電子カルテのクラウド化が拓く医療の未来

団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年が近づく中、地域包括ケアシステムの整備が急がれる。その実現の鍵となる中小病院向けの電子カルテ導入を加速するべく、株式会社シーエスアイは Microsoft Azure を利用し、電子カルテのクラウドサービス化を打ち出した。業界シェア第2位の電子カルテ分野を牽引する CSI と、Microsoft Azure で医療のデジタル化に取り組む日本マイクロソフトが共に目指す、「電子カルテのクラウドサービス化が拓く日本の医療の未来」について、両社のキーマンによる対談が行われた。「現在の電子カルテは病院の中に閉じており患者中心とは言い難い」と指摘する CSI の齋藤社長。2025年問題の解決、医療の個別化の実現に向けてデジタル化による医療変革の道筋が見えてきた。

地域包括ケアに欠かせない情報共有とデータポータビリティ

株式会社シーエスアイ 代表取締役社長 齋藤 直和 氏

株式会社シーエスアイ
代表取締役社長

齋藤 直和 氏

 団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年に向けて、高齢者を地域社会で支え続ける地域包括ケアシステムの構築が急務となっている。高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最期まで送れるように医療、介護、予防、住まい、生活支援を地域一体で提供していくために情報の共有が欠かせない。
「地域包括ケアの根底には患者中心の医療という考え方があります。しかし今の電子カルテは病院の中に閉じており、患者中心とは言い難い」と、電子カルテ市場で業界トップクラスのシェアを維持するシーエスアイ(以下、CSI )の代表取締役社長 齋藤直和氏は指摘しこう続ける。
「治療によって個人毎に極めて特異性の高い医療情報が電子カルテに蓄積されていきます。他の病院、診療所、介護、在宅医療など患者さんの治療フェーズが移っていくときに、個人の医療情報も一緒に移動し、なおかつ使う場面ごとに適切な情報を提示していくことが必要です。

地域包括ケアを効率的かつ効果的に進めるためには、医療・介護・福祉のスタッフ間での情報の共有と、患者さん本人の意思で医療情報を再利用できるデータポータビリティが重要なポイントとなります」
 情報共有やデータポータビリティで安心して情報を活用するためには認証の仕組みも重要になる。日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長 佐藤知成氏は「機微な情報を取り扱う上で、いつでも、どこでも、適切な認証によって個人識別ができるかたちで患者さんに情報を届けることが大切です」と話し、こう付け加えた。「医療におけるデジタル化では、情報共有を通じて地域包括ケアのチームと患者さんのつながりを支援するとともに、ITを活用しチームの生産性を高めていくことも重要なテーマとなります」

日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長 佐藤 知成 氏

日本マイクロソフト株式会社
執行役員 常務
パブリックセクター事業本部長

佐藤 知成 氏

ICT の積極的な利活用が課題解決の突破口になる

株式会社シーエスアイ 常務取締役 宮崎 寛和 氏

株式会社シーエスアイ
常務取締役

宮崎 寛和 氏

 高齢者の増加に伴い、医師不足が懸念される中、地域包括ケアで中心となる在宅医療の充実をどのように図っていくかは重要な課題となる。CSI の常務取締役 宮崎寛和氏はそこでは ICT 利活用が不可欠と語る。
「例えば、マイクロソフトが提供するビデオ通話サービス Skype for Business(以下、Skype )も有効な解決策の1つになりえます。当社では本社に大きなプロジェクターを設置し、毎週月曜日に全国の拠点から Skype を利用して朝礼を実施しています。また外出先から Skype で会議に出席するといったことも日常的に行われています。こうした経験から Skype を活用した遠隔診療を検討中です。通話はもとよりビデオチャットや録画・録音ができる点も在宅医療に適しています」
 これまで在宅医療では訪問診療と往診しかなかったが、医師の時間的、肉体的負担は大きい。

「介護士さんなどの有資格者の方が Skype を使って自宅にいる患者さんの様子を映しながら、医師の診断を仰ぐ。患者さんを中心とする医師や介護士のヒューマンネットワークの中で Skype を活用するというのは、地域包括ケアでは有効な取り組みになると思います」と日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 シニアインダストリーマネージャー 清水教弘氏は話す。
齋藤氏は「地域包括ケア推進においては、医師の負担を軽減しながら1人の医師が対応できる患者数を増やしていくといった取り組みは重要です。デジタル化時代の医療では、データを活用した医療アドバイス、遠隔診療、そして従来の対面診療など、患者さんの症状や状態に応じて治療手段の選択肢が広がっていくでしょう。そして、その前提となるのが電子カルテのクラウド化だと考えています」と強調する。

