「越境」経験が生み出すキャリア自律へ向けたはじめの一歩

リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 主任研究員 荒井理江

環境変化が激しいこのご時勢に、「将来、働き続けられるか不安だ」と感じる人は多いでしょう。20代~30代の正社員約600名に調査を行ったところ、「今後のキャリアのために、何か行動しなければならないと感じている」と回答した人は86%(リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所, 2012)。しかし実際に「ビジネスパーソンとしての自分のこれからのキャリアのために、何か行動や学習を行っている」と回答した人はわずか32%でした。できない理由には、「時間がない」以外に、「意欲がわかない」、「方法がわからない」という声も多数ありました。

働く人たちが、日頃の生活の中で、気軽に、かつ自由に自分のキャリアを創る一歩を踏み出すためにできることは何でしょうか?

キャリアのための行動を取れていない理由の例

観点
コメント例
時間がない
  • ・普段の業務におわれているため
  • ・仕事に追われ時間がないため
  • ・結婚等による生活の変化があり、余裕がなかったため
  • ・子供ができたばかりで、育児が忙しい。また会社の仕事が忙しく、終電や休日出勤も多いので勉強する時間がない
  • ・自分のスキルアップの時間がなかなか持てない
必要がない
  • ・特に必要性が感じられていない
  • ・まだ絶対的な必要性がないので
  • ・キャリアアップする気がない
  • ・今の能力、評価に納得している
意欲がない
  • ・勇気がないから
  • ・時間が少ないのは事実だが、まだ踏み切れないでいる
  • ・もう遅い気がする
  • ・意欲がわかない
  • ・モチベーションがあがらない
やるべきこと・やり方がわからない
  • ・何か目標があるわけではないので、特に行動や学習すべきものが思い浮かばない
  • ・やりたいことが見つからない
  • ・まず第一に何をすべきなのかが分からない
  • ・やり方がわからないので模索中
  • ・どのようなことをすればよいのかわからない
  • ・具体的なイメージがないため
経済面・趣味・家族
  • ・経済的に余裕がない
  • ・趣味に時間を使いたい
  • ・まずは家庭を優先したいから

リクルートマネジメントソリューションズ「若手・中堅社員のキャリア意識に関する実態調査」2012

キャリアを創る3つの資本

自らのキャリアを積極的に形成していく思考・行動特性を、「キャリア・コンピテンシー」といいます。研究者であるDefillippi氏とArthur氏によれば、キャリア・コンピテンシーは以下の3つから構成されます。(※) 柏木仁氏は、著書「キャリア論研究」の中で、これらがキャリア関連資本とも結びつくものとして紹介しています。
※DeFillippi, R. J., & Arthur, M. B. (1994). The boundaryless career: A
competency‐based perspective. Journal of organizational behavior, 15(4),
307-324.

キャリア・コンピテンシーとキャリア関連資本

キャリア・コンピテンシーとキャリア関連資本の図

柏木仁著「キャリア論研究」(2016,文眞堂)p.212図を基に筆者作成

キャリア関連資本とは、キャリアを形成していく上での、文字通り「資本」となるものです。キャリア・コンピテンシーをもち、これら3つの資本を培っていくことが、個人のキャリア形成に有益だということです。

しかし、意欲はともかく、能力や人脈といった資本は、簡単に手に入るとは思えない人も多いのではないでしょうか。「そんなことは、日々仕事だけでも忙しい自分にはとてもできない……」となれば、意欲面に対してもマイナスの影響を及ぼす可能性もあるでしょう。先の「時間が取れない」、「意欲が出ない」、という声の背景には、そういった心理的なハードルの高さも影響しているかもしれません。

キャリアの不安を希望に変える「内の目」と「外の目」

どうすれば、キャリア形成への不安や心理的ハードルを、希望に変えていけるのでしょうか。
代表的な方法の1つに、日々の仕事経験を振り返るというものがあります。元来能力や人脈という資本は、日々の仕事の中で積み重ねながら習得しているはずのものです。そのため、日々の仕事を改めて振り返り、どのような能力や人脈を積み重ねてきているのか、確認をしていくことが希望への1歩となります。

