日経ビジネスオンラインスペシャル

Managing Global Competitive Position国際競争力強化の戦略

世界のビジネス環境の変化は加速される一方だ。テクノロジーの急激な発展に伴い、M&Aで自社にない事業や人材を手に入れ、熾烈なビジネスの第一線に躍り出ようとする動きも盛んになっている。そうしたなか、日本企業にとって重要になってきたのが「ポートフォリオ・ストラテジー」「企業の再編・売却(ダイベストメント)」「成長とタックス戦略」の3つだ。

コーポレートガバナンス改革が進み、経営や執行に注がれる社外の目は厳しくなるばかり。日本企業は、欧米企業に比べて低い利益率の改善や成長への具体的な行動を、株主や市場から突きつけられている。そうした要求に応え、国際競争力を強化するために、日本企業は事業再編・売却を早急に進め、成長の見込まれる事業への積極的な投資が求められている。待ったなしの状況だ。(聞き手:日経BP総研 ビジョナリー経営ラボ プロデューサー 長坂邦宏)

――日本企業の再編・売却(ダイベストメント)が増えていますが、その背景にはどんなことあるのでしょうか。

大胡 現在の政権下でコーポレートガバナンス改革が進められており、企業は取締役会に社外取締役、社外監査役を任用し、経営や執行に社外の厳しい目が注がれるようになっています。社外役員は経営指標として自己資本利益率(ROE)の改善や成長(Growth)を強く求める傾向にあります。
 ROE改善には利益率、固定資産回転率の改善が不可欠ですし、その手段として事業再編や事業売却、子会社数の削減を進め、ノンコア事業の売却で得た資金を成長分野へ回すようにしているのです。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

――EYパルテノン 日本リーダー、高松越百(こすも)さんへのインタビュー「ポートフォリオ・ストラテジー」でうかがった「事業ポートフォリオを最適化する」ために事業売却は必要なわけですね。

大胡 はい。この2、3年で事業ポートフォリオを組み替えて最適化を図るという動きが増えてきましたね。日本企業の課題でもあるのですが、これまでは労務・雇用問題があり、どうしても事業を切り離して他社に売るということがなかなかできませんでした。しかし、グローバル化が進み、競争環境が大きく変わるなかで、労務・雇用問題に過度に反応しなくなってきたことも、事業の再編・売却(ダイベストメント)が増えてきた要因の1つといえそうです。
 もう1つの要因として、やはりテクノロジーの進歩が大きいと思います。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入などがどんどん仕事の現場に入ってくると、業務の仕方や人の雇用形態が変わってきます。そうすると、今ある事業や機能をこのまま抱え続けていなくてもよいのではないかと考えるようになる。伝統的な企業ほど人を多く抱えてきましたので、事業ポートフォリオの最適化は大きなテーマになってきたといえるでしょう。

社内合意や最終意思決定に時間のかかる日本企業

――日本企業のグローバル化も進んでいますが、まだまだ日本的慣習が残っているなどの課題があると聞きます。ダイベストメントについて考えるとき、何か特徴的なことはありますか。

大胡 「時間を要する」ということです。ある事業を売却することがほぼ決まっていると思える場合でも、社内合意をはかり、最終意思決定をしたりするまでに時間を要することが多い。比較として外資系企業の意思決定の流れをみると、やや乱暴と感じる場合もありますが、「株価の低下などから株主期待を受け止め、1年も待たずに迅速に売却」というスピーディーに決断する。明らかにカルチャーの違いはあります。
 外資系企業に限らず事業再編・売却に積極的な企業の場合は、ノンコアである事業を切り出し、売却価値を高めてから売って資金を得て、そして新しいところに投資していく。こうした一連の流れのなかで、いかに企業価値を高められるかということをいつも考えています。企業価値が高まれば、最終的には株価に反映され、株主の価値が高まるわけですね。そういう考え方が徹底されているようです。