日本マイクロソフト株式会社 パブリックセクター事業本部 医療製薬営業本部 シニアインダストリーマネージャー 清水 教弘 氏

日本マイクロソフト株式会社
パブリックセクター事業本部
医療製薬営業本部
シニアインダストリーマネージャー

清水 教弘 氏

電子カルテのクラウド化で運用コストを3割削減し高度なサービス提供へ

 超高齢化社会では慢性疾患や複数の持病を抱える人が増えることから、「治す医療」から「治し、支える医療」への転換が求められる。「治し、支える医療」の中心的な役割を果たすのが、地域の中小病院(300床未満)だ。地域包括ケアの要となる中小病院の電子カルテシステムの導入率は25%に満たないという。「情報共有やデータポータビリティの実現では中小病院の電子カルテシステムの導入が不可欠です」と宮崎氏は話す。
 CSI は電子カルテ導入件数で国内第2位(※)、そのうち約7割が中小病院である。同社が中小病院への電子カルテの導入を加速するために打ち出したのが、主力製品である「 MI・RA・Is(ミライズ)」の Microsoft Azure を活用したクラウド化だ。「 MI・RA・Is/AZ for Cloud 」の AZ にはヘルスケア分野全領域( All Zone )との連携を目指すという意味が込められている。

 MI・RA・Is(ミライズ)がめざすもの
CSI の電子カルテ「 MI・RA・Is/AZ for Cloud 」は、これまで病院内に閉じていた医療データ活用の可能性を大きく広げる。
中小病院の電子カルテのクラウド化が新しいサービスの創出につながると語る齋藤氏。
中小病院の電子カルテのクラウド化が新しいサービスの創出につながると語る齋藤氏。

 クラウド化が電子カルテ普及の推進力となるポイントについて、宮崎氏はこう説明する。「中小病院では情報システム部門が設置されておらず、IT 化に関して事務の方が兼任されているケースがほとんどです。電子カルテをクラウドサービスとして利用することで、導入に際して高いハードルとなる運用や保守が不要となります。サーバールームも必要なく空調に要する電気代もかかりません。サーバー設置型カルテの導入と比較した場合、Azure を採用した「 MI・RA・Is/AZ for Cloud 」を導入することにより、概ね年間の運用コストを30%は削減できると思います。人員も含め既存環境はそのままで、Azure の高いセキュリティのもと電子カルテを利用できるメリットは非常に大きいです」
 すでにオンプレミスで同社の電子カルテを導入している病院も、更新のタイミングでクラウドに移行するケースが増えているという。「障害や故障時の対応なども含めて自分たちで運用するのは大変ということです。 コスト削減効果の拡大やデータ連携の面で検査システムや調剤システムなど部門システムのクラウド化も求められます。中小病院向け電子カルテ市場を牽引する当社がいち早くクラウド化することで、部門ベンダーのクラウド化促進の後押しをしたいという狙いもありました」(宮崎氏)
 クラウドの拡張性もメリットが大きいと齋藤氏は付け加える。「オンプレミスの場合、スペックがオーバーヘッドになりがちです。クラウドなら必要に応じてリソースを増強することができるためコストの最適化が図れます。コストを圧縮した分を新しいサービスの創出や医療本来の設備機器に投資していくという構造を創り出すうえで電子カルテのクラウド化は必要不可欠です」

※JAHIS(一般社団法人保健医療福祉情報システム工業)月間医療 共同調査データからCSI集計

セキュリティとともに AI などデジタル技術の活用がクラウド選定のポイント

中小病院の電子カルテのクラウド化が新しいサービスの創出につながると語る齋藤氏。
国の定めるガイドラインへの対応など、クラウド選択のポイントを語る宮崎氏。

 電子カルテのクラウドサービス「 MI・RA・Is/AZ for Cloud 」の基盤に Microsoft Azure を採用した理由について宮崎氏は「 Microsoft Azure が3省4ガイドライン(厚生労働省、経済産業省、総務省の3省による医療情報を取り扱う上での4つのガイドライン)に準拠していることを保証しており、実際にデータセンターを見学しトップレベルのセキュリティを確保していることを確認しました」と話す。
 Microsoft Azure は東西2つの地域に分かれてデータセンターを運用しており、医療機関の場所によってどちらかを選択できることも魅力だったと宮崎氏は続ける。「全国どの地域でも十分な速度を確保できることに加え、データのバックアップも東西で取ることができます。また他のクラウドサービスを検討する中で非合理に感じた5年ごとの更新コストも発生しないということもポイントとなりました」
 Microsoft Azure を採用した理由にはもう1つ重要なポイントがあると齋藤氏は話す。「 Microsoft Azureの IoT やビッグデータ、AI などの機能を利用することで、自前で環境を構築することなく医療分野における新しいデータ活用に取り組むことが可能です。『治療から予防へ』という次世代医療の大きなテーマに対応していくために、これからのシステムやサービスの開発では医療の個別化をキーワードにしていきたいと考えています」
 疾患の状態は千差万別であり、個人ごとに病気の背景も異なる。齋藤氏はさらにこう続けた。「40代の男性で同じような症状だからといって、ある人で効果のあった治療が他の人にも効果的かというと、そうとは限りません。病気の背後には、個人や家族の病歴、アレルギー、生活習慣など様々な要素が複雑にからみあっています。人間ドックや定期健診は大切ですが、医療の個別化の観点では治療のアウトカム情報、脈拍、血圧、体温など日々のバイタルデータ(生体情報)等を様々なセンサーを使ってクラウド上に収集し分析することが重要です。これらのデータが個人の治療にどれだけ意味と価値を持つかは病歴や症状によって異なることから、AI を使ってデータの重みづけを行うことも今後は必要になると考えます」
 佐藤氏もバイタルデータの必要性について言及する。「日々バイタルデータを取る目的は、イレギュラーをいち早く検知するためです。体温だけとっても個人によって平熱が異なるように、何がイレギュラーなのかを見つけるために AI を活用した海外の事例もあります。重症化させないために、また予防のために、患者さん一人ひとりに価値ある情報を提供していくことが大切です」

