区役所から出る膨大な量の使用済みの用紙を循環・再利用することで、環境に対する意識を向上させ、さらには区職員の意識変革と区役所業務の在り方そのものを変えていこうという「紙の地産地消」事業。その着想のきっかけは、エプソンの乾式オフィス製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」との出合いだった。この事業の陣頭指揮を執る世田谷サービス公社の田中社長に、日経BP環境経営フォーラムの斎藤事務局長が話を聞いた。

「PaperLab(ペーパーラボ)」とは?

エプソン独自の新開発技術「ドライファイバーテクノロジー」の3つの技術「繊維化」「結合」「成形」によって、使用済みの紙から新たな紙を生み出す世界初※1の乾式オフィス製紙機。使用済みのコピー用紙を原料として、文書情報は完全に抹消したうえで新たな紙を生産することができる。一般的な製紙方法で必要とされている大量の水を使わないため給排水工事が不要なので、オフィスのバックヤードなどに設置可能。2016年12月に販売を開始以来、自治体を中心に導入が進んでいる。

※1:2016年11月時点、乾式のオフィス製紙機において世界初(エプソン調べ)

同製品は「日本イノベーター大賞2016」(主催:日経BP社)の大賞を受賞。環境負荷低減という社会的課題の解決と、閲読性など紙の良さをサステナブルに生かせる仕組みが評価された。

日本イノベーター大賞2016

主催:日経BP社

「PaperLab(ペーパーラボ)」が生み出す「新しい価値」に着目

斎藤今、田中社長からいただいた名刺は、「PaperLab(ペーパーラボ)」でお作りになった紙を使ったものだと思いますが、名刺を受け取った相手の反応はいかがですか?

田中これがオフィス製紙機を使って自分たちで作った名刺ですよと渡すことで、私たちが進めようとしている「紙の地産地消」について関心を持っていただくきっかけになっています。

斎藤世田谷サービス公社では「紙の地産地消」事業に取り組んでいらっしゃるわけですが、そのきっかけが「PaperLab(ペーパーラボ)」だったということですか?

田中世田谷区はほぼ山手線の内側に匹敵する面積があり、人口も90万人近い。いわば1つの県のような規模です。ただ、仕事は都心に通い、買い物をするのは新宿や渋谷、遊ぶのは多摩という状況で、区内でヒト・モノ・カネを循環させる仕組みができていませんでした。何とか世田谷区内でこうした循環を成立させたいと思い、地域振興の視点から「地産地消」の言葉をキーワードに取り組んできました。

そんなときに、東京ビッグサイトで行われた展示会でエプソンの「PaperLab(ペーパーラボ)」の存在を知り、このマシンには何かを変えていく力があるのではと直感し、それが最終的に「紙の地産地消」という言葉に結びつきました。

企業概要株式会社 世田谷サービス公社

1979年、世田谷区が任意団体・世田谷区都市整備公社をつくり、付帯業務としてサービス業務を開始したのち、82年に財団法人世田谷区都市整備公社がサービス業務を分離、任意団体として世田谷区サービス公社が発足。85年に株式会社となる。地域社会の発展と区民福祉の向上に向けて障がい者、高齢者、女性など区民雇用の拡大、区内企業との連携による地域経済の発展、地域社会への貢献に積極的に取り組む。

紙を題材に事務作業の完全な循環のサイクルが実現する
使用済みの紙をセットして新しい紙に。世田谷サービス公社では1日に最大6000枚の紙を再生している。

使用済みの紙をセットして新たな紙に。世田谷サービス公社では1日に最大6000枚の紙を再生している。

斎藤具体的には何が変わるとお感じになったのでしょう?

田中当社は区の地方公社として情報処理機能を担っているわけですが、「紙の地産地消」を進めることで、区役所本体も巻き込んで職員の意識を変え、さらには業務全体を変えていける可能性を感じました。

斎藤田中社長にとって、「PaperLab(ペーパーラボ)」のどういう点がそれほど魅力的だったのでしょう?

