宇宙に挑む、日本初“国産GPS”への挑戦— 壮大なる宇宙プロジェクト〜準天頂衛星システム「みちびき」が変える未来〜

今、高度3万kmを超える宇宙空間で壮大なプロジェクトが進められている。その名も、準天頂衛星システム「みちびき」だ。既に私たちの生活に浸透しているGPSだが、実はGPSはアメリカの測位システムの固有名詞であり、国産のシステムは存在していないのをご存じだろうか。この「みちびき」こそが、日本初の独自衛星測位システムを担おうとしている。日本列島のほぼ真上、天頂付近の軌道を通ることからその名がついた準天頂衛星。宇宙への挑戦がどのように繰り広げられているのだろうか。また、「みちびき」の成功により日本の未来はどのように変貌を遂げるのだろうか。準天頂衛星システムに挑むキーパーソン3人に聞いた。

【Vol.1】—270℃から100℃超まで、地球の常識は通用しない 厳しい宇宙環境に耐える「みちびき」の誕生【Vol.2】「99.9%の稼働率」の過酷なミッション「みちびき」を支える地上運用システムの挑戦【Vol.3】世界初のセンチメータ級測位は自動運転はもちろん、3次元高精度地図を実現
【Vol.3】

【Vol.3】世界初のセンチメータ級測位は自動運転はもちろん、3次元高精度地図を実現

自動運転技術を次のステージへとみちびく

三菱電機株式会社 電子システム事業本部 高精度測位事業推進部長 柴田 泰秀氏
三菱電機株式会社 電子システム事業本部 高精度測位事業推進部長 柴田 泰秀氏

ニュースで取り上げられる機会も増えている自動運転技術。「2020年」の実用化を目指して、自動車メーカーは熾烈な開発競争を繰り広げている。現在の自動運転技術は、カメラやミリ波レーダーなど車載センサーがコアテクノロジーとなるが、より精度が高く、安心安全なステージへと導く、切り札とも呼べるサービスが間もなく実現しようとしている。それが三菱電機の「センチメータ級高精度測位ソリューション」だ。

このソリューションの背景にあるのは、内閣府が提供する準天頂衛星システム「みちびき」が持つ「センチメータ級測位補強サービス(CLAS)」。GPSは誤差約10mといわれているのに、CLASはなぜ誤差を「センチメータ級」まで低減できるのか。高精度測位事業推進部長の柴田 泰秀氏は「測位誤差の大きな原因の1つは、衛星からの信号が電離層・対流圏の影響によって遅延すること。みちびきは、測位補強を実現できることが他の衛星とは異なるユニークな点です」と強調する。

日本国内には、約1300個の電子基準点が設置されている。これは、地盤の沈下・隆起を常にモニターすることで、地震などによる地殻の変動をモニターするために国土地理院が設置しているもの。いわば地震大国である日本だからこその設備だ。

「みちびきのCLASは、この電子基準点を活用します。電子基準点で複数の測位衛星の信号を受信し、主管制局で処理。その後、誤差に対する補正量をリアルタイムに計算した上で、準天頂衛星へ送ります。そこから誤差補正用データを地上の端末へ送ることでセンチメータ級の測位を実現するのです」(柴田氏)


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誤差10メートルから数センチへ。高精度測位時代が始まる

ただし、三菱電機が掲げる「高精度測位社会」の実現には、CLASの他に2つのコアテクノロジーが必要になる。1つは「高精度測位端末」。準天頂衛星からの補強信号を受信するデバイスで、自動運転をはじめ様々なアプリケーションに展開される。もう1つは「高精度三次元地図」。2010年に「みちびき」の初号機が打ち上げられる以前から、高精度地図を効率的に作成する機材であるMMS(モービルマッピングシステム)の開発は進められていたという。

「準天頂衛星が企画される段階で、測位精度を上げても対応する地図は不可欠なものと思っていました。また、利用分野ごとに整備するのではなく、様々な利用分野に対して共通整備、共通利用できるものでなければ効率が悪い。様々な企業や大学が参画する産業競争力懇談会(COCN)で検討を重ね、『自動走行・安全運転支援』『社会インフラ点検・維持管理』『防災・減災』『パーソナルナビゲーション』の4つの分野を候補に共通基盤の検討を進めています」と柴田氏は説明する。

最も先行しているのが「自動走行・安全運転支援」の分野だ。柴田氏によると、自動走行用ダイナミックマップには「動的情報」「準動的情報」「準静的情報」「静的情報」の4つの階層があり、信号や周辺車両、歩行者の様子を含む「動的情報」になると1秒単位、ほぼリアルタイムで更新する必要がある。

ここで重要な役割を果たすのが、三菱電機が中心となり、産業革新機構に支援を得て、地図会社や測量会社、自動車メーカーなどと共に設立したダイナミックマップ基盤株式会社(DMP)だ。高速道路のデータ整備、一般道仕様の確立と実証、そして欧米機関と協調しながら仕様のデファクト化も目指している。

自動運転用地図作成をはじめ、様々な運用場面に対応する高精度計測が可能なモービルマッピングシステム/自動走行用のダイナミックマップでは、「静的情報」から「動的情報」まで4つの階層に分けて情報更新を行う

