日経ビジネスオンラインスペシャル

Future Work Now(未来の働き方を今からはじめよう)

デジタル技術の活用で、労働環境は劇的に変わりつつあり、人間は新たな付加価値創造と活躍の場が求められる。
ユニークなキャリアと高い専門性を持つ多様なEYのプロフェッショナルたちが、近未来の働き方について、「エマージングテクノロジー」「組織・人材」「オペレーション」という3つの変革視点から解説する。

従来人が日々こなしてきた仕事の中には、今、テクノロジーの導入で大きく変わろうとしているものがあり、その結果として人に求められるスキルも変わりつつある。経理・財務においては、「情報を作る」スキルから「情報を使う」スキルへの変換、つまり正しく経理処理を行う仕事から、財務情報の解釈、提言、改革を通じて自社にとっての新しい価値をつくりだす人材が求められているのだ。デジタル戦略時代の働き方や組織のあり方、キャリアを築く上で必要なことなどについて、経理財務部門の変革とRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)導入支援を手掛ける高見氏に、人事・組織コンサルティング事業を統括する鵜澤氏が聞いた。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

鵜澤 ファイナンスの専門家に組織・人材の話を人事コンサルタントの私があえて聞いてみたいと思ったのがこの企画です。デジタルテクノロジーによって財務・経理担当者に求められる人材像、キャリアはどう変わっていきますか。

高見 伝統的な経理の仕事といえば、伝票処理して、入力して、試算表をつくって、貸借対照表、損益計算書を作成して、取締役会や経営会議に資料を提出することに大きな時間を割いてきた、というのが実態ではないかと思います。しかしテクノロジーの導入で、今では、これらの定型業務・反復業務はもうある程度自動化を志向し、人間は機械が出してきたアウトプットを確認したり、一部手を加えたりするなどして、財務情報の作成にかかる工数を従来よりも削減することができます。こうしたテクノロジーの活用により、財務情報をどう加工するか、どう解釈するかという、より付加価値の高い業務にシフトすることが求められています。数字をつくる側ではなく、使う側に回るということですね。
 経理・財務部門に対する役割期待は昔からこうしたものにあったはずですが、テクノロジーの導入によって、それが実務の中で実現可能なもの変わってきています。

鵜澤 とはいえ、すべての経理・財務の担当者が、高付加価値な業務へシフトできるのかというのがよくある懸念だと思います。

高見 「高付加価値な業務」という中にはさまざまな役割や仕事があります。例えば、データの持つ意味を科学的に分析するデータサイエンティストもその一つですし、テクノロジーを活用して業務プロセスの効率化と業務統制とを両立していくプロセス管理者/RPA管理者もその一つかもしれません。EYでは、このようにこれからそれぞれの会社組織で必要になる経理・財務人材要件を整理し、その育成、適正配置についてもサポートしていきます。
 私たちEYでは、経理・財務の機能を4つに領域に分けて整理しています。1つめがスコアキーパーで、数字をつくる経理財務の仕事です。2つめがカストディアンです。これは、内部統制の整備をしたり、資産の保全やコンプライアンスを守ったりする領域。3つめがコメンテーターという業績評価、予実分析を含む業績管理、経営層に対する報告などを行う機能です。最後はビジネスパートナーであり、これはマネジメントの意思決定に関与し、ビジネスの視点とファイナンスの視点の双方から企業の成長を支える機能です。
 今、スコアキーパー、カストディアン、コメンテーターの領域の機能を効率化したり、高度化したりすることのできる新しいテクノロジーが非常に速いテンポで実用化され、進化しています。言いかえれば、みなさんの時間の使い方をビジネスパートナー側へシフトしやすい土壌があると言えるのではないでしょうか。

鵜澤 ビジネスパートナーにはどういう要件が求められますか。

高見 まずは、ビジネスに対する深い理解。実務家的な視点ではなくて、戦略的な視点が必要です。あとは仮説構築力、問題解決力、コミュニケーション力。
 中でも仮説構築力は非常に重要だと思います。コメンテーターとビジネスパートナーでは何が違うかというと、ビジネスのことを知っている、数字の分析ができる――ここまでは一緒。違いは、コメンテーターは問われたものに対して打ち返すのに対し、ビジネスパートナーは自分から仮説をつくり、ここが問題なんじゃないか、だからこうしようと能動的に動く。そこが両者の違いかなと思います。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

