サイバーセキュリティー分野の裾野の大きさに驚く
サイバーセキュリティー分野の裾野の大きさに驚く
機能特化型の膨大な起業から成る最先端のサイバーセキュリティー大国――櫻井氏

櫻井氏長年、米シリコンバレーの企業と付き合う中で、イスラエル出身の企業が多いことに気づき、イスラエルの技術力の確かさは意識していました。東陽テクニカでのカンパニーの立ち上げに当たり、大使館やエージェントを介してイスラエルの企業を紹介してもらってからは、非常に有用な技術を持つ企業にコンタクトできるようになりました。しかし、それは私たちのニーズに合ったピンポイントの企業だけとの接点なので、イスラエルのサイバーセキュリティー産業の全体像は依然としてぼんやりした状態が続きました。ところが、現地を丁寧に視察してみると、紹介された企業の周辺にはまだまだ魅力的な企業が存在し、驚くほど大きな裾野が見えてきました。サイバーセキュリティー分野が発達したイスラエルでは単機能に特化したごく小さなスタートアップが膨大にあるため、エンジニアを現地に送り込んでも情報収集が追いつきません。そんな中、幸い技術の目利きができる現地企業と提携でき、日本企業のニーズを満たすために必要なスタートアップを束ねてもらえるようになり、ニーズとのマッチング能力が大幅に上がりました。

櫻井氏

アッシャー氏シリコンバレーで活躍する人材にはユダヤ人が多い。ならばその源であるイスラエルに行けば効率的に技術を買えるのではないか? そのような発想でイスラエルにたどり着く企業も少なくありません。イスラエルにはベンチャーの割合が多く、ROI(投下資本利益率)ではシリコンバレーよりも魅力的との意見もあります。安達様のおっしゃるように、スタートアップ期での投資が潮流となるにつれ、注目度は増しています。

製造業向けIoTではシリコンバレーを凌駕
製造業向けIoTではシリコンバレーを凌駕

――日本の産業は製造業が中心です。その点でイスラエルとの相性はいかがでしょうか

安達氏ITのナンバーワンは規模的にも間違いなくシリコンバレーです。しかし、製造業のIoTに限定すればイスラエルだと思います。米国では製造業が空洞化したことで、製造業向けIoTは必ずしも多くありません。一方、イスラエルにも製造業はほとんどありませんが、もともと世界市場をにらみ、製造業が強く地理的にも近い欧州に向けてITを発達させる企業が多いために、実はIoTをはじめとする製造業向けの技術が非常に多く育っているのです。ただし、国内に製造業のマーケットがないことが影響して技術を利益に変えるために磨くのが苦手という一面もあります。そこは製造業で世界の先端を行き、マーケティングにも長けた日本が補完することで、大きなシナジーが生まれると考えています。

櫻井氏イスラエルは発電や水処理などの社会インフラが高度に発達しています。このような社会インフラのために開発された技術の多くは、製造工場へ応用することができます。日本では社会インフラに関わる技術やデータは秘匿されますが、イスラエルでは10人規模のベンチャーにも惜しみなくフィードバックされ、イノベーションを後押しします。このようなエコシステムの存在はイスラエルならではといえるでしょう。

蟹瀬氏日本は株式市場の分類も、業界団体も、社内組織も全てが縦割り。今は業種・職種の垣根を越え、シームレスに活動することで新しい価値を生む時代です。イスラエルの柔軟な先進性に学ぶべきものは多いと思います。

――イスラエルのハイテク産業での強さの源泉はどこにあるのでしょう。

安達氏よく語られていることですが、兵役制度の存在は大きい。実際、企業幹部や起業家にはイスラエル国防軍の精鋭部隊である8200部隊出身の人が多く、精力的に活動しています。

櫻井氏私も「この人に会っておいた方がいい」と兵役時代のつながりで人を紹介してもらったことがあり、その人脈がのちに役に立ったことがありました。信頼の置ける人に日本企業が抱える課題を提示すると兵役時代の人的ネットワークでその課題解決を助けてくれる文化があると感じました。

アッシャー氏兵役で構築されるネットワークは極めて強固です。兵役のチームユニットがそのまま起業し、上官が社長、下士官が従業員として力を発揮し、成功を収めた例も多々あります。さらに、軍のネットワークや軍で開発された技術を市民の利益に還元しようという風土があり、軍、大学、民間企業の三者が緊密に連携し、在イスラエルの多国籍企業300社を含む類いまれなエコシステムが形成されています。

