日経ビジネス ONLINE SPECIAL

IoT時代に必要な現場力とは

10分で理解するデジタルの「旬」
次世代ファクトリー
競争力の高い“ものづくり”の復権へ
次世代ファクトリーへの挑戦に活路あり
 IoT(モノのインターネット)に象徴される製造業のデジタル化は、そのビジネスモデル自体に転換を迫る大きな変革を引き起こそうとしている。海外勢はこの流れに機敏に対応しており、ドイツの「インダストリー4.0」や米国の「インダストリアル・インターネット」はその象徴。国や業界を挙げて、産業のデジタル化を力強く推進している。それに比べると、日本勢は立ち遅れの感が否めない。日本の製造企業が市場の変化にいち早く対応し、顧客ニーズを満たす製品を提供するには何をすべきか。その“解”の1つとなるのが、「次世代(スマート)ファクトリー」、すなわち「Connected Industries」の実現だ。既にその取り組みは静かにしかし確実に、進行しつつある。そのキーワードは、さまざまな仕組みやシステムの連携だ。

産業設備とITシステムの融合が新たな可能性を広げる

 そうした潮流の1つが「ITとOTの融合」である。企業システムを中心に形成されてきたIT(Information Technology)と、産業分野における装置のモニタリングや運用を制御するOT(Operational Technology)はそれぞれ性質の異なるシステムであり、これまでその構築・運用は分断されていた。

 しかし、近年は2つの融合が急速に進みつつある。OTシステムの高度化によって、その基盤技術であるプラットフォームやソフトウエア、セキュリティ、通信機構などの“IT化”が加速しているからだ。例えば、製造装置などの組み込みソフトウエアは外部と切り離された独立した環境で、個別のプラットフォーム上で稼働していることがほとんどだったが、今はWindowsやLinuxといった一般的なOSの上で稼働している。ネットワークを通してつながれば、制御や保守をリモートで行うこともできる。

 さらに基幹のERP(Enterprise Resource Planning)システムとOTが連携すれば、市場環境の変化やサプライヤーのニーズに即応することも可能だ。設備の稼働状況を確認しながら、リアルタイムに近い形で生産計画を見直せば、リードタイムの短縮や在庫の最適化も可能になる。定量的なデータに基づいて改善を進めることで、QCD(品質・コスト・納期)も向上していくだろう。

 日本を代表する企業も、ITとOTの融合に大きく舵を切り始めた。自動車大手のトヨタ自動車はデジタル技術を使った高効率の生産モデルの構築をめざし、2017年10月より、国内の車両工場とエンジン工場で実証実験を開始した。設備の稼働実績データと実際に発生した故障との関係を分析する。早期の故障予兆で生産ラインの停止を防ぐとともに、製品品質のバラつきの低減を図るのがその狙いだ。成果を工場内のさまざまな工程に横展開していき、将来的には工場全体の生産性や品質の向上をめざすという。

「自ら考えて動く」ロボットや人と共に働く協働型ロボットも登場

 ITとOTの融合は、産業分野のロボットの進化も促し、その活躍の場を広げていく。例えば、ITと製造ビッグデータを駆使し、きめ細かくラインを制御することで、限られた人員で生産性と品質を高めることが可能になる。その挑戦に果敢に挑み、成果を上げている企業もある。日産車体の100%子会社で、九州に生産拠点を構える日産車体九州はその1社だ。年間生産台数12万7000台(2014年度の実績)の7割を海外に輸出する同社は、「日本で作って世界で売る」ものづくりを実践している。

 工場では500台以上のロボットが、車の骨格となるパネル部品の組み付けや溶接、ボディーの塗装などを黙々とこなす。ロボットというと、同じ作業をひたすら繰り返すイメージが強いが、同社のロボットはそうではない。同社は1つのラインで複数の車種や仕様の車を生産する「混流生産」を採用している。ロボットは車の外観の違いを認識し、取り付けるパネル部品を変えたり、溶接作業の手順を変えたりしているのだ。ITと製造ビッグデータの活用が、より人に肉薄した作業の自動化を可能にした。

 これをさらに進化させ「自ら考えて動く」ロボットも登場している。この分野をリードするのが、ロボットベンチャーのMUJINだ。独自開発した計算アルゴリズムを強みに、産業用ロボットを「知能化」する制御機器を提供する。

 産業用ロボットはあらかじめ教え込まれた動作を正確に繰り返すことは得意だが、それ以外の動作を教え込むのは多くの手間とコストがかかる。しかし、MUJINの制御機器は最適な動きをその場でその都度、自動で設定していく。「自分で見て、自分で考え、自分で動く」ことで、箱に無造作に入れられた何百ものネジから、対象の1つを拾い上げるといった作業も行えるようになる。多様なメーカーのロボットに後付けで実装できるのも大きなメリットだ。すでに日産自動車やホンダ、コマツ、キヤノンといった大手メーカーが導入を進めているという。

