都市の未来

郊外の未来を開く、空き家とビジネスの出合い

2017.04.10

茂木 俊輔=ライター

都市圏郊外の住宅地には空き家予備軍が大量に控えている。しかし見方を変えれば、それらは地域の未来を切り開く拠点になる可能性をはらむ。自ら「大家」を名乗る小峰弘明さんは8年近く前、さいたま市内で空き家予備軍になりつつあった実家を地域の居場所や仕事場として生まれ変わらせた。求められるのは、「思い」のマッチングという。

最寄りのJR埼京線中浦和駅から歩いて10分弱。分譲マンションも点在する戸建て住宅地の一角に「ヘルシーカフェのら」と、「じぶんらしい仕事づくりを応援する家 のらうら」と名付けられた2つのこじんまりした2階建てが並ぶ(写真1)。

(写真1)左の建物が実家の庭に新築した「ヘルシーカフェのら」。右の建物は実家の家屋をそのまま活用した「じぶんらしい仕事づくりを応援する家 のらうら」(写真:茂木俊輔)

「のら」では運営会社がカフェスペースで地産地消の手づくり料理を提供しながら、広さ16畳ほどの「のら広場」で子育て関連の講座やワークショップなどを開催する(写真2)。かたや「のらうら」では、別の運営会社が100歳まで働けるものづくりの職場を目指す「BABAラボ(ばばらぼ)」の工房や店舗を置くほか、2階をシェアオフィスとして貸し出す。

(写真2)「ヘルシーカフェのら」のカフェスペース。火曜日から土曜日までの週5日営業。日替わりランチのほか、手づくりケーキなどを提供する(画像提供:ヘルシーカフェのら)

この2棟が、ごく普通の住宅地の中で地域住民の居場所や仕事場として機能している。

「のら」では、0歳児連れのママたちが集い、リタイアした男性らがボランティアに精を出す。運営にあたる新井純子さんは「『のら広場』には行く場所が限られる0歳児連れのママが驚くほど多い。一方、カフェスペースには中高年の女性も増えてきた」と明かす。

コミュニティレストラン(以下、「コミレス」)は回転率が低く、地産地消の手づくり料理にこだわるとなると手間が掛かる。ただでさえ飲食業の経営経験のない新井さんにとって、切り盛りは容易ではない。ボランティアの活用で人件費を抑えるなど支出を切り詰め、いまでは単年度で黒字を計上できるようになった。

「コミレス」として構想していた取り組みの達成率はいま74%(図1)。「ただ、私たちの目指すレベルは上がっていくので、達成率が100%になることはない。新たに取り組んでいきたいと思うことが、次々に見えてくる」。新井さんの表情は明るい。

(図1)「コミレス構想」の達成率。各項目は、新井さんがレポートで書いた構想の内容を小峰さんが行政用語に置き換えて整理したもの(画像提供:ヘルシーカフェのら)

二人を結び付けた「コミレス構想」

この場所はもともと、「大家」の小峰弘明さんが幼少期から暮らしてきた実家だ。しかし小峰さんら子どもが独立し、母親が一人暮らしになると、空き部屋は荷物置き場と化し、手入れを必要とする庭は厄介な存在になっていく。

その空き家予備軍を前に、小峰さんは資産の活用を考えた。ただ貸家業に乗り出すつもりはなく、まず庭にコミュニティスペースをつくることを思い描いていた。それは、小峰さんの言葉を借りれば、誰もが緩やかにつながれる場。そのつながりを通じて互いの課題を共有し、その解消を図る場でもある。そこでは、誰かが誰かをケアするという一方的な関係ではなく、互いに支援し支援される双方向の関係づくりが大事という。

小峰さんがそう思うようになったきっかけは、さいたま市の非常勤職員として公民館で子育て支援に取り組んでいた新井さんとの出会いにある。

2005年3月、埼玉県庁の子育て支援課に勤務していた小峰さんは、職場を訪ねてきた新井さんから「『コミレス』は子育て支援の要」と題するレポートを渡される。新井さんが子育ての経験を基に子育て中の女性が置かれた境遇をつづり、その改善に向けて誰もが立ち寄れるコミュニティレストランの必要性を訴えたものだ。出版社が主催する「子育て改革懸賞レポート」に応募したもので、選考の結果、賞も受けていた。

二人は直接の面識はなかったものの、地元は同じさいたま市。子育て支援の関係者や研究者が参加するメーリングリストを通じて互いに名前は認識していた。新井さんは「レポートの受賞を伝えようと、小峰さんの職場を訪ねた。『コミレス』に関しては、その必要性を訴えていたが、実現に向けてまだ動き出してはいなかった」と振り返る。

このレポートに、小峰さんは触発される。「広い視野を持ちながら多様な人を巻き込み、人と人のつながりを広げていこうとする発想に共感した」。ところが「コミレス」の役割を行政用語で整理すると、対象が子どもから中高年まで多様な人にまたがるため、行政組織で取り組むのは難しいと判断。プライベートでの実現を目指した。

こうして2009年11月、実家の庭に新築しオープンしたのが、「のら」である。運営には、新井さんや小峰さんらで立ち上げた合同会社があたる。2階部分は賃貸用の住戸2戸。「のらうえ」と呼ぶ。建築資金約3000万円はローンも利用して調達し、「のらうえ」からの家賃収入をその返済資金に充ててきた。