歴史を動かすビジネス作法

天性の愛嬌で人を魅了した交渉上手、坂本龍馬

福井の殿さまから、1000両もの大金を引き出す!

坂本龍馬は腕利きの外交官であり、「交渉上手」な人でした。一介の浪士に過ぎない彼が、薩長同盟を成功させたり、「いろは丸」事件では紀州藩から7万両という賠償金を得ることができたのも、卓越した交渉術のたまものでしょう。

その象徴的な例が、1863年の松平春嶽(まつだいら しゅんがく)と由利公正(ゆり きみまさ)との面会です。このとき、龍馬は勝海舟の依頼で、「海軍操練所」の設立資金を出してもらうため、春嶽のもとを訪ねました。春嶽は福井藩主でありながら、徳川幕府の政事総裁職を務める要人。幕政への発言権も大きい四賢侯(しけんこう)の1人でした。そして公正はこの時の春嶽の側近、支援を受けるために龍馬はこの2人を説得しないといけなかったのです。しかし、この時に海舟が望んだ支援は1000両(3000万円)という大金。どの藩も財政が厳しかったため、そう簡単にはいきません。しかし龍馬の熱意ある交渉の結果、なんと1000両は晴れて福井藩の蔵から供出されることが決まったのです。龍馬は代理人だったのにもかかわらず、1000両の交渉に成功したのでした。1000両の交渉の場に同席したであろう公正も、龍馬とすっかり意気投合しました。後年、龍馬が福井を再訪したときには、2人で早朝から明け方まで国事を談じています。それは、龍馬が京都で暗殺される5日前のことでした…。

話し上手なだけでなく、聞き上手だった龍馬

龍馬がどんな交渉のすえ、福井藩から1000両を引き出したのか、残念ながら具体的な交渉経過はわかっていません。ただ、その謎を解くカギが、福井藩士の関義臣(せき よしおみ)が、後年に語った龍馬評にあります。

「龍馬はすこぶる温厚、いやみと云うものなく、相手の話を黙って聞き、さんざん人にしゃべらせてから、後に『さて拙者の説は』と説き出した。時々、滑稽(こっけい)を交え、みずから呵々(かか)として大笑する。まことに天真の愛嬌があった」

龍馬は「聞き上手」でもあったことがわかり、そこに交渉上手の秘密が隠されていそうな気がします。海舟が、龍馬にこのような大仕事を任せたのも「彼ならばうまくやってくれるだろう」と、全幅の信頼を置き、その実力を見込んでいたからでしょう。

この関は、龍馬が出張した先の福井藩出身の人物です。彼も1000両の交渉の場に居合わせたか、あるいは龍馬に会った藩士たちからその人物像を聞いたのでしょう。すっかり龍馬に魅了され、のちに長崎まで出向き、龍馬が結成した「亀山社中」(のち海援隊)の一員に加わったほどです。

関はまた、「龍馬は、すこぶる経済的手腕に富み、百方金策に従事し(中略)、ほぼ同志の生活費を産出できた」とも、語っています。「亀山社中」や「海援隊」の代表となった龍馬は、利益を挙げるために奔走していましたが、それは単なる金もうけではなく、同志たちを養うためでもあったのです。

龍馬が借りた1000両の後日談

さて、福井藩が龍馬を通じて勝海舟に貸した1000両のゆくえですが、それには後日談があります。海舟は借り受けた1000両のうち、半分の500両を海軍塾の建設費用に使い、残りの500両を大坂町奉行に預けたようです(福井藩に残る文書より)。

龍馬が福井へ赴いた1年後、海舟は福井藩からの使者として訪れた関義臣(せき よしおみ)と江戸で面会しました。その時、「大坂町奉行に預けてある500両のうちから、300両を引き出したい」と、関に頼んだところ、関はこう言いました。

