社会デザイン研究

冷凍食品を起点にライフスタイル転換、人・地域に想いを届ける

2017.02.28

河井 保博=日経BPクリーンテック研究所

たたら製鉄に始まり、木材、施工、エネルギー、農業、住宅、そして食と、多様な事業を展開する島根県の田部グループ。「人と地域と想い」を企業理念に、500年にわたって事業領域を変化させてきた。その一環として最近手掛けはじめたのが、冷凍食品の流通である。「ライフスタイルを変えたい」とする、ダノベータインターナショナルの田部長右衛門社長に、思い描いている社会の姿について聞いた。

――TOKYO BREJEW HOUSEという冷凍食品専門のレストランを営んでいますね。

ダノベータインターナショナル
田部長右衛門社長

2015年11月に、東京の二子玉川にオープンしました。メニューはフレンチ、中華、和食で、サラダなどごく一部の料理以外はすべて冷凍食品です。ですから、店舗の厨房にシェフはいません。

冷凍食品といっても、多くの皆さんがイメージする「レンジでチン」というものとは全く違います。プロの料理人のレシピを、簡単な調理でそのまま再現できるものです。

しかし、私達はシェフの監修の下、彼らが作るのと同じものを瞬間冷凍して提供しています。保存料も使っていません。それでも、瞬間冷凍したものですから、安心して召し上がっていただけます。レストランの入り口にはフリーザーを置いて、店のメニューの一部を冷凍のまま販売しています。実は私達の本当のビジネスは、レストランではなく、この冷凍食品の販売です。

――貴社の母体である田部は元々、「たたら製鉄」の企業ですね。それがどうして、今は冷凍食品なのでしょう?

私たちが本格的にたたら製鉄を始めたのは約550年前のことです。その当時から数えると田部家は私で25代目になりますが、その過程でだんだんと事業の方向性が変わってきました。
※たたら製鉄:粘土でつくった箱の形をした低い炉に、木炭と原料の砂鉄を入れて、ふいご(たたら)で風を送り、鉄を取り出す技術。

たたら製鉄を始めてから450年後、近代製鉄に押され、たたら製鉄の事業は立ち行かなくなりました。そこで20〜21代目が事業転換し、たたら製鉄に関連する事業として、木材、炭の事業を始めました。22代目は農業を始めた。そして、いま手掛けている田部の事業のほとんどは、23代目が始めました。

お分かりだと思いますが、事業を転換する期間が徐々に短くなっています。時代に合わせて柔軟に事業を変えていく。それが先代、先々代から受け継いだ事業方針です。そのときに根幹となるのが、理念に掲げている「人・地・想」です。人のために、地域のために、想いを届ける。たたら製鉄で地域を支えてきたのと同じように、時代に合った事業を展開して、地域に雇用をもたらし、安心できる暮らしをもたらすという考え方です。

食に関する事業も、こうした発想から生まれています。「東京など都市圏で流通しているおいしいものを地域にも」、つまり中央で流行っているものの地域版という考え方ですね。そして24代目が、ケンタッキーフライドチキンやピザハットを島根で始めました。

――なるほど。

食に関する事業では、「たなべのたまご」(たまごの販売)など、ほかにもいろいろありました。ただ、私が他の企業での仕事を経験して田部に戻ってきたときには、全体に統一感がなかった。これは食分野に限ったことではありません。加えて、事業として見直しが必要なものがありました。それで、私の代で5つの事業をやめ、7つ新しい事業を立ち上げています。その間、雇用はそのままです。これも人・地・想の発想の一部です。

もちろん、食に関しても事業転換しています。ままたまご(プリン)、WATAYA(バウムクーヘン)、それらの商品の外販といったものがその例です。たなべのたまごは、品質は悪くないのですが、たまごをそのまま売るだけでは、どうしても利益が薄い。それで売上高は年に3000万円程度しかありませんでした。そこで、これを加工食品にし、付加価値を高めることで、売上高を10倍以上に伸ばした。どれも、基本的に私自身が食べたい、おいしいと思ったものを事業として手がけ、人々に想いを届けてきました。

そうしてスクラップ&ビルドを繰り返しているうちに、だんだん、まったく新しい事業をやってみたくなりました。

――それで冷食の事業に踏み出したと。

そうです。ある方の紹介で、「マキシム・ド・パリ」料理長を務めたダニエル・マルタン氏に出会い、そして三ツ星シェフに監修してもらう高級冷凍食品を着想しました。瞬間冷凍すれば、おいしい料理を、保存料を使わない形で提供できると。田部に戻る前の勤務先で、何年か海外赴任を経験し、そのときに知ったピカール(フランスの冷食専門マーケット)を思い出しました。

しかも日本には優れた冷凍技術がある。事業としての可能性は十分にあると考えました。プロジェクトチームを作って議論を進めていくと、発想が広がり、どんどん実現したくなった。マルタンさんが作ったサンプルを試食しながら、「おいしい。これを家庭で食べられたらいいね」「家庭でフルコースとかできたらすごい」といった具合に、期待を膨らませていきました。それが3年ほど前のことです。

写真提供:ダノベータインターナショナル

従来とは違う発想の冷凍食品で、ライフスタイルを変えよう。そう考えました。ライフスタイルの転換という点で、イメージが似ているのがカレールウです。カレーは本来、様々なスパイスを混ぜ合わせて作ります。しかし、一般の家庭でカレーを作るとき、わざわざスパイスから作る例はあまりないでしょう。たいていは、肉や野菜を煮込んで、カレールウを溶かすだけです。

日本では、今はこれが主流ですね。つまり文化です。これと同様のことを、私たちは冷凍食品でやりたい。冷凍食品というと、どうしても手軽さだけが強調されます。そこには、おいしい、安心、高級感といったイメージはあまりない。でも、これを両立できたら、ライフスタイルを変えられる。そう考えています。

目指しているのはファミリーのライフスタイルの転換です。例えば女性の社会進出が活発になってきている中で、食事の用意にかける時間は限られます。だから手軽に、おいしいものを家族に食べさせられるように、あるいは働く女性自身が手軽においしい食事をとれるようにしたい。家族にも安心できるものを、自然なものを食べさせられる。冷凍食品があれば、それを実現できるわけです。

しかも、私たちが提供する料理なら、手抜きには見えない。時間をかけずに、豊かな食事を取り戻せるわけです。例えば牛ほほ肉の赤ワイン煮。普通に作ると3日もかかります。冷凍食品なら、これをすぐに食べられます。実際には、品質にこだわったこともあって、従来の冷凍食品のように、レンジでチンというほど手軽に用意はできません。湯煎したり、オーブンで焼いたり、少し手間がかかります。ただ、それが逆に、簡単に調理していることにもなり、家庭への愛情を込めるという点で効果があるのではないでしょうか。まさに、カレーと同じですね。

今の食文化の中には、あまりにも不誠実で健康に良くない食品が多くあります。保存料を多用する食品が典型例です。これは大量生産・大量消費の弊害です。これからの未来に向けて、そういう食の習慣を変えていきたいと思っています。