慢性的な人材不足は介護事業経営における最大の課題だ。介護スタッフの採用、離職防止のためにも、業務の負担軽減、就労環境の改善が急がれ、2018年度の介護報酬改定に関する議論の場でも、ロボットやICTの活用が真剣に検討されている。そこで日経ヘルスケアは8月1日(東京会場)、8月4日(大阪会場)に介護ビジネスセミナーを開催。介護行政にも影響力のあるキーパーソン、ロボット・ICTの積極導入でスタッフの負担軽減を実現している介護施設経営者、ICTのプロフェッショナルが登壇。次期介護報酬改定の方向性や、ロボット・ICT活用のポイントを語った。

主催:日経ヘルスケア  協賛:三菱電機株式会社、株式会社三菱電機ビジネスシステム

2018年度介護報酬改定の方向性について~介護保険制度改正と介護報酬改定の議論から考える~

地域包括ケアシステムの深化・推進に向けて

社会保障審議会 介護保険部会の委員である馬袋氏は、介護保険制度改正と介護報酬改定について、保険者(市町村)の取り組み強化、適切なケアマネジメントの推進、医療・介護提供体制の改革、介護人材の確保、負担能力に応じた公平な負担、改革の方向性などの点から解説した。

地域包括ケアシステムの深化・推進に向けて、市町村には保険者機能強化を求め、自立支援・重度化防止に取り組むための仕組みを制度化していく。ケアマネジメントについては研修制度の見直しに加え、適切なケアマネジメント手法の策定、多職種連携の推進などに取り組む。

医療・介護提供体制は、市町村が中心となり、入退院時、在宅や施設など生活の場での医療と介護の連携を推進する。脳梗塞など慢性疾患の再発や重症化などが要となる。また「日常的な医学管理が必要な重介護者の受け入れ」や「看取り・ターミナル」の機能と、「生活施設」としての機能を兼ね備えた介護医療院などの創設が検討されている。

生産性向上・業務効率化による介護人材の確保のため介護ロボットの開発支援が推進されているが、今後は導入による報酬や導入支援、さらに技術の急速な進歩にどのように対応するかが課題となると語った。

ニーズに応えるサービス開発ICT活用などによる効率化

世代間・世代内の公平性を確保しつつ介護保険制度の持続可能性を高める観点から、2割負担者のうち所得の高い層の負担割合を3割とする(ただし月額4万4400円の上限あり)。また、軽度者への支援のあり方、福祉用具貸与価格の見直しなど給付の適正化の方針を説明した。

次に社会保障審議会介護給付費分科会で議論された内容について解説。訪問介護については生活援助のあり方、集合住宅におけるサービスの適正化、サービス提供責任者の役割など。訪問看護については緊急時や看取りへの対応、24時間のサポートを可能にする安定的な提供体制をどう構築するか、看護師と理学療法士が連携したリハビリテーションのあり方など。さらに通所介護そのものの役割と機能、機能訓練のあり方、居宅介護支援事業所における人材育成、認知症施策などについての課題・論点を紹介した。

馬袋氏は2018年度の介護報酬改定について次のように語った。

「これまでの改定から基本報酬は下がり、加算で調整する傾向が見て取れます。報酬体系や制度は変わりますが、大切なのは住み慣れた地域で自分らしく暮らしたいというニーズに応えるサービス開発とICT活用などによる効率化、そして人材の確保・育成が最重要だということをベースに事業を運営することです」

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ICT活用によって業務効率化、生産性向上を実現し、人材不足を解消

ICT活用による業務効率化、生産性向上によって介護業界の深刻な課題である人材不足を解決しようとする動きが加速している。三菱電機ビジネスシステム 第三事業本部首都圏システム営業第一部第一課 課長の井上武志氏はICT導入が介護の現場での働き方をいかに変革し、どのようなメリットをもたらすかを語った。

ICTによる生産性向上で人材不足の負のスパイラルを逆転

三菱電機ビジネスシステムの井上武志氏は介護事業者にとっての最大の課題は人材不足だと語る。厚生労働省および経済産業省の資料によると、2000年の介護職員数は約55万人。それが2015年には約187万人と3.4倍に増え、団塊の世代が75歳以上になる2025年には38万人が不足すると予測されている。

井上氏は、人材不足は職員の残業増加、休暇不足、離職、規模縮小、給与不満、離職、さらなる人材不足という負のスパイラルを生み出し、法人存続の危機につながりかねないと指摘する。

