ウエルネス社会

大学主導、まちぐるみの医療が超高齢社会の受け皿に

2017.03.14

小口 正貴=スプール

病院に依存しない「タウンホスピタル」構想

「高齢者をまち全体で見守る仕組み」を掲げ、名古屋大学発のベンチャーとして2011年に発足した「高齢社会街づくり研究所」。同研究所の代表を務める名古屋大学大学院特任教授の岩尾聡士氏は、この仕組みを「CBM(Community Based Medicine)」と名付け、自らが旗振り役となって取り組みを進めている。

CBMは岩尾氏が「IWAOモデル」と呼ぶ、病院に依存しないタウンホスピタル構想に基づく。医療・看護・介護機能を集約したケアミックス型施設とサービス付き高齢者向け住宅を核とし、まち全体が、常に住民を見守るという構想である。

まず名古屋市で、ケアミックス施設の「まごころの杜」とサ高住「聖霊陽明ドクターズタワー」を中央センターとしてCBMを展開していく。さらに、そのノウハウを共有し、東名阪の大都市部を中心に、医療ニーズに対応できる訪問看護ステーションを増やしていく考えである。

名古屋大学大学院経済学研究科特任教授の岩尾聡士氏(写真:小口正貴)

在宅ケアが進む欧州では、これら医療体制の整ったSNF(Skilled Nursing Facility)が病院外に整備されているが、日本ではほとんど浸透していない。これまで日本では国民皆保険制度のもと、「病院での最期」が常識とされてきたためだ。

しかし今や日本人の2人に1人が癌にかかる時代。満足な医療や緩和ケアを受けられないまま医療難民、介護難民になってしまうケースが加速するとの予測がある。

この状況に対し、岩尾氏は非常に危機感を強めている。

まごころの杜は2016年11月に開所したが、癌、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、パーキンソン病などさまざまな患者を受け入れてきた。ここでは、医師、看護師による日常的なケアをはじめ、作業療法士や理学療法士によるリハビリを充実させた。岩尾氏は「開所後4カ月で20名が入居した。“緩和ケアは民間で”という時代が到来していることの証左だろう」と自信を深める。家賃を月に5万円~7万円と低く抑え、地域病院や訪問看護ステーションとの連携、退院後の一時入居や、在宅医療の急性憎悪受け入れにも対応する。前述のように、ここで得た知見を全国に普及させていくのが狙いだ。

タウンホスピタルでもMBTと同様に、産業連携のプラットフォーム「新ヘルスケア産業フォーラム」を設け、医療・看護・介護産業の育成と底上げを図る。まごころの杜には地元企業のアイカ工業が医療・介護施設に適切な衝撃吸収床材や消臭・抗菌壁材などを提供した。さらにAMED(日本医療研究開発機構)の採択事業にも協力し、高齢者医療のPHR(Personal Health Records)活用によるビッグデータ分析など、ICT利用も視野に入れる。