世界最大の農業機械見本市、ドイツ・ハノーファーで目撃!クボタのトラクタが農業を変える

クボタ製品
ヨーロッパ弾丸取材 行ってまいりました‼
クボタ製品
フェル氏 木股社長
自動運転に人工知能って……トラクタってここまで進んでたんですか!
田んぼで鍛えたクボタの技術で、世界に乗り込みます!
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みなさまごきげんよう。フェルディナント・ヤマグチでございます。

まことに唐突ではございますが、昨今農業分野がイイ感じに盛り上がっております。地球の人口は爆発的に増加しており、農産物の需要は拡大の一途をたどっています。

農業人口は、日本ばかりか世界的にも減少していますが、それを補う自動運転技術が飛躍的に進化しています。バイオテクノロジーの発達に伴い、科学的で合理的で安全な農作物の創造と収穫が始まっています。

日本にいるとなかなか見えてこない新たなる農業の胎動が、海外からチラチラと聞こえてくるのですが、国内ではイマイチ実態がつかめません。

世界の農業の現状を知るべく出かけたのが、世界最大のドイツ・ハノーファー国際展示場。こちらで2年に1度開かれる農業見本市「アグリテクニカ」には、世界中の農業機械がワンサカ集結するのです。我が日本の企業も例外ではなく、国内農業用機械市場ナンバーワン、ワールドワイドでも3位につけるクボタが出展しています。同社は欧州の大手農業機械メーカー「クバンランド社」と、米国の「グレートプレーンズマニュファクチュアリング(GP社)」を買収し、世界でさらに事業を拡大しようとしています。

クボタの世界戦略とは、どのようなものでしょう。「世界戦略」というと、何やら仮面ライダーの悪役「ショッカー」の陰謀みたいですが、こちらの世界戦略は、世界の農業をより良くしようとするものです。ハノーファーの会場で、クボタの木股昌俊社長を突撃取材してまいりました。

木股 昌俊

Profile

木股 昌俊

代表取締役社長。1977年北海道大学工学部卒業後、久保田鉄工(現クボタ)入社。2001年筑波工場長となる。05年取締役、10年サイアムクボタコーポレーション(タイ)社長などを経て14年4月代表取締役副社長執行役員。2015年7月より現職

Profile

フェルディナント・ヤマグチ

自動車評論家、コラムニスト。一般企業に勤める傍ら、自動車に関するコラムなどを執筆し人気を博している。講演やテレビ・ラジオなどさまざまなメディアで活躍中。著書に『仕事がうまくいく7つの鉄則 マツダのクルマはなぜ売れる?』(日経BP社)など

巨大な展示会場に農業機械……
世界最大の見本市はすべてがケタ外れ

ハノーファーメッセに降り立つフェル氏
ハノーファー国際見本市会場の様子

日本№1農業機械メーカー「クボタ」のブースは欧州っ子の間でも注目の的

フェル: ひ、広いっ……。

――世界最大のコンベンションセンター、ハノーファーメッセの総展示面積は49万8000m2と東京ビッグサイト(9万5420m2)の約5倍。そして、欧米諸国の農機メーカーの展示ブースに行けば、ド迫力の農業機械が鎮座。そして小さな子供連れのファミリーから、展示見学の合間に外の屋台で元気にビールを飲み干す若きファーマーたち、と来場者のエネルギーにも圧倒されっぱなしのフェルさん。

木股: フェルさん、わざわざドイツまでお越しいただきありがとうございます。

フェル: いえ、クボタウォッチャーとして取材を始めてはや1年。ついに木股社長にお会いすることができました。感激至極でございます。海を越えて参上したかいがあるというものです。
それにしても、「アグリテクニカ」、大変な盛り上がりですね。

木股: 世界三大農業機械展示会としては、フランスのパリ国際産業見本市「シマ(SIMA)」、イタリアの「エイマ インターナショナル(EIMA)」がありますが、なんといっても「アグリテクニカ」の規模は群を抜いています。毎回、約45万人の来場者、2803社もの出展社が集まり、近年は新興の中国や韓国のメーカーの出展も増えていますね。

