日経ビジネスオンラインスペシャル

Managing Global Competitive Position国際競争力強化の戦略

世界のビジネス環境の変化は加速される一方だ。テクノロジーの急激な発展に伴い、M&Aで自社にない事業や人材を手に入れ、熾烈なビジネスの第一線に躍り出ようとする動きも盛んになっている。そうしたなか、日本企業にとって重要になってきたのが「ポートフォリオ・ストラテジー」「企業の再編・売却(ダイベストメント)」「成長とタックス戦略」の3つだ。

収益率の低い事業を継続していては成長は望めない。成長分野を見きわめたうえで、経営資源を最適に配分するポートフォリオ管理が日本企業に求められている。議論に前提になる客観的・定量的データを得るためEYは「The Full Potential Paradigm™(FPP、フル・ポテンシャル・パラダイム)」を開発済み。FPPを用いた「戦略的ポートフォリオ最適化」とは何かを聞いた。(聞き手:日経BP総研 ビジョナリー経営ラボ プロデューサー 長坂邦宏)

――事業ポートフォリオをどう持つか、そしてその価値を最適化するによって、同じ業界にあっても企業業績は異なるといいます。つまり、各企業のポートフォリオ・ストラテジーが重要なわけですが、日本企業の取り組みの現状を教えていただけますか。

高松 一般的に日本企業のポートフォリオ・ストラテジーへの取り組みはまだまだです。複数の事業を有するという意味で「ポートフォリオを持つ」という考えはあっても、「ポートフォリオを最適になるように、定期的に見直してダイナミックに変えていく」ということは実施していなかったのが現状ではないでしょうか。事業は一度始めたらやり抜くことが是となっており、市場環境や競合環境が変わってもその中でベストを尽くす。それは事業部長視点ではいいのですが、最高経営者(CEO)視点では「本当に企業価値を最適化しているのか」を考えるべきです。日本企業でのCEOは事業部長から上がってくるケースがほとんどですので、なかなか価値観を変えることが困難なのは理解できますが、社外取締役の増加に伴い、CEOの役割・価値観も変わらざるを得なくなっています。
 実際にポートフォリオ・ストラテジーに対する経営陣の関心は高まっています。
 EYが半年に一度実施しているキャピタルコンフィデンス調査(*)でも、今年は日本の経営者の81%が、ポートフォリオ戦略が経営会議でも最も重要な課題であると回答しており、この数字は前回の調査では21%(1年前では19%)でした。ちなみにグローバルでは70%です。

EYグローバル・キャピタル・コンフィデンス調査: 日本を含む43カ国2,500名の経営層に対して半期ごとに実施するM&Aに対する意識調査

 実際に一部の業界、たとえば医薬品メーカーでは取り組みが始まっています。医薬品メーカーは自社にとって付加価値の低い部門を他社に売って、付加価値が将来的に高いと思える部門を他社から買うということを、グローバルに行わざるをえない状況になったからです。重要な経営課題として、日本市場成長の限界(人口問題と薬価水準見直し)と特許切れという「パテントクリフ(特許の壁)」という問題があるからです。
 事業ポートフォリオは、バリューチェーンに沿って研究開発(R&D)、製造、営業、マーケティング、流通などの機能を考える場合(垂直軸)と、製品・製品群のバラエティーを考える場合(水平軸)があります。医薬品メーカーの場合、新薬を出すためのR&Dに経営資源を集中し、たとえば付加価値の低い製造部門は他社に任せていく(委託製造:CMO)という動きが垂直軸によるポートフォリオ戦略です。それにより創出されたキャッシュをR&Dに振り向け、自社製品とシナジーのある、または補完関係にある製品分野のベンチャーを買収するという動きが水平軸となります。このように垂直軸と水平軸の最適な組み合わせをダイナミックに考えることが、本来のポートフォリオ・ストラテジーです。医薬品メーカーの場合でも、まだこれが日常という状況ではありません。先端の欧米企業ではこのようなポートフォリオの見直しを定期的行い、企業収益の最大化を図っています。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

――今後は業界全体の水平軸について考えることも重要になるわけですね。では、成長率の高い分野に集中することはもちろんですが、低成長率分野にもポートフォリオ・ストラテジーの考え方は有効ですか。

高松 先ほど切り離される例として医薬品製造を上げましたが、この分野は一般的に利益率が低いのですが、スケールメリットを持つことによって市場全体の平均よりは高い利益を上げることもできます。ハイリスク・ハイリターンのR&Dよりは製造で規模の利益を取る方がいいという考え方で、それも立派なポートフォリオ・ストラテジーです。

世界35万社をデータベース化した「The Full Potential Paradigm™」

――事業ポートフォリオの価値を最適化することが大切だということですが、「最適化」はどのように行うのですか。

高松 事業分析をきちんと行い、事業が本来持つ価値と現状との差異を見いだし、それを客観的・定量的なデータとして把握したうえで、経営トップと議論を重ねていきます。分析だけで結果がでるわけではなく、経営の意思・意図が重要な要素になります。客観的・定量的な分析のフレームワークとして、EYは「The Full Potential Paradigm(FPP)」という手法を開発しています。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