田中このマシンが生み出す新しい価値は、事務作業全体の循環を考えるうえで、とても重要な一部分になり得るという点ですね。例えば、世田谷区内で作った農産物を単に世田谷区内で消費するだけでは、決して循環とはいえません。世田谷区役所で使われた紙が、この世田谷サービス公社で新たな紙に再生され、それが再び素材となって新たな紙になる。このように全体がグルグルと回っていく仕組みがあってこそ、本当の意味での地産地消だと思います。その点、「PaperLab(ペーパーラボ)」を使えば、紙を題材にして完全な循環のサイクルがつくれるわけです。

循環が目に見えると自分たちで作った紙に温かみを感じる
「PaperLab(ペーパーラボ)」は、多彩なサイズや厚み、色の新たな紙が作れる。株主総会で配布された「平成28年度事業報告書」もこの新たな紙に印刷され、株主に「紙の地産地消」をアピールした。

「PaperLab(ペーパーラボ)」は、多彩なサイズや厚み、色の新たな紙が作れる。株主総会で配布された「平成28年度事業報告書」もこの新たな紙に印刷され、株主に「紙の地産地消」をアピールした。

斎藤私はこの「PaperLab(ペーパーラボ)」が単なる一製品であることにとどまらず、消費者のライフスタイルや社会の流れを変えていく可能性を秘めた製品だと考えていますが、いかがでしょう?

田中同感です。地域内循環の大きな柱になるだけでなく、大きな意識改革にもつながると思います。言葉で説明するのが難しいのですが、自分たちで作った紙には温かみが感じられるんです。これまでビジネスの文書はどちらかというと対決姿勢で読んでいましたが、自分たちが作った紙に書かれている文書は、どこか愛(いと)おしい気持ちで読めるんです(笑)。こうした気持ちを積み重ねていくことで、事務作業全体を自分たちの手でやっているんだという自負や意識が醸成されていくのだと私は考えています。

斎藤温かみを感じるのは、実際に手に取ったときの質感もあると思いますが、根底にはエコである、環境に配慮しているという意識があるような気がします。

田中これからのエコの在り方は単に資源を節約するだけではなく、自分たちがそれにどう関わるかが大切であり、循環の様子を分かりやすい形で見せる必要がある。例えば、再生した紙を年度によって今年度はピンク、来年度は黄色と色をつけて“見える化”すれば、これまでは見えなかった紙の再生産プロセスが内部で完結していることを、誰もが実感できるわけです。これは単にエコの問題だけでなく、職員の意識と事務の在り方の質を変えていくことになります。

斎藤紙に色をつけることで循環サイクルを意識させ、それをきっかけに業務の質的変化につなげていこうというのはとても面白い発想ですね。最近は企業の環境経営においてもESG(環境・社会・ガバナンス)という言葉が出てきて、より大きな持続可能社会の実現に向けた配慮が求められていますが、「PaperLab(ペーパーラボ)」はそういう意味でも活用価値が大きい製品になる可能性を秘めていると感じます。

個人情報や機密情報の漏えい対策を高度なレベルで可能に

「区役所内で扱う個人情報が載った膨大な数の紙を、いずれは「PaperLab(ペーパーラボ)」で正式に内部処理できるようになる」(田中氏)

「「PaperLab(ペーパーラボ)」はオフィス製紙機の枠を超えた創造的な使い方や、時代を大きく変えていく可能性がある」(斎藤)

田中今後は区役所内で扱う個人情報が載った膨大な数の紙を、正式に内部処理できるようになるはずです。そうなれば外部に処理を依頼するよりもはるかに高いレベルで、個人情報や機密情報の漏えいを防ぐことができます。書類を運ぶ経路や処理を行う部屋など厳重なセキュリティー対策が必要になりますが、これまでセキュリティーを担保するのにかかっていた時間や労力といったコストとその価値を比べれば、十分にアドバンテージはあるのではないでしょうか。そしてもう一つ、私たちは現在90人ほどの障がい者の方を雇用していますが、紙の再生プロセスのループの中で彼らの職域拡大を図ると同時に、障がい者雇用の促進につなげる効果も期待できます。

斎藤「PaperLab(ペーパーラボ)」は、単なるオフィス製紙機の枠を超えた創造的な使い方もできるし、これからの時代を大きく変えていく可能性がある製品だということがよく分かりました。

田中循環の一翼を担いながら、世の中を変えていくためのブレークスルーにもなり得る。それが「PaperLab(ペーパーラボ)」であり、そのためには我々ユーザーがこのマシンをどのように使っていくのか創意工夫することも、とても重要だと思います。

取材を終えて

「自分たちで作った紙には温かみが感じられるんです」。終始、笑顔で取材に応じてくれた世田谷サービス公社の田中社長のこの言葉が印象に残りました。紙への愛着を多くの関係者が共有できれば、世田谷区内で取り組む「紙の地産地消」は着実に進むことでしょう。「PaperLab」は新製品という枠を超え、社会を大きく変える力を秘めていると感じました。

(斎藤正一)

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