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IoT時代に必要な現場力とは

10分で理解するデジタルの「旬」
安全・安心な地域社会
加速する少子高齢化に“打ち手”あり!
デジタル技術が可能にする安心な暮らし
 世界的に見ても極端な少子高齢化が進む日本では、これまでにない新たな社会課題が相次いで浮上してきている。その中でも喫緊の課題となっているのが社会的弱者を支援する仕組みづくりだ。総人口に占める割合が急増する高齢者、そして割合が減少するにもかかわらず次世代で経済・社会を支えなければならない子どもたち——。こうした社会的弱者が安全・安心な生活を営めるような仕組みがなければ、日本という国のサステナビリティー(持続可能性)が担保できなくなるといって過言ではない。

 製品・サービスや業務プロセスをデジタル化する「デジタルシフト」が進展している現在、社会的弱者を支援する仕組みにも最新のデジタルテクノロジーを取り入れることによって、高齢者や子どもがこれまでよりも安全・安心な生活を営める環境を構築することが可能になる。

参加者間で円滑に情報連携する仕組みが不可欠に

 内閣府の「平成29年版高齢社会白書」によると、2016年における総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は27.3%。約50年後の2065年には高齢化率が38.4%に達し、2.6人に1人が65歳以上という状況になる。65歳以上の一人暮らし世帯も増加の一途をたどっており、2025年には82万世帯を超え、総世帯数に占める割合は13%を超えるともいわれている。

 このような高齢化社会を迎えるに当たって、2012年4月に施行されたのが改正介護保険法だ。同法では、高齢者が自立した生活を営むことを可能にする「地域包括ケアシステム」の構築が、国および地方自治体の責務として規定された。

 地域包括ケアシステムとは、地域住民に対する医療・介護・予防・住まいなどのサービスを関係者が連携して体系的に提供する体制のこと。厚生労働省では、「市町村では、2025年に向けて3年ごとの介護保険事業計画の策定・実施を通じて、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じた地域包括ケアシステムを構築していく」としている。

 現在、全国の地方自治体がシステムの構築を進めている。例えば、静岡市が推進する「自宅でずっと」プロジェクトはその1つ。同市の地域包括ケアシステムは、「医療・介護の専門職の連携による支援の輪」と「地域の市民の連携による支援の輪」を構築し、この2つを連携させて、高齢者と家族を支援する仕組みだ。この取り組みの中で、医療や介護などの関係者による「静岡市在宅医療・介護連携協議会」を設置し、事業の検討、情報交換などを行っている。さらに、具体的な事業の実践・検証を行う企画部会、ICT部会、啓発・研修部会、地域支援部会を設置し、継続的な検討を行っている。

 同市に限らず、地域包括ケアシステムの成否の鍵を握っているのは、システムの参加者の間でいかに円滑に情報を連携させるかということだ。地方自治体や医療・介護などのサービス事業者、NPO(非営利団体)などがそれぞれ独自に収集・管理している情報を共有することによって、サービスを提供するスピードや質を向上させることができるからだ。

 こうした観点から、福岡市でも地域医療や介護を支える情報通信基盤「福岡市地域包括ケア情報プラットフォーム」を構築している。 同市でも約156万人を超える市民のうち、その約2割が65歳以上の高齢者が占める。

 これまでも福岡市では、医療・介護・予防のそれぞれの分野で独自にデータ活用に基づく施策立案を行っていた。しかし、具体的な成果を上げていくためには、やはり医療・介護・予防の相関関係を捉えることが必要と判断。活動の基盤となる情報プラットフォームを構築したのだという。

 高齢者の健康や生活に関わるデータを総合的に分析・活用すれば、医療・介護関係者や家族の活動にもさまざまなメリットが期待できる。例えば、要介護・要支援認定基準が回復した人がどのようなサービスを受けていたのかを分析すれば、ケアマネージャーもより効果的なケアプランを作成できるようになる。また、各種の支援サービスの情報を一括で得ることができれば、個々の高齢者のニーズに合った最適なサービスを自由に選べるようになるだろう。

非日常的な行動をセンサーで検知することが可能に

 改正介護保険法の地域包括ケアシステムでは、医療・介護・予防・住まいと並んで、見守りなどの生活支援が高齢者を支援する重要な取り組みとして位置づけられている。これは、「高齢者の見守り」も国や地方自治体が取り組むべき課題の1つであることを意味している。

 東京都福祉保健局が発行している「高齢者等の見守りガイドブック(第2版)」では、高齢者に対する見守りを(1)地域住民や民間事業者が日常生活・業務の中で「いつもと違う」「何かおかしい」と感じる人がいたら専門の相談機関に相談する「緩やかな見守り」、(2)定期的な安否確認や声掛けが必要な人に対して、民生・児童委員、老人クラブ、住民ボランティアが訪問する「担当による見守り」、(3)認知症、虐待など対応が困難なケースに対して、地域包括支援センター、シルバー交番などの専門機関の職員が専門的な知識や技術を持って行う「専門的見守り」——の3つに分類している。

