ブルースタジオ専務取締役 大島 芳彦氏
郊外住宅地の再生に向けた脱ベッドタウン化の道筋

個人住宅や集合住宅などのリノベーションを手掛けるブルースタジオ。最近は都市郊外に立地する住宅案件が増えているという。郊外住宅地で手掛けるいわばエリア再生の試みを通じて見えてきたのは、脱ベッドタウン化への道筋だ。高齢化が進み、空き家の発生が懸念される住宅地で、価値ある住まいを再構築する。

団地の世界観に共感し郊外を積極的に選ぶ層

――代表例に小田急電鉄が座間駅前で社宅建物を賃貸住宅として再整備したホシノタニ団地があります。

大島駅前の資産だけに有効活用を考えたい。しかし、座間は家賃相場が安い。建築コストを考えると、建て替えたのでは事業が成り立ちません。

そこで、リノベーションに切り替えました。しかも、敷地内にある既存建物の再生だけを考えるのではなく、郊外の住宅地が抱える問題の解決に向けたビジョンまで描くことを提案しました。選ばれる町にならないといけないという発想です。

――入居状況をお聞きすると、実際、選ばれる町になりつつあるようにも思います。

大島入居者の6割近くはそもそも座間に住むことを考えていなかった層です。ホシノタニ団地の世界観に共感し、同じ小田急沿線の世田谷エリアなどから移り住んできた人たちです。子育て世代として固定費を抑えたい、自分らしい暮らしを貫きたい、そうした理由から家賃相場の安い郊外を積極的な選択肢として選んでいるのです。

――駅に近い住棟1階に子育て支援施設やカフェを置き、敷地内には貸農園やドッグランを整備しました。どういう仕掛けですか。

大島座間には統計上、30代の人口流入が見られ、家賃相場の安さなど、可能性を見いだしている層が確かにいる。ただ、それが日常の中に見えてきません。駅から離れた戸建て住宅地に暮らす高齢者も、そうです。

CASE:1「ホシノタニ団地」

1970年に完成した小田急電鉄の社宅建物をリノベーションしたもの。ブルースタジオでは建築設計監理を手掛けた。敷地内では年1回、ホシノタニマーケットと呼ぶイベントを開催している

提供:ブルースタジオ

地域に愛着を持てれば戸建てへの住み替えも

これらの施設は子育て世代や高齢者らに5分でも10分でも滞在してもらうための仕掛けです。地域内に個別に存在する人的資源をあぶり出し、交点をつくるように再編集することを考えたのです。

賃貸住宅の入居者は異邦人ですが、こういう空間があると、地域社会とコミュニケーションを取る機会が得られます。子育て支援施設やカフェなどを利用することで、地域社会に溶け込みやすくなる。

――それが、戸建て住宅地の抱える問題の解決にも結び付くと。

大島そうです。暮らしの価値とはコミュニケーションの価値以外の何ものでもありません。地域内の人間関係に充足感を得るのです。地域に愛着を持った人が戸建て住宅地に住まいを求めて住み替える。その連鎖を生じさせたい。

CASE:2「鵠ノ杜舎(くげのもりしゃ)」

神奈川県藤沢市内で2017年10月に入居を開始した賃貸住宅。戸建て感覚を持つ連棟型の木造2階建てでブルースタジオが建築設計監理を担当した。上棟式には入居希望者や地域住民が参加

提供:ブルースタジオ

既成概念にとらわれず生涯資産の形成を

――郊外で仕事のできる環境を整備する必要性も訴えています。

大島世界観に共感し郊外に移り住んだ層にとっては、共通の世界観を持つ仲間と一緒に仕事をすることが次のフェーズとして考えられます。戸建て住宅地に暮らすリタイア世代の起業にも期待できます。

郊外の自然豊かな、静かな場所で仕事をして、都心での打ち合わせにはオンデマンドで対応する。そういうスタイルが広がれば、提供すべき新しいサービスも必要になります。仕事のできる環境を整えれば郊外は大きく変わります。

こうした変化はハブステーションではなく、各駅停車の駅でこそ表れやすいでしょう。各駅停車の駅なら、その近くに住まいを確保できるからです。仕事のできる環境が駅前に整っていれば、昼ご飯を食べに家に帰ることも可能です。

――豊かな暮らし、価値ある住まいを手に入れようとするとき、忘れてはならない点は何ですか。

大島哲学を持つことです。都心に住むことを豊かに感じる人もいれば、郊外に住むことを豊かに感じる人もいます。そこは人それぞれ。どちらにしても、自分の価値観を持ち、それを貫くことが幸せだと思います。

かつて「住宅すごろく」と言われるように、生涯資産の形成はこうあるべきという既成概念がありました。リノベーション事業はそれに対するアンチテーゼを示す意味もあって続けてきたものです。マスなニーズは見込めなくても、なければならない選択肢と信じて続けてきました。

価値ある住まいとして、都心のマンションばかりがいいわけではありません。郊外の新築戸建ても十分に考えられます。郊外という選択肢の価値を自分なりに見いだすことができれば、そこでの暮らしは豊かになるはずです。

CASE:3「高台と草原と森の家」

2世帯3世代が暮らす木造2階建て住宅。孫世代が保育園に入るのをきっかけに親世帯と子世帯が同居することになり、親世帯の住宅の2階部分を子世帯の住宅に改修した

提供:ブルースタジオ