“ミライ”への階段

社会に溶け込むAI 、接客や自動精算でも活躍(前編)

2017.02.20

元田 光一=テクニカルライター

数多くの事象から、結果との因果関係を学習し、最適な答えを選べるようになってきた人工知能(AI)。コンピュータ技術や半導体の進化によって実用性が高まり、いろいろな分野で社会に浸透しようとしている。既に、我々が気付かないところにも高度なAIが採用されつつある。AIの浸透によって、生活や働き方、そしてビジネスはどのように変わっていくのだろうか。

レジが一つもない店舗。棚に並んだ商品の中から気に入ったものを取り、バッグの中に入れてそのまま店外に出る。購入した商品のチェックや代金の計算はすべて自動で実施され、決済もオンラインで自動的に済まされる。米アマゾン・ドットコムがオープンしようとしている食品スーパーマーケット「Amazon Go」が、これまでの概念を打ち破るショッピングスタイルを実現する店舗として話題になっている。

利用者は、各自のスマートフォンに専用アプリをダウンロードし、入店時にアプリで画面表示させたバーコードをゲートにかざしてスキャンさせる。あとは購入したい商品を棚から取り出すだけ。キャンセルしたければ、もとの棚に戻せばよい。ショッピングが終わり入店の際に通ったゲートを通過すると、ショッピングカートの商品がオンラインで決済される。利用者はレジに並ぶ必要もなければ、精算の手続きをする必要もない。これが、アマゾンが描く次世代のショッピングスタイルである(写真1)。

(写真1)Amazon Goでのショッピング
ゲートでバーコードをスキャンさせて入店(上)。棚から商品を取り出すだけでショッピングカートに入る(中)。ゲートを出るとアプリで精算終了(下)。(アマゾンのホームページ動画より引用)

小売店が、こうした仕組みを採用することで得られるメリットは、いくつか考えられる。まず顧客に対して、いつでも手軽に欲しいものを購入できるという、新しいサービスを提供できる。店舗運営の側面からは、レジにかかる人件費を削減できる。24時間運営のスーパーマーケットも実現しやすくなりそうだ。また、店舗の経営者がなにより大きなメリットとして注目しているのが、万引きによる被害がなくなることだ。棚からとった商品を直接バッグに入れ、そのまま持ち帰れば精算されるので、通常のやり方では万引きは不可能になる。

棚の商品補給や店内の清掃といった作業まで考えると、完全な無人店舗が広がっていくのはまだ先になるのかもしれない。また、Amazon Goの場合は店内にキッチンを置くため、そこにはシェフなどの人がいることになる。それでも、店舗型の自動販売機だと捉えれば、ショッピングの空間にスタッフがいない店舗は実現できそうだ。

人間と同じ思考パターンで学習するディープラーニング

Amazon Goは現在アマゾンが自社従業員を対象に実証実験を行っている段階で、まだ詳細な技術情報などは公開されていない。ただ、アマゾンはホームページで、Just Walk Out(そのまま歩いて出る)ショッピングを実現するテクノロジーは、自動運転を可能にする「画像解析」「センシング技術」「ディープラーニング」を組み合わせて実現したと紹介している。恐らく、店内にはさまざまな角度から利用者や商品、手の動きなどを監視するカメラや、圧力センサーや重量センサー、赤外線センサー、マイクなどが設置され、商品の移動や数などを詳細にトラッキングしているのだろう。

物理的な商品の移動を認識するだけなら、従来から積み重ねられてきた画像解析やセンシング技術を組み合わせるだけでよい。Just Walk Outを実現する上で肝になるのは、利用者が商品を購入する意志があるかどうかを見分ける仕組みだ。棚から商品を取ったのか、棚に商品を戻したのか、まとめて複数商品を取ったのか、一人が両手で取ったのか、別々の人が同時に取ったのか。パターンが複雑で、従来の認識技術だけでは判別が難しい。そこにディープラーニングを活用し、複雑な手の動きやそれに伴う音の変化などを解析して、ショッピングカートに商品を入れるかどうかを判断していると思われる。

ディープラーニングとは、コンピュータが自ら学習して知識を身に着けていくAIの要素技術である。例えばコンピュータが猫の写真を分析し、それが猫であると判断できるようにするには、顔や体形など猫の特徴をあらかじめコンピュータに教えておく。

ただ、それではあらかじめ教えたもの以外の特徴を持つ猫がいた場合、それを猫とは判断できない。