「あの金は最初から返済していただくあてはありません。どのように使っても頓着(とんちゃく)しません。他にも必要でしたら、いつでも言ってください」

福井藩は用立てた1000両を、最初から「返済の必要はない」と言って貸したのでしょう。この後日談からも、福井藩士たちと勝海舟の親密な関係に加え、海舟の弟子であった龍馬も同様に信頼され、心酔されていた様子がうかがえます。

春嶽から援助されたのは5000両とする説もありますが、福井藩に残る文書などから1000両説をとって記しています。

文・上永 哲矢(うえなが てつや) 
参考文献:坂本龍馬 海援隊始末記、松平文庫「風説書」ほか

DODAキャリアアドバイザーからのコメント

聞き上手の龍馬から学ぶ
~相手の話をとことん聞くことが、
交渉成功のための第一歩~

薩長同盟成立や大政奉還のお膳立てなどの立役者として有名な坂本龍馬。このような逸話を聞くと、かなりの交渉上手だったことがうかがえます。文中にも龍馬はかなりの「聞き上手」という話がでてきましたが、現代のビジネスにおいても「相手の話を聞く」という行為はとても重要です。というのも相手の話をしっかり聞くことで、相手が何を考えているのかを知ることができ、そこで初めて相手の意図に沿った話をすることができるからです。

一見「相手の話を聞いて、意図にあった話をする」と聞くと、「普通はそれくらいできるだろう…」と思いがちですが、実際はなかなか難しいものです。例えば転職活動の面接の場でよく、「アピールができなかった」「自分のアピールが刺さっているのか分からなかった」という話を聞きますが、それは相手の質問や話の意図が分からないまま、一方的な話をしてしまったことが原因であることが多いのです。

面接の時間はだいたい1時間くらいが平均だといわれていますが、その中で相手が自分に求めていることを見極めたうえで、それに沿ったアピールをしなくてはいけません。つまり自身の経験してきたキャリアの中でも、面接官が期待する内容(次の会社で活かせそうなスキルや経験など)を抽出し、伝えるという作業になります。短い時間でそれを行うのは結構難しいものです。

そこで、一番大事な「面接官がこの面接で自分の何を知りたいのか?」を汲み取るために、面接官からの質問を受けたら、その時点で背景や意図を聞くことを意識してみてください。
例えば、

面接官「要件定義の経験はありますか?」
転職希望者「はい、あります。ちなみに要件定義というのは、お客さまとの折衝経験の有無という捉え方でよろしいでしょうか。」
面接官「はい、そうですね。今回お任せしたいお仕事もお客さまとの折衝が多いので…」

というように「自分の答えは質問の意図に沿っていますか?」という投げかけを意識するのがポイントです。「なるべくあなたの意図に沿った回答をしたいので、その質問の意図と背景を知りたいです」というスタンスで、「自分に何を期待されているのか?」を探りましょう。また、面接の最後にはよく「何か質問はありますか?」という問いかけがありますが、ここは面接官に今回のポジションの採用が始まった背景や、企業の課題・組織の課題を聞くことができる唯一のチャンスです。もちろん中には根ほり葉ほり聞かれることを嫌がる面接官もいるので、「お話しいただける範囲で構わないので」というスタンスで質問してみてください。採用の背景や組織の課題が分かったら、最後に自分がどのような形で貢献できそうかを要点を絞って伝えてみましょう。

相手の話を聞く=相手の意図を理解するという点では、坂本龍馬から学ぶべきことがたくさんありますね。

芝本 圭次郎

パーソルキャリア株式会社
DODAキャリアアドバイザー グループリーダー

アドバイザー

2007年パーソルキャリアに入社。IT業界の法人営業を担当した後グローバル領域の新卒採用として、ASEAN留学生の採用を支援。その後はIT領域専任のDODAキャリアアドバイザーとして5年間で、約1500人の転職活動を支援した実績を持つ。現在は管理職や、エキスパートなどエグゼクティブ層の転職支援を行うチームのリーダー。

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