「目を向けていただきたいのがICT化による業務効率化です。生産性の向上と離職者の減少を実現し、人材不足による負のスパイラルを逆転させることができます」

業務効率化のためには、介護の記録や申し送りなど事務作業に割く時間を、ICT化によってできるだけ減らすことがポイントとなる。経済産業省による報告書※1は、電子化によりケア記録等の作成にかかる時間を40%効率化することで、1事業所当たりの労働時間短縮効果が訪問介護で2.25時間、通所介護で1.97時間、特養で8.94時間、特定施設で5.10時間出ると試算している。さらに職員の1時間当たりの給与費を当てはめると、費用対効果は導入コストを差し引いてもプラスとなる(表1)。

介護ロボット・IT活用による効果試算

介護保険制度の見直しに向けて、社会保障審議会介護保険部会でもロボット・ICTに関わる介護報酬や人員・設備基準の見直し、提出書類等の見直しや簡素化が議論されており、ICT化による生産性向上・業務効率化などによって介護人材の確保を推進していく考えだ。

パソコンが苦手でも大丈夫 介護記録などの作業が大幅に効率化

ICTを導入する際、多くの事業者が不安を感じているのは、職員の年齢層が高く、パソコンに不慣れなため使いこなせないのではないかという点だ。

「タブレット端末などのスマートデバイスは直感的に入力することができ、利用者から目を離すことなくリアルタイムにデータを記録できるメリットがあります。音声による入力も可能なので、パソコンやキーボードが苦手な方でも簡単にデータを登録することができます。さらに機器と連動し体温計や血圧計などの測定結果を取り込むなど様々な入力方法が用意されていますので、誰にでも使いこなすことができます」と井上氏は話す。

ICT化によって働き方はどのように改革されるのだろうか。まずは介護記録だ。手書きによる記録ではメモから各種書類に転記する必要があり、残業時間が増加し、記録漏れが生じるなど業務効率が低かった。また、記録が1カ所にしか保管されていないため、職種間での情報共有が難しい上、過去の情報を生かしたケアが困難だった。

パソコン、タブレット端末、音声入力による記録システムを導入すれば、その場で記録し、データや申し送りなどを職種間で確実に共有できるようになる。業務効率が向上するだけでなく、1カ月のバイタルの推移、事故・ヒヤリハットなどのデータをすぐに確認できるため、次回のよりよいケアに生かすことができる。

訪問系では、これまでサービス終了時にいったん事業所に戻り、介護記録を報告書に転記する必要があった。また、緊急対応の際にも一度事業所に寄り、必要な資料を持ち出さなければならなかった。しかしタブレット端末やモバイルPCの導入により、外出先から介護記録を入力できるようになり、移動時間の有効活用や直行直帰も可能になる。自宅待機時でも利用者の基本情報などを確認できるため、緊急時にも迅速・適切に対応できる。予定や実績もリアルタイムに反映されるため、請求データの作成や計画立案など責任者の負担も大幅に軽減する。

適切なシフト・人事管理で離職を防止 セキュリティーにも配慮が必要

次にシフト管理・勤怠管理だ。希望休がかなえられず、有給休暇が取りにくいことは職員の不満の大きな原因となる。シフト管理システム・勤怠管理システムを導入することで、希望休を取り入れ、不公平感や条件漏れのないシフトを簡単に作成できるようになる。残業時間もリアルタイムでの把握が可能だ。

適切な人事管理も職員の離職を防止するためには不可欠だ。人事管理・人事評価システムによる一元管理によって、勤続年数・資格情報・研修受講履歴などを一覧でき、明確なキャリアパスを策定できる。また、ストレスチェックの受診履歴や上司の気づきなどを知ることで、有効なメンタルヘルス対策を行うことができる。

忘れてはならないのがセキュリティー対策。USBメモリの紛失やウイルス感染による利用者情報の漏えい、身代金型ウイルス(ランサムウエア)など脅威は増大している。物理的安全対策・技術的安全対策を施すことで、USBメモリの使用を限定し、ログ管理を行うことで危険性を最小限にとどめ、万一持ち出しが発生しても特定することが可能になる。ウイルスによる被害にあっても、クラウド上にバックアップを取ることで、データの復旧を行うことができる。

三菱電機ビジネスシステムの介護ICTソリューション「MELFARE(メルフェア)」

ICT導入に際して井上氏は、職員にその背景とメリットをしっかり説明すること、業務分析を行って課題・あるべき姿を全員で見つけること、課題に対して効果的なシステムを導入すること、導入後のフォロー体制を構築することが重要だと解説する。

ICT化を検討していても、ジャンルによってシステムや機器の会社は数多く、どの会社に相談すればいいのか判断がつきにくい。三菱電機ビジネスシステムの「MELFARE(メルフェア)」は介護業界向けのICTワンストップサービスだ。

「ICTによる業務効率化、生産性向上、人材不足対策、さらにはAIやビッグデータを生かしたいっそう質の高い介護サービスをぜひ皆さんと一緒に実現していきたいと思います」と井上氏は語った。

