FCVと水素ステーションに見る水素社会のリアリティー

山地水素社会の発端を作るのはFCVだといわれています。しかしながら、2015年度の目標であった水素ステーション100カ所の整備もまだ達成できていない。まずはFCVの普及に望みをかけるしかないのですが、一方でエネルギーシステム全体の中でのFCVの水素需要のボリュームはわずか。そうした規模感のことも考える必要がありそうです。

小林水素ステーションは、現在4大都市を中心に展開していますが、地方でもやりたいという声はあります。でも1ステーション当たり、1000~1500台ぐらいのFCVがないと採算は取れないとの試算もあります。やはり政策的にある程度集中させてから広げていくようにしなければ、計画倒れに終わってしまいます。その意味では、むしろ今は分散し過ぎではないかと私は感じています。

山地インフラ形成のためにはある程度の需要が必要だし、それがFCVだけだと、どうしてもギャップが生まれる。FCV普及までの厳しい時代を耐えられるかどうかも課題ですね。

小林もう一つ考えなくてはいけないのは、いかに安全を担保するかということ。水素の利用と同時に、安全面を支える研究開発を進めていかないと本当の水素社会は迎えられません。また、現在の高圧ガス保安法などの法令・規則は、超高圧となる水素利用設備を念頭に作られていないため、水素ステーション1つ作るのにも解釈などに時間がかかってしまう。安全性を考慮しつつ、適切な規制緩和もしていく必要があります。

松橋そこはまさにおっしゃる通りです。日本の高圧ガス保安法でそのままやると、ガス起源の水素でもものすごく大きな設備が必要で、コストも5億~6億円かかる。そうなると、とても都会のガソリンスタンドに水素なんて置けない。純水素の燃料電池にしても、やろうとすると規制に引っかかってしまう。これは中央省庁の問題でもありますが、その解決をただ待つだけでは、決して突破口は開けないでしょう。とはいえ、水素社会は決して夢物語ではありません。かつてのユーロ・ケベック計画やWE-NETと違うのは、トヨタのMIRAIをはじめとした素晴らしいFCVが登場している点で、ここに水素のリアリティーがあるわけです。そうしたところにもっと着目し、我々技術者・研究者たちが水素社会の実現に向けて真面目に取り組んでいくことで、おのずと道は開かれていくのではないでしょうか。

図4 各種電力貯蔵技術の位置付け

再エネを水素に転換するよりPower to Gas技術により、エネルギー貯蔵の可能性が大きく広がった。とくに水電解+水素タンクの複合システムは、他の蓄電池技術と比べて環境条件や時間経過によるロスが少なく、水素タンクの拡張性が高いなどの理由から、大規模かつ長期間の蓄エネ領域で有利。今後再エネの普及が拡大していく中で、余剰発生時の有望な対策の一つとして期待されている

将来のエネルギー社会を見据え今から取り組むべきこと

山地では、水素を用いた持続可能なエネルギーシステム構築に向け、今からやるべきことは何だと思われますか。

松橋2030年の目標は、今の延長線上でギリギリ実現できる。ただ2050年80%減となったときには、今とはかなり異なるエネルギーシステムの構築が必要でしょう。そのとき、そこには水素が入ってくる可能性が高い。もちろん、規制やコストの問題はありますが、2050年の目標を想起して行政や事業者が動くことで合意形成ができ、水素社会の実現が見えてくるのではないでしょうか。

浅野エネルギーは需要とセットで考えなければいけません。その地域の需要に合わせて、どういう供給インフラをつくるのか。それを見定めるためにも、まずは業界横断的に民生だけではなく、産業や運輸部門別の需要を集めていく必要がある。その意味でも、こうした水素の位置付けを考える機会を設けるのはとても大切なことだと思います。

正田まだ具体的な2050年の絵姿が描かれていないのが現状ではないでしょうか。将来の水素社会に対する一般的なイメージと、その実現に向けて進めるべきこととの間にギャップがあるように思われます。ようやく普及が本格化し始めたエネファームも、実用化に向けた燃料電池の開発開始からここまで来るのに約30年を要しました。そのような長いスパンが必要とされる中、技術に携わる者としては、着実に開発を進めていかなくてはならないと考えています。

小林FCVとそれを支える水素ステーションは、水素社会の大きな柱になっていくと思われます。その実現を確実なものとするためにも、2050年を見据えたロードマップが必要です。また2050年ということであれば、目先の技術課題にとらわれず、よりチャレンジングな技術開発を目指すべきでしょう。日本の研究者は非常に真面目なので、高い目標があれば一生懸命取り組むし、必ず成果を出すと信じています。

山地水素社会構築という長期的課題を実現するためには、ビジョンが共有されなければなりません。基本的な認識としては、水素は電気と同様にクリーンな2次エネルギーであり、電気にできない部分もかなりカバーできる。貯蔵・運搬ができるというのも水素の特長で、だからこそグローバルな視点が重要となる。一方で、地域特性に合った水素社会づくりや社会制度の変革も必要です。そうした広い視点で長期ビジョンを持つことが、水素社会実現の第一歩となるでしょう。

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