フェル: 自動車に関するコラムを書き散らす立場として、毎年国内のモーターショーに足を運んでいますが、残念ながら最近は出展者も来場者も右肩下がりの傾向にありまして……。それに比べてこの盛り上がり。モノが違うので単純な比較はできませんが、農業には関係のなさそうな子供の姿も多いですし、勢いがケタ違いです。会場の広さ、人の多さもさることながら、展示されている農業機械の迫力がまたすごい。まるで映画に登場する巨大ロボットの世界に入り込んだようです。マスクで表情が見えず恐縮ですが、会場に入ってからというもの、驚きでずっと口が半開き状態です。

そして、クボタのブースに来たらまた驚きました。各国の競合他社に負けることなく、展示スペースも広く、大いににぎわっている。クボタはいつからこうした海外見本市に出展なさっているのでしょうか。

木股: アグリテクニカは2011年に初出展し、今回で4度目です。欧州におけるトラクタ事業そのものは、約30年前から展開し、十数年前から少しずつ展示会にも出展するようになりました。とはいえ、当初は中小型の農業機械が中心で、商品のラインナップも少ない。場所は会場の片隅で、ブースの広さも現在の4分の1程度だったんです。

クボタのブースの様子

2011年初出展時のクボタブース。2017年の展示面積は約4倍に拡大

フェル: 今回のブースは、面積にして約1700m2とか。現在、世界の農業用機械市場で3位につけていらっしゃるとお聞きしていますが、世界市場でここまでプレゼンスを高めてこられたとは素晴らしいですね。ブース入り口や商談コーナーに置かれた盆栽、折り紙で作ったトラクタなど、他社にはない和のテイストのディスプレイも印象的です。

木股: ありがとうございます。ドイツを中心に、ヨーロッパ各拠点のメンバーが一体となって頑張ってくれました。

ハノーファー国際見本市会場開催
「アグリテクニカ」とは

■世界の大手農機関連企業が集結する!

アグリテクニカ会場前のフェル氏
アグリテクニカの様子

「アグリテクニカ」は、ドイツ農業協会(DLG)がドイツ・ハノーファーにおいて2年に1度開催している世界最大の農業機械見本市。2017年は11月14~18日に開かれ、各メーカーが新製品や新技術などを披露した。なんとその広さは39ヘクタールと東京ドーム約8個分!

トラクターのフィギュア
盆栽の展示

日本の現場で培ってきた蓄積が今のクボタを築き上げた

木股: とはいえ、決して奇をてらった展示をしているわけではなく、農家の方々が抱える課題に正面から向き合い、農業経営に貢献できる製品やソリューションを提供するという“精密かつ丁寧なモノづくり”をアピールする。さらにお客様にお困りごとがあれば、“おもてなし”の精神で対応する。長年、当社がこだわってきた現場主義の姿勢を現地でも表現していると聞いています。

欧州では、広大な畑作農業に合わせた大型トラクタの現地生産・販売を開始し、さらにトラクタに装着する作業用機械(インプルメント)の欧州大手メーカーを子会社化するなど、数年をかけ、こちらの農家の方々のニーズに合わせた足固めをしてきました。

フェル: 日本で長年、農家の方々と共に地道にやってきたことの蓄積があるからこそ今につながっている、と。

木股: 世界のトップメーカーに比べれば、市場のプレゼンスやお客様からの評価もまだまだです。これからが、我々が世界でメジャーになりうるか否かの真のチャレンジのスタートです。今回の「アグリテクニカ」は、そのリトマス試験紙的な場と捉えています。

フェル: なるほど、ビジネスの土台となる基礎の部分を着々と突き固めてきて、いよいよ進撃のラッパを吹き鳴らした、というところですね。

日本の農家にヒアリングするクボタ社員

日本の農業を支え続けてきたクボタ
その原動力は「金の卵」たち

フェル: 御社は、国内ですでに農業機械でシェア№1を占めており、高い支持を集めていらっしゃいます。そもそもトラクタの生産自体はいつ、どういったきっかけでスタートされたのでしょうか。

木股: 開発に着手したのは、1950年代後半のことです。創業の原点である鋳物技術を生かし、大正期に農工用ディーゼルエンジンを発売。その用途開発の一つとして、戦後すぐに再開した耕うん機の開発・販売がスタート地点となりました。

