都市の未来

郊外の未来を開く、空き家とビジネスの出合い

2017.04.10

茂木 俊輔=ライター

母親転居後、もう一つの構想に共感

新しい場ができると、そこを舞台にまた別の出会いも生まれる。小峰さんは「のら」で2011年4月に開かれた異業種交流の場で、いま「BABAラボ」を運営する合同会社で代表社員を務める桑原静さんと知り合う。構想段階だった「BABAラボ」の話を聞き、ビジネスの視点で100歳まで働ける職場づくりを目指す姿勢に共感した。

折しも、母親がグループホームに転居し、実家の家屋が空き家になってまだ間もない時期。小峰さんはその場ですぐ桑原さんに家屋の内部を見てもらい、1階を「BABAラボ」の拠点として利用してもらうことを決めた。

2011年9月、「BABAラボ」はこうしてオープンする。ところがその後、小峰さんは荷物置き場と化していた2階部分も活用しようという提案を受け入れ、同年12月には建物を丸ごと運営会社に貸し出すことを決めた。実家の家屋全体が「のらうら」としてさらに生まれ変わったのである。

中古の建物ではあるが、リフォーム工事を施すことなく、スペースをそのまま提供。母親の持ち分は小峰さんが家賃を支払っていったん借り上げたうえで、実家の家屋はまるまる「BABAラボ」の運営会社に貸し出している。

ただ小峰さんは、「決して貸家業をやりたいわけではない」と強調する。収支を見ても、「のら」や「のらうら」の家賃は無償または格安だ(図2)。ローンは繰り上げ返済ですでに終えているため、「『のらうえ』も時機を見て、『のら』の運営に関わる人たちが共同で利用する場所にできないかと考えている」。

収入 支出 収支
のらうえ家賃 156,000 管理料 6,402
のら家賃 0 メンテナンス費用 9,702
のらうら家賃 20,000 J:COM費用 6,436
共用電気代 900
母家賃 70,000
固定資産税 11,716
176,000 105,156 70,844

(図2)小峰さん作成の「大家」の毎月の収支。認知症の母親には成年後見人が付いているため、財産管理が厳格に行われる。そのため親子でも家賃を支払っているという。単位は円(画像提供:ヘルシーカフェのら)

子育て中の女性が能力を発揮する場

都市圏郊外の住宅地にこうした拠点がある意義は何か――。一つ挙げられるのは、居場所の提供である(写真3)。

(写真3)「ヘルシーカフェのら」の運営に携わるメンバー。左から、「大家」の小峰さん、新井さん、「のらうえ」に住み、ボランティアを買って出る重川治樹さん、厨房でメーンスタッフの一人として働く新井幸一さん(画像提供:ヘルシーカフェのら)

小峰さん自身、ホームページの更新など情報発信の役割を担うほか、毎週土曜日はボランティアとして「のら」に赴き、接客や皿洗いなどを手伝う。「自分のやることがあるというのは、ありがたい。56歳になって将来の不安が年々強まる中、ここに居場所があるというのは、安心感につながる」。

それは、リタイア世代にも言えること。「いま厨房のスタッフを務める近所の50代男性は、早期退職で専業主夫になった。当初は『のら』の常連として来ていたが、『のら』と『BABAラボ』が中心になって開催する祭りで唐揚げを販売したのをきっかけに、厨房に立つようになったばかりか、調理師の資格まで取った」。新井さんは舌を巻く。

さらに働き方改革が叫ばれる時代、中高年だけでなく、子育て中の女性がその能力を発揮する場にもなり得る。新井さんがいま温めている構想はこうだ。

「子育て中のママ3人で仲間保育のようにチームを組み、そのうち1人にパート勤務の扱いで厨房に立ってもらう。その間、ほかのママ2人が『のら広場』で子どもの世話をする。『のら』はその3人のママ全員にランチを振る舞う、という想定だ。それをローテーションで繰り返す。若いママたちにいま、まさに声を掛けている段階」。中高年主体の厨房に若い女性にも入ってもらって意見を聞くことも、狙いの一つという。

都市圏郊外には確かに空き家予備軍は多い。しかし、それらを「のら」や「のらうら」のように生まれ変わらせて、居場所や仕事場として機能させることができれば、地域の未来を切り開くこともできそうだ。求められるのは、空き家のような活用可能な不動産を持つ人と、地域の中で自らの思いを実現したい人が出会う機会だ。

「フリーマーケットでは、商品のいわれや持ち主の思いなどが客に伝わって初めて、共感が生まれ、値段が決まる。空き家の活用でもそれと同じように、単なる物件情報だけでなく、思いが伝わり共感が生まれることこそ、重要ではないか」

新井さんや桑原さんとの出会いがまさにそうであったように、小峰さんは共感ベースのマッチングに将来への可能性を見いだしている。