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ユニコーン企業“メルカリ”が英国への道を進んだワケ - イノベーションを育む“エコシステム”の存在が、英国進出の決め手

ユニコーン企業“メルカリ”が英国への道を進んだワケ - イノベーションを育む“エコシステム”の存在が、英国進出の決め手

産官学が連携し、「オープンイノベーション」を積極的に推進

 文化も言語も異なる海外でのビジネスの成否を左右するカギの一つが、取り巻くビジネス環境だが、その観点からも「英国はイノベーションを育む“エコシステム”が完備されている点が最大の魅力といえます」と伊藤氏は語る。

 その要素の一つとして特に伊藤氏が重視するのが、先にも挙げた「求める人材との出会いやすさ」だ。

 日本ではエンジニアをはじめとする人手不足が深刻化の一途をたどっているが、英国においてはFintech従事者数(金融知識、IT知識、起業家・リーダーシップスキルを持つ者)だけ見ても、Fintech急成長期であった2015年の段階で6万1000人と、シリコンバレーを擁するカリフォルニアの7万4000人に迫る勢いで増加傾向にあった。

 ロンドンを中心とする経済活動の大きさも、欧州の他国からの人材を惹きつける要因となっており、「多様性に富む欧州市場でビジネスを展開していく上でも、多種多様な専門性、バックグラウンドを持つグローバル人材が見つけやすい英国に拠点を構える優位性は高いです」と伊藤氏。

 英国では、オックスフォードやエジンバラ、ケンブリッジといった、データサイエンスやAI(人工知能)などの専攻コースがある名門大学や、デジタル関連の専門機関などが豊富だ。「先端技術産業のスタートアップ企業が数多く集積することから、人材の流動性も高いです。成功している企業、その経営者とのネットワークにより、さまざまな知見、情報を共有できるのも魅力です」と伊藤氏は語る。

 また、英国が擁するエコシステムの最大の“要”が、産官学が連携してのオープンイノベーションの存在だ。国を挙げてインフラ整備、資金調達などの起業環境の整備、起業支援策が進められ、スタートアップ企業と既存の大企業との結びつきが強いのも英国の特徴。

 ロンドン東部には、テクノロジー企業が集まる「Tech City」と呼ばれるエリアもあり、それぞれの産業分野で大企業、ベンチャー、スタートアップ企業が混在。アクセラレーター、インキュベーターなどの専門家も含め、各分野でスタートアップ企業と既存産業が融合し、イノベーション創出に取り組むアクセラレータープログラムも盛んに行われている。

 今や、こうした“テックハブ”が存在するのはロンドンだけではなく、エジンバラやケンブリッジ、オックスフォードなど、英国内に広く波及しつつある。

 英国というと、EU離脱後の不確実性を懸念する見方もある。だが、こうした対英投資への積極姿勢を見ても、同国が魅力的なビジネス環境を整備している、紛れもない証拠と言っていいだろう。

 また、技術開発の先端的エリアというと、米国・シリコンバレーがまず頭に浮かぶが、「投資におけるバリエーションから見ても、グローバル進出を目指す企業にとって、英国が注目すべき“主戦場”の一つであることは間違いないでしょう」と伊藤氏。今後、さらなるエコシステムの拡大も期待されている。

 「インスタントセリング」などの新たなサービスを武器に、英国から欧州、さらに世界に事業展開を目指すメルカリ。その試金石となる英国での同社のサービスの行方、英国を巡るスタートアップシーンの盛り上がり、新たなイノベーション誕生の潮流にも注目したい。

※出典:UK FinTech: On the cutting edge ‒ An evaluation of the international FinTech sector(EY UK)

メルカリ英国オフィス
メルカリの英国オフィス。ローカルスタッフの半分は英国人で、半分は欧州の他国出身者が占める。欧州全域から先端テクノロジーに強い優秀な人材が集積するのも英国の魅力といえる

イノベーションと成長を実現する対英投資

英国ではイノベーション創出とそのための“エコシステム”の整備に注力している。政府主導で研究開発への資金調達や税額控除、インフラ整備などの支援策を推進し、その規模は世界最大級を誇る。英国政府の研究資金助成機関「イノベートUK」の助成額も、この10年間で急速に増加しており、研究開発費支出を2020〜21年度までの4年間で計47億ポンド(約6600億円)増額することも発表された。新たなイノベーションを目指す企業にとってさらなる追い風といえる。もう一つの注目すべき取り組みが、同じくイノベートUKが創設した「カタパルト(Catapult)」の存在だ。カタパルトとは「発射装置」といった意味だが、専門のスタッフにより、産官学連携を促進。先端技術や科学における優れたアイデアを製品やサービスとして送り出す公的な拠点、まさに“発射装置”として機能する。デジタル分野だけでなく、「細胞治療」「エネルギーシステム」「高付加価値製造」「輸送システム」など、さまざまなテーマごとに拠点となる「カタパルトセンター」が設けられているのも特徴だ。対英投資の検討材料をリサーチするならば、そのサポート役を担う英国の国際通商省(DIT)の下記サイトを参考にしよう。

対英投資の魅力をさらに知る
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