食の未来

温暖化背景にポストコシヒカリが続々“ブランド米・戦国時代”が幕を開ける!

2017.03.28

高山和良=ライター

長年、おいしいコメの頂点に君臨してきたコシヒカリ。決して揺らぐことのなかった不動の玉座がいま揺れている。近年、「つや姫」「ゆめぴりか」といった新興ブランド米が高い評価を受け、人気を集めている。2017年には「新之助」という新潟県の超大型銘柄が登場するのを皮切りに、翌2018年にかけてポストコシヒカリを狙って、各県の期待を一身に背負うニューフェースが続々と誕生する。その背景には地球温暖化がある。限られた市場を奪い合う“ブランド米・戦国時代”が、いま到来しようとしている。

「おいしいコメ」の産地間競争が激しさを増している。

近年、山形の「つや姫」、北海道の「ゆめぴりか」、青森の「青天の霹靂」など、新興ブランド米と呼ばれるコメが注目を集め、かつてのコシヒカリ一強の時代から、群雄割拠の様相を呈し始めている。

この2月23日に日本穀物検定協会が発表した「食味ランキング」でも様々な新顔が姿を見せている。神奈川の「はるみ」、富山の「てんこもり」、福岡の「夢つくし」などが初の最高評価「特A」銘柄となったほか、参考出品ながら、岩手の「銀河のしずく」、2018年に「だて正夢」として本格デビューが予定されている宮城の「東北210号」など話題の品種も「特A」評価を獲得した。

こうした状況の中、2017年秋に鳴り物入りで本格デビューするのが「新之助」という品種だ。日本一の“こめどころ”新潟県が満を持して世に送り出すもので、大粒で、コクと甘みが強く、試験販売された昨年、大きな話題を呼んだ。新潟県では「コシヒカリとはベクトルが異なるおいしさを持つ」と表現する。コシヒカリと同等以上の旨さを持ちながら、方向性がまったく異なるコメとして売り出そうとしている。

新潟県期待の「新之助」。2017年秋に本格的に市場に投入される(写真:新潟県農林水産部農業総務課政策室)

コシヒカリと並ぶ新潟県の顔に育てる

新之助のブランド化を進める新潟県農林水産部農業総務課政策室の牛腸眞吾(ごちょうしんご)室長は、この新之助を「コシヒカリと並ぶツートップのブランドに育てる」と位置づける。まさに県期待の新品種なのだ。

「新之助」のブランディングを進める新潟県農林水産部農業総務課政策室 牛腸眞吾室長(写真:高山和良)

新潟県は言わずと知れたコシヒカリの大産地だ。魚沼、佐渡、岩船など多くの名産地を抱え、県内の作付面積の約70%がコシヒカリというお国柄。福井県で生まれたコシヒカリという品種は、新潟県で花開き、今ではコシヒカリと言えば多くの人が新潟を思い浮かべる。

そんなコシヒカリを持つ新潟県がなぜ、「新之助」というまったく違うタイプの品種を世に送り出そうとしているのか?

もちろん、コメ離れが進む若年層の嗜好の変化に対応するためという理由もある。

しかし、もっと切実な理由がある。それは、年々進む温暖化に備えるというものだ。

コシヒカリなどの品種は稲穂が実る“登熟期”と言われる時期に猛暑にさらされるとコメの部分が白く濁ってしまうことがある。特にコシヒカリは登熟期の高温環境に弱いことが知られている。実際に2010年の酷暑の折には等級を下げる産地が多かった。新之助はその味の良さもさることながら、コシヒカリに比べて暑さに強いという特徴がある。このまま温暖化が続けばコシヒカリの評価が下がっていく恐れがある中、コシヒカリを主力とする新潟県にとって高温に強い新品種を開発することは至上命題でもあるのだ。

牛腸室長は、「地球温暖化がさらに進行するという状況の中でもトップブランドのコメを持つ県であり続けたいという思いがあり、平成20年から開発をスタートしました」と開発経緯について語る。このまま温暖化が進み、万が一、コシヒカリという大ブランドの価値が下がってしまったとしても、新之助という暑さに強いもう一つのトップブランドがあれば、新潟県としてはコメの大生産地としての地位を保てる。

20万株から選りすぐった新之助

こうしたニーズを受けて、県の開発拠点である新潟県農業総合研究所(農総研*)では、膨大な組み合わせの中から交配を繰り返し、水稲としての性質を固定させながら食味と暑さへの耐性、倒れにくさ、病気への強さなどを丹念に調べながら新品種の開発を進めてきた。その結果生まれたのが「新潟103号」という新品種であり、これが後に「新之助」と名付けられたのだ。
*コメの新品種開発は、現在、「主要農作物種子法」という法律によって、各都道府県で進めることが定められている。このため、新しい銘柄米の開発は行政と農業試験場などの公的な研究機関が中心になって進めている。ここのところ立て続けに登場している新銘柄も、こういった経緯で産み出されたものがほとんどだ。

品種開発を進めた農総研 作物研究センターの石崎和彦育種科長によれば、「のべ184の品種を使って500通りの交配から作った合計20万株から選りすぐったもの」が新之助だ。石崎氏は「こめどころ新潟としては味の良さは大前提です。味に徹底的にこだわった選別を繰り返し、その中で暑さに強い品種開発を進めてきました」と語る。味度メーターという装置を使って炊き上がったご飯表面の輝きを調べながら品種を選抜していった。「ご飯の輝きと美味しさの間には相関関係が高く、質の悪い候補を取り除く意味で効率がいい」と石崎氏。この結果、「ご飯のつや・てりが良く、コシヒカリよりも粒がひと回り大きく、食べるとしっかりとした粒感が感じられ、噛んだときの粘りと甘みが強いものになりました。食べておいしく、見た目も優れたコメが出来ました」(石崎氏)。

新潟県農業総合研究所作物研究センター育種科長 石崎和彦氏(写真:高山和良)

右のコシヒカリに比べて一回り大きい新之助(左、写真:農総研作物研究センター)

また、「新之助は、晩生(おくて)という少し遅い時期にできる品種なので、中生(なかて)のコシヒカリを収穫した後に新之助が収穫できる。生産者にとっては、稲刈りの時期をずらすことができ、今の装備をそのまま使えるので余分な投資が必要ないというメリットもある。晩生なので暑さに遭遇する機会自体も減る」(石崎氏)。