Vol.3
2018.4.27 FRI

ライフスタイル2018~

私たちのライフスタイルは、デジタルテクノロジーによって激変している。しかも、その変化はさらに加速度を増す。毎日身につけている服、食べているもの、暮らしている部屋……。デジタルとは縁遠いように思えるこれらの分野でさえ、大きな変化は「ない」と考えるのは尚早かもしれない。例えばファッション業界は、今、デジタルテクノロジーによって大きな変化の時を迎えているのだから。

文・冨田秀継

これまで本サイトでは2回にわたり、「デジタルテクノロジーが実現する未来」をテーマにさまざまな論考を紹介してきた。

第1回では「デジタルテクノロジーが変える競争の原理」というタイトルで、自動車業界やネット業界、それらの産業を変えようとしている人工知能(AI)やビッグデータの専門家と、AIでヘルスケアを変革しようとしている起業家を紹介した。

第2回は「働き方の未来 」と題して、著名ITエンジニアのキャリアを紐解きながら、新しいワークスタイルを提案するコワーキングスペースや、人生100年時代の起業術などを紹介した。

これらの記事で、デジタルテクノロジーやその活用技術の進歩によって、ビジネスや働き方の価値観が変わり、ビジネスのモデルやスタイル、そしてワークスタイルが従来とは違ったものになっていくことはおわかりいただけたことと思う。

ただ、ここにもう1ピース、デジタルテクノロジーによって大きく変容していくものがある。私たちの日常生活、つまりライフスタイルだ。ファッション、買い物、娯楽、食事、睡眠、その他さまざまな活動にまでその影響は及ぶ。本サイトにおける最終回となる今回の記事では、この最後のピースについて、デジタルテクノロジーがどのような影響を及ぼすのかを探ってみたい。

“瞬間”を求めるミレニアル世代

私たちが毎日触れるモノには、必ずライフサイクルがある。朝にキオスクで見かけるさまざまな新聞は、夜明け前に印刷されて運ばれてきたものだし、ランチで食べる寿司だって今朝仕入れた食材でできあがっているはずだ。

そう考えると、ファッション業界はシーズンによって流行が大きく変わる分野なのに、ずいぶんのんびりした業界ではあった。ウィメンズのプレタポルテ(高級既製服)は2月から3月にかけて秋冬コレクションが、9月から10月にかけて春夏コレクションが発表されることがほとんど。冬の終わりに秋冬を、秋の始めに春夏を発表するので、店頭にアイテムが並ぶのは半年後になる。メンズコレクションの場合は販売がもっと先になることがほとんどだ。

ニューヨークやロンドン、そしてイタリアの各都市で、さまざまなブランドが最新コレクションを発表するファッションウィークが終わると、ブランドは各国のプレスルームにコレクションを並べて、バイヤーやファッション誌の編集者に服を見せる場を設ける。この展示会での反応から各アイテムの生産数が決まり、そして服が店頭に並び始める。

これまでは私たちがファッション誌を読んで欲しい服を見つけたとしても、実物を手に取るのは半年も先だった。

こうしたファッション業界のプロダクトライフサイクルには、消費者の欲求にすぐに応えられないという課題だけでなく、産業面でも大きな問題があった。粗製濫造をためらわないアパレルブランドが、次々と最新コレクションを模倣し、半年のタイムラグを利用して似た服を大量に売りさばいてきた。アパレル産業の周辺には、最新コレクションの写真をデータベース化し、消費者に受けそうなカラーや素材を分析して、これを真似たら売れますよと提案するコンサルティング業者もたくさん存在する。

そんな業界のプロダクトライフサイクルが大きく変わったのが、2016年だった。このムーブメントは「See now, buy now」と呼ばれ、それはコレクションを「見た瞬間、すぐに買える」ことを意味した。大勢のモデルがランウェイを練り歩き、最後にデザイナーが恥ずかしそうに会釈をしてショーの幕が閉じる。その瞬間から、私たちは最新のコレクションを買えるようになったのだ。