■イスラエルのハイテク企業の種類別(M&A、IPO、バイアウト)売却取引
厳しい環境を生き抜く小国ならではの強い結束力がスピーディーな革新を生む――蟹瀬氏

蟹瀬氏資源が何もない国が生き残るには不断の努力が不可欠。人口870万人という小ささが、結束力を高め、必要とする人材にすぐにアクセスしながらネットワークを深化させていくことにプラスに作用しています。

――活動の中で難しさを感じる点はどこでしょうか。

櫻井氏日本はIoT先進国といわれていますが、現場の力が強く、結論に至るプロセスが不透明なままAIを導入したり、製造工程における詳細な見える化を敬遠したりする傾向があります。この状況を変えていくためには上層部が変わらないといけない。CIO(最高情報責任者)クラスの幹部を集めてイスラエルのサイバーテックを視察するなど地道な活動を続け、日本側の姿勢の問題改善に努めています。

蟹瀬氏
価値ある技術をものにするためにスピードの重視を
価値ある技術をものにするためにスピードの重視を

安達氏スタートアップを紹介しても日本企業の反応が遅いのが問題です。フランスやドイツの企業は会ってすぐに商談レベルの話を始めますが、日本企業の多くはビジネスの話にすら入っていきません。ようやく話が進展したと思っても、たった1枚のNDA(秘密保持契約書)へのサインに1カ月を要することもしばしば。それではせっかく金の卵を見つけても他国の企業に奪われてしまいます。日本企業も多くの欧米企業のように現地を視察する担当者にもある程度の決裁権を持たせる必要があります。また、コンセプトやアイデアのみでプロトタイプがないスタートアップに対しては、PoC(概念実証)が有効です。

アッシャー氏
日本とイスラエルは互いを補完し共に発展を目指すパートナー――アッシャー氏

アッシャー氏当経済部でもPoCを実施しやすくする仕組みを検討中です。「イスラエルは0から1を生み、日本は1を10に育てる」とはよくいわれること。ある日本企業のトップは「いや、イスラエルはマイナス1から1を生む」と話してくれました。革新的な技術の芽を育ててもらえるように努力していきます。

――シリコンバレーや欧州のように企業の評価を第三者機関に委ねる仕組みがイスラエルには整っていません。目利きの難しさはハードルです。

安達氏破壊的技術を狙うなら簡単ではありません。しかし、スタートアップへの投資なら、たとえ失敗してもそれほど痛手にはならないので、積極的に攻める姿勢が重要です。先日知り合った8200部隊出身の起業家は飛び級により18歳で修士課程を修了した俊英で、41歳までに13社を起業し、およそ半分を成功させてきました。これは成功率としてはかなりの好成績なのですが、イスラエル人はむしろ彼が失敗した数の方を重視します。失敗によって成功よりも貴重な経験を積み、それを踏まえて新たに挑戦していると見なすからです。この観点はとても大切です。

アッシャー氏イスラエルは建国わずか70年で高度に発展したファンタジーのような国です。ペレス元首相は「生きるために夢を見る」と言いましたが、イスラエル人は厳しい環境で生きるために、不可能を可能にすると信じ、失敗を恐れずに突き進むしかないのです。イスラエルにとって日本は競合ではなく、欠けている部分を補ってくれるパートナーです。日本とイスラエルのタッグがイノベーションを創出していくと信じています。

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ビジネスメディア発行人補佐 酒井耕一
日本企業とマッチング効果 日経BP社 ビジネスメディア発行人補佐 酒井耕一

対談では、モノ作りからデータ分析までイスラエル企業の多様性と、日本企業との親和性が浮き彫りになった。米国がエルサレムを首都と認めたことで、国際情勢は緊迫しているが、イスラエルの技術や産業動向が注視するテーマであることは変わらない。

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ADVANCED INDUSTRIES 2017 | SEMINAR REVIEW  - 中東のシリコンバレー、イスラエル進出への第一歩 - 日経ビジネスオンラインSpecial
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主催:イスラエル大使館 経済/協力:日経BP総研
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お問い合わせ先:イスラエル大使館 経済部
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