 すべてをロボット任せにせず、人間と共に働く“協働型”に新たな可能性を見出す動きも活発化している。協働型ロボットは、工場や物流倉庫などで人間の作業員と一緒に働く。技術の進歩により、安全性が確保されてきたため、人間と共に作業を進めることが可能になった。工場や物流倉庫だけでなく、今後は商業施設や一般的なオフィスにも協働型ロボットが導入されていくだろう。2019年までに物流、医療、公共、資源の主要企業の35%はロボットを活用した業務の自動化を検証するようになるとの予測もある。ロボット活用の広がりに伴い、人は人でなければできない作業に注力する。両者の協働が産業の新しいカタチを切りひらいていきそうだ。

データ処理のスピードとセキュリティを両立する仕組みが重要に

 これまで見てきたように、ITとOTの融合はものづくりの生産性や品質の向上を実現し、ロボットの活躍の場を大きく広げていく。しかしその実現には課題も残る。それは、ロボットや設備などから発信される、膨大なIoTデータをどう効率的に処理するかという問題だ。これを解決する技術として注目されているのが「エッジコンピューティング」である。

 エッジコンピューティングのエッジは「端」を意味する。デバイスなどのモノに近い位置(ネットワークの端)にデータを処理する仕組みを配置し、処理結果をクラウドと連携させる。データが生み出される場所の近くで一次処理することで、データ処理全体の負荷を軽減し、レスポンスの高速化につながる。

 工場の製造ラインは大量のセンサーデータが毎分毎秒上がってくるため、すべてのデータをクラウドで処理しようとするとネットワークの増強が必要になる。当然、コストも膨らんでいく。また機械の制御アプリケーションの中には、ミリ秒単位でのレスポンスを求めるものも少なくない。そして何より製造業では、セキュリティの観点から工場内のデータをクローズドな環境から出したくないと考える企業が少なくない。その点、エッジコンピューティングは工場内・拠点内の閉じられた環境内でデータの一次処理を行うため、スピードとセキュリティを担保できる。後処理はクラウドで実施するため、そのメリットを生かしたオープンな企業間連携やグローバルでの可視化も可能になる。

特注製品を低価格・短納期で作る新生産モデルに大きな期待

 こうした技術や仕組みの活用により、ものづくりの現場は大きく変わっていく。市場のニーズをスピーディに反映し、より低コストかつ効率的に高品質なものづくりが可能になるからだ。それを具現化する生産モデル「マスカスタマイゼーション」には大きな期待が寄せられている。これは大量生産と個別受注生産という2つの概念を組み合わせた手法。満足度の高い商品を提供する個別受注生産を大量生産品と変わらないコストで実現する。大量生産のスケールメリットと顧客志向の両立が可能になるのだ。

 アパレルベンチャーのフクルが進める取り組みはその好例だ。カスタムオーダー型の女性服通販サイト「ルコリエ」を展開し、デザインや生地、サイズを自由に選んで、日本で作ったスーツ、ジャケット、ワンピースドレスなどを手頃な価格で販売する。生地やボタン、ファスナーなどの過剰在庫が眠る複数の商社の倉庫、服のパターンデータ、生産委託先の縫製工場などを自動連携させる生産・販売体制を構築したことで、既製服並みの価格でカスタムオーダー品を販売することが可能になった。

 また自転車メーカーのパナソニック サイクルテックはウェブ発注による「パナソニックオーダーシステム(POS)」を軸に、スポーツバイクと呼ばれる高級自転車の完全受注生産を展開している。フレームの素材にもよるが、注文してから14営業日目には顧客に商品が届くという。納品日はウェブで受注した時点で顧客に知らせる。現在、POS事業では月100台程度のスポーツバイクを生産しており、これをわずか10人超の人員で対応しているという。同社のPOS事業は完全手作業だが、実は10年以上前は工程の一部を自動化していた。生産台数の減少により手作業に移行したという経緯がある。そしてまた受注が伸びてきているため、工程の一部を自動化する検討が始まっている。

 この「自動化→手作業→自動化」という柔軟な対応は、マスカスタマイゼーションをめざす上で、多くの示唆に富んでいる。マスカスタマイゼーションの意義は顧客の期待にきめ細かに応え、できるだけ短い納期で製品を届けることにある。自動化やIT導入による生産設備のスマート化は、「目的」ではなくあくまで「手段」だ。すべてをITで自動化すればよいわけではない。ものづくりに真に必要な技能は人が持っている。この見極めがしっかりしていれば、工程のどこを自動化すればよいかが見えてくる。必要に応じて、そこにITを導入していくことで、自社の強みを生かしたビジネスモデルの構築が可能になる。

 製造業のデジタル化が進む中、これからは次世代ファクトリーの取り組みを加速していかなければグローバル競争で戦えない。その活動が広がりを持つことで、Connected Industriesの実現が可能になる。長年にわたって培った匠の技の伝承、カイゼンのPDCAサイクルの高度化・短期化、さらには働き方改革による生産性の向上——。そうした点を線につないでいくことが、日本の製造業が世界で存在感を再び発揮するためのカギを握っているといえるだろう。
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