CSR戦略から成長企業を探る

ESG投資の拡大で増す

CSRレポート/統合報告書による
情報開示の重要性

環境(Environment)や社会(Social)、企業統治(Governance)に対する企業の取り組みを評価する、ESG投資が日本でも本格化してきた。これを受け、CSRレポートや統合報告書による、企業の情報開示の在り方が改めて問われている。様々なステークホルダーに、分かりやすく示すことが重要だ。日本総合研究所 創発戦略センター マネジャーの橋爪麻紀子氏に、同社が実施している企業のESG評価のプロセスや、望ましい情報開示の形などについて話を聞いた。

 企業の持続的成長を実現する要件として、環境や社会問題などを解決する取り組みを重視する考えが世界で広がっている。それに伴い、売り上げや利益といった財務状況だけでなく、環境(Environment)や社会(Social)、企業統治(Governance)に対する取り組みを企業価値として評価するESG投資も盛況を見せる。サステナブル投資を推進する国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)によると、世界の株式市場におけるESG投資の残高は、2016年で約23兆ドル(約2600兆円)で、運用資産全体の3割近くに上る。
 国内でも、150兆円規模の資産運用を行う年金基金の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、ESG投資を開始した。投資の指標として、ESG全般を総合的に考慮する指数に加え、女性の活躍に着目した女性活躍指数も採用し、現在は環境分野に特化した指標を公募中だ。日本株投資の約3%程度である約1兆円を投資し、さらに今後もESG指数の活用や投資を拡大する。
 こうした状況を受け、企業側にとっては、ESG投資に向けた新たな情報開示が求められている。財務情報のみならず、環境対策や女性活躍の推進策などを示す非財務情報を網羅する必要がある。その1つの対応策として、財務情報と非財務情報とを融合した統合報告書を発行する企業も増えている。
 企業のESG評価を実施し機関投資家向けの情報提供を行う立場から、アニュアルレポートや環境・CSR報告書を分析している、日本総合研究所創発戦略センターマネジャーの橋爪麻紀子氏は、企業の情報開示の傾向について、こう話す。
 「この11月に日本経済団体連合会(経団連)が、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指し、ESGに配慮した経営などを推進する内容を盛り込んで企業行動憲章を改定しました。
 こうした企業側の意識の高まりに呼応してBtoC企業だけではなくBtoB企業でも株主や投資家向けの非財務情報の開示が増えています。また、統合報告書の普及により、事業のリスク情報までも併せて開示されるようになりました」
 しかし、財務と非財務の情報を関連付けて経営の実態を分かりやすく情報開示するには、まだ改善の余地が多いという。

ESG側面のリスク・機会を統合した評価

ポジティブな情報(ステークホルダー経営度)と、ネガティブな情報(ESGリスク発生状況)の両面から上場企業のESG評価を実施し、機関投資家による様々なESG投資を支援。

出所:日本総合研究所

業種に応じた自社の強みを訴求 企業価値向上に至る道筋を語る

 情報開示の在り方を考える上で、株主や投資家はどのような視点で企業の情報を確認し、評価をするのか、そのプロセスを押さえておきたい。
 例えば、日本総合研究所では、企業のESGに関する取り組みについて、第1に、ポジティブな機会と、ネガティブなリスクの両側面から評価する。なお、ポジティブな側面とは、株主・投資家・従業員・環境・サプライヤー・競合・地域社会など、企業の多様なステークホルダーへの好影響の評価を意味し、同社ではこれをステークホルダー経営度と呼ぶ。第2に、企業の経営方針に基づいて取り組み、その実績が定量・定性で出され、企業の付加価値となっているのか、その一連の流れにおける一貫性の有無を見る。戦略や方針と取り組みの整合性を精査するため、経営者のメッセージや企業理念、中期経営計画なども確認する。具体的には、企業の情報開示を方針(Policy)・取り組み(Practice)・実績(Performance)といった「3P」の視点で捉える。さらに、そうした取り組みがどのように企業価値向上に結びつくのかという情報を「価値創造(Value Creation)」とし、このVの視点を加えて、企業のESGに関する取り組みを総合的に評価している。
 「一般的なESGの取り組みを評価するだけでは、企業間のスコアにそれほど差が出ない業種もあります。そのため、他社にはない企業独自の製品・サービス開発などがある場合に、Vの評価として、3Pの評価に上乗せする形で加点して評価しています」(橋爪氏)
 企業が公開する情報に対して、特に重視するのが「ストーリー性」だ。
 「大量のデータを提示されても、それがステークホルダーに対しどのような影響があるのか伝わりません。提示する情報は、業種などによって違います。その違いをビジュアルなどで分かりやすく示したり、背景を解説するなどのストーリーがあると投資家側もより理解が深まり、高評価につながります」(橋爪氏)
 例えば、ある企業は、業界の特性によって生じる可能性のあるリスクと、それを回避する取り組みを紹介し、その結果として、業績にどれだけ貢献したのかを定量的・定性的に解説。何がリスクで、何が業績とつながっているのか、その業界に精通していない一般人でも分かりやすく情報を開示している点で、高い評価を受けた。
 このような企業の情報を分析する側の見解を踏まえ、改めてESG評価の視点を基に企業の情報開示の在り方を考えてみたい。まず求められるのは、業種に応じて、他社と差異化できる自社の強みを打ち出すこと。そして、それを経営戦略や理念に基づいてどのように取り組み、どのような業績や付加価値の創造に結びついたのかについてストーリー立てて示すことが、ステークホルダーに対して企業の価値をしっかりと訴求するための要件ということができる。

ポジティブ評価の概要

■情報ソース:公開情報、訪問調査、設問票調査
■3P(Policy・Practice・Performance)+V(Value Creation)フレームワークを用いた分析を実施(下図)。
■いかに社会的責任を果たしているかという視点に加え、ESGの取り組みを企業価値創造につなげようとしているかを評価。
■カバー範囲は、東証一部上場企業を中心に約750社。

出所:日本総合研究所