トラクタをはじめとする農業用機械は、欧米ですでに発達していました。けれども、欧米の農業用機械は、日本よりはるかに規模の大きい面積を耕作するために開発されているうえに、畑作用が中心です。日本は欧米に比べるとこぢんまりとした面積で農業を行っており、メインとなるのは稲作です。このため、欧米の農業用機械は、日本の農業になじみにくかった。

一方、1920年代には農業従事者が労働人口の半分超を占めていた日本でも、戦後の高度成長期に差しかかり、農業人口が大都市の工業に吸収され、減少の一途をたどろうとしていました。

フェル: 農家の次男三男が「金の卵」として集団就職で都会に出て、工場で働くようになった時期ですね。

木股: となれば、ますます重労働を強いられてきた農業の現場の機械化、省力化は急務でした。そこで、クボタでもこのニーズを満たすべく、農業用機械の開発に本格的に乗り出すようになったわけです。

フェル: そこで、御社の創業者である漢気あふれる久保田権四郎さんが再び立ち上がった。安全な水を人々に届けたいと、創業からの事業であった鋳物技術を活用し、国産初の水道管を開発したお方ですね。

木股: 創業者は農家の末っ子に生まれ、農家の生活を誰よりも実感していたこともあったのでしょう。当時の技術者たちは、北海道の農家に長期間泊まり込み、農作業の手伝いをしながら、設計、テスト運転を繰り返し、3年をかけて国産初の畑作用乗用トラクタを1960年に完成。そこから2年後、日本の稲作文化に合わせた水田向けトラクタの開発にも成功します。

フェル: 車体が地面に沈まず、水がかかってもエンジンが止まらないよう、水田の泥と格闘しながらの研究は非常に過酷な作業だったのではとお察しします。まさに現場に徹底してこだわり抜いた先人たちの奮闘がなければ、今の日本の農業はなかった。

水が飲めるのもクボタのおかげなら、おいしい米や野菜をお腹いっぱい食べることができるのもクボタのおかげですね。

木股: というと褒めすぎかもしれませんが(笑)、当社が日本の水道と農業に貢献しようと頑張ってきたのは事実です。

「クボタの限界」を超えるために世界に向けた新たな戦略

フェル: そのクボタが現在はこうやって世界にガンガン進出しようとしています。それはなぜですか?

木股: クボタはかなり昔から海外進出を積極的に進めていました。当社の海外事業は、今から100年前の1917年(大正6年)に、インドネシアに水道管を輸出したことから始まります。私が就職した1977年の時点では、年間売上高における海外比率は10%でした。2017年現在は約65%にまで伸びています。ただし、ここで止まっているわけにはいきません。

フェル: どうしてそこまで海外を重視するのでしょう?

木股: もちろん日本国内を軽視するわけではありません。ただ、世界の人口の伸びからいうと、これからさらに成長するのは圧倒的に海外です。アフリカを中心に現在では急速な人口増加が続いています。ところが、こうした地域の多くは自国民の食糧を十二分に賄うだけの農業が確立していません。さらに、気候変動による異常気象によって農業そのものの危機も増しています。最先端の農業を普及させることは、世界の課題に応えることでもあります。ただ、そうなると、これまでのクボタのやり方だけでは限界がある。

フェル: 限界、ですか?

木股: そう、限界です。というのも、これまでクボタが得意としてきたのは、日本の農業に照準を合わせた稲作用の機械の開発だったからです。世界の農業の大半は、欧米はもちろん、アフリカや南米なども畑作です。しかも耕作規模は日本よりはるかに大きい。クボタ1社の技術では、おのずと限界があります。

フェル: 欧米から輸入したトラクタが、日本の農業スタイルに合わなかったのと同じように、「日本のクボタ」のままでは、海外の大規模農場にはマッチしないということですか?