財務・経理部門のデジタル化を加速するRPA

鵜澤 高見さんは米国シリコンバレーでベンチャーキャピタルの経営に携わるなど、とてもユニークなキャリアを持っておられますね。

高見 1995年、会計士として日本の大手監査法人に入所し、キャリアをスタートしました。その後、1999年にベンチャーキャピタルに転職し、米国シリコンバレーの町、パロアルトで9年ほど働き、当初はControllerとして、その後、2003年からCFO(最高財務責任者)を務めることになりました。CFO就任時には新たにビジネスを立ち上げるタイミングでしたが、5年たって管理資産規模が大きくなり、経営もオペレーションも軌道に乗ってきた後に、CFOを辞めて日本に帰国しました。それから2年ほど別の大手コンサルティングファームにいたのですが、2010年にEYがコンサルティング部隊を立ち上げるときに参画し、今に至っています。

鵜澤 あらためて、現在の高見さんのEYでの役割について教えてください。

高見 私はPI(パフォーマンス・インプルーブメント)ファイナンス、すなわち主に企業の経理財務部門の業務変革を支援するチームのリーダーです。同時に、RPAのアドバイザリーのリーダーを兼任しています。

鵜澤 RPAの導入コンサルティングは、EYの競合コンサルティング会社やITベンダーも同様のサービスを提供しています。差別化が難しいし、マーケットもちょっと一巡した感じもします。何がEYの差別化ポイントでしょうか。

高見 RPA導入の本来の目的は、デジタル戦略を推進する中で業務プロセスを見直し(BPR/ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)、人材を育てることにあります。そのためにEYでは、RPAの内製化を推進しています。その理由はまず、業務の効率化。アウトプットの高度化など業務改革が目的ですから、業務側つまりユーザー部門が主体的に構築と運用に関わる必要があることが挙げられます。また、内製化することによるコストメリットといった定量効果に加えて、自分たちで進めることによって業務の本質的な改善につなげていっていただきたいという趣旨です。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

鵜澤 RPAはどうやって導入するかというハウツーの議論になりがちです。しかし、導入はあくまできっかけであり、むしろ高度な専門人材をどう育てるか、社内での役割をどう変えるかという部分はとても大事ですね。

高見 その通りです。EYでは、クライアントの企業価値を最適化する「Client Centric」の考え方に基づいてアドバイザリーを行っています。一番大事なのは、デジタル戦略の下で、RPAを使える人と組織に変えていくことです。組織を変革しながら全体をコントロールし、ガバナンスを効かせていくためのアドバイザリーを行っていきます。

鵜澤 RPAの先進的な導入事例について教えてください。

高見 ある大手企業のクライアントでは、RPAを導入するときに「失敗してもいいから、業務を見直すきっかけにしたい」と言われました。そこでシステムを使うためのトレーニングから始めたところ、みなさんが自分たちの業務を根本から見直し始めたのです。この業務プロセスは本当にこれでいいのかといった議論が社内で起きて、業務に対するリテラシーが上がりました。中には、そもそもロボ化しなくてもプロセスをこう変えれば効率化できるといったアイデアもでてきた。RPAが本質的なものの見方、考え方を促すきっかけをつくったというのは、とても興味深い経験でした。

鵜澤 今のご指摘は、テクノロジーを脅威ととらえずに、人間がどのようにうまくそれを使いこなしていくかという、今回の連載全体に通じるテーマにつながるものですね。また、組織・人材の問題は人事部の問題ではなく、経営課題であり、現場で解決すべき重要な課題であるという示唆にもつながったと思います。
 次回はオペレーション変革という視点から、未来の働き方を議論していきたいと思います。

  • 高見 陽一郎(Yoichiro Takami)

    EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
    ファイナンス リーダー
    RPAアドバイザリー リーダー
    パートナー

    大学卒業後、大手監査法人にて会計士としてキャリアをスタート。その後、米シリコンバレーに渡りベンチャーキャピタルにてファイナンシャル・コントローラーおよびCFOを務める。帰国後、外資系コンサルティングファームを経て、2010年にEYにジョインし、EYアドバイザリー(現EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング)の立ち上げに参画。

  • 鵜沢 慎一郎(Uzawa Shinichiro)

    EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
    ピープル・アドバイザリー・サービス リーダー
    アドバイザリー・ビジネスデベロップメント リーダー
    パートナー

    EYで国内100名超の人事組織コンサルティングサービス事業責任者兼同社の経営会議メンバーをつとめる。事業会社人事及びコンサルティング会社で20年以上の人事変革経験を持ち、専門領域は人事戦略策定、HRトランスフォーメーション、チェンジマネジメント、デジタル人事。 大規模複雑なグローバル人事変革や最新テクノロジー活用による業務・システム改革、働き方改革を数多く経験。

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