 「担当による見守り」と「専門的見守り」は、ある意味、見守りのプロフェッショナルが担うので、非日常的な行動や言動に気づく可能性は100%に近いだろう。これに対して、「緩やかな見守り」は一般の人々に頼るものなので非日常に気づかないケースも少なくない。にもかかわらず、高齢者が生活を営む中で最も大きな割合を占めているのが「緩やかな見守り」の時間なのだ。

 こうした課題を解決するために、近年デジタルテクノロジーで「緩やかな見守り」を実現する動きが加速している。センサー技術を活用した高齢者見守りシステムが相次いで登場しているのだ。その特色や仕組みは製品によってさまざまで、介護サービス事業者が安全性の確保や職員の負担軽減を目的に導入するケースもある。

 例えば、あるベンチャー企業が開発した見守りシステムでは、複数の小型センサーを居室に設置し、高齢者や要介護者の生活情報を24時間365日、自動収集する。センサーは、心拍計(心拍数、呼吸数、離床・寝返りを検知)、動作検知(人の動きや室内の照度・温度・湿度などを検知)、そしてドア利用状況の検出(ドアや窓の開閉、照度などを検知)の3種類。これらのデータを自動的にクラウドに送り、時系列に沿って見やすく処理した結果を専用ウェブサイトで確認できるようにした。「いつも起きる時間に動きがない」「夜中に玄関のドア開閉センサーが反応した」など、あらかじめ設定しておいた「通常とは異なる条件」に合致すると、家族や介護職員などにメールで通知する仕組みだ。

ICタグやビーコン端末で子どもの行動を追跡する

 もう一方の社会的弱者である子どもを対象とした見守りシステムも、さまざまな地域で実用化されている。総務省が2006〜2007年度に「地域児童見守りシステムモデル事業」を実施しており、この際に主に地方自治体による16地域の取り組みをモデル事業として採択した。同省は、モデル事業での成果を踏まえて2009年1月に「児童見守りシステム導入の手引書」を公表している。

 モデル事業の1つである北海道岩見沢市のシステムは、ランドセルなどに入れたICタグが校門に設置されたセンサーの近くを通過すると、登下校情報として保護者にメールで通知する仕組みになっている。ICタグは、電波を発信する「アクティブタグ」というタイプを採用しており、電子マネーカードのようにセンサーにタッチする動作は必要ない。このシステムはカメラとも連動しており、専用のウェブサイトにログインすると校門通過時の画像を閲覧することも可能だ。このほか、不審者情報などをメールで一斉配信する機能も備えている。同市では市内の全小学校にシステムを導入しており、希望者全員にICタグを無償で貸与している。

 同じくモデル事業に採択された長野県塩尻市のシステムは、主に小学校の通学路に配置された約600台のセンサーが、子どもが持つICタグの電波を受信して位置情報などを蓄積する仕組みだ。保護者は、その情報をいつでも携帯電話やパソコンで確認することができる。同市が販売するICタグを購入すれば、誰でもこのシステムを利用できる。

 最近では、ICタグだけでなく、ビーコン端末を活用する取り組みも増えつつある。東京都墨田区が2017年6月から、自動販売機を利用した見守りサービスの実証実験を始めている。区内に設置しているアサヒ飲料の自動販売機のうち約100台に無線ルーターを搭載し、情報中継拠点や情報発信拠点となる地域ネットワークを構築。ビーコン端末を携帯した子どもや高齢者が自動販売機の近隣を通ると、それぞれの位置情報履歴や活動状況などが、家族のスマートフォンやパソコンに伝わる仕組みだ。

過去の診療データを分析してがん対策を立案可能に

 高齢者や子どもに限らず、地域住民が安全・安心な生活を営むことを目的として、デジタルテクノロジーを活用した予防医療に挑む地方自治体もある。例えば、横浜市は2015年度から国が保有する医療のビッグデータであるナショナルデータベース(NDB)を活用し、総合的ながん対策に乗り出している。

 NDBは、日本全国の医療機関から電子化されたレセプトデータ(診療報酬請求に関するデータ)、特定健診などのデータを収集し、国が匿名化してデータベース化したものだ。NDB提供の申請はこれまで、国の行政機関や都道府県、研究機関に限定されていたが、「レセプト情報・特定健診等情報の提供に関するガイドライン」の改正を受け、基礎自治体(市区町村)にも対象が拡大した。

 横浜市は、市内のがん治療に関するレセプトデータ(2014〜2015年度の24カ月分、データ量は約60万件)の提供を申請。2016年7月に全国の基礎自治体で初めて、国から承諾を得た。

 同市ではNDBの分析によって、年齢・がんの種類・治療方法など、さまざまな側面から実態を把握できるようになるとしている。分析後の政策的な活用としては、就労世代の通院頻度や抗がん剤種類と投与状況把握による企業への啓発、鎮痛剤の投与状況把握による緩和ケア病棟の整備・専門医との連携などを想定する。

 実際の分析に当たり、横浜市立大学医学部の臨床統計学教室と連携協力協定を締結。データ解析に長けた山中竹春教授をはじめ、医学的知識が豊富な専門家と協力しながらNDBの分析を進めている。今後は、がん対策以外にも、NBDデータの活用を進めていく計画だという。
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