木股: これまでのクボタは、稲作が盛んな中国やタイといったアジア諸国では、日本で培ったノウハウで市場を広げ、米国では広い一戸建てに住む一般消費者向けのユーティリティトラクタやトラクタの技術を応用したユーティリティビークル(多目的四輪車)、さらに乗用芝刈機といった幅広いラインナップで支持を得てきました。

それで世界の農業機械市場で市場シェア3位につけるに至りましたが、面積にして水田の4倍という畑作マーケットに寄与していくには、先を行く世界のメジャーの背中はまだ遠い。

フェル: キャッチアップするには時間がかかる。どうしましょう?

木股: 大規模な畑作が得意なインプルメント=作業機械を開発している現地の企業と組むことにしたのです。2012年には、欧州大手のインプルメントメーカー「クバンランド社」、16年には、アメリカの「グレートプレーンズマニュファクチュアリング(GP社)」とのM&Aを果たしました。クボタのトラクタと、欧米のインプルメントを合体させることで、世界の多様な畑作機械の需要に対応しよう、というわけです。「クバンランド社」も「GP社」も、この「アグリテクニカ」に出展していますから、ぜひ見学してください。

フェル: なるほど、ここ「アグリテクニカ」でのにぎわいを見れば、今後の手ごたえ、勝算はかなりありなのではないでしょうか。今後、欧米市場での“下克上”を起こすべく、どのような戦略を展開されるのか、さらに具体的にお聞かせ願えますか。

握手をするフェル氏と木股氏
「クボタの魅力を隅々までお伝えしましょう!」と強く握手をする木股社長とフェルさん
腕相撲をするフェル氏と木股氏
……がそのまま腕相撲に! 「ぐぬぬ。さすがはクボタの社長。強い!」とフェルさん、圧倒的差で負けてしまう
フェルディナント・ヤマグチのヨーロッパ道中記
~アグリテクニカ編~

■アグリテクニカ

アグリテクニカに行ってきました
会場前のフェル氏

朝イチで会場入り。「『アグリテクニカ』へいざ参らん!」

クボタブースとフェル氏

お目当てのクボタのブースに到着。「予想以上に広い!」

木股社長と握手するフェル氏

ブース入り口では木股社長がお出迎え

種まきインプルメントとフェル氏

トラクタとの統合制御で種をまっすぐ植えることができる種まき機。「賢い!」

会場で人気者のフェル氏

大勢の一般の方々に囲まれ撮影されるフェルさん。「いやぁ~照れますな」

これが世界ニーズに応えるクボタの大型トラクタだ!

木股: ポイントとなるキーワードは大きく3つあります。1つが「大型化」です。広大な農場経営の省力化、軽労化をはかっていくには、作業の効率化が必須。そのツールとしてトラクタの大型化へのニーズは今後もますます高まっていくでしょう。

そこで、現地の農家の方々のニーズを製品開発にいち早く取り込んでいくために、2015年より、フランス(ダンケルク行政区)に新設した大型畑作用トラクタ製造専用の工場「クボタファームマシナリーヨーロッパS.A.S.(以下KFM)」を本格稼働。国内に先駆け、欧州で170馬力帯の大型トラクタ「M7001」シリーズを発売しました。同シリーズは、欧州だけでなく米国やカナダ、さらにオーストラリア、日本などへの輸出も展開しています。さらに操作性や居住性に改良を加えた「M7002」シリーズを、今回の展示でお披露目し、2018年からの販売を予定しています。

欧州で人気の「M7」シリーズ
「操作性がいい」「乗り心地が抜群!」と欧州で人気の「M7」シリーズに、ニューフェースが登場

フェル: 今回、KFMにもお邪魔し、「M7」の最新機種を試乗したいとムリなお願いをしておりまして……。農業大国のファーマーたちをうならせる乗り心地を体感したいと思います。

木股: ぜひ、率直なご感想をお聞かせください。2つ目のキーワードが、今回の展示での目玉の一つ「実際の農作業をする作業機であるインプルメントとトラクタのベストマッチング」です。

フェル: 「M7」の後ろに装着されている、あの丸っこいフォルムの機械がそうですか?

