Mixed Realityから始まる産業革命

「現実世界に、今はない未来を存在させる」

イタリア人以外で初めてフェラーリのデザインを手掛けた奥山清行氏。カーデザインだけでなく鉄道、建築、都市計画、農業機械、眼鏡などジャンルも国境も超えて活躍する工業デザイナーだ。奥山氏は Microsoft HoloLens を装着して Mixed Reality を体験する中で「ここまでできるのか」と驚きを隠さなかった。「こういうツールができないかとずっと思っていた」と話す奥山氏。Microsoft HoloLens の先に見据えていたのはデザインの、そして日本のものづくりの可能性だ。

[ 奥山清行氏プロフィール ]

品川のマイクロソフト本社で Microsoft HoloLens を初体験する奥山氏。サポートしているのはテクニカル エバンジェリストの高橋忍。

シンプルだが考え抜かれている
Microsoft HoloLens のデザイン

―まず Microsoft HoloLens のデザインについてどう思われますか?
奥山:僕も自分のブランドで眼鏡をデザインし製造、販売していますが、人間の体に付ける製品のデザインは本当に難しい。人間の形状に合わせようとして複雑になりがちです。Microsoft HoloLens は内側と外側の2つのリング、シースルーのホログラフィックレンズで構成されています。頭や顔の形状に合わせていながら非常にシンプルです。このデザインは秀逸です。細部まで考えぬかれています。
シンプルなものは、実はシンプルにできていないとよく話すのですが、内側リングの微妙なカーブひとつとってもそうです。内側リングはダイヤルでサイズを変えて装着する人の頭のサイズにフィットさせる。微妙なカーブやスプリングで Microsoft HoloLens の重さを頭で支えることにより、レンズ部分のノーズパッドに重さが集中しないよう、絶妙な重量バランスをとっています。人肌に合う素材で、ゆがみもなく精度もいい。ゆがみがあると頭が痛くなりますから。
ホログラフィックと目線の位置を合わせる外側リングは、一見平行なようで平行ではなく、後ろに向かって若干テーパー(幅・厚みなどが先細り)している。こうした微調整が使い心地や美しさにつながるわけです。

Microsoft HoloLens のデザインを評価する奥山氏。自らペンを手にして繊細なカーブの意味を解説する(写真左)。後ろに向かって若干テーパーがかかっている外周リングの設計にも着目(写真右)

見ている風景に3次元映像が入ってくる初めての体験

―実際に Microsoft HoloLens を装着して Mixed Reality を体験された率直な感想は。
奥山:自動車や鉄道などの製造業の開発にずっと携わってきましたから、いわゆる VR は自分たちでも使っています。今日、Microsoft HoloLens で Mixed Reality を体験して非常に感心したことは大きく2点あります。
1つは、シースルーで、現実世界の中で3次元映像を見ることができるという点です。3次元映像の位置も空間に固定されていて、いじわるして頭を早く動かしても静止している。3次元映像も透けて見えるようなものではなく、はっきりと見えて存在感があります。VR は画像をすべて映像で再現しますが、Microsoft HoloLens では目で見ている風景の中に3次元映像を入れていく。このような体験は今までしたことがありません。
もう1つは、オールインワンで、単体で完結しているという点です。僕がここに来る前に想像していたのは、部屋の四隅にセンサーがあるだろうと。ところが、センサーをすべて内蔵していてワイヤレスで歩きまわることができる。Wi-Fi 環境であれば、この部屋を出て廊下でも同じことができるわけですよね。本当に画期的です。

取材現場で、奥山氏は「 Microsoft HoloLens が似合う」と評判だった。

複数人で同じ3次元映像を見ながらブレストできる

― Microsoft HoloLens を使うことでどのようにデザインプロセスを改革できるでしょう?
奥山:開発途中で最も重視しているのはブレストです。デザインについてブレストするわけですから、視覚的にものを見て議論することが必要となります。動画なども作ったりしますが、準備に時間がかかります。また VR は本人しか見ることができません。Microsoft HoloLens なら複数人で同時に同じ3次元映像を見ながら話ができる。3次元 CAD のデータを利用すれば準備時間も短縮できるため、何が間違いか正しいか、早い段階で、開発チームで共有することが可能となります。ビジネスの規模や投資額が大きくなる前に適切な判断を行うことが上流工程で求められている中、Microsoft HoloLens のようなデバイスへの期待は非常に大きいでしょう。
―ものづくり全体の観点から見た Microsoft HoloLens の可能性については?
すべてデジタルで設計~開発されたスポーツカー「kode57」(写真提供:KEN OKUYAMA DESIGN) 奥山:今のものづくりはすべてデジタル化されています。その中で難しいのが評価することです。評価のためだけに、例えば自動車の場合、膨大な予算をかけて実物大のプロトタイプをつくっています。ただ、それをやっておかないと、商品化して失敗した際の損失は計り知れません。コストをかけるだけの価値はあるのですが、予算をかけられないケースもあります。
KEN OKUYAMA CARS というブランドで少量生産スポーツカーの開発から製造、販売までを行っています。2016年8月に公開した新型スポーツカー「kode57」はデジタルの世界の中だけで完成させました。少量生産のためプロトタイプをつくる予算はありませんでした。現物を見るまでどうなるのか、全くわからない状態でつくるのは非常に怖いことです。Microsoft HoloLens があったら、非常に助かったと思います。実物大の自動車の3次元映像を見ながら評価できる Microsoft HoloLens は、プロトタイプを不要にする可能性があります。

