社会デザイン研究

IoT社会における通信インフラの核に 電力線をデータ伝送にも活用する「HD-PLC」の可能性

supported by Panasonic

2017.02.28

酒井 洋和=ライター

すべてのモノがインターネットにつながるIoT社会を実現するためには、情報のやり取りを行う通信手段が欠かせない。現在は3G/LTEや無線LANなどがその主な手段ではあるものの、限られた無線空間を多くのデータが飛び交うことによる通信環境の悪化も懸念されている。そこで期待されているのが、電力を供給する電力線を利用してデータの送受信を行うための仕組み「PLC(Power Line Communication)」だ。社会インフラとしての電力線を敷設している東京電力グループも期待を寄せ、さまざまな新規事業構想を通じてPLCの可能性を模索している。そんな東京電力グループの活動についても見ていきながら、パナソニックが開発した高速電力線通信技術「HD-PLC」の有用性について紐解いていきたい。

電力とデータを同時に伝送するHD-PLC

総務省が発表した平成28年版 情報通信白書によると、2020年にはセンサーをはじめとしたIoTデバイスは304億個まで増大するとされており、あらゆるものがインターネットに繋がるIoTの世界が拡大していくのは間違いない。このIoTにおける通信は無線を中心に議論が行われがちだが、現状でも周波数がひっ迫していることを考えれば、電力線を利用したHD-PLCは無線と共存できる通信方式の1つとして大きな可能性を秘めている。無線を使わないことでIoTデバイスあたりの消費電力が大きく削減できる点も見逃せないポイントだ。「いつでも繋がっているAlways Connectedを実現するためには、モバイル型機器には無線技術を活用し、据置型機器にはHD-PLCを利用するといった使い分けが重要」と語るのはパナソニック株式会社 AVCネットワークス社 技術本部 PLC事業推進室 室長 荒巻 道昌氏だ。

パナソニック株式会社
AVCネットワークス社
技術本部 PLC事業推進室
室長 荒巻 道昌氏

パナソニックが提供する高速電力線通信技術「HD-PLC」。PLCは電力とデータを一緒に伝送する技術であり、データ通信のために新たに配線することなく既設の線が有効活用できるというのが大きなメリットだ。このHD-PLCは1つの電力線を電力供給とデータ通信という2つの用途に活用できるようにしたものであり、「HD-PLCはパナソニックの創業者である松下幸之助が商品として世の中に初めて送り出した、電灯と家庭内ソケットの2つの用途で活用できる二股ソケットと同様のコンセプト“Dual Usage Concept”を標榜しています」と荒巻氏は語る。

HD-PLCのコンセプト“Dual Usage Concept”

HD-PLCの具体的な利用例として挙げられるのが、金属の塊で覆われていることで無線が利用しづらいエレベータでの活用だろう。最近のエレベータには、監視カメラや照明、サイネージ案内表示などさまざまな機器が設置されており、それぞれ信号線を通じて情報のやり取りが行われている。この信号線のやり取りをHD-PLCによる電力線通信に変えることで、エレベータ内の省線化に大いに役立つことになる。また電波の届かない水中でインフラ点検に利用されるロボットの通信部分で利用するといったものも実例として既に展開済みだ。中国では、既設のアナログ監視カメラをIP対応の監視カメラにマイグレーションする際の通信部分に利用する事例や、電車内のサイネージ端末に情報を送る通信プラットフォームとしてHD-PLCが活用されている例もある。なかには災害時の誘導手段として炎センサーと連携したLED誘導手すりなどのスマートガイドとして製品化されているものもある。

避難誘導・サイネージ連携
火災発生時に炎センサーをトリガーにして、人が安全に避難する方向を手すりや壁目地に組み込んだLED照明の光の流れでアシストする

実際にPLCが商品として市場に登場したのは日本で規制が緩和された2006年のことだが、その歴史は2000年にまでさかのぼる。もともと九州松下電器で生産されていたコードレス電話の事業の中で、IP電話に移行していく際の新たなソリューションとして電力線通信の可能性が検討され、同時に映像を含めたホームネットワーク内でHD映像の配信を電力線で行うための仕組みづくりを大阪本社の研究所とのジョイントプロジェクトで始めたのがHD-PLCを手掛けるきっかけだと荒巻氏は説明する。

その後2003年までの技術確立期を経て、数年かけて国際標準化に向けた活動を展開し、2010年にIEEE 1901として国際標準規格として認定された。実は、当時純国産の通信技術としてIEEE標準にフルスペックで認定された初めての技術であり、この国際標準規格化を受けて、米国のNISTや中国でも規格化が進み、日本では一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)にて標準化されている。そして2011年には、開発したIPコアをLSIメーカーにライセンス供与を開始しており、さまざまな機器への展開が可能になっている。そして2017年現在は、IoT向け基盤技術として普及段階へのステップを着実に歩んでいる状況だ。なお現在では第四世代の「HD-PLC Quatro Core」が最新となっており、物理層での最大速度が約1Gbps(同軸線など電力線以外の利用が条件)にまで達している。

HD-PLCの進化

HD-PLCの特徴

このHD-PLCの特徴は、パナソニックが独自に開発したWavelet OFDMと呼ばれる変調方式により、高速な通信を可能にしながら消費電力を抑え、なおかつソフトウェア制御によってアマチュア無線など他の周波数を利用する仕組みとの共存が可能なことだ。

また現在のHD-PLCは、初期のものに比べて大幅に進化を遂げている点も見逃せない。なかでも特徴的なのが、通信性能の大幅な向上であり、それに伴ってセキュアな通信を実現している「伝送路推定技術」だ。本来PLCは2M~30MHzの周波数を搬送波として活用するが、家庭内の電力線は多様な特性を持ち、ノイズの影響を受けやすい。そこでHD-PLCでは、それぞれ電力線の特性を推定することで最適な搬送波をモデム同士が判断し、情報量を最適化して安定伝送することが可能となっている。電力線が持つ固有の特性をモデム同士で調整することで通信品質を高め、外部からのなりすましなどが事実上困難になるわけだ。

またマルチホップ中継機能と呼ばれる機能が実装されたことで、PLCモデムをバケツリレーすることで最大10ホップ、数kmの距離を伝送することが可能となっている。モデムの総接続数も最大1000個に拡張され、工場やビルなど距離の必要な環境でも通信可能になる点も、大きな特徴の1つとなっている。

マルチホップ中継機能

このHD-PLCは、もともと電力線をターゲットにして通信を確立させる技術だが、「線があるところにはHD-PLCが生かせるのです」と荒巻氏が力説する通り、今では同軸ケーブルやツイストペア線、電話線など、既設のあらゆる線を利用して通信できるようになっている。配線工事のためのコスト削減に寄与するだけでなく、物理的な線を減らすことでメンテナンス性が大きく向上するソリューションなのだ。

AVCネットワークス社敷地内にあるHD-PLC検証ハウスでは、来訪者が玄関のチャイムを鳴らすと、その映像が「HD-PLC」を通じてテレビの画面上にポップアップし、来客の存在を映像で知らせることができるなど、各種のアプリケーションを手軽に体感することができるように、「HD-PLC」を使った家電機器などとの接続例を展示している