木股: はい、あれは「ベイラー(Baler)」ですね。牧草を丸めて、排出するまでをトラクタとの自動制御で行う作業機になります。

トラクタとインプルメント(ベイラー)
トラクタとインプルメントのナイスコンビが、畑作の要。

フェル: ほほう、こうしてブースを見回すと、確かに各トラクタには実に奇怪な……いや、失礼、見慣れない機械が装着されていますね。トラクタに引っ張られているようで、後ろを行くインプルメントが、実は“主役”である、と。

木股: 前部分のトラクタは、あくまでも作業機をけん引するのが役目であって、実際の農作業を担うのはインプルメントです。つまり、どちらか1台だけでは農業は成立しない。トラクタとインプルメントのベストマッチングを実現することが、作業の効率性を上げ、収量をしっかりと確保するための重要なポイントとなります。

さらに、畑作と一言で申し上げても、多種多様な作業機が用いられ、気候や地形、法規制によっても求められることが異なります。例えば同じ欧州でも、フランス、ドイツなどは畑作・酪農の混合農業が主流の一方、南欧に行けば、オリーブやブドウといった果樹菜園が増えてくる。求められるトラクタのサイズも装着するインプルメントも変わってきます。

フェル: 稲作と畑作の違いだけでない、と……各国の文化や気候風土に合わせ、それぞれ異なるニーズに応えるとなると大変な作業ですね。

■クバンランド社ブース

なぜかブース受付にいるフェル氏

インプルメントメーカー、「クバンランド社」のブースにも潜入。マスクマン登場にやや困惑気味な同社社員……

巨大なインプルメントとフェル氏

「フェルさんと現代アート」……ではなく、これもインプルメント

インプルメントの前に立つフェル氏

「まるで戦隊モノの敵役みたいだな……」とフェルさん

フェル氏の身長よりも大きなタイヤ
巨大なトラクタとフェル氏

月面探査機……ではなく、トラクタに乗り込むフェルさん。「デカい!」

石川さんとフェル氏

「クバンランド社」でお会いした石川さんとパチリ

M&Aのシナジー効果とICTで「スマート農業」を実現する

木股: 現地の農業を熟知し、蓄積したノウハウが非常に重要になります。そこで、スピード感を持って作業機の品ぞろえを拡充すべく、先ほど申し上げたように、欧州大手のインプルメントメーカー「クバンランド社」、アメリカの「GP社」のM&Aも実施しました。

フェル: まさに“餅は餅屋に聞け”。テクノロジーの進化がかつてないスピードで進む今、M&Aの相手選びも大事なポイントですね。

木股: その点で、「クバンランド社」は、トラクタと作業機間の統合制御(TIM。トラクタインプルマネジメント)を実施していく上での、通信手段となる国際標準規格「イソバス(ISOBUS)」の開発元であり、より付加価値の高いソリューションを提供できるのも強みです。

3つ目のカギとなるのがテクノロジーを活用した「スマート農業」です。効率的かつ正確な農作業を実現していく上では、農業機械を製造・販売するだけでなく、ICTなどの先端技術による農業のビジネスモデルそのものの変革が肝要となります。

そこで、当社では国内最大手農業機械メーカーとして、ICT農機にいち早く取り組み、オートステアリング機能搭載トラクタ、直進キープ機能搭載田植機などを開発。そのベースとして、2014年より営農支援システム「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」も国内で提供しております。

フェル: 昨年、展示会にお伺いした際に、少しお話を伺いました。農業経営をデータで見える化するシステムで、現在、国内の4000軒近くの農業で活用されているとか。詳しくは、クボタ特集第1回記事へ。

木股: こうした国内での「スマート農業」への取り組みを軸に、他社データとも連携した農場・環境に関するセンシングや、作業のロボット化といった最先端の技術を組み合わせ、さらには経営に関わるファイナンスなども含めたトータルソリューションを、世界に提供すべく、すでに取り組みがスタートしています。

「クバンランド社」との協働によるトラクタインプルマネジメントもその一つであり、外部情報システムとも連携した部門横断型で、農業のPDCA経営を実現するプラットフォームを提供してまいります。

“5ゲン主義”を徹底して海外で活躍するクボタのエンジニア

海外のクボタエンジニアとフェル氏
会場にいたクボタのスタッフとフェルさん。フレンドリーなナイスガイばかり

フェル: 一口に農業といっても、これからは実に広い事業領域をカバーしなければ、ユーザーの期待に応えることができない。となると、メカに強いだけでなく、ITやデータ分析、バイオ分野など、さまざまな才能、知見を持つグローバルな人材が求められ、活躍するフィールドも限りなく広がっていきそうですね。

ところで、社長ご自身は工学部のご出身で、エンジニアとしてアメリカ、欧州、アジア諸国での赴任歴も長く、技術者目線でグローバル戦略を推進されてきたと伺っています。もともと、海外志向でクボタに入社されたのでしょうか?