AIの活用が、疾患の予兆発見や医師の診断支援に貢献できると話す佐藤氏。
AIの活用が、疾患の予兆発見や医師の診断支援に貢献できると話す佐藤氏。

 清水氏は、医療分野におけるデジタルトランスフォーメーションへの取り組みを次のように捕捉した。「マイクロソフトでは、テクノロジーによって患者さんや介護などのサービス利用者さんへ、新しい体験、経験、価値を提供することに取り組んでいます。予防、治療、介護と切れ目ない医療が求められる中で、集合情報の中から AI や Machine Learning(機械学習)といったテクノロジーにより、PHR などの個別医療の最適化を実現できると信じています。また、疾病そのものを治すことはできませんが、パーキンソン病を患っている患者さんの手の震えを抑える IoT 機器の開発や、眼球運動パターンを Machine Learning することによる小児の失読症の早期発見支援、盲目の方向けの AI による画像認識で周囲の情報を音声で補助するアプリケーション開発といった活動は、まさにマイクロソフトのテクノロジーが患者さんへ新しい体験、価値を提供した例と言えるでしょう」

クラウドの利活用で人の一生に寄り添う高度な医療の実現を

電子カルテのクラウドサービス化で拓く日本の医療の未来。
電子カルテのクラウドサービス化で拓く日本の医療の未来。
CSIと日本マイクロソフトは、患者一人ひとりに寄り添っていく地域包括ケア、そして医療の個別化の実現に向け共に歩みを進めていく。

 データを活用し診療というサービスを提供するといった観点から、医療は IT と親和性が高いと齋藤氏は指摘する。「個人が生涯にわたり自分自身に関する医療・健康情報を収集・保存し活用できる PHR( Personal Health Records )といった仕組みづくりが重要です。現在、個人の健康情報に関して、カルテ情報は医療機関、健康診断の情報は健康診断機関、運動情報はスポーツクラブなど様々な場所に散在しており、それぞれが連携していません。これらの健康情報をクラウドで一元管理し活用を促進するプラットフォーマーとしてのマイクロソフトさんと、医師や研究者とコラボレーションしながら様々な健康情報を整理し、個々の患者さんに向けて提示するデータマネジメントを行っていく当社と、両社が連携することで2025年問題の解決や医療の個別化の道を切り開いていきたいと思います」
 佐藤氏も「セキュリティ、テクノロジー、インフラの運用といったプラットフォームは当社がサービスとして提供し、CSI さんは専門分野に特化した課題解決に時間や人材を割り当てていただく。医療分野に新しい価値を生み出しスピーディに展開していくことに大きな意味があると考えています」と応じ、こう締めくくった。
 「生まれてから亡くなるまでの人の一生に寄り添うといった観点でテクノロジーによる新しい価値を提供することに取り組むマイクロソフトと、医療の個別化をテーマとするCSIさんとは方向性が一致しています。これからもCSIさんと共に患者中心の医療の進化に貢献していきたいと思います」

●企業プロフィール


株式会社シーエスアイ
http://www.csiinc.co.jp/

電子カルテシステム「 MI・RA・Isシリーズ」や地域医療連携サービス「 ID Link 」などの医療システムを全国に展開。2013年には株式会社CEホールディングス(東証一部)を親会社とする持株会社に移行。主力製品の「 MI・RA・Isシリーズ」は現役の医師とチームを組んで中小規模医療機関に向けたシステム開発を行い、将来にわたって進化し続けるシステムとして医療現場のニーズに応えていく。

●関連リンク


電子カルテシステム「 MI・RA・Is/AZ(ミライズエーズィー)」の詳細はこちら
http://www.csiinc.co.jp/solution/miraisaz.html