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乗用車に限らず、鉄道、農業、工事現場へも応用

三菱電機株式会社 電子システム事業本部 高精度測位事業推進部長 柴田 泰秀氏

ではCLAS、高精度測位端末、高精度三次元地図という3つのコアテクノロジーによって、我々の暮らしはどう変わるのだろう。最もイメージしやすいのは、やはり自動走行・安全運転支援の分野である。現在は、複数の走行レーンのどこを走っているかまで特定できないが、「センチメータ級高精度測位」ならどのレーンを走っているかまで含めた、より精度の高い自動走行支援が可能になる。

「基本は高精度位置情報と車載センサーの組み合わせで運用されますが、雪道などでセンサーが車線、前方を検知できない場合もあります。そんな状況でも、高精度のダイナミックマップがあれば、正確な自車位置とあわせて車線をキープした自動走行が可能です」(柴田氏)

もちろん、用途は乗用車だけにとどまらない。鉄道分野では、列車位置をセンチメータ精度で把握できるため、運転支援や新たな運行サービスへの展開も期待できるという。

「IT農業の場合、トラクターなどの機器の自動運転、また夜間も無人で作業ができるため、作業の効率化につながります。高所・僻地・炎天下などを含め、各種土木機器の作業や走行の自動化、モニターと組み合わせた遠隔操作など、効率化と同時に作業員の安全を確保することもできるはずです」と柴田氏は今後の可能性を述べる。


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アジア・オセアニア地域への展開やグローバルなデファクト化も視野に

自動走行・安全運転支援以外の分野での未来像はどうだろう。高精度の位置情報を活用し、三次元地図を効率的に作成するため、三菱電機はMMSを開発し、既に販売している。これはレーザースキャナを用いるため、例えばトンネル内を走らせながら計測すると、壁面や天井の経年変化を可視化できる。劣化が激しいところを優先して点検を行うことで、インフラの効率的な維持管理にも貢献できるのだ。高度成長期に整備したトンネルや橋が老朽化する一方で、今後の点検技術者の不足などが問題視されているが、こうした社会問題解決にも期待できるというわけだ。さらに柴田氏は次のような可能性にも触れる。

「他に、防災・減災の視点では、高架下など大雨の際に冠水しやすい地点データ、そして気象情報を基に、雨の日はそこを避けるルートを選択するというような安全運転支援も可能になります。パーソナルナビケーションに関しては、車椅子の自動運転なども視野に入れています。また、準天頂衛星の軌道はアジア・オセアニア地区を含むため、内閣府ではこの地域でも高精度測位情報を提供することが検討されています。電子基準点の設置などの課題はありますが、日本で実証したことをパッケージとして導入すれば、時間的にも経済的にもコストを抑えられるでしょう。農業分野などは海外のほうが需要は高いと考えられるので、可能性は無限に広がるのではないでしょうか」

続けて柴田氏は「さらに最近当社は、グローバルにセンチメータ級高精度測位補強サービスを行う合弁会社『Sapcorda Services社』を、自動車電装品世界最大手Bosch社(ドイツ)やカーナビ用GPS受信チップ世界最大手u-blox社(スイス)などと共に、ドイツで設立することに合意致しました。準天頂衛星CLASとの相互互換性確保を目指すことにより、グローバルな市場創造を推進して参ります」と力を込める。

サービスインを控え、柴田氏は手応えと同時に大きな責任も感じている。センチメータ級高精度測位ソリューションは、次世代のインフラの基盤になるような革新技術でもある。失敗はできない。

モービルマッピングシステムでは3次元レーザー点群を容易に取得(提供:アイサンテクノロジー株式会社/写真左)。みちびきとダイナミックマップの連携で自動走行を支援(提供:株式会社パスコ/写真右)

モービルマッピングシステムでは3次元レーザー点群を容易に取得(提供:アイサンテクノロジー株式会社/写真左)。みちびきとダイナミックマップの連携で自動走行を支援(提供:株式会社パスコ/写真右)

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既存の枠組みを越えた協力・協業がブレイクスルーに

三菱電機株式会社 電子システム事業本部 高精度測位事業推進部長 柴田 泰秀氏

「みちびき」につながる新たな衛星事業の方向性を検討され始めたのは、実は10年以上も前のことだという。当時検討課題にあがったのは放送・通信・測位の3つの分野。今でこそ、自動運転などの隆盛により高精度測位のニーズは際立っているが、当時はまだ自動運転は夢物語で、需要は測量などごく一部。ニッチな市場に経営資源を投入すべきか懐疑的に見られることも多かったという。それでも最終的に測位を選んだ理由は「新しいインフラを創造するには他と同じことをやっても意味がない」というチャレンジ精神だったと柴田氏は思いを語る。

「夢物語でも、そこに一歩でも近づく事業に携わりたいと思ってきました。やってきたことが間違いではなかったと思うと同時に、これからが本番。宇宙関連の事業はステークホルダーが多く、予算も巨額になるので、民間企業一社でできることには限界があります。今回のセンチメータ級高精度測位ソリューションにしても、内閣府をはじめとした様々な官公庁、企業、団体からのご指導、ご支援があって実現するもの。特に高精度三次元地図を開発するDMPの設立には、多くの官公庁のご支援を得るとともに業務ではライバル関係にある企業にも参画していただいています。企業の垣根を越え、新しい測位社会をつくるという思いで1つになれた。その志を忘れずに、これからも前に進んでいくつもりです」(柴田氏)

CLASなどのサービスインは2018年4月。新しい時代のトビラが開く日は、もうすぐそこまで来ている。

 


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