日経ビジネスオンラインスペシャル

米国税制改正の影響は?サプライチェーンの再設計で重要となる税務戦略とは

Maximizing Supply Chain Valueサプライチェーン・オペレーティングモデルを再考する

サプライチェーンが世界で複雑化した今、それは企業が生み出す製品やサービスの付加価値を高め、収益を最大化するための経営戦略の「手法」のひとつとなった。
旧来の「コスト」削減の要素にとどまらず、国際競争に打ち勝つためのサプライチェーンのオペレーティングモデルを考える。

納税と税コストの削減をめぐり、各国税務当局と企業は攻防を繰り返している。日本でも昨年度の税制改正でタックスヘイブン対策税制が強化されたことにより、経済実態にあわせた企業側の対応が求められている。
サプライチェーンを再設計する際、税務リスクをどう減らすべきか。サプライチェーン・コンサルティングサービスを統括する羽柴氏が、国際競争力を維持するための税務戦略について、多国籍企業向けの移転価格コンサルティング経験が豊富な山田氏に聞いた。

羽柴 2017年12月、トランプ大統領が大規模減税を実現する税制改革法案に署名し、同法が成立しました。約30年ぶりの税制改革と言われ、大きなインパクトがありましたね。

山田 はい。今回の税制改革の一番大きな影響としては、やはり法人税の大幅引き下げが挙げられます。法人税率が35%から21%に引き下げられたことにより、米国内での投資が進み、所得を増やすことへのモチベーションが高まっていると言えます。
 そのほか、グループ会社への支払いについても、今まで税務上の損金として収益から差し引くことができた費用が損金処理できなくなったり、輸出や国外へのライセンス供与などを通じたオンショア活動を奨励するための優遇税率を制定したりして、米国内に付加価値の高い業務や資産を配置することが促進されています。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

米国税制改正によるサプライチェーンへの影響は?

羽柴 ところで、米国には製造拠点があるケースもあれば、製造拠点はなく、物流と販売をしているケースもあると思います。それぞれへの影響はどう見ますか。

山田 トランプ大統領は「アメリカを再び偉大にしよう」と言っているわけですが、それは販売とか物流といった比較的シンプルな機能というよりは、製造業や技術、商標といった大きな収益につながるような無形資産の開発機能を米国に持ってきたいというのが基本的な考え方です。ですから、それに応じた税制になっているように思います。
 特に税コストに敏感な欧米系の多国籍企業は、今回の税制改革を活用して、開発や製造、所得の源泉となる重要な機能を今後米国内に配置するようなプランニングを既に検討している段階であり、日系企業はグローバル競争に打ち勝つためのサプライチェーンの見直しが必要になっています。

羽柴 さきほど税務上の費用を収益から一部差し引くことができなくなるという改正条項「BEAT=税源浸食防止規定」の指摘がありました。この影響について、もう少し詳しく教えてください。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

山田 BEATは、米国内の企業から米国外のグループ会社への支払いに課税するもので、日本企業の米国子会社が本社に払う特許使用料などが課税対象になる可能性があります。これまで損金として認められていたものが今後認められなくなるので、何らかの方法を打たなければ、税務コストが膨らみ、日本企業の国際競争力が徐々に失われることが懸念されます。

羽柴 ということは、重要な機能をどの国に配置するかで企業グループの収益スキームは変わってくるわけですね。

重要な機能の配置と収益スキームの設計

山田 はい。基本的には付加価値の高い活動を行っている拠点が大きな利益を得たり、損失を被ったりするという経済的概念の下で、各国の税務当局は税収の綱引きを行っています。これが「移転価格税制」の概念になりますが、これに基づくと、法人税率の低い国で付加価値の高い活動を行うと税引き後利益が大きくなるということになります。
 例えばアジアでよく見られるのが、シンガポールにアジアの地域統括会社を置いて、その地域統括会社がその傘下のアジア子会社に対して統括業務を行うというものです。本来ならシンガポールに置いた地域統括会社がその傘下のアジア子会社からサービスフィーやロイヤルティをもらい、プロフィットセンターとして得た利益をアジアの再投資に充てることができるはずですが、シンガポールでのコスト+αのみを日本本社からサービスフィーとして受け取っている状況も見られます。

