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仕事の右腕、ならぬ“左腕”ビジネスパートナーとしての腕時計再考

腕時計が単なる時刻表示装置であった時代は終わった。
現代において、それはする者の生き方、考え方を代弁する存在になりつつある。だからこそ、名経営者は腕時計選びに真剣になる。
もしかすると、これからのビジネスの正否を占うのは、腹心の“右腕”ではなく、左腕に巻かれた腕時計かもしれない。

侍が鎧兜をまとうように
名経営者は腕時計を身につける

伊藤忠商事 代表取締役社長

岡藤正広 氏

文=いなもあきこ 写真=阿部 了

伊藤忠商事 代表取締役社長 岡藤正広 氏
オーデマ ピゲ「ジュール オーデマ デュアルタイム」

オーデマ ピゲの「ジュール オーデマ デュアルタイム」。

ブレゲ「トラディション 7067」

ブレゲの「トラディション 7067」。今年3月期の決算で史上最高益を更新したことを受け、購入した。

フランク ミュラー「トノウ カーベックス マスター デイト」

フランク ミュラーの「トノウ カーベックス マスター デイト」の限定モデル。

「僕は古い時計より、新しいほうが断然好きやね」(岡藤氏)

左からカルティエ、フランク ミュラー、ピアジェ、A.ランゲ&ゾーネ、パテック フィリップ、ブレゲ。ヴィンテージもいくつか持っているが、「僕は古い時計より、新しいほうが断然好きやね」(岡藤氏)。

「僕、好きなんですよ、『日経ビジネス』で年2回ある時計特集。次、どの時計を買おうかなといつも探しているから、雑誌を見ながら新作をチェックして、だんだん絞っていくんです。モデルが決まってからも、そこから時間をかけて、『確かに高いけれど、その値打ちがある』と自分に言い聞かせる(笑)。衝動的に買うことは、ほとんどないですね」

 伊藤忠商事社長、岡藤正広氏。社長就任以降、7年間で3度最高益を更新。同社の株価も就任前と比べて2.5倍に上昇し、時価総額は3兆円を超えた。稀代の名経営者が自らをねぎらうために今年購入したのは、ブレゲの「トラディション 7067」だった。

「時計は何気なくではなく、人生の節目ごとに買うようにしています。集めるのが趣味というか、人生における目標や生きがいのようなところがあるんです」

 最初に購入した高級時計は、2000年にオーデマ ピゲが発表した、横長のオーバルケースが印象的な「ミレネリー」だった。ジュネーブにあるビジネススクールでの研修に会社から1カ月間派遣され、語学の壁を感じて苦悩した後、「これに比べたら、仕事の苦しみなんか大したことない!ということを、時計を見るたび思い出せるように」と購入した。

 以来、カルティエ、パテック フィリップ、フランク ミュラーなどを一つずつ入手し、現在、岡藤氏の手元にある機械式時計は、40本ほど。ビジネス、カジュアル、フォーマルなど、場所やシーンによってつける時計を吟味、選択する。

「今日つけているのは、日付表示機能と、2つの時間を表示できるデュアルタイム機能を併せ持つ、オーデマ ピゲの『ジュール オーデマ デュアルタイム』です。とくに海外出張のときは、デュアルタイム機能が重宝するんです。普通、外国に着いたら時間を合わして、戻ったらまた直さないといけないでしょ? 聞いた話では、日付表示機能のある時計で、夜9時から翌3時までの深夜帯に時間を合わせると、機械にとってよくないらしいね。それにそもそも、面倒やわな。だからデュアルタイムがいいんですよ」

 入社以来長年席を置いた繊維部門で、「アルマーニ」をはじめ数々の海外ブランドの輸入販売権を獲得。ファッション業界の動向を見守り続け、今年10月には第30回日本メガネベストドレッサー賞を受賞するほどの洒落人である岡藤氏だけに、ビジネスの現場でも目が行くのは「やっぱり服や靴、そして時計やな」。

「外国なんか行くと、企業のトップはみんないい時計をしていますよ。日本では古来、『人間、中身や』と言われて、外見は二の次に考えられてきたけど、それ、あかんと思うわ。今では日本の経済界でも、身だしなみをきちんと整えている方が増えましたよ。まあ、侍が鎧兜をつけるようなもんやな。相手に対し、自分の威厳を示すという意味もある」

 また上質なものを身につけるということは、いいものを理解する審美眼を持っている、ということの表れでもある。

「当然、いいものをつけているだけで背筋もピンと伸びますからね。仕事の上でもいい発想が出るようになり、すべてのレベルが上がってくると思いますよ」

 岡藤氏はこれまで、中国中信集団(CITIC)への同社過去最大となる6000億円の巨額投資、コンビニのファミリーマートとユニーグループ・ホールディングスとの経営統合など、数々の施策を断行してきた。と同時に、社内ではフレックス制を廃止し、早朝勤務に5割増し賃金を支給。無料の朝食を提供して朝型勤務を奨励するなど、自身の言葉通り、並外れた発想力で注目を集める。

「今、第何次かわからないけど、新しいIT革命みたいなのが起こっているでしょ? IT技術を使った新たな金融サービス『フィンテック』もそうだし、家中の家電を音声で制御できるAIスピーカー『グーグルホーム』もそう。そんなの夢物語やと思っていたら、今、急速に現実化していますよね。でも商社って、商品のトレードであったり、縦割りの営業組織であったりと、実は比較的古い商売形態なんです。今はあらゆる分野で、ビジネスの仕組みごとがらっと変わる時代。これは商社にとってチャンスでもあるし、ある意味で大きなリスクでもある。そうした時代における我々の生き残る道について、今後は真剣に考える必要があると思います」

 ちなみに就寝中は長年、蓄光塗料が塗られたセイコー「アストロン」を着用。いわく、「暗闇でも時間をさっと確認できるから」。腕時計は、名経営者の素早い判断力を、24時間体制で支えている。