宇宙に挑む、日本初“国産GPS”への挑戦— 壮大なる宇宙プロジェクト〜準天頂衛星システム「みちびき」が変える未来〜

今、高度3万kmを超える宇宙空間で壮大なプロジェクトが進められている。その名も、準天頂衛星システム「みちびき」だ。既に私たちの生活に浸透しているGPSだが、実はGPSはアメリカの測位システムの固有名詞であり、国産のシステムは存在していないのをご存じだろうか。この「みちびき」こそが、日本初の独自衛星測位システムを担おうとしている。日本列島のほぼ真上、天頂付近の軌道を通ることからその名がついた準天頂衛星。宇宙への挑戦がどのように繰り広げられているのだろうか。また、「みちびき」の成功により日本の未来はどのように変貌を遂げるのだろうか。準天頂衛星システムに挑むキーパーソン3人に聞いた。

【Vol.1】—270℃から100℃超まで、地球の常識は通用しない 厳しい宇宙環境に耐える「みちびき」の誕生【Vol.2】Coming soon【Vol.3】Coming soon
【Vol.1】

【Vol.1】—270℃から100℃超まで、地球の常識は通用しない 厳しい宇宙環境に耐える「みちびき」の誕生

宇宙空間で進められる日本初のプロジェクト

三菱電機株式会社 鎌倉製作所 宇宙システム部 準天頂衛星システム課長 プロジェクトマネージャー 二木 康徳氏
三菱電機株式会社 鎌倉製作所 宇宙システム部 準天頂衛星システム課長 プロジェクトマネージャー 二木 康徳氏

カーナビや位置情報を利用するスマホアプリなどの普及を背景に、身近な社会インフラとなっている衛星測位情報。アメリカのGPSをはじめ、EUのGalileo、ロシア連邦のGLONASS、中国の北斗、インドのIRNSSなど、経済大国では独自の衛星測位システムの構築、または計画が進められている。

位置情報といえば、日本ではGPSが利用されているが、前述したように、これは米国独自の衛星測位システム。意外にも日本は自前のシステムを持っていないのだ。

2010年9月に初号機が打ち上げられた「みちびき」は、衛星測位情報の高度化を目指す日本オリジナルのシステムで、「準天頂衛星システム」と呼ばれている。今年、新たに衛星2号機、3号機、4号機の打ち上げが予定されているが、このシステムの意義と狙いについて、3つの衛星の設計・開発・製造のプロジェクトマネージャーを務める、三菱電機宇宙システム部の二木 康徳氏は次のように語る。

「地上の受信デバイスの位置を測位衛星で特定するには、最低4機以上の衛星からの受信が必要です。現実には、高層ビルが立ち並ぶ都市部、また山間部では低仰角の衛星からの信号を受信するのは難しく、精度が落ちたり、測位が不能になったりする場合があります。その不具合を解消する役目を担うのが準天頂衛星システムです」

※準天頂衛星システム「みちびき」は、政府の宇宙基本計画に則った内閣府のプロジェクトです


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「みちびき」によって、衛星測位情報は大きく変わる

三菱電機株式会社 鎌倉製作所 宇宙システム部 準天頂衛星システム課長 プロジェクトマネージャー 二木 康徳氏

準天頂とは「ほぼ真上」を意味する。静止衛星は赤道上の軌道に位置するが、準天頂衛星システム「みちびき」は、日本の真上を維持するためにユニークな軌道を描く。北は日本列島、南はオーストラリア付近の範囲で、非対称の8の字を描くような軌道を通るのである。

「この軌道を通ると日本のほぼ真上(準天頂)、つまり高仰角から信号を送出できるため、ビルの谷間でも山間部でも精度の高い位置情報サービスを提供できます。初号機は技術実証のために打ち上げられ、今年、打ち上げられる2、3、4号機によってプロジェクトは次フェイズに移行します。というのも、1つの準天頂軌道衛星が日本の上空に滞在できるのは約8時間。初号機とあわせて4機体制となれば、常に1機以上が日本上空に滞在し、GPS情報を補うことで高精度、かつ安定した位置情報サービスを提供できるからです」

では「みちびき」を運用することで、私たちはどんなメリットを得られるのだろうか。大きく進化するのは測位精度で、GPSには約10メートルの誤差があるが、「みちびき」によって補完・補強することで「センチメータ級」、つまり誤差数センチという極めて高精度な位置情報を提供できるのだ。


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将来的には、自立した測位サービスも視野に

これは衛星測位技術の革命ともいえる。

「最もわかりやすいのはカーナビの精度向上ですが、誤差数センチでの自車位置測位が可能になれば、安全運転支援・自動走行に貢献できるのは間違いないと思います。例えば、車線変更といった細かな指示も実現できるでしょう。他にも、IT農業、工事現場などでの建機の自動運転、ドローンの制御、子どもや高齢者の見守りサービスなど、既存の技術やサービスの進化はもちろん、新しいサービスやビジネス機会の創出にもつながっていくはずです」

また、政府は宇宙基本計画において、内閣府のプロジェクトによる2017年の衛星3機の打ち上げと、最終的には7機体制で「みちびき」を運用することを決定している。7機体制になれば「アメリカのGPSに依存しない自立した位置情報サービスも可能」と二木氏は言う。エリアは東アジア、オセアニアを含み、ビジネスはもちろん、安全保障の面でも大きな意味を持つ。


