自動運転社会という未来

ウーバーと自動運転が迫る「モビリティビジネス革命」 自動運転が作る未来

2017.04.17

林 哲史=日経BP総研 クリーンテック研究所

ドイツのAudi、BMW、ダイムラーの3社によるデジタル地図事業者、ドイツHEREの買収。トヨタ自動車と米Uber Technologies(ウーバーテクノロジーズ)の協業、米フォードと中国Baidu(百度)による自動運転向けセンサー開発のVelodyne LiDARへの出資――。自動運転という大変革を前に、自動車業界では新たな体制作りが急ピッチで始まっている。

自動運転時代のキープレーヤーの座をうかがう戦いは、さまざまな事業を手掛ける企業が入り乱れる状態になっている。参戦しているのは、完成車メーカーや自動車部品サプライヤーのみならず、AI(人工知能)技術を駆使した自動運転ソフトを開発するソフトベンダー、ライドシェアという新しい移動サービスを手がけるクラウドベンダー、デジタル地図作成や自車位置推定/周辺環境測定に欠かせない小型低価格の新世代ライダーを開発するセンサーベンダー、高精細なデジタル3次元地図の整備を進める地図クラウドベンダーである。

自動運転関連ビジネスは、これからどのような進化・変化を遂げるのだろうか。自動車関連企業の経営戦略と日米欧中のモビリティビジネスに詳しいデロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 パートナーの周 磊(しゅう・らい)氏に、自動運転が切り拓くモビリティビジネスの姿を聞いた。

――トヨタ自動車とウーバーのライドシェアビジネスでの協業や、米GMの米Lyft(リフト)への5億ドル出資など、2016年になって自動車メーカーがライドシェア事業者に歩み寄る行動が出てきた。

デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員 パートナー
周 磊氏(撮影:新関雅士)

これまで自動車メーカーが手がけたことのないライドシェアという新サービスの広がりが、自動車メーカーに危機感を与えていることは間違いない。ライドシェアサービスの本質を見極め、そこでどのようなビジネスができるのかを学ぶための活動が始まったと見ている。

ライドシェアサービスは新たな自動車の使い方とビジネスを産み出した。ただ、だからといって自動車メーカーがライドシェアサービスに乗り出すとか、ライドシェア事業者を買収するといった動きが活発になるとは考えていない。UberやLyftのようなライドシェアサービスを作るには、大がかりなIT(情報技術)の仕組みやクラウド技術を自前で用意しなければならないし、IT人材も抱えなければならない。

仮に自動車メーカーが自ら投資してUber並みのIT会社を作ったとしても、それによって大きな利益が出るとは限らない。ライドシェアサービスが乱立すれば過当競争になって疲弊するだろうし、そもそもライドシェア事業の収益率はそれほど高くない。

それでもライドシェアという新しいビジネスが多くのユーザーを獲得している現実がある以上、自動車メーカーもその動きを真剣に捉え、ライドシェアビジネスを勉強し、何ができるかを考えなければならない。一連の提携は自動車メーカーとライドシェア事業者がそれぞれ相互に相手の得意とするビジネスを学ぶための取り組みであって、囲い込みのための陣取り合戦のようなものではない。

――自動車メーカーがライドシェア事業者に資金提供する目的として、ライドシェアサービスの契約ドライバーが車両を購入する際の融資プログラムの促進がある。自動運転車の最初の市場が、ライドシェア向け自動車であることを見越した動きではないのか。

確かに今はライドシェア事業者やそのドライバーに自社の自動車を購入してもらうことも、協業する目的の一つではあるだろう。ただし、ユーザーがライドシェアを使うときに、自分の好みの自動車を選んでいる事実を忘れてはならない。ユーザーニーズが強まれば、ライドシェア事業者は今の提携関係に縛られない行動に出るはずだ。

自動車メーカーにしても、地域によって異なるライドシェア事業者と協業したり、複数のライドシェア事業者と協業したりするかもしれない。UberやLyftにしても、世界市場を制覇したわけではない。もちろん自動車メーカーも同じだ。世界のそれぞれの地域に応じた柔軟なエコシステムが作られることになるだろう。

別の新ビジネスが始まることも考えられる。たとえばリース会社が一括で各社の自動運転車を大量購入し、それを各ライドシェア事業者に貸し出すというビジネスだ。リース会社がライドシェア事業者のニーズに沿うように地域や期間ごとのリース料金を設定して貸し出せば、ライドシェア事業者は資産を持たずに効率的に自動車を調達できるし、自動車メーカーは大きくて安定的なビッグユーザーを確保できることになる。

これと似た構造のリースビジネスは、エアラインが飛行機を調達する場面では一般的に行われている。旅客機は一機数百億と高額であるため、エアラインが購入するには経済的負担が大きい。そこで巨額の資金を持つ航空機リースの会社が大量購入を前提に価格交渉力を行使しながら航空機メーカーから安く購入し、それをエアラインに貸し出している。ライドシェアの世界にも「自動運転車リースの会社」が登場してくる可能性は十分にある。

――自動車メーカーの動きとしては、製造業からサービス業への転換を意識した活動も始まっている。例えば米Ford Motorフォードモーターは2年前にモビリティ会社になることを宣言し、2016年3月にモビリティ会社を設立した。

確かにそうだ。とくに欧米の動きが激しい。「モビリティ」全体から見れば、自動運転はその一つのパーツに過ぎない。しかし、影響力は大きい。

これまで自動車メーカーは自動車を作る中でモビリティを考えてきた。安全性と信頼性を高め、乗り心地のよいクルマを作って、社会におけるモビリティの充実を図ってきたわけだ。ただ、これからはものづくりの視点だけでなく、サービス作りの視点からも取り組みが必要になる。

モビリティサービスへの取り組みで言えばフォードモーターの活動は参考になる。フォードはモビリティカンパニーとして自己を再定義しようとしており、2016年3月に、この分野の戦略子会社として「フォード・スマート・モビリティ」を設立した。モビリティサービス分野を開拓することを目的としており、フォードの自動車を売るための会社ではない。将来的には競合メーカーの自動車を用いたモビリティサービスを作る可能性だってある。

――モビリティサービスとはどのようなものなのか。

人や物をある場所から別の場所に運ぶサービスだ。そこで使われる交通機関は自動車だけではなく、列車やバス、タクシーなども含まれる。ユーザーが希望時間と移動区間を指定すると、その具体的な乗り継ぎ方法を料金や移動時間、快適さなどを勘案しながらいくつか提案し、予約と決済もその場で実行できるというのが、現段階で考えられている近未来の典型的なモビリティサービスといえるだろう。さらに、移動に関連したさまざまな付加価値サービスが開発され、提供されることになる。

モビリティサービスの提供では、スマートフォン(スマホ)をどう活用するかが重要になる。人々の生活・行動の起点にスマホがあるからだ。スマホとのシームレスな連携を念頭に置いてビジネスを設計しなければならない。

実際、フォードが2016年から始めたモビリティサービスである「FordPass」はスマホアプリとして提供されている。駐車場予約やシェアリング予約など、自動車を活用するためのサービスをスマホから利用できる。しかもフォードはモビリティにとどまらず、コンビニエンスストアチェーンやハンバーガーチェーンとも提携してライフシーンを横断するサービス展開を始めている。すべての自動車メーカーがモビリティサービスを始めるとは思わないが、こうした動きはもっと活発になると見ている。