しかし、人はそう簡単に自分を客観視できるものではありません。あるとき、弊社の研究員が、大手企業のベテラン会社員のキャリア意識についてインタビューを行ったところ、自分自身のキャリア関連資本を客観的に振り返ることができない人が多数存在していることに驚いた、というエピソードがありました。

自分の中にキャリアにとって有効な資源を発見したり、そこから新しい可能性を発見したりするには、自分の内省スキルを磨くという道もありますが、人に相談する、ワークショップに参加するなど、自分以外の、「外」の力を借りることも近道になります。

そういう意味でも、もう1つの方法は、「外の目」、つまり外界と触れる機会を持つことが挙げられます。必ずしも、転職といった大きなリスクや変換を伴う必要はありません。前述のとおり、他者に相談する、研修に参加するなど、少しの間でも効果を発揮します。キャリアへの不安感情の一種である「キャリアの焦燥感」を研究する尾野裕美氏によれば、なんとかしないと……と「焦燥感」を抱いた人が取る行動の一種として、「キャリアに関する相談」「業務外の勉強会や交流会への参加」などを挙げ、それが本人に「視野の広がり」をもたらし、「キャリアの焦燥感」を緩和することを明らかにしています。なお、「外に出る」ことで、人がそれまで凝り固まってしまった視界の枠がはずれ、視野が広がったり、新たなものの見方を獲得したりすることは、水平的学習(異化)などとも呼ばれています。

3つのキャリア関連資本を培う「越境」経験

この「外に出る」という行動は、実は前述の3つのキャリア関連資本を培う機会にもなります。ひとつご紹介したいのは、組織行動研究所が行った、社会人の「越境」活動の調査結果です。本業をしながら行ったボランティア活動、地域貢献、異業種勉強会などの「越境」活動に取り組んだ人が感じた、「越境の効能」について以下のような結果が得られました。ボランティア活動、地域貢献、異業種勉強会などを含む「越境」活動に取り組んだ人が感じた「越境の効能」について以下のような結果が得られました。

社外活動による意識・行動の変化

社外活動による意識・行動の変化の図

リクルートマネジメントソリューションズ「越境活動実態調査」2016

先にあげた3つのキャリア関連資本が高まっていることに加え、自分に自信を持てたり、越境に限らない日ごろの活動への意欲が高まったりした人も多数いました。「越境」活動を通じて、自分自身の能力や人脈を再確認し、本業を含む日々の活動に対する考え方も前向きに変化していったことが想像されます。なお、弊社の研究員が行った研究では、「越境」活動が自分の視界を広げてくれることによって、自分の役割が再確認・再定義され、本業においても仕事の意義を実感していけることを示しています。(下図参照)

「越境」活動と仕事の有意味感の関係

ビジネス/ソーシャルの越境経験が、自分や会社に対して、それまでの当たり前を疑ったり、新しいものの見方を発見するような内省を起こす。それが、本業の仕事における自分の役割の再認識や変革(ジョブ・クラフティングと呼ばれる)を促進し、仕事の有意味感を高める

越境活動と仕事の有意味感の関係の図

RMS Message44号「『越境』の効能」学術レビューより抜粋・修正
藤澤理恵・香川秀太(2015)「本業外の社会貢献活動(プロボノ)への参加が促進する組織再社会化―変革的役割志向に着目して―」経営行動科学学会 第18回大会
藤澤理恵(2016)「ビジネス/ソーシャルの越境経験が、仕事の有意味感を高める役割変革に及ぼす影響―ジョブ・クラフティング・モデルに基づく検討―」経営行動科学学会 第19回大会

「越境」を通じて、新しい視野を獲得しながら、自分自身を見つめなおす機会にする、さらに、キャリアを形成するための資本を獲得していく。そうしていくことで、キャリアの不安が希望に変わり、仕事が前向きに意味づけられていく。外に出る越境による学びは、自分の能力や機会の可能性の再発見と、さらなる開花への一歩につながるといえるのではないでしょうか。

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