道が人を鍛え、人がクルマを作る!「TOYOTA5大陸走破」プロジェクト

オーストラリア大陸、北米大陸、南米大陸、そしてヨーロッパ大陸。各プロジェクトに参加したトヨタの従業員は何を見て、何を感じ、そこで得た経験を後の仕事にどう活かしているのか。世界各大陸の空の下、道の上を走って各々がたどり着いた、「もっといいクルマづくり」への答えとは。前編はこちら

2014 AUSTRALIA 動物との共存の視点から現地の安全を考える

角谷憲一氏

普段は、先進技術開発カンパニーの車両技術開発部の第1車両試験課に所属し、車両の総合評価を担当しています。「5大陸走破」では参加した20日で約7,000kmを走破しました。車両の開発時には現地でのテスト走行も経験していますが、これだけの時間と距離を走行したのは初めてです。オーストラリア大陸ならではの気づきは、動物との共存の視点です。荒野を走るとクルマにはねられたカンガルーや鳥の死骸がいたるところにあり、心が痛みました。カンガルーバンパーでクルマを守るのではなく、「予防的安全の観点から、動物が嫌がる周波を出して寄せつけないようにできないのか」などと議論したことを鮮明に覚えています。また、驚いたのは70系のランドクルーザーが多いこと。すれ違うクルマのほとんどがランドクルーザーといっても過言ではありません。長い時間をかけて現地に溶け込み、信頼され、愛されている。誇りに思うと同時に、技術者としての責任も感じました。

column_img01

オーストラリア大陸には41名が参加。72日間で約20,000kmを走破した。使用した車両はランドクルーザー70/200、プリウス、86などのべ13台。世界一長い146.6kmの直線道路走行時は、クルマの原点であるまっすぐ走る重要性を痛感したという。

2011年にオフロード系車種の担当になった際、安全と品質を高次元で担保するためには、開発側の評価能力の向上がなにより大切だと感じ、上司に掛け合って社内に、「実験領域オフロード運転教育」という仕組みをつくりました。これは、海外の過酷な環境下を1週間ほど集中的に走行することで、参加者の運転技術と車両の評価能力向上を目的としたプロジェクトです。時間と走行距離こそ比較になりませんが、開発に即した人材づくりという点で、狙いは「5大陸走破」と同じだと思っていますから、「実験領域オフロード運転教育」でやってきたことはムダじゃなかったんだと感じました。両方のプロジェクトに参加した身として言えるのは、実際にその土地に行って走らないと感じられないことがたくさんあるということです。特に「5大陸走破」は日本では想像できない経験が得られ、評価での合否判断が明確となり、確信が持てるようになりました。若い社員はぜひ参加して、世界で現地現物を感じてきて欲しいですね。

2015 NORTH AMERICA 帰国後「気にならない」と言わなくなった

佐々木栄輔氏

先進技術開発カンパニーの車両技術開発部の第1運動性能試験課で、車両の乗り心地に関する開発を行っています。「5大陸走破」は、ボストンから西海岸へ、北米大陸を約1か月かけて横断しました。印象的だったのは、ロッキー山脈の「パイクスピーク」。標高4,000m級の道の下り坂で、ブレーキから煙を出して止まっているクルマを多く見ました。この山に初めて訪れた観光客がエンジンブレーキを使えず、ブレーキパッドが高温になり過ぎていたのです。アクセルによる速度調整ができる仕組みをつくれないかと考えさせられましたね。また、帰国してからは「気にならない」と言わなくなりました。テスト走行では、安全性には問題なく不快感もないノイズが発生することがあります。でも、北米大陸のように、長時間まっすぐの道を淡々と走り続けると、どうってことないノイズが蓄積し、不快感につながります。少しでも気になったら、それがどのような結果につながるのかを考えて、判断するようになりました。改善の必要があれば、他部署にも声をかけるようになったのも、「5大陸走破」でさまざまな部署の人と交流が持てたからだと思います。

column_img02

109日間で140名が参加し、約28,000kmを走破した北米大陸。使用車両は23車種。1,900mの高低差が続く「パイクスピーク」では、エンジンブレーキを使わず故障した一般車両を横目に、壊れにくいクルマについて考えさせられたという。

北米大陸は山岳地帯以外、ほとんどが直線道路です。そうした現地の状況は北米向けの車両を開発する際に分かっていましたし、直線道路を快適に走行できるクルマづくりをしていました。山岳地帯では驚きの連続でしたが、直線道路の運転で感じたのは、驚きよりも誇らしさです。長時間走ってもとても快適でしたから。現地の環境やクルマの使い方、求められる性能をしっかりフィードバックしてクルマづくりができていたと。北米大陸で培ってきたものは正しかったんだと誇らしくなりました。北米大陸に限らず、現地の人の声に耳を傾けたクルマづくりは続けていきたいです。若い社員は自分から手を上げて「5大陸走破」にチャレンジしてほしいですね。