木股: いやいや、そんな高尚なものではありません。正直言えば、大学の先輩からの紹介……いや、命令ですわ(笑)。大学の応援団長だった先輩がおりまして、「工学部でプラプラしとるヤツがおる。入れ、命令や」と。

フェル: 後輩としては、返事は「押忍!」しかない(笑)。

木股: ははは。まあ、冗談はさておき、エンジンに関わる研究を専攻していましたので、ならば技術者として建機や農業機械などに貢献できるのがいいかな、と。入社してすぐに、当時、クボタの海外戦略拠点として位置づけられていた筑波工場に配属されました。

フェル: 今は売り上げに占める海外生産比率約65%と伺いましたが、当時からすでにグローバル化を進めていらしたんですか。

木股: 私が入社した1977年当時、すでに筑波工場における海外向け生産比率は5割を超えていました。ただし、作っているトラクタといえば、馬力帯もせいぜい25~30馬力と小さい。若いころから、製品テストで海外に出向くたび、農機・建機も含め、本当の意味で世界に出ていくなら、大型化は必須だと思っていました。

フェル: これぞ、現場を大事にするクボタのエンジニア魂。入社時から、グローバルな視点で現地化の重要性を認識していらっしゃったんですね。

木股: まあ、先に申し上げたように、“現場主義”は創業時から受け継がれてきたDNA、クボタエンジニアの“性”のようなもんですね。

特にエンジニアが活躍する開発現場や生産工場では 「5ゲン主義」を大切にしています。つまり5つのゲン「現場へ行き、現物を通じて、現実の姿(現在の実力)を把握し、原理・原則(あるべき姿)という“モノサシ”と比較して、改善していく」をモットーに、体現化していくのです。

そのために、「世界の農家の方々のお声に耳を傾けてこい」と当社のエンジニアには若いうちから海外へ行く門戸を広く設けています。

フェルさんが聞いた 5ゲン主義の現場1

木股社長のおっしゃるクボタが大切にする「5ゲン主義」――現場、現物、現実、原理、原則を大切にする経営は、実際のところ、ヨーロッパでどのように展開されているのであろうか?

ここは、やはり当事者に話を聞かねばなるまい。というわけで、ドイツ・ハノーファーから、オランダ・アムステルダム、フランス・ダンケルクまで足を延ばして、クボタの人たちに「5ゲン主義」、どうなのよ、と聞いてきました。3日間で3カ国! ヨーロッパは広いようで、狭い!

実際に農業の「現場」で汗を流してこそ、本当に役立つ研究ができる

フェルさんと冨田さん

にこやかに話すクボタのリケ女に、マスクの目尻もやや下がり気味のフェルさん

冨田さくらさん
2018年4月で入社6年目。大学で農業工学を学んだのち、クボタ入社。トレーニー制度によりオランダの大学に留学中。精密農業関連の研究に従事

―最初に話を伺ったのは、冨田さくらさんであります。

フェル: 冨田さんは、今どんなお仕事を?

冨田: 入社以来、国内での農業機械に関わるソフトウェア開発を行っていたのですが、1年前からはオランダの大学で精密農業関連のデータ解析や研究などに従事しています。そのうえで、ヨーロッパの農家に張りついて、農業機械の制御に欠かせないソフトウェアを開発しています。

フェル: おお、まさに5つのゲン。「現場へ行き、現物を通じて、現実の姿を把握し、原理・原則(あるべき姿)という“モノサシ”と比較して、改善していく」を実践されていますね。

冨田: 大学でソフトウェアの研究、というと、研究室にこもってパソコンに向かっているイメージかもしれませんが、むしろ真逆なんです。農業用機械を制御するソフトウェアは現場でちゃんと使えてナンボなので、実際に日本でソフトを開発しているときは、私もほ場に行き、農家の方と一緒にコンバインに乗って、作物を刈り取りながら、その場でソフトウェアの微調整をしてきました。

フェル: それはヨーロッパに来てからも?

