歴史を動かすビジネス作法

外国人まで虜にした!織田信長流、信頼関係の深め方

武田信玄の使者を喜ばせた、ご馳走攻め

「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス」という後世に詠まれた川柳があるためか、織田信長は短気で残酷な男――。そう思われている方は多いと思います。しかし、彼と接した当時の人々が残した手紙や日記などの記述からは、一般的なイメージとは、まるで違う素顔が見えてきます。

信長は、岐阜城に来客を迎える御殿、いわゆる「迎賓館」を築きました。永禄11年(1568)、そこに最初に迎えた重要な客人は、武田信玄の家臣・秋山虎繁(とらしげ)です。織田と武田といえば宿敵同士にも思えますが、この時はまだ同盟中でした。

信長はその大切な使者を招き、初日はご馳走攻め。一の膳から七の膳まで続いたという盛大な献立で虎繁をもてなします。そして3日目には梅若大夫の能(猿楽)を見物したあと、長良川の鵜飼(うかい)の観覧に連れ出しました。どちらも、当時大流行していたレジャーであり、超一流の名人によるものです。

川に浮かべる見物用の船は、信長専用の船と同じ豪勢な仕立て。催しの最後には信長みずから獲れたてのアユを持ってきて披露しました。使者・虎繁の感激ぶりが目に浮かぶようです。

奥へ引っ込んだ信長が、手にしていたものとは?

2人目の客人は1569年に訪れた、ポルトガル人宣教師のルイス・フロイス一行です。信長は、はるばる海外から来た宣教師たちを、普段は誰も入れない山麓の特別室へ招き入れます。そこではお茶と「おやつ」が提供されました。さまざまな草花が咲く庭園に滝が落ち、池には魚が泳いでいる…。その豪華なつくりは、彼らヨーロッパ人たちさえ驚かせました。

翌日、信長は帰ろうとするフロイスたちを引きとめ、山上の城へ案内しました。そこで食事が出されたのですが、信長は奥へ引っ込んだかと思うと、なんとみずからフロイスのお膳を運んできます。恐縮して受け取るフロイスに、「汁をこぼさないように」と一言かけました。手厚いもてなしを受け、領地内でのキリスト教の布教を許され、一行は大喜びで宿へ帰ったそうです。

一流茶人を感激させた、豪華サプライズ

3人目は1574年、堺(大阪)の茶人・津田宗及(そうぎゅう)。招かれた宗及が席に着くと、いろいろな茶道具が飾られていました。そこには一流茶人の宗及でさえ見たことのない名器の数々が…。信長は事前に手紙をやり、宗及が見たがっているものを調査していたのです。

このサプライズに感激する宗及。やがて茶会が終わり、宴となります。宗及が箸を進めていると、やがて信長みずから、ご飯の「おかわり」を運んできました。「おかわりを殿様自身が下された。その他にも並大抵でない、かたじけないことがあった」と、宗及は日記に記しています。

先に紹介したフロイスは、「信長が手で立ち去るように合図すると、家臣らは目の前で世界の破滅を見たかのように、我さきにと立ち去る」「都の権力者でも皆、信長の前では両手と顔を地につけ、上げる者はいない」とも書いています。

それほどの大物・信長のおもてなしには誰もが感激し、恐れ入ってしまったでしょう。信長自身も、そのことをよく知っていたはずです。計算やビジネスライクな面もあったのかもしれませんが、それだけでは人の心はつかめません。信長自身が心からの誠意やサービス精神を発揮したからこそ、人の心に残る特別な「おもてなし」として語り継がれているのです。

文・上永 哲矢(うえなが てつや) 
参考文献:甲陽軍鑑、フロイス日本史、宗及茶湯日記他会記ほか

DODAキャリアアドバイザーからのコメント

織田信長のおもてなしから学ぶ
~相手の心を開くには、まず相手を知ることから~

大切な場面でがっちりと相手の心をつかむおもてなしをしていた織田信長。この信長のエピソードからうかがえるのは、相手が心を開きたくなる環境づくりのための準備を徹底的に行っていたということです。特別な場所での食事や豪華な演出はもちろんですが、「あの織田信長が、自分たちのためにここまでしてくれるなんて…」ということに、客人たちが感銘を受けていたのは言うまでもありません。もてなす手法を一辺倒にやるのではなく、相手を慮り、相手を知り尽くしたうえでの「おもてなし」であったからこそ、ここまで語り継がれる逸話になったのではないでしょうか。

現代のビジネスでも「相手を知る」ことは非常に重要なことであり、転職の場面でも「相手を知っているか知らないか」で差がつく場面が多々あります。例えば企業との面談に備えて企業研究をする場面がありますが、企業のホームページに掲載されている企業情報や、ネットの記事を読んで理解したつもりになっている人はとても多いです。もちろん企業の情報を把握しておくことは重要ですが、大事なのはその情報をもとに仮説を立てたり、自分なりの解釈を持つことです。その状態で面談に臨むことで、初めて相手に有意義な質問を投げかけることができます。面談の中で「私はあなたの会社の情報をここまで調べたうえで、このような仮説を立て、このような疑問を持ちました。」という問いかけをすることで、面接官に「ここまで事前に調べてくれたのか…」という印象を持ってもらえることが多いのです。もちろん上から目線の質問は不快に思われるので注意が必要ですが、自分の企業のことをしっかり考えてくれたことに対して、嫌だと思う面接官はいないでしょう。時代を超えても相手を知る大切さは変わらないのですね。

河崎 達哉

パーソルキャリア株式会社
DODAキャリアアドバイザーマネジャー

アドバイザー

2008年パーソルキャリアに入社。DODAキャリアアドバイザーとして約7年間、IT領域専任として約1500人の転職活動を支援。GCDFキャリアカウンセラー資格保有。現在は管理職やスペシャリストなどエグゼクティブ層の転職支援を行うチームのマネジャーを担当。

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