2016 SOUTH AMERICA お客様の小さな声にクルマの大きな進化のヒントがある

後藤一高氏

トヨタの営業企画部で商品企画を担当しています。「5大陸走破」では、ボリビアのウユニ塩湖から参加して、チリまで計2か国を走破しました。塩分が強いウユニ塩湖でクルマに求められるスペックは、日本で販売されるクルマとは大きく異なります。現地では生きることとクルマが直結しています。現地の人のためだけの商品企画は難しいですが、お客様のニーズに耳を傾け、小さな声を拾い上げて開発部署に伝えることは営業である自分の使命だと再認識しました。

column_img03

南米大陸は、高地や熱帯地域の過酷な環境下を78日間118名で20,413kmを走破。使用車両は、ハイラックス、ランドクルーザー70/200、ヤリスなどのべ16車種。現地の人曰く、荷物を乗せて塩湖や砂地を走行するには、ランドクルーザー以外には考えられないという。

標高5,000m級の高山にある天文台に行きましたが、ここまでの標高になるとみんな酸素ボンベを装着して運転していました。また酸素が薄い影響なのか、これ以上登れないクルマも出てきて、泣く泣くそのクルマは置いて別のクルマで進んだこともありました。日本でクルマのトラブルというとパンクか事故がほとんどですけど、標高5,000mの現地ではひとつのトラブルが生死を分けます。想定を超える過酷な環境下でクルマが使用されていることを目の当たりにし、自分の仕事が人の命に直結してしまうんだと、改めて実感しましたね。「5大陸走破」での大きな収穫は、お客様の「顔」が見えたこと。トラブルや課題があったとき、プロジェクトで出会った人たちの顔を想像すれば、自分を奮い立たせることができます。現地ではクルマを20年以上も乗っている人がいる。参加前は、売れるクルマ=いいクルマと思っていたのですが、20年先も愛されるクルマづくりの必要性を実感しました。「手放す時に泣きたくなる、寂しくなるようなクルマ」を企画したいですね。

2017 EUROPE ヨーロッパの成熟した自動車文化を身をもって知る

山口卓哉氏

レクサスシャシー設計部でサスペンション設計を担当しています。「5大陸走破」は約3週間で8か国を走破しました。強く感じたのは交通システムの違い。日本は信号や標識が整備されていて、交通システムによって人とクルマが守られている印象です。ヨーロッパはラウンドアバウトの交差点が多く、より運転手に判断力が求められます。システムで管理するのではなく、交通をスムーズに流すことを重視しているのです。よって、自分が思うタイミングで意図通り操縦しやすいクルマが好まれ、操縦性が悪いクルマは認められない。ヨーロッパで受け入れられるクルマをつくるためには、妥協はできないと身をもって思い知らされました。ヨーロッパの基準を知り、さまざまな国籍、職種の人と密なコミュニケーションが取れたことで、「これでいい」と判断する閾値が上がったと感じています。これまでも妥協はしていませんでしたが、より自信を持って「まだやれる」と挑戦できるようになりました。

column_img04

過去最多141名が参加したヨーロッパ大陸。C-HR、オーリス、MIRAIなどのべ11車種で85日間、23か国20,831kmを走破。ドイツのアウトバーンをはじめ、車速が高いヨーロッパでは「走る」「止まる」「曲がる」をより厳しく求められることを、肌で感じたという。

もちろん、ヨーロッパへ赴任して運転することもありますが、それはあくまで自分の範囲の中で、自分の感覚での運転です。対して「5大陸走破」は、ハイブリッドシステム担当メンバーや現地の営業担当など、さまざまな部署のメンバーと会話しながら約3週間みっちりと走り込みます。自分とは違った意見を聞くと視野が広がり、「いいクルマづくりって何だろう」と改めて考えさせられました。私はシャシー設計部なので乗り心地に注目するのは当然ですが、カーナビをはじめとした車内で使用する機器の使い勝手は大切だなと思うようになりました。「5大陸走破」で1日中運転していると、カーナビの操作性やシフトの感覚、エアコンの音など、そういった細かなところも気になってきます。自分が思う“いいクルマ”のポイントが増えたことで、普段の開発時も乗り心地以外への意識が強くなりましたし、全体のバランスあってのクルマづくりなのだと改めて感じましたね。