患ターゲットを選択し、それに当社の創薬技術をマッチングさせて革新的な医薬品を開発しています。病気の原因となるタンパク質の構造や酵素などを徹底的に解明し、それを抑え込むようなモダリティと呼ばれる医薬品による治療手段を開発し、アンメット・メディカル・ニーズ(いまだ満たされていない医療ニーズ)へ対応しています。

酒井最初から疾患領域を定めるのではなく、技術をもとにするわけですね。

永山モダリティはバイオ医薬品だけではなく、従来の医薬品に多い低分子化合物に加え、中分子化合物も新たな候補になると考えています。中分子はこれまで創薬や製造が非常に難しいとされてきましたが、我々がバイオと低分子で培った技術と経験があれば、開発は十分に可能と考えています。

酒井患者さんにもメリットが。

永山従来の低分子やバイオ医薬品で開発できなかったターゲットに対する医薬品の開発が可能となりますし、化学合成の医薬品であれば経口薬として服用できるなど、患者さんのニーズに合った薬剤を作り、製造コストも抑えられるでしょう。

また2017年には、大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)との包括連携を開始しました。アカデミアが見つけた疾患ターゲットに対して、当社がこれまで培った創薬技術を生かして医薬品を開発すること、すなわち技術的アプローチは、今後も我々の取り組みの核になると考えています 。

人は仕事と一緒に育つ“創造で、想像を超える。”の精神で革新的な医薬品開発に挑戦

人は仕事と一緒に育つ“創造で、想像を超える。”の精神で革新的な医薬品開発に挑戦

酒井御社は、「創造で、想像を超える。」という企業スローガンを掲げています。その言葉にかけた思いをお聞かせください。

永山私が入社したころには想像もできなかった医薬品が次々に現実のものとなりましたが、その一方で、医薬品のターゲットは限られつつあると考えられています。しかし、原因が解明されていなかったり、分かっていても開発できないものも多くあります。そこに昔では考えられなかった技術の応用で製品化することができるようになってきました。また、疾患の原因を見つけるために基礎研究に注力するIFReCのようなアカデミアとの連携もますます重要になると考えています。

酒井まさに、企業スローガンが現実のものになっているわけですね。

永山弊社にはもともと荒唐無稽なことでも挑戦しようという風土があります。国産初の抗体医薬品となった関節リウマチ治療薬を開発した際に、著名な英国人の専門家から「その原因分子は研究者であれば誰でも知っていたが、それが薬になると考えたのは中外製薬だけだったね」と言われたことがあります。今後もそうした心構えを大切にしていきたいと考えています。

酒井最後に、今年3月下旬でCEOを退かれ、今後は会長職に専念されることになるかと思いますが、新体制にはどのようなことを期待され、ご自身はどのように関わっていかれるのでしょうか。

永山我々はグローバルに通用する製薬会社を目指しています。これまでの努力の結果、研究開発の基盤は既に出来上がり、企業として進むべき方向性も明示できました。組織全体としてトップレベルにほぼたどり着いたと思いますので、あとは様々な計画に熱意を持って実現していくことだと思います。その過程で私は、大局的な観点からマネジメントを支えていこうと考えています。人は仕事と一緒に育つものです。これからは最先端のライフサイエンスやAI、IoTといったツールに精通した若い人たちの時代です。薬価制度の改革などで製薬企業の経営は相変わらず厳しい状況にありますが、「創造で、想像を超える。」の精神で革新的な医薬品開発に挑戦し続けてほしいと願っています。

※:2017年12月末時点

創造で、想像を超える。中外製薬の挑戦 新CM

創造で、想像を超える。中外製薬の挑戦 新CM

「未来人からのバイオメッセージ」研究所篇