宇宙に挑む、日本初“国産GPS”への挑戦— 壮大なる宇宙プロジェクト〜準天頂衛星システム「みちびき」が変える未来〜

今、高度3万kmを超える宇宙空間で壮大なプロジェクトが進められている。その名も、準天頂衛星システム「みちびき」だ。既に私たちの生活に浸透しているGPSだが、実はGPSはアメリカの測位システムの固有名詞であり、国産のシステムは存在していないのをご存じだろうか。この「みちびき」こそが、日本初の独自衛星測位システムを担おうとしている。日本列島のほぼ真上、天頂付近の軌道を通ることからその名がついた準天頂衛星。宇宙への挑戦がどのように繰り広げられているのだろうか。また、「みちびき」の成功により日本の未来はどのように変貌を遂げるのだろうか。準天頂衛星システムに挑むキーパーソン3人に聞いた。

【Vol.1】—270℃から100℃超まで、地球の常識は通用しない 厳しい宇宙環境に耐える「みちびき」の誕生【Vol.2】「99.9%の稼働率」の過酷なミッション「みちびき」を支える地上運用システムの挑戦【Vol.3】Coming soon
【Vol.2】

【Vol.2】「99.9%の稼働率」の過酷なミッション「みちびき」を支える地上運用システムの挑戦

要求は「24時間・365日・15年間」の高精度

三菱電機株式会社 通信機製作所 インフラ情報システム部 プロジェクト部長 佐藤 裕之氏
三菱電機株式会社 通信機製作所 インフラ情報システム部 プロジェクト部長 佐藤 裕之氏

2017年6月1日、準天頂衛星「みちびき2号機」を載せたH2Aロケットが種子島宇宙センターから打ち上げられた。H2Aロケットの打ち上げは28回連続で成功し、成功率は97パーセントを超える。数字上「ほぼ失敗はない」が、ロケットから分離した衛星の信号をとらえるまで「関係者は祈るような気持ちでいます」と、三菱電機・通信機製作所の佐藤裕之氏は振り返った。それほど、宇宙は不確定要素に満ちている。

日本のほぼ真上(準天頂)から、GPS(全地球測位システム)を補う信号を送る「みちびき」には、新たなビジネス創出の面からも大きな期待が寄せられている。人工衛星そのものに注目が集まりがちだが、ミッションを遂行するために欠かせないのが、衛星の状態把握や軌道修正などを含む地上局による運用だ。「みちびき」の地上システムのプロジェクトマネージャーを務める佐藤氏は、今年度中に3号機、4号機の打ち上げが予定される壮大なる本プロジェクトの衛星運用の重要さを次のように語る。

「測位情報は第4のインフラとも呼ばれますが、求められるのは精度の高さ、そして絶え間なく信号を送り続ける信頼性です。今回は24時間・365日・15年間、精確な信号を送り続けることがミッションであり、衛星と地上システムが一体となった開発を進めてきました。4機体制でサービスを開始しますが、最終的には7機体制を予定しているため、地上システムには柔軟な対応力も備えた、今までにない高品質が必要になります」


地上システムのイメージ

地上システムのイメージ

▲TOPへもどる

準天頂軌道の運用を担う3つの地上システム

「みちびき」の運用では、2つの主管制局と7つの追跡管制局で構成される

「みちびき」の運用では、2つの主管制局と7つの追跡管制局で構成される

[画像のクリックで拡大表示]

「みちびき」は軌道そのものが「今までにないもの」である。北は日本列島、南はオーストラリア付近を範囲として、非対称8の字を描く軌道。この軌道を通ると日本のほぼ真上、つまりほぼ天頂からの信号送出が可能になり、ビルの谷間でも山間部でも精度の高い測位情報を提供できる。1つの衛星は24時間で周回し、日本上空に滞在するのは約8時間。4機体制で運用すると、常に2機は日本本土から見えるようになるという。

静止衛星とも周回衛星とも異なる独自の軌道で運用するために、地上システムの規模も大きなものになっている。システムを構成するのは主管制局、追跡管制局、監視局の大きく3つに分けられる。

「主管制局はその名の通り準天頂衛星システムの頭脳で、2つの役割があります。1つは衛星の状態と機器が正常に作動しているかの確認で、例えば軌道がずれていたら信号を送って修正します。もう1つは位置情報の生成で、サービスの根幹に関わる部分。東日本は常陸太田、西日本は神戸の2カ所にあり、サイトダイバーシティという考え方で降雨などによってサービスが中断しないよう冗長性を持たせています。主管制局で生成した情報を電波で送れる形に加工し、衛星に送り届けるのが追跡管制局。追跡とあるように、それぞれの衛星を常に追いかける拠点であり、トラブルやメンテナンスを考慮して、4機の衛星に対して7つの追跡管制局で対応する計画になっています」と佐藤氏は説明する。


▲TOPへもどる

これまでの衛星にはない「稼働率99.9%」へのチャレンジ

三菱電機株式会社 通信機製作所 インフラ情報システム部 プロジェクト部長 佐藤 裕之氏

主管制局と追跡管制局は他の衛星の運用でも使われるが、「みちびき」の特徴は3つ目の監視局にあるという。これは国内と国外に30カ所以上あり、準天頂衛星から発信される測位信号を監視する役目を担う。信号を常時モニターしながら得る情報は主管制局に送られ、適正に運用するための情報が生成される。衛星を中心に、地球上の主管制局・追跡管制局・監視局の間で情報が絶えずループする仕組み。これが他の衛星運用との違いだ。ループさせる理由は、精確な位置情報を途絶えることなく提供するため。地上運用システムチームに課せられたミッションは「99.9%の稼働率」。この数字にも準天頂衛星システムの特徴があらわれている。

