低炭素社会を実現するエネルギーシステムの在り方

山地CO2ネットゼロを目指すに当たって、まず挙げられるのが電気。電気は再生可能エネルギーや原子力などCO2ゼロ電源からも作られ、バイオマス発電とCCS(二酸化炭素回収・貯留)を組み合わせれば排出をマイナスにもできる。しかし、エネルギー消費の最終形態には電力だけでなく、運輸用の石油製品などもある。非電力も含めたエネルギー全体を考えると、電気と同様なクリーンエネルギーキャリアである水素への期待が高まります。未来のエネルギー社会は、今とどう変わるのか。お手元の「将来エネルギーフロー図」(図1)をもとに、皆さんのご意見をお聞かせください。

図1-1  将来エネルギーフロー(2030年)/図1-2 将来エネルギーフロー(2050年)

2010年には全体の10%程度だった再エネ電力が、2030年には大幅に上昇し、1次エネルギーに水素が加わることに。さらに2050年には再エネ由来の水素も活用することでエネルギー自給率が向上。CO2排出約80%減の達成も見込める

浅野我々は、非化石エネルギーベースの電気利用により低炭素化社会を実現する「電化シナリオ」を提案しています。最終エネルギー消費のうち、現在は産業用の熱需要と運輸部門の電化に取り組んでいるところです。ただし熱に関しては200度程度の蒸気製造は可能ですが、それより高温となると化石燃料か、もしくは水素が有力となる。一方、運輸においては、燃料電池自動車(FCV)というまさに水素をダイレクトに利用するオプションもあります。そもそも電気と水素は二律背反するものではありません。両方が存在することでエネルギーキャリアのパスも多様化し、エネルギーシステムにも柔軟性がもたらされるのです。

正田低炭素社会において、水素はCO2削減のオプションの一つとして出てくるでしょうが、既にインフラが整備されている都市ガスなどのエネルギー源とどのように共存していくかという点も、コスト面を含めた現実的な問題として考慮されるべきだと思われます。都市ガスについても、バリューチェーン全体を通じ、技術開発などによってさらなる低炭素化を進めていくことを考えていく必要があります。

小林自動車の燃費は格段に向上していますし、人口減少も加味すれば、この部門のCO2は徐々に減っていくでしょう。ですが、次の世代やさらに将来を考えれば、脱炭素はより広範囲に進めていかなければなりません。その点、日本には技術力があります。現在は再生可能エネルギーによる発電が注目されていますが、再生可能エネルギーの熱利用ももっと進めるべきだと思っています。例えば、地中熱利用においては商業施設での大規模な空調設備導入なども進んでいますし、高い技術とポテンシャルを持っていると思います。エネルギー資源は国や地域によって違いますが、技術力を駆使し、用途や適材適所を見極めれば、CO2の低減はより効率的に進んでいくのではないでしょうか。

松橋電気・ガス・石油業界の方々はそれぞれに脱炭素に向けた技術開発をされていますが、どれも難点がある。例えば電力システムにおいては、再エネ率の上昇に伴い、変動吸収や送電の問題が生じます。またガス業界にとっても、天然ガスの代わりに水素をガス管に流すというのはNm3当たりの熱量が下がるという問題もあってなかなか踏み込めない。石油業界も、水素を流体燃料として使うには輸送に難があるし、コストも高くつく。そうした難しさがある中で、効率を上げるだけでは絶対にCO2排出80%減やネットゼロは実現できないので、そこを逃げずに各業界が競争して立ち向かっていく必要があるでしょう。

再エネ利用拡大に向けた水素の可能性

山地ネットゼロエミッションに向け、再エネなどとともにエネルギーキャリアとして電気を補完する水素ですが、水素と再エネには連携がありますね。再エネからCO2フリー水素を生産するとか、再エネの変動性を水素生産で調整するとか。でも、水素や再エネ利用の普及拡大に向けた課題はまだ山積しています。2050年までにどのような課題を解決していかなければならないのか、皆さんのお考えを聞かせてください。

正田水素利用という点では、都市ガス業界は家庭用燃料電池「エネファーム」で先行しているといえます。CO2フリー水素については、安定・安価な調達が実現した際には、LNGの輸送やパイプライン整備・運用の経験に富む我々都市ガス業界が貢献できると思います。水素の供給についていえば、水素ステーションにどのような役割を求めていくのかという点についても議論が必要であると思います。

小林現在、国内の水素ステーションは82カ所。対してガソリンスタンドはかなり減ったとはいえ、3万2333カ所(2016年度末)あります。まずは水素ステーションの数を増やさないことには、真の水素社会の到来は望めません。また水素ステーションが整ったところで、今度はどうやって水素の高純度化・貯蔵・流通をするのかという課題もある。トルエンと水素を反応させてメチルシクロヘキサンとして水素を固定化して輸送・利用する有機ケミカルハイドライド法にするのか、あるいはオーストラリアかどこかから輸入してくるのか。全体のマスを見て今から考えていかないと、いざ水素社会が来ても安定供給は不可能でしょう。それらを考慮したうえで、私個人としては、再エネを最大限利用した水素社会を迎えることが理想だと思っています。

図2 水素ステーションの内訳(On-site/Off-site)

現在の水素ステーション数は全国82カ所。経済産業省の「水素・燃料電池戦略ロードマップ(改訂)」では、2030年時点のFCV普及台数目標に対し、標準的な水素供給能力を持つ水素ステーション換算で900基程度が必要とされている

松橋日本の再エネ利用で特筆すべきことは、太陽光発電の割合の高さです。これはFIT(固定価格買い取り制度)の影響もあると思いますが、結果、今では出力抑制をせざるを得ないところまで来ている。その中で電気分解で生産した水素を電力システムに戻して発電するというのはまだ先の話なので、まずはFCVの燃料として使うのが最も理にかなっているといえます。例えば、送電線であふれたところから電気を吸い上げて、電気分解で水素にして水素ステーションに運ぶ。もちろん輸送は難しいので、最初は高速道路のインターチェンジなどに近い送電線から始め、普及の段階に応じてパイプラインで輸送するなどの手段が考えられます。いずれにしても、あふれる再エネを吸い上げて水素にし、自動車用燃料として使うところから、日本の水素社会は始まるのではないでしょうか。

浅野日本政府は2030年までに再エネ率を22~24%にすると宣言していますが、2050年には50%以上でなければCO2排出制約を満たすことはできない。ただ現状では、再生可能変動エネルギー電源による余剰電力の発生や出力の急激な変動、電圧上昇といった課題があるのも事実です。このうち電圧上昇対策、すなわち配電網の電圧を適正値にするためにかけていた出力抑制については、解決に向けての技術開発が進んでいます。また余剰電力については揚水発電で吸収していますが、これに代替するような蓄電池への対応も一部で始まっています。問題は、予測しきれない天候による急激な出力変動です。太陽光や風力で電気の安定供給を保つためには、バックアップの水力や火力が必要となる。これに対応するフレキシビリティー(調整力)を提供するにはエネルギーバッファーが必要で、その一つとして挙げられるのが、Power to Gas、つまり、余剰電力を水素に変換する技術が注目されています。ここに蓄電池やCAESなど、どういった蓄エネルギー技術を組み合わせるかが、今直面している技術開発のフロンティアだといえるでしょう。

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