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宇宙基本計画の重責を担うための「資格」とは

東準天頂衛星「みちびき」の機体イメージ

準天頂衛星「みちびき」の機体イメージ

左から初号機、2号機・4号機(同機体)、3号機

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2010年に打ち上げられた「みちびき」初号機、今年打ち上げられる予定の2、3、4号機は、三菱電機が衛星システムの設計、開発、製造を担当している。大役をまかされた背景にあるのは、長年積み上げてきた実績だ。

宇宙空間という過酷な環境下で、要求される性能を確実に発揮させるには、高度な技術の蓄積と継承が求められる。国産電離層観測衛星の開発以来、1960年代より世界中で約560もの衛星プログラムに携わってきた三菱電機には、未来への希望を乗せた「みちびき」の衛星システムを担う「資格」があったのだ。

また、1機の設計、開発、製造でも膨大な時間がかかる衛星開発を、3機同時に受注できたのにも理由がある。人工衛星の開発は、役割や機能を特化して「1機ずつオーダーメイド」するのが常識だった。開発は常にゼロからのスタートであり、多くの時間やコストがかかるケースも少なくなかったという。

三菱電機は、日本のメーカーとして初めて、様々な人工衛星の基礎となる標準衛星プラットフォームを開発。基本構造は共通としながら、ミッションに合わせて衛星をカスタマイズすることで、高品質のまま低コスト・短納期を実現したのだ。

「それが、標準衛星プラットフォーム『DS2000』です。これはJAXAのこだま(2002年打ち上げ)、きく8号(2006年打ち上げ)、気象庁のひまわり7、8、9号、スカパーJSATのSuperBird-C2、シンガポール・台湾のST-2、トルコのTURKSAT-4A/4Bなど、多くの商用衛星・政府系衛星に適用されてきました。成果はというと、現在に至るまで保険請求事故はゼロであり、保険料率は欧米大手と同等。DS2000の品質、実績は世界に認められており、それが「みちびき」の受注にもつながったと自負しています。本来、1機が完成するまでには、大勢のメンバーが占有され、製造・試験設備も長期使用し、数十カ月がかりの大規模工事となります。しかし、今回2カ月おきに実用衛星3機を完成させるという、日本国内で前例のないチャレンジングなスケジュールを実現しているのも、DS2000の成果と言えるでしょう」(二木氏)

もちろん、プラットフォームがあるからといって結果が保証されるわけではない。宇宙空間は-270℃の極寒環境であるが、太陽に向き合う面は100℃を超える高熱にさらされる。しかも、一度打ち上げた衛星は、不具合があったとしても回収、修理はできない。どんな環境下でも安定した性能を出し続けるために、開発現場は緊張の連続だ。

約70万ともいわれる部品(自動車は1〜3万)を、二木氏の言葉を借りれば「1つずつ、文字通りしらみつぶしで点検を重ねる」という。信頼性を維持するべく、緻密なチェック体制が敷かれているのは言うまでもない。


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宇宙に対する純粋な憧れを胸に

三菱電機株式会社 鎌倉製作所 宇宙システム部 準天頂衛星システム課長 プロジェクトマネージャー 二木 康徳氏

もちろん、特殊な試験設備も必要になる。象徴的なのが、鎌倉製作所にある「スペースチャンバー」だ。これは、厳しい温度環境、高真空などにさらされる宇宙空間を再現する設備。この試験設備があってこそ長期間、メンテナンスなしでも稼働する人工衛星が生まれるのだ。

プロジェクトに参加するエンジニアは、どんな思いで開発に向き合っているのだろうか。二木氏に問うと、こんな答えが返ってきた。

「ビジネスであることは承知していても、やはり心のどこかで、宇宙への純粋な憧れを残している人が多いと思います。衛星開発のプロジェクトに携わる。それだけでうれしいのですが、些細なミスや気のゆるみが、経済的な損失だけでなく、関わったすべての人たちを落胆させることになるのでまったく気が抜けません。我々は高度な専門知識と技術が必要となるため、極めて分業体制が進んでいます。設計、製造、試験といった大枠のカテゴリーはもちろんのこと、設計1つをとっても測位、通信、電気、姿勢制御、熱、構造、推進と細分化されています。これらの関係者間に加え、顧客およびベンダーと信頼関係を構築して、知恵を絞り合い協力し、設計・製造に総力を挙げて取り組むと、本当に素晴らしく満足いく衛星を、期限内に完成させることができます。この衛星が実際に打ち上げられ、送られてきたデータから、宇宙で設計通りに動作していることを知るのは、うれしくもあり、安堵する部分もあり、ひと言では言い表せません。頑張ってきた人々とその瞬間を共有し合えるのが、宇宙開発に携わるエンジニアの醍醐味ではないでしょうか」

既にiPhoneなどでも「みちびき」の測位情報の利用が予定されているという。こうした状況に触れることによって、開発に関わってきた人々との壮大な成果を、改めて実感することができるだろうという二木氏。本格的なサービス開始を占うこれからの2〜4号機の打ち上げに向けて、三菱電機の挑戦は続く。


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