製造業が提供するのは
モノを使うことで実現する「サービス」

―ニーズの多様化や市場変化に対応するため多品種少量生産が求められています。しかし利益を生み出すために無駄を省かなければいけない。
奥山:多品種少量生産はヨーロッパにおいて、その文化を支えてきました。例えば、スポーツカーやファッションブランドなどです。フェラーリやマセラティなどイタリアに著名なスポーツカーメーカーが多いのは、数十個のオーダーに対応できる技術力の高い会社がイタリア国内に存在しているからです。
日本はどうかというと、多品種少量生産のニーズに応える会社は少ないですね。北陸新幹線、秋田新幹線、JR山手線E235系車両など鉄道のデザインを手掛けていますが、鉄道は70両といった少量生産であるため内装材などは市販のものを探して使っているのが現状です。大量生産によるコスト競争力で発展途上国に対抗するのではなく、もっと洗練化した多品種少量生産のものづくりで生き残っていく領域がたくさんあると考えています。日本にもニッチな分野で世界トップレベルの会社があります。また匠といわれる職人技術を尊ぶ文化もあります。
ものづくりに対するこだわりを持っているのは日本の製造業の強みです。その強みを活かして多品種少量生産で付加価値の高い製品を創り出し利益を生み出していく。鍵となるのがデジタルの活用です。Microsoft HoloLens を使って設計段階や製造現場で視覚的に検証・評価し、プロトタイプを不要にするなどコスト削減を図りながら早い段階で検証結果をものづくりに活かしていく。Microsoft HoloLens は大企業だけでなく、中堅中小企業のものづくりの可能性を広げるのに役立つと思います。
― Microsoft HoloLens を使ったプレゼンテーションによる販売促進効果も期待できますね。
KEN OKUYAMA DESIGN がデザインを手掛けたJR東日本のクルーズトレイン「トランスイート 四季島」(写真提供:JR東日本) 奥山:製造業が提供するのは「モノ」ではなく、モノを使うことで実現する「サービス」です。3次元の設計データを見ても使い方はわかりません。お客様にプレゼンテーションするときにはサービスのビジュアライズがとても重要です。
JR東日本の豪華寝台列車「トランスイート四季島」のデザインとプロデュースを担当しました。実際に試乗し動き出すと、頭の中で想像していたイメージと全然違う。窓の外の風景が目の前を流れていく、そのシーンと車両の雰囲気が融合すると感動がぐっと深まります。四季島では最高級客室の原寸大模型をつくりました。
原寸大模型と Microsoft HoloLens を組み合わせて使えば、プラットホームに入ってきた四季島に乗り込み、実際に美味しい料理を食べながら窓の外の風景が流れていくのを眺めるといったことを体験できたでしょう。プレゼンテーションがもっと効果的・効率的にできたと思います。車両内の空間に日本の伝統工芸品などいろいろな3次元映像を入れていくことで様々なサービスのアイデアもでてくるでしょう。

実際の街を歩きながら
都市計画のもたらす未来を体験したい

―今後、どのような分野に携わっていきたいですか?またその分野で Microsoft HoloLens が活用できる可能性は。
奥山:KEN OKUYAMA CARS で1人のお客様に世界でたった1つのものを作っていきたいというのはありますね。自動車も絵画のように歴史の中で価値が上がっていく対象と考える人が増えてきています。そうした人たちとビジネスをするときにブレストやプレゼンテーションなどで Microsoft HoloLens をぜひ使いたいですね。
最近、興味があるのが建築や都市計画です。建設現場でパワーシャベルを使って地面を掘るときに注意しなければいけないのは、地面の下に水道管やガス菅、ケーブルなどが埋まっているという点です。誤って壊してしまったら大変なことになります。図面では実際にどこに何があるのか、わかりません。Microsoft HoloLens を使えば、今自分が見ている地面に地下の様子を視覚化した3次元映像を置いて、セーフティマージンをとって作業することが可能です。
そして都市計画を予定している街を歩きながら、Microsoft HoloLens を使って「こういう街ができるのか、こんなお店や公園があったらいいな」と、まだ建設していないのに見ることができたら都市計画もやりやすくなります。
僕が今日、Microsoft HoloLens 体験で非常に感銘を受けたのは、目の前にある現実世界にいまはまだない未来を存在させ、なおかつ同じ空間にいる複数の人たちと同じビジョンを共有できるということです。そこにとても大きな可能性を見ました。

過密スケジュールの中、取材時間を延長して対応してくれた奥山氏。Microsoft HoloLens への期待を熱く語ってくれた。

奥山清行(おくやま・きよゆき)
工業デザイナー / KEN OKUYAMA DESIGN 代表

1959年 山形市生まれ。ゼネラルモーターズ社(米)チーフデザイナー、ポルシェ社(独)シニアデザイナー、ピニンファリーナ社(伊)デザインディレクターを歴任。 フェラーリ エンツォ、 マセラティ クアトロポルテなどの自動車やドゥカティなどのオートバイ、鉄道、船舶、建築、ロボット、テーマパーク等のデザインを手掛ける。2007年より KEN OKUYAMA DESIGN 代表 として、山形・東京・ロサンゼルスを拠点に、デザインコンサルティングのほか、自身のブランドで自動車・インテリアプロダクト・眼鏡の開発から販売までを行う。近年ではヤンマーコンセプトトラクター、トランスイート 四季島、新幹線等が次々と発表され、話題を呼んでいる。

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