「See now, buy now」というコンセプトは、デジタルテクノロジーによって実現した。極めて限られた人しか見ることのできなかったランウェイショーは、いまやネット中継で私たちも見ることができるようになった。ブランドはアパレルEC(電子商取引)サイトに服を卸すだけでなく、自分たちでECサイトを運営するようになったから、公式サイトで服を買えるようになった。その結果、私たちはブランド固有の特典を受け取れるようになり、ブランドは消費者とダイレクトなつながりを持てるようになった。

2010年にランウェイのライブストリーミングを始めたバーバリーは、ファッション業界にデジタルテクノロジーを持ち込んだ最初のブランドのひとつだ

このムーブメントを実現したのはデジタルテクノロジーだが、それを用意したのはほかでもない、私たち消費者だった。ファッション誌のエディターたちがWebに記事を載せ始めるはるか前から、ファッションブロガーたちはリアルタイムで最新コレクションの情報を世界中に届けていた。ショー終了から2カ月がたって雑誌に記事が載るころには、ブロガーたちは次のもっと楽しいアイテムを紹介していた。そんなブロガーたちを支えたのは、ミレニアル世代の消費者である。

デジタルテクノロジーでショップ体験を革新したブランド

レベッカ ミンコフというミレニアル世代から絶大な支持を受けている米国のブランドがある。共同創業者でクリエイティブディレクター(デザイナー)、そしてブランドと同じ名前のレベッカ・ミンコフは、ブロガーこそファッションの民主化を先導しており、ブログは現実を生きる女性がブランドの価値観を人々に伝え、自分のスタイルを記録していく場になっている、と語っている。そこは、かつてファッション誌やランウェイが担っていた場だ。

私たち消費者自身も、InstagramやTwitterからスタイリングのアイデアを得ることが増えてきたはずだ。かつてはファッション誌に目を通し、そこに載っている番号に電話をかけて、「どこに行けばこの服を買えますか?」と問い合わせていたものだが、いまは電話することなく、店員に会うこともなく、気に入ったアイテムを、その場ですぐにネット経由で購入できるようになった。

レベッカ ミンコフの幹部は、現代の「ラグジュアリー」というコンセプトを、“自分が望むときに、自分の好きなデバイスで、自分の望むサービスレベルで自由に選択できること”と定義している。

「服を買う」という行為ひとつとっても、どんな服があるのかを探し、検討し、場合によっては店舗を訪れ、試着し、それでも店舗では買わずにECサイトで購入し・・・と、様々なフェーズがある。その各フェーズを自分の好きなようにコントロールしたいというのが、現代の消費者、なかでもデジタルネイティブのミレニアル世代に共通する欲望なのだろう。

「See now, buy now」を地で行くブランドであり、このムーブメントの先駆者で牽引役になったのもレベッカ ミンコフ。だから、デジタルテクノロジーの活用でも他ブランドより一歩も二歩も先を行っている。

レベッカ ミンコフはデジタルテクノロジーでショップ体験を革新した

上の動画にあるとおり、レベッカ ミンコフはミレニアル世代の欲望を忠実に受けとめてきた。店舗を訪れると、大きな鏡のようなタッチスクリーン「オークミラー」(オークラボ開発)で無料のウェルカムドリンクを注文できる。ドリンクが届くまでは、オークミラーで最新のルックを見て過ごすのもいいだろう。気に入った服が見つかったら試着室に持ち込めばいい。入室すると、何も操作しなくてもオークミラーに製品情報が表示され、他のカラーやサイズ、さらには在庫の有無まで知ることができる。

現在はApple Payなどのモバイル決済にも対応し、試着室にいながらにして支払いを済ませることができるようになった。ファッション業界に加え、「服を買う」という行為にも、従来とは違うスタイルが根付こうとしていることがわかるだろう。