――それに対して日本企業は、従業員への配慮が強かったと。

大胡 はい。従業員の雇用への配慮は法的な面でも必要でありますし、売却を進めようとする親会社のレピュテーション(評判)を考えることもあると思います。

――前回「ポートフォリオ・ストラテジー」のインタビューでは、日本企業の収益率を高め、パフォーマンスを上げる余地が大きいという指摘がありました。

大胡 次の成長事業に投資していくには、今ある事業のなかからコアでないものを切り出して、売却し、それで得たお金を投資していくという流れが必要です。固定資産を売却することで固定資産の回転率が上がり、赤字事業の売却で利益率が改善されますので、ROEの向上に貢献することになります。

――ダイベストメントを進める際、何か特別に有効な方法はありますか?

大胡 ダイベストメントのやり方というのは、ある程度アプローチが決まっています。たとえば、従業員の雇用問題、既存のお客様や取引先に対するアプローチ、工場などの固定資産、研究開発といった無形資産への対応、あるいは法務や税務の面でどう手続きを行い、最終的には事業価値、資産価値はどうなるのか。こうした課題への対応は一連のパッケージになっているので、それらを漏れなく対処していくことが大切です。
 EYのグループ内には労務・業務・法務・財務・税務の専門家がおり、それらの専門家がダイベストメントチームとして一気通貫にご支援できるのがEYの大きな特長だといえます。それは計画段階においても、実行段階においてもそうですし、グローバルでの対応も可能です。

日本企業にとって事業再編・売却は避けて通れない

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

――ダイベストメントに取り組むときの難しさはどんなことですか。

大胡 事業ポートフォリオを最適化するという点だと思います。企業の経営陣の間ではどうすべきか方向性は出ていても、具体的に動き出すための社内の意思決定に時間がかかり、議論が頓挫してしまう場合もあります。どの事業をノンコアと判断し再編・売却するかのポートフォリオ戦略が社内で十分に検討できず、ダイベストメントの取り組み対しては社内の抵抗があるという課題は多くの企業に残っていると思います。
 私共がお手伝いさせていただくケースは、「既にある事業の再編・売却が意思決定されたが、社内の限られたリソースで進めなければならない。そのため、外部の支援が必要」という場合が多いです。
 切り出すことを予定している事業の財務諸表、例えば、切り出す資産・負債はどうなるか、税務の面でどんな影響が出てくるのか。また切り出した事業はすぐに100%売却するのか、合弁会社にするのか、いろんなパターンが考えられますので、それぞれについて素早く漏れのないように必要な観点からチェックしなければなりません。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー
「企業のダイベストメントに関する意識調査」における調査結果

――事業の再編・売却の動向をどう読み、それに対するEYはどんなサービスで特長を出していこうとお考えですか。

大胡 私共の調査結果でも出ておりますが、間違いなく、事業の再編・売却という動きは加速していくと思います。今ある商品・サービス、仕事のやり方、所有する固定資産、人材、それらすべてを抱えたまま、これまでと同じように事業を継続していける企業は、残念ながら減っていくでしょう。またグローバルの厳しい競争環境にすべからく巻き込まれていきますから、ポートフォリオ・ストラテジーを検討した上で、すべてを抱えこまない事業の再編・売却には取り組まざるを得ないでしょう。
 一方で、小規模なダイベストメントでは株主の理解を得られない、実行しても株価に反映されにくいこともあるでしょう。「大きくスピーディー」に事業再編・売却に取り組むことがグローバル基準として求められています。この動向に対し、EYではグローバルダイベストメントチームとして支援していきます。日本企業にとって事業再編・売却の問題は避けて通れなくなってきています。

  • 大胡 晋一(Shinichi Ogo)

    EYトランザクション・アドバイザリー・サービス
    オペレーショナル トランザクション サービス
    パートナー

    EYトランザクション・アドバイザリー・サービスのパートナー。国内、アジアおよび欧州において組織再編、地域統括設立、買収後統合など、数多くの経営統合業務、M&Aクロスボーダープロジェクトに従事。EY Japan新興国コンサルティング室兼務

PAGE TOP