「測位システムは1つの衛星では成立しません。4機以上の衛星から同時に、かつ継続して信号を送り続けなければいけない。測位精度を決めるのは時間と位置。時間は原子時計で担保できますが、衛星位置を正しく保つには軌道決定と制御が必要になります。ここが問題で、軌道制御を行うと一時的に位置がずれるため測位精度に影響が出てしまう。今回の運用では『いかに軌道制御を減らすか』が大きな課題でした」と佐藤氏は語る。

精度の高い位置情報をもとに提供されるのが「センチメータ級測位」である。誤差がセンチメートルまで低減されることで、クルマの自動運転などの実現に寄与すると期待されている。こうした高精度な測位が必要とされるサービスでは、例え一時期でも測位精度が落ちてしまうと、サービスそのものが成り立たなくなる。だからこそ「99.9%」という厳しい数値が求められるのだ。佐藤氏らは今後15年間の軌道計算を徹底して行い、シミュレーションを繰り返し、「180日に1回」まで軌道制御の回数を減らすという。通常、静止衛星は数週間に1回程度の割合で軌道制御が行われるとされるが、準天頂衛星はその性格上、格段にシビアな運用が求められている。


▲TOPへもどる

衛星開発、運用の経験と蓄積がブレイクスルーを生む

「99.9%」を実現するために、ブレイクスルーとなった技術は多い。「前述したように4機の衛星に対して7つの追跡管制局で対応しますが、追跡管制局を切り替える際、普通に切り替えを行うと測位信号が一瞬だけ途絶えてしまいます。これは地上サービスの停止に直結しますので、みちびきでは採用できない。新しい発想が必要でした。そこで、切り替え前の局だけでなく、切り替え後の局からも異なるチャンネルで信号を送り、衛星側で2つの信号を一時的にバッファリング(溜め)しておく方法が取られました。ここでは信号の処理タイミングで2つの信号の内容を比較し、同一であれば切り替え後の局からの信号を選択し地上へ配信することで、追跡管制局を切り替えてもサービスが途切れない仕組みを構築しました。これは『ハンドオーバー』と呼ばれ、私が関わった衛星運用では初めての試みです」(佐藤氏)

地上と衛星との交信は追跡管制局のアンテナで行うが、天頂を中心に、アンテナは360度回り続けることになり、これが続くとケーブルがねじれて止まってしまう。ここにも新たなブレイクスルーが見られる。「通常の追跡管制局のアンテナは2軸駆動ですが、準天頂衛星に対応するため独自の3軸駆動追尾アルゴリズムを採用しています。ケーブルがねじれない制御を行うことで、24時間・365日のサービス提供を可能にしました」と佐藤氏は述べる。


▲TOPへもどる

2018年4月のサービスインに向け、挑戦は始まったばかり

三菱電機株式会社 通信機製作所 インフラ情報システム部 プロジェクト部長 佐藤 裕之氏

こうしたブレイクスルーを実現できた背景には、衛星、地上システムといったそれぞれの専門部隊の協力体制が不可欠だったという。

「衛星は一度打ち上げてしまえば途中で改修することはできません。これまでの実績が重視される分、特に衛星の設計開発部門では、既存の設計を変えることに躊躇があります。ですが今回、99.9%の稼働率を実現するには、ハンドオーバーにしてもアンテナの駆動にしても新たな発想が必要とされました。部門間の壁をなくし、何度も議論を重ねながらのチャレンジでした」と佐藤氏は振り返る。

さらに今回のプロジェクトはPFI(Private Finance Initiative)という事業形態を取り、三菱電機単独ではなく、NECなど他社との相互協力の上に成り立っている。それぞれ実績を持つ事業者の連携も成否を大きく左右する。

「企業間の壁をなくそうと、事前の調整会議(PFI会議)を呼びかけ、定例化していきました。多い時は60名ほどの地上システム担当者が集まり、所属の壁を乗り越えた共通フォーマットの作成など、双方が納得するまで徹底的に話し合いました。この会議を継続させたことが、地上システム設計を進める大きな要因になったと思います。大きなプロジェクトであるほど、参加するメンバーのベクトルを揃えたときの加速感も大きくなる。自分のキャリアの中でも、非常に意味のある経験ができていると思います」と佐藤氏は言う。

どんなに緻密に計算を繰り返し、シミュレーションを重ねても、衛星が宇宙空間で正常に動くかは「やってみなければわからない」。ハンドオーバーの技術も3号機、4号機が打ち上げられてからが本番である。天文少年として宇宙に憧れ、事業開発現場で働く佐藤氏は今、不安と期待のどちらが大きいのだろう。

「不安がないといえば嘘になりますが、『絶対に大丈夫だ』と言える自信はあります。高精度測位サービスは、日本に暮らす多くの人が身近に感じられるものでもあり、そんな大きなプロジェクトに携われるのはエンジニア冥利に尽きる。私の中でも、期待はどんどん膨らんでいます」(佐藤氏)

2018年4月のサービスインに向けた、本格的な運用はこれから始まる。

 


▲TOPへもどる

お問い合わせ