ブランド側にとっても、オークミラーは目新しさだけが売りのディスプレイではない。レベッカ ミンコフCEOのユーリ・ミンコフによると、オークミラー導入店舗では売り上げに顕著な増加が見られたという。というのも、顧客の約30%が試着室内で別なアイテムも購入するからだ。

「オークミラー」を開発したのはサンフランシスコのスタートアップ企業、オークラボだ。

顧客とブランドを密接につなげるIoTバッグ

レベッカ ミンコフは、さまざまなファッションアイテムにもデジタルテクノロジーをインストールしてきた。2017年2月に発表したスマートバッグにはICタグが埋め込まれており、それが読み込まれるたびにブランドから特別な提案を受けられるという仕掛けだ。

レベッカ ミンコフのスマートバッグ「Always On」シリーズ(出典:レベッカ ミンコフ公式Facebook

当初は10個限定で発売されたこのバッグ。スマートフォンでICタグを読み込めば、ブランド主催のファッションショーのチケットが表示されるというギミックを持っていた。2回、3回とタグをスキャンしていくことで、例えば公式ECサイトから特別な提案が示されたり、レベッカのスタイリングレッスンが提供されたりと、様々な特典を受けられるようになる。

こうしたプロダクトは、私たち消費者に特別な驚きと喜びを喚起する。その結果、私たちはますますこのブランドを好きになるだろう。

CEOのユーリは、スマートバッグをマーケティングという枠を超えて進化させようとしている。ユーリはこのバッグをIoTの一形態と捉えており、これを他社の製品やサービスと相互に通信できるようにしたい考えだ。そうすることで、消費者がどこで買い物し、どんなレストランに行っていて、どんな音楽を聴いているのか、そんなデータを貯めてミレニアル世代の理解を深め、次の製品開発につなげようとしている。

3人の女性起業家が設立した投資ファンド

ファッションは素材から生産、小売りまで、つまり川上から川下までをカバーする大きな産業だ。しかし、その各段階にデジタルテクノロジーが十分に浸透しているとは言いがたい。

そのため近年、ファッションとデジタルテクノロジーを掛けあわせた「FashionTech」というコンセプトも、FinTechなどと同様に注目を集め始めている。

FashionTechを対象にしたベンチャーキャピタルの設立も相次いだ。レベッカ ミンコフのレベッカとユーリは、クオティディアンベンチャーズをパートナーとして投資ファンドを設立。バーチャルリアリティやウエアラブル関連テクノロジー、そして小売り業向けソフトウエアを対象に投資活動を展開している。最初の投資先は、小売り業向けにクラウドベースの予測分析サービスを提供する42テクノロジーズだった。

このほかにも、ファッション業界の有名人が続々とFashionTechに参入している。ファッションECの世界大手ネッタポルテ創業者のナタリー・マセネットはイマジナリーベンチャーズを設立。ファッション、小売り、ライフスタイル、そしてビューティ分野を対象にして投資活動を始めようとしている。ファッションブロガーの先駆けともいえるミロスラバ・デュマは、まさにFashionTechを対象にした投資ファンド、フューチャー・テック・ラボ(FTL)を設立した。

新興ブランドの創業者、ラグジュアリーECを世界で成功させた起業家、そしてミレニアル世代の代表格ともいえる著名ファッションブロガーが、それぞれFashionTechの進化を目指して投資ファンドを設立したことになる。私たちが毎日身につける服が、デジタルテクノロジーの力でますます変わっていくことは間違いないだろう。

ZOZOSUITの衝撃

服の選び方や楽しみ方は、日本でもデジタルテクノロジーによって変わりつつある。この分野で世界的に注目を集める一手を打ったのが、「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイだ。センサー内蔵のボディスーツ「ZOZOSUIT」で体の各部のサイズを計測し、一人ひとりに合った服を提案していく。

ZOZOSUITの製品コンセプトは「人が服に合わせる時代から、服が人に合わせる時代へ」。実際、私たちの体には想像以上の差異があり、胸囲や腹囲といったわかりやすい違いだけでなく、肩や腰骨、脛などの位置や特徴が着こなしに大きな影響を及ぼしていることには、多くの人が気づいているだろう。