冨田: はい。留学してからも、欧州各国で大規模営農に携わるコントラクター(請負業者)から家族経営の小規模農場まで、足しげく現場に通って、幅広くヒアリングしています。農家の規模によってソフトウェアに対するニーズが全然違うので、現場主義が開発には欠かせないんです。農家の方々と一緒に汗を流してこそ、研究でも本当に役立つアウトプットを生み出せる。それが私の信条です。あ、クボタのスピリッツそのものですね(笑)。

フェル: 今度、私も一緒にコンバインに同乗したいですねえ。

冨田: かなりハードなので覚悟してください(笑)。

フェルさんが聞いた 5ゲン主義の現場2

“百聞は一見に如かず”現地に来てこそ、真のご要望にお応えできる

石川新之助さんとフェルさん

良きお父さんでもある石川さん。「これからの若者にとって農業をもっと魅力的な職業にしたい!」

石川新之助さん
入社12年目。クボタが買収したインプルメントメーカー、「クバンランド社」に駐在して4年目

―次に突撃したのは、トラクタとインプルメントのマッチングを手掛ける大事な“仲人役”である。

フェル: ハノーファーメッセの広さにも度肝を抜かれましたが、ここに来るまで、車窓から望む耕地の広さといったら……さすが農業大国! 石川さんは、こちらでどのようなお仕事を?

石川: エンジニアとして、「M7」トラクタの開発、トラクタとインプルメントの統合制御システムの企画・開発に携わっています。トラクタとインプルメントは、製品としては別々ですが、農作業の際は一体となって動く。農作業の効率化、高精度化をはかる上で、両者の連携、制御がモノをいいます。

フェル: 開発だけならば、日本でやりとりをしながらでも、できるのでは?

石川: いえいえ、目の前に実際のインプルメントがあるのとないのとでは全然違います。そして、“百聞は一見に如かず”とはよく言ったもので、現地のお客様に相対しお声を聞き、ご要望を見極めてこそ、お客様にダイレクトに訴求できる機能開発が実現する。私たちエンジニアは、入社式から「5ゲン主義」の大切さをたたき込まれていますから(笑)。

フェル: おお、脈々と受け継がれるクボタのエンジニア魂。徹底していますね。

石川: はい、加えて農業先進国のオランダで現地の社員とも切磋琢磨しながら、最先端の技術に触れられるのも技術者冥利に尽きます。ぜひ、フェルさんも当社のインプルメントの数々、間近で見ていってください。

フェル: ぜひ! 私も「5ゲン主義」の体現、といきましょう。

フェルさんが聞いた 5ゲン主義の現場3

製造プラス手厚いサポートで次なる製品開発に活かしていく

フェルさんと山本さん

海外赴任歴が長い山本さん。「大きな馬力帯のトラクタで世界でもっとプレゼンスを高めていきたいですね」

クボタファームマシナリーヨーロッパS.A.S.社長(2017年11月取材時)
山本万平さん
3人目の“5ゲン主義”の証言者は、畑作用大型トラクタ「M7」製造を牛耳る現地法人社長。ちなみに私と同い年。

フェル: ダンケルクといえば、クリストファー・ノーランの映画「ダンケルク」が日本でも話題になりました。第2次世界大戦で激戦の地だったとか?