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セキュリティーシステム導入で安全・安心で信頼される施設を実現

介護・福祉施設における事件・事故がたびたび報道されている。今後、信頼される施設であるためには十分なセキュリティー対策が欠かせない。そこで三菱電機 ビル事業部 ビル統合ソリューション企画部・技術戦略課 課長の桑原直樹氏が効果的なセキュリティー導入のポイントや注意点などをわかりやすく解説した。

高まる安全・安心への要求。事件・事故が施設の存続にも影響

近年、傷害や窃盗など介護・福祉施設の安全を脅かす事件・事故がたびたび発生し、その安全性と信頼性があらためて問われている。

三菱電機 ビル事業部の桑原氏は、「利用者が被害者になるケースも、職員が被害者になるケースも起きています。また認知症の患者さんが施設外を徘徊し、危険にさらされることもあります。そのため利用者からも、職員からも、関係当局からも施設に対する安全・安心への要求が強まっています。リスク対策を十分に行わず事件・事故が発生すると、信用が失墜し、施設の存続に影響を与えかねません」と警鐘を鳴らす。

しかし、セキュリティーを導入しようと思っても、何をどこまで導入すればいいか悩んでいる施設も多い。また、導入したいが十分な予算がない。監視カメラを付けるにしてもどこにどれだけ付ければいいのかわからない。スタッフとの信頼関係が崩れそう…などの声があるという。

介護・福祉施設様からの声

「どういう目的で導入するのか、どんな目標を設定するのか、関係者の間で意識を合わせることが重要です」と桑原氏はアドバイスする。

脅威を明確化し、意識を共有 導入後の運用と監査も重要

桑原氏はセキュリティー導入の検討手順として次の7ステップを挙げた。

1.現状調査(スタッフへのヒアリングなどによる現状の管理体制、課題の調査)。2.リスク分析(侵入、盗難、暴行などの対象リスク、対象資産の決定)。3.対策範囲、対策手段の検討(セキュリティーレベルの設定、レベルに応じたセキュリティー確保手段の検討)。4.目標設定、ガイドラインの策定(管理・実施目標の設定、導入基準の明確化)。5.システム導入(導入計画策定、費用算出)。6.システム運用(試運用、本運用、トラブル対策)。7.監査(監査、対策見直し、保守・次期システム導入検討など)。

セキュリティー導入のための検討手順

特に2~4のどんな脅威からどのように守るかを明確化し、全員で共有することが重要だと桑原氏は強調する。また、すべてを一気に導入するのではなく、予算や負荷を考慮して、複数年度に分けて導入することも可能だ。

「システムは導入すれば終わりではなく、十分な効果を発揮するためには、6のシステム運用や7の監査が重要です。私たち三菱電機は現状調査から導入、導入後の運用・ケアまで一貫して取り組み、総合的に対応することができます」と桑原氏は語る。

セキュリティーレベル、利便性を考慮し、最適の機器を選択

セキュリティーの基本的な考え方としては、まず建物内の重要度(セキュリティーレベル)と通行対象者を定義する。利用する人間が限定される施設専有部(スタッフルーム、機密書類保管庫、薬品庫など)、居住区専有部(居住者スペースなど)のセキュリティーレベルは高く、廊下やエントランスホール、トイレなど施設共有部や居住区共有部などのセキュリティーレベルは低い。その上で、セキュリティーレベルをまたぐ出入り可能な箇所に入退室管理のための認証装置やセンサー類などのセキュリティー端末を設置するのが基本だ。またエントランスには固定カメラ、共用部やエレベーターカゴ内にはドーム型カメラなどを設置する。

三菱電機が提供するセキュリティーシステムは入退室管理システムとカメラとレコーダーによる映像監視システムだ。

セキュリティー対策例

入退室管理システムの認証端末は設置場所や運営に合わせて、最適な製品を選びたい。セキュリティーレベルが高い場所には指透過認証、利便性が重視される場所にはハンズフリー認証、その中間ならIDカード認証など、豊富なラインアップから選択することができる。

ハンズフリー認証ではハンズフリータグを所持していれば、ドアのアンテナに近づくだけで自動的に認証してくれるので、特別な操作なしに入退室を管理できる。タグを所持していれば通行の有無がわかるため認知症の症状がある入居者の見守りに有効で、タグを所持していない人間の侵入も検知することができる。侵入や徘徊を検知した際は、パトライトやメールで職員に通知し、迅速な対応を促す。

映像監視システムは暗い場所でも高画質で録画し、見やすくモニターに表示することができる。職員がモニターの前で監視していなくても、スマートフォンやタブレット端末で他のフロアの様子を確認できる点も便利だ。