羽柴 ガバナンスの観点からも、権限の観点からも、まず地域統括会社があり、その下で子会社を管理していくという体制が重要ですね。

山田 ええ。地域統括会社傘下の子会社からのサービスフィーやロイヤルティで集まったキャッシュをシンガポールの地域統括会社に集めることで、アジアの子会社への再投資や、ミャンマーやカンボジアといった新興国に対する新たな投資ができるようになります。そうした視点からシンガポールの地域統括会社をうまく使っていくことは非常に有効だと思います。
 日本企業のアジア戦略やグローバル戦略を立てる際に、税務上の考え方をサプライチェーンにかかるグループ各社の役割や権限の配分に取り入れていけば、次の投資に向けたさらなる成長戦略が見込めるのではないでしょうか。

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BEPS「15の行動計画」後に何がどう変わったか

羽柴 わかりました。ヨーロッパについてはどうでしょうか。ヨーロッパに無形資産を保有する関係会社を設立して、ロイヤルティを回収する外資系企業もありますよね。

山田 その通りです。ヨーロッパなどにある一部の低税率国に無形資産の保有法人を設立し、そこでグループ各社から受け取るロイヤルティを通じて超過収益を得たり、各国の税法や租税条約を利用して利益移転を行っている企業があるのではといったような問題が7~8年前から注目されてきました。
 そのような状況の中、G20(20カ国・地域)会議の要請を受けた経済協力開発機構(OECD)の租税委員会が「BEPS(税源浸食および利益移転)プロジェクト」を立ち上げ、2015年に「15の行動計画」からなる最終報告書をまとめました。
 そのポイントは、企業のサプライチェーンにおける所得の源泉として、無形資産の「開発・改良・維持・保護・活用(DEMPE)」機能が重視されることになり、その活動実態が重視されるとともに、これらの機能のない拠点は大きなリターンを受け取ることはできないという考え方が示されたことです。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

羽柴 企業がサプライチェーンを再設計する場合、無形資産がDEMPE機能の実態に紐付くことを念頭に置いて検討しなければいけないわけで、ペーパーカンパニーでは要件を満たさないですよね。ではサプライチェーンを見直す際、具体的にはどういった点が税務リスクにつながりますか。

山田 BEPS後の「恒久的施設(PE)」の概念によれば、これまでPE課税されていなかった調達サービスでも、場合によっては、今後はPEとして課税対象になる可能性があると言われています。ポストBEPSの世界で、調達拠点の専門性や重要性が各国の税法でどのように位置付けられているかを確認して、思わぬ落とし穴に陥るリスクは避けたいものです。

羽柴 日本でも、平成29年度(2017年度)の税制改正でタックスヘイブン対策税制が改正されました。

山田 やはり経済実態が重視される内容になっていることから、これまでは合算課税を免れていたケースでも、今後は合算課税になるリスクがあります。
 サプライチェーンを再設計する際には、どの国にどのような機能、どのような人員を配置するかをしっかり考えた上で、進出国の税制だけでなく、日本国内への資金還流を見据えて判断するのが重要ではないでしょうか。

サプライチェーンを再設計する際、実務で気をつけること

羽柴 サプライチェーンの再設計に着手する場合、実務面でほかに気をつける点はありますか。

山田 サプライチェーンは通常、事業部を中心に検討されることが多いのですが、そこに税務の要素を入れていくと、税務メリットばかりに着目されがちです。しかし、昨年には租税条約上の恩典を受けることが主な目的とならないようにBEPS防止措置実施条約が制定され、それに約70カ国が署名を行いました。
 サプライチェーンを検討するに当たっては、その主たる目的は事業上の目的や経済合理性であるはずなので、税務部が事業部から示されたいくつかのオプションの中から、税務リスクとコストのチェックを行い、より良いサプライチェーンモデルの構築につなげていくのが理想です。
 私たちEYには「ビジネス」と「税」の双方の観点から一緒に動けるチームがありますので、その理想を追求しながらクライアントの国際競争力を高める支援をしていきたいと考えています。

  • 山田 早苗(Sanae Yamada)

    EY税理士法人
    移転価格部
    エグゼクティブディレクター

    Big4 税理士法人での移転価格アドバイザリー経験を経て、2012年にEY税理士法人に入所。17年以上にわたる豊富な移転価格コンサルティング経験を有し、二国間事前確認を中心に、移転価格ポリシーの策定、移転価格の文書化、調査対応等の様々なアドバイザリー業務を多国籍企業に提供している。

  • 羽柴 崇典(Takanori Hashiba)

    EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
    サプライチェーン・アンド・オペレーションズ リーダー
    パートナー

    2012年にEYに参画し、2014年よりサプライチェーン・コンサルティングサービスを統括している。事業会社およびコンサルティング会社で30年以上のサプライチェーンの経験があり、主に製造業、流通業に対して、経営管理、サプライチェーンマネジメントの業務改革、システム再構築の計画立案と導入、定着化のコンサルティングを多数手掛けている。

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