ウエルネス社会

AIで飛躍的に高まる“がん”発見率、画像解析×ディープラーニングが威力

2017.04.17

小口正貴=スプール

日本代表は東大発のベンチャー

日本でも同様の動きがある。東大発ベンチャーとして2014年に設立されたエルピクセルは、AIを活用した医用画像解析サービスを主力とする。特徴は生命科学(ライフサイエンス)の視点に基づいた専門的なアプローチができる点。そのノウハウが同社の画像解析に生かされている。

会社の設立こそわずか3年前だが、研究は10年前から国立がん研究センターと共同で進めてきたもの。共同研究に至った背景の一つは、増え続ける医用画像に対して確認する医師の数が圧倒的に不足していることである。かつては患者1人の診断にX線画像、CT画像を1枚ずつ使う程度で済んでいた。ところが撮影技術と医療機器の進歩により、短時間で大量の画像を撮影できるようになった。例えばCTスキャナーの分解能が高まったことで、患部をより細かく撮影できる。当然、読影対象となる画像は患者1人につき何百枚にも及ぶ。これは医師にとっての負担が膨らむ。もちろん、分解能が上がったとはいえ、読影画像の数が多いと、結果として見落としてしまうリスクは残る。

そこで東大と国立がん研究センターが開発したのが、生物医学画像データを自動分類できる能動学習型ソフトウエア「CARTA」である。研究や検査目的に合った最適な分類基準を自動的に検討・選択する仕組みを備え、専門家の意見を繰り返し学習することで精度が高まっていく。マウスを用いた実験(MRIで画像を取得)では、判別が困難な2種類のがんを由来別に高精度で分類できたという(写真2)。市販の自動判定ソフトと比較すると、間違った判定が2分の1以下に、判定速度は2~10倍高速になった。

(写真2)マウス腫瘍のMR画像(上)とCARTAによる腫瘍画像の自動分類(下)
PCへの画面表示はタイルマップと円グラフマップの2種類で表示され、どちらもマップの格子1点1点に類似度の高い画像群が分類される。

(写真3)エルピクセル 代表取締役の島原佑基氏

エルピクセル代表取締役の島原佑基氏は「この1年ほどのAIの盛り上がりで、私たちの技術に対する医師の意識が変わってきた。現在、数多くの医療機関でテスト運用が始まっている。医療機関の熱意があってこそ、AIは大きく育つ」と話す。種類にもよるが、エルピクセルのがんの画像診断における異常検知率は普通の医師と同等もしくはそれ以上のレベルに達する。

同社ではがんに限らず、画像解析の診療科目を増やしている。ディープラーニングによる画像解析では脳動脈瘤の検知にも成功しており、医師からの信頼も高まってきたという(写真4)。画像診断の内容は、各専門医が必ずダブルチェックする。「AIで最も重要なのは教師データ。ダブルチェックによって腕の立つ医師の“コピー”を作り、教師データとしている」(島原氏)。今後1年間でチェックに関わる医師の数を10倍ほどに増やし、将来的にはAI画像解析ソリューションを医療機器として申請する予定だ。

(写真4)解析対象の画像の例 脳動脈瘤をディープラーニングの画像解析によって検知。MRIで撮影された脳のスライス画像(左)から動脈部分を抽出して3次元画像として表示(右)。赤いコブの部分が、脳動脈瘤であると判定されている。(提供:エルピクセル)

AIはあくまでも画像診断を支援する「有能なアシスタント」である。「現在の医療現場は人的資源が限られ、スタッフは総じて疲弊している。高精度な自動解析は、スタッフを、さらには患者を助けることにつながる」(島原氏)。