例えばシャツやジャケットを着るなら、肩がどれだけ前に出ているかでフィット感は大きく変わる。体全体の中でどこに腰骨が位置しているかで、コーディネートのバランスも変わる。そして日本人には脛が比較的湾曲している人が多い。

そんな個別の体の違いに対応して、より良いフィット感のアイテム、さらには全体のコーディネートを提案してくれるのがZOZOSUITといえる。しかも、スタートトゥデイはこれを無料で配布しているというのだから驚く。

服の選び方もますます変わってきそうだ。新風を吹き込んだ企業が、エアークローゼットである。

同社が展開している「airCloset」は、スタイリストがあなたのためだけに提案する服を定期的に届ける月額課金制の女性向けサービスである。日常的に着る服を、購入するのではなく、ネットの向こうにある架空(エア)のクローゼットに収められた服の中から選んで借りるスタイルだ。

自宅に届いた服を楽しんだ後は、クリーニングに出さずに返送できるという手軽さ。月1回3着までのライトプラン(6800円)でも返却期限がなく、レギュラープランは月額9800円で何度も服を借りられるとあって、多くのユーザーから支持を集めている。

100年後の都市

そんな未来の服を着て歩く街は、どう変わっていくのだろうか。街の形や、そこに埋め込まれる機能は、私たちのライフスタイルを大きく左右する。もちろん、デジタルテクノロジーの影響は無視できない。

いまの街を歩いていて思うのは、「現代の都市は自動車のためにデザインされている」ということだ。

いまから100年前の1918年、日本では都市計画と住宅にまつわる問題が顕在化していた。アメリカでクルマ社会が到来しつつあった同年、日本を訪れた米経済使節団は東京の道路を、雨が降ったら田んぼそのもの、と評したという。こうした問題を解決するために、翌1919年に旧都市計画法が施行され、クルマ社会に対応するための街づくりが始まった。

それから100年、現代の東京には何本もの太い道路が走り、たくさんの駐車場が広いスペースを占有するようになった。それらが地上だけでなく、頭上にも地下にも存在し、それぞれのスペースで公衆衛生や交通事故といった問題を抱えるようにもなっている。

街には歩行者や自転車、自動車などが存在する。こうしたモビリティを効率的に、そして公平に行き交わせるために都市がデザインされ、交通政策がアップデートされてきた。私たち自身、散歩やサイクリング、ドライブを楽しむことも多い。

しかし「自動車のための街づくり」が約100年もの間、都市の形を決定づけてきたために、都市では散歩やサイクリングに不自由することが多く、ドライブでも郊外に出るまで渋滞に悩まされることが多い。

そんな都市が今後、クルマに新しいタイプが加わることによって変わっていこうとしている。それが自動運転車や自律走行車だ。

上の動画では、「都市部の交通量の30%近くは駐車場を探す運転手によって引き起こされている」と言われており、この「交通量」は「渋滞」と言い換えてもいいだろう。自動運転のクルマがよりスマートになれば、目的地でドライバーを降ろした後で、クルマ自身が近くのパーキングを見つけて駐車するという社会がやってくるかもしれない。そのときに乗っているクルマは、自分が買ったクルマではなく、カー・シェアリング・サービスで借りたクルマということもあるだろう。

1918年から2018年までの100年で、都市は「自動車のための街」としてデザインされてきた。そして2018年からの100年で、都市は「自律輸送が街にインストールされる時代」として記録されることになるかもしれない。

2018年5月に創刊予定のWebマガジン『DIGITALIST』では、本稿で紹介したファッション業界や都市計画の最前線に加え、デジタルテクノロジー×実店舗の最新形「Amazon Go」やデジタルテクノロジーをビジネスで活用する日本のファッションブランドを取材した記事を掲載します。『DIGITALIST』創刊のお知らせなどを受け取りたい方は、下部より「事前メンバーシップ」にご登録ください。

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