――FPPについてもう少し詳しく説明してください。

高松 これは世界35万社程度の事業ごとの売上・収益性を経年でデータベース化し、対象企業の事業の持つフルポテンシャルを見きわめ、現状の事業のあり方、フルポテンシャルとのギャップを見つけていきます。きわめてデータドリブンな考え方と言っていいでしょう。
 ギャップには、「パフォーマンス・ギャップ」(収益率の違い)、「オポチュニティ・ギャップ」(相対市場シェアギャップ)、「パーセプション・ギャップ」(市場認識ギャップ)などがあります。こうしたギャップがどのくらい大きいかが、データ分析によって見つけられます。それはあくまでも議論の土台です。経営陣と客観的に意味のある議論するための土台をきちんとつくりましょうといのがFPPの考え方なんです。コンピューターを使って膨大なデータを処理しますが、対象企業と業種によってやり方は異なりますので、だいたいギャップを定量的に把握するためには1カ月ほどかかります。

――日本企業の現状を見た場合、どのギャップが一番大きいですか。

高松 やはり一番大きいのは「パフォーマンス・ギャップ」ですね。日本企業の製造業の収益率は平均で3~5%程度。これに対して海外のトップ企業は10%、15%が当たり前ですから、日本企業も「低い収益率でも仕方ない」という考え方を変えていかなければいけません。

――世界でFPPを使った事例はどのくらいありますか。

高松 開発が完了したのは3年ほど前ですが、それ以前から何度も何度も同様の方法論でデータの蓄積は行ってきました。これまでFPPを適用したのは70~80事例に上ります。日本でも、世界に展開しようとしている通信会社でパイロット的に実施したことがあります。

ポートフォリオ・マネジメントへの取り組みは「ガバナンス」が重要

――さて、次のステップがCEOはじめ経営トップとの議論ですね。CEOの問いに対する答えとして代表的な項目は?

高松 次の3つです。「どうすれば現在の事業の業績を最大化できるか」「将来、どうすれば会社の資産や経営資源を最適に投資できるか」「会社の戦略が株主価値を最大化していることを、どのように投資家に伝えればよいか」――です。これを経営トップが持っているビジョンと照らし合わせながら議論して、あるべきポートフォリオを設定していくわけです。その際には税制の影響や独禁法の問題、分社・分離のチャレンジなども議論になります。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

――ポートフォリオ・マネジメントへの日本企業の取り組みはこれから本格化するわけですね。

高松 グローバル化が進み、市場の変化するスピードも速くなっているので、成長を目指す日本企業もポートフォリオ・マネジメントに積極的に取り組むことが求められています。今後は取り組まざるを得ないという認識を持つCEOがとても増えてきると思います。

――そうしたなか、ポートフォリオ・マネジメントに取り組むときに何が大切ですか。

高松 ガバナンス(企業統治)の問題です。ポートフォリオを入れ替えていくということは、新しい事業が入ってきて新しい人が加わり、これまでの人がいなくなるわけですから、きちんとしたガバナンスがないとバラバラになりがちです。コーポレート・カルチャーとしても、やっぱり一貫したものができないということになりますから、ガバナンスの問題は一番重要だと思いますね。

――ガバナンスを効かせるにはどうしたよいですか。

高松 複数の事業に共通するポリシーとプロセスが必要ですね。この経営管理の問題が1つ。それから、事業ごとに評価の仕方が違ったり、オペレーションの仕方、投資の考え方が違ったりするので、共通のプラットフォームを持っていないといけません。どの事業が入ったり出たりしても、根幹になるようなプラットフォームがある会社は強いですね。それがガバナンスの強みにつながります。

EYのポートフォリオ・ストラテジーの強みは何か?

――FPPを用いたEYのポートフォリオ・マネジメントの特長はどんなところにありますか。

高松 すでにお話ししたようにFPPという方法論がEYにはきちんとあるということです。議論の土台となる客観的・定量的なファクトは素早く出さないと意味がない。そしてファクトですから、第三者が客観的な見方ができるというのは大きなメリットです。それを約1カ月という短期間で提供できるのも強みです。
 CEOを含む経営陣との議論で大切なことは、本当にこの会社を経営できるかの「ガバナンス」、そしてその会社の「プラットフォーム」は何なのかというところですが、もう1つ「シナジー」がとても重要です。事業間でシナジーが得られなければ全くバラバラです。そうでもいいという考え方もありますが、最近は極力シナジー効果の高いものを持ち、他社よりもコストを抑えたり、売り上げアップの期待を持ったりということが追求されるようになっています。

――ポートフォリオ・マネジメントを成功させる秘訣は?

高松 やはり最後はCEOのリーダーシップだと思います。最適ポートフォリオを持ち、それをダイナミックに管理していく会社になっていくという企業ポリシーをきちんと持ち、リーダーシップを発揮していただくことが大切です。ポリシーやリーダーシップが曖昧だと、せっかくいい議論をしても、結局はずるずると決められないということになってしまいます。

  • 高松 越百(Cosumo Takamatsu)

    EYトランザクション・アドバイザリー・サービス
    EYパルテノン 日本リーダー
    マネージング・ディレクター/パートナー

    主にBooz Allen Hamiltonで25年以上、戦略策定・業績改善のプロジェクトに従事。国内外の自動車、消費財・小売りセクターを得意とする。コンサルティング以外では、ファーストリテイリング、サイエントで企業経営の経験を有する。2017年よりEYパルテノンの日本リーダーとしてEYに参画。東京大学卒、MITスローン経営科学修士

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