会社の成長を支える社員と家族の健康~東京海上日動の挑戦~

政府が長時間労働の是正指導を強化するなど、健全な労働環境への関心は高まるばかりだ。「健康管理は本人の責任」などという前時代的な感覚での経営は、もはや通用しない。社員の心身の健康を守るための取り組みとは。

「健康経営」こそが企業と社会を成長させるカギ

社員の心身の健康こそが企業の競争力を高める重要課題と位置付け、その増進や維持を図る「健康経営」が本格化しつつある。本講演では、「東京海上日動火災保険」取締役社長の北沢利文氏が登壇し、同社の先進的な取り組みについて紹介した。

東京海上日動火災保険 取締役社長 北沢 利文 氏

東京海上ホールディングスは、経済産業省による「健康経営銘柄」(2016年、2017年)と「健康経営優良法人~ホワイト500」の両方に選定され、また主要グループ会社の東京海上日動火災保険は「安全衛生優良企業公表制度」の東京都第一号に認定された、いわば健康経営を推進する企業として“お墨付き”を得ている企業だ。同社は国内だけでなく、世界でも38の国と地域、483の都市で200以上の会社を擁するグローバルな保険グループでもある。その事業内容は多岐にわたり、医療・健康・介護分野なども含めて、「安心」と「安全」に関わる様々なサービスを提供している。

「少子高齢化が進む日本においては、病気を経験した人や体調が万全ではない人がこれからも増加し、完全に健康な人は相対的に減る。しかし健康を意識し、病気の発症を予防したり病気にかかっても重症化を防いだりすれば、社会で活躍しながら人生を楽しめる。東洋医学では「健康」と「病気」の間に「未病」という状態があるが、この未病にある人々をしっかりサポートすることが大事だ。本人の努力に加えて、企業を含めた社会全体でのサポートがますます重要になる」と北沢氏は熱く語る。

自社の経験・ノウハウの活用と提供で社会貢献の一助に

東京海上グループは、お客様から信頼され選ばれる「Good Company」を目指して仕事をしているが、「健康経営」はそのための重要な取り組みでもある。社員や代理店はもちろん、彼らを支える家族、そして取引先企業やお客様企業で働く人がより一層健康になる取り組みを支援することが会社の目指す姿に合致する。「できる限り当社のさまざまな経験やノウハウを社会へ還元・貢献していきたい。それが日本全体の活力につながり、最終的には当社グループの成長にも繋がる」と、北沢氏は力強く語る。そのために、まずは経営トップである北沢氏自らが社員やその家族へ、また取引先企業やお客様企業へ、そして社会へ向けて健康の重要性を呼びかけ、健康に関する情報を積極的に発信している。

また、現在グループ会社の「東京海上日動リスクコンサルティング」のデータヘルス支援サービスや「東京海上日動メディカルサービス」の医師を中心とした医療専門職によるメンタルヘルスケアや産業保健などのサービスの提供を通じて、お客様企業にとってより効果的な健康施策を策定するご支援を行っているが、損害保険事業を中核としてスタートした東京海上グループならではの、蓄積された膨大な事故や病気、ケガのデータを活用することで今後益々この分野の取り組みを強化したいという。

更に、同社は医療や介護の分野でさまざまな社会貢献活動を進めている。その中には、たとえば日本人若手医師が米国で臨床研修を受けるための支援を行う「Nプログラム」がある。日本の若手医師が米国で研修し、日本の将来の医療をけん引してほしいと考えて開始した。このプログラムの卒業生は既に25年間で約170名となり、国内外の主要な機関で活躍している。この他、がん検診受診率向上へ向けた地方自治体との協同なども行い、成果を挙げている。

東京海上グループならではの「健康経営」の具体策

ここからは、東京海上グループの健康経営の推進の全体像と、個々の具体的な説明が行われた。

東京海上グループの「健康経営」推進のための全体像。社内向けには情報の共有や周知徹底で社員の健康を守るとともに意識改革をはかる。社外向けにはお客様を中心に積極的に情報を発信することで社会に貢献しながら、グループの成長につなげる。

まず、同社ならではと言えるのが、2017年1月に発足した「健康経営タスクフォース」だ。同社のお客様企業に健康経営への取り組みを深めてもらうためにさまざまな情報を提供するグループ横断の部隊である。これは同社のビジネスにもつながる、重要な取り組みだ。

これからも外部に対して本講演のようなセミナーに加え、新しいサービスを開発するなど積極的に行っていくという。

また、同社の「健康経営推進会議」では多面的な論議を行い、施策について毎年検証と見直しが行われる。

同社では、現在全国46か所に「健康管理室・健康相談室」を設け、保健師・看護師60名を常駐させている。これら産業保健スタッフの多くは同社の社員であり、各職場を理解した上で各部門のリーダーと連携し、きめ細やかな対応を行っている。全国200か所に拠点があり、そこで働く約18000人の社員が、全国均一の健康支援サービスを受けられるよう環境を整えている。たとえば健康診断の結果などは全国共通のデータベースで管理しており、転勤先でも産業保健スタッフが社員の過去の健康状態を確認し、切れ目のないサポートを実践している。

メンタル不調者への対応や生活習慣病患者へのハイリスクアプローチなど近年の健康課題は大きく変化しているが、それぞれの時代に合った健康管理をPDCAによって的確に推進することが重要だと北沢氏は語る。

これらの施策に欠かせないのが、健保組合とも連携した健康診断データだ。同社は健康診断を全国同一基準で実施している。工場で例えるなら、各種設備にはさまざまなセンサーが備え付けられ、不具合があればすぐに察知し、点検・整備し異常があれば速やかに対応する。人間にとってのセンサーは健診であり、このデータをどう活用するかでQOLが大きく変わるという。将来は健康診断データの経年変化から、5年後、10年後の健康状態がかなりの精度で予測できるようになってくると考えられることから、データの時系列でのフォローアップにより、納得感のある社員の行動変容を促し、健康増進につなげられるのだ。

更に社員の健康リテラシーの向上も重要となってくる。同社はその推進策の一つとして、2017年にスタートした「日本健康マスター検定」に参画。第1回検定では、600名もの社員が受験した。

同社の健康経営は、働き方の変革にも及ぶ。会社全体で日常の業務を削減し、各自の能力開発を図るための時間を作り出す取り組みに挑戦している。たとえばペーパーレス化を進めることで、定型的な事務が削減され、社員がよりクリエイティブな業務に取り組めるようになったという。また、仕事と育児や介護の両立支援にも積極的だ。子を持つ社員へ保活支援やキャリアアップ支援を行い、介護離職を防ぐために産業ケアマネジャーによる介護相談制度などを設けている。

「今後は、更にお客様の健康経営をご支援できる保険商品・サービスを開発し、日本が元気で活力に満ちた国になることに少しでもお役に立ちたい」という抱負を以て、講演は幕を閉じた。