山本: はい。その他にも、ここ北フランス・ダンケルク行政区の特徴として、欧州市場の中心に位置しており、ダンケルク港に近いことも挙げられます。

フェル: つまり、世界を見据え、畑作市場に進出する足掛かりとして、うってつけの場所である、と。

山本: そうですね。さらに、なんといっても世界でも有数の畑作大国で市場動向、ニーズをリアルにキャッチできるのもメリットです。当工場では、製造拠点であるとともに、プロダクトサポート部門も設け、製品提供後、ご購入された農家の元に日参し、お困りごとやご意見をお伺いするアフターサービスも密に実践し、開発に活かしています。

フェル: ワンチームで、現地のユーザーの声をフィードバックし、製品を改善していく。スピード感を持って、「5ゲン主義」を実現されているのは、さすがですね。

山本: ありがとうございます。また、基幹業務の管理システム(ERP)についても、欧州で主流の「SAP」をクボタファームマシナリーヨーロッパS.A.S.に導入したのはクボタの工場では初めてとなり、他の欧州諸国に横展開するなど、現地の従業員に合わせた“ローカライズ”も実践しています。

フェル: なんと、6つ目のゲン「現地社員」にも配慮されているとは。さすがです。山本さんと私は同じ年と伺ったのですが、片やデキる現地法人トップ、片やしがない覆面レスラー。どこで運命が違ってしまったのか……(笑)。いや、面目ないです。

■グレートプレーンズマニュファクチュアリング(GP社)ブース

GP社社員とフェル氏

2016年に子会社化した北米のインプルメントメーカー「GP社」の社員と和やかなフォトセッション

GP社のインプルメントとフェル氏
インプルメントを観察するフェル氏

同社の耕うん用インプルメント。「土の掘り方一つとっても、国や作物によって変わるとは……興味深い」

ポーズを決めるフェル氏

雑誌の表紙撮影のようなたたずまいのフェルさん。「CMキャラデビューを目指せ!」

アグリテクニカ看板とフェル氏

「いやぁー、農機の概念が覆されたド迫力の見本市でした」
次は「クバンランド社」とKFMに潜入だ!

オレンジカラーのKubotaが街の玩具店に並ぶ日に向け……

―さあ、再び、ドイツ・ハノーファーの「アグリテクニカ」に戻って、木股社長の話の続きをお聞きする。

フェル: 最後に、畑作農機市場へ本格参入し、社長のメッセージとしても「グローバル・メジャー・ブランド(GMB)」の実現を目標に掲げるクボタ、そして農業の未来のあり方についてお聞かせ願いますか。

木股: 私が常々言っているのは、GMBとは「売り上げや利益で世界のトップを争うブランド」だけを意味するものではない、ということです。

お客様の“望み”を超える商品・サービスを、“予測”を超えるスピードで提供し、お客様の“感動”を創出していく。具体的には、「農家の方々のお声にしっかりと耳を傾ける」「トラクタとインプルメントのベストマッチングを実現する」「お困りごとがあればしっかりとアフターフォローをし、次の開発につなげていく」など、あらゆるフェーズで世界一をめざし、「最も多くのお客様から信頼されることによって、最も多くの社会貢献をなしうるブランド」になる。ここをグループメンバー全員が共感、理解し、遂行することが大事です。

ひいては、次の世代を担う子供たちの未来を見据え、安全で質の高い農作物を提供し、かつ農業がより魅力的な職業となるよう世界の農業マーケットに寄与していく。それが我々のミッションだと考えています。

実は、こちらでは農機のおもちゃが子供たちに人気でしてね。当社でも展示ブース内に「ファンショップ」を設け、クボタの農機や建機のおもちゃを提供しているのですが、私のひそかな野望は街の玩具店に、クボタのオレンジカラーの農機のおもちゃがズラリ並ぶこと。

クボタファンショップのフェル氏と木股氏
農機具のおもちゃだけでなく、オリジナルの時計やキャップ、ジャンパーなどが並ぶ「ファンショップ」で2ショット

子供たちが喜々としてオレンジ色のトラクタで遊んでいる。そんなシーンが身近に見られるぐらい、この地で親しまれる会社になれるよう精進していく所存です。

フェル: 世界の子供たちがクボタのトラクタのおもちゃで遊び、農業が「将来、なりたい仕事」のトップ入りを果たす……実にいい話です。

そんな素晴らしい世界が実現するよう、私も“乗り物”に関わる仕事をする身として、ささやかに応援させていただきます。

木股氏とフェル氏
『拡大を続けるクボタの海外事業は、若手エンジニアの育成に秘訣あり‼』
					フェルディナント・ヤマグチ、欧州で活躍するクボタのエンジニアたちに迫る!
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