システムの連携や映像解析技術の活用でさらに効果的に見守る

入退室管理システムと映像監視システムの連携で、通行履歴から通行時の映像を再生し、その人の様子や行動を確認することができる。さらに入退室管理システムと照明設備を連携させることで省エネを、入退室管理システムと就業管理システムを連携させることで職員の出勤・退勤時刻の自動的な取得が可能になる。

三菱電機ではDeep Learningによる映像解析技術のセキュリティー、見守りへの応用を進めており、画像データから人や物、シーンなどの属性を学習。たとえば入居者が倒れているなどの異常を映像解析で検知し、即座に職員に通知、迅速な対応を可能にする。また、「おてがるっく」は入退室管理、映像監視のクラウドサービスで、スマートデバイスなどから24時間・365日、遠隔で施設の状況を確認できる。

「三菱電機は『DIGUARD(ディガード)』ブランドのもと機器・システムから保守、サービスまで様々なセキュリティーをワンストップで提供しております。安全・安心で信頼される施設の実現のために、ぜひご相談ください」と桑原氏は締めくくった。

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ロボットとICTでケアの質の向上とスタッフの負担軽減を目指す

介護ロボット導入が現場にもたらしたもの

社会福祉法人 シルヴァーウィングは東京都で特別養護老人ホーム、若年性認知症サポートセンターなどを運営。東京都産業労働局「課題解決型雇用環境整備事業」に選定され、介護ロボット導入による労働負荷の軽減とICT化による間接業務の効率化に取り組んでいる。

理事長の石川氏は「介護従事者不足の解消、利用者の自立を促進し、個人の尊厳を保持する高品質なケアの実現を目指しています」と語った。

介護ロボットとはロボット技術を取り入れて、従来の機器ではできなかった優位性を発揮する最先端の介護機器で、(1)被介護者の歩行や食事などの自立を支援する機器(自立支援型)、(2)介護者の排泄、移乗、見守りなどの業務負担を軽減する機器(介護業務支援型)、(3)被介護者のコミュニケーションや癒やしに役立つ機器(メンタルケア支援型)に分類される。

介護業務支援型の導入によって「腰への負担が軽減され業務への不安が払拭された」「スムーズな移乗が可能になった」、見守り支援ロボット導入によって「不要な訪室が減少した」などの声が職員から寄せられている。また、機能訓練支援ロボットは、改善の度合いが数字で確認できるためリハビリへのモチベーション向上に役立っているという。

「ロボットには得意な作業と苦手な作業がありますので、人手を基本にロボットとの協働を考え、負担の少ない新しい介護のあり方を構築することが大切です」と石川氏は話す。

ICT活用が生み出す新しい介護のかたち

ICT化がもたらした最大のメリットは情報共有によるケアの質の向上だ。職種間の信頼関係が構築され、サービス提供の状況、利用者情報、申し送り、過去からの状態・状況の推移などをすぐに確認できるため、利便性と作業効率が大幅にアップした。現場ではタブレット端末によってバイタルデータや介護内容を簡単に入力でき、外出先でも必要な情報を閲覧することができる。また、バイタル情報などを数値で示すことができるので利用者の家族からの信頼が得られやすい点や、介護計画の見直しや新しい計画の作成が容易な点にもメリットを感じているという。

職員からの評判も「紙に記入するより使いやすい」「過去の情報を閲覧でき、検索・確認できるのがいい」「タブレット端末で簡単に入力でき、持ち運びにも便利」と上々だ。

「介護ロボットとICTの導入により、確実に業務効率化・生産性向上が実現しました。今後は見守りロボットなどを活用した高齢者の孤独死問題の解決、さらには日々蓄積される看護・介護記録(ケア記録)をAIで分析し、介護リスクを早期に予見するシステムの開発を行いたい」と石川氏は展望を語った。

展示コーナー

セミナー会場には、介護現場のスタッフの負担軽減実現や、入居者・利用者の安全・安心を支える三菱電機グループの技術・ソリューションが、デモンストレーションを交えながら展示された。

一つは三菱電機ビジネスシステムが提供する介護ICTソリューション「MELFARE(メルフェア)」だ。MELFAREは、介護業務支援システム「ほのぼのNEXT」を中心に、介護記録システムや、総務・経営支援システムなどを総合的に組み合わせ、事業所の規模・形態に応じた最適なシステムを構築する。セミナー会場では音声での介護記録の入力の実演などICT活用による省力化のポイントを来場者に紹介した。

展示コーナー
展示コーナー

もう一つの展示は、外部からの侵入対策ばかりではなく、入居者の徘徊対策でも威力を発揮する統合ビルセキュリティーシステム「MELSAFETY(メルセーフティー)」と、ネットワークカメラシステム「MELOOK(メルック)3」だ。会場ではカメラや入退室の認証装置を組み合わせたデモ環境を用意。多くの来場者の目を引き付けた。

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