キャッシュフロー志向の現場改善。わずか半年で工場在庫を半分に

東芝のICT事業を担う東芝デジタルソリューションズは、顧客からの注文に応じてオーダーメイドのITシステムを設計し構築するICTインフラサービスセンターに、TOC(制約条件の理論)に基づく業務改善手法を適用した。設計・構築のリードタイムの大幅短縮や、構築前在庫と出荷前在庫の半減など、顕著な効果を短期のうちに実現。結果として、重要な経営指標の1つであるキャッシュフローの改善を果たした。
東芝デジタルソリューションズ 株式会社 ICTインフラサービスセンター 参事 小野 泰志 氏

 生産性の向上や業務の効率化に向けたさまざまな改善を進めてきたが、やり尽くした感もあり、次第に打つ手がなくなっていった――よくある状況だが、東芝デジタルソリューションズは2015年頃にまさにこのような課題に直面していた。

 その舞台は顧客のITシステムの設計・構築を担う同社の「ICTインフラサービスセンター」(東京都府中市)である(同センターはほかの機能も持っているがここでは省略する)。

 「設計・構築作業において、スキルを持つ人材が限られていることもあって工程詰まりがしばしば発生し、なんらかの効率化を図る必要がありました」と、同センター参事(プロジェクト推進時は企画部長)の小野泰志氏は当時の状況を説明する。

東芝デジタルソリューションズ 株式会社 生産統括責任者 役員待遇 石野 誠 氏

 とはいえ、考えられる改善活動は一通りやり終えた状況で、なかなかいいアイディアがなかったという。「さまざまな議論を経て、社内での取り組みが限界であれば外部の知恵を借りてみてはどうかという結論になり、社外コンサルティングに依頼することにしたのです」と、生産統括責任者の石野誠氏は説明する。

 そのときに白羽の矢を立てたのがTOC[*1]だった。「TOCは、個別の業務そのものを改善するのではなく、全体の効率を落としているムダな部分を改善するというユニークなアプローチを採用していると知り、われわれにはない発想に賭けてみようと考えたのです」(小野氏)。

 コンサルティング会社としてはTOCで豊富な実績を持つ株式会社ビーイングを選定。手始めに、2015年11月から、POC(Proof of Concept:概念実証)として、ITシステムの設計・構築の効率化にTOCを適用してみることにした(図1右下の破線部分)。

図1. 東芝デジタルソリューションズのICTインフラサービスセンターにおける
       TOCの適用範囲

[*1] TOC:Theory of Constraintsの略。ベストセラーとなった「ザ・ゴール」(ダイヤモンド社)の著者としても知られるエリヤフ・ゴールドラット氏が構築した理論で、「どんなに複雑なシステムや組織も常にごく少数の要素(制約)に支配されている」という考えに基づいて、制約を特定し組織全体のスループットの増大を目指す改革手法。

マルチタスクを廃してリードタイムを40%削減

 設計・構築作業は、営業部門が受注してきた案件に対して、システムを構成するサーバーやネットワーク機器などの機材を組み合わせ、ソフトウェアをインストールしたりセットアップを行い、全体動作を確認したのち、顧客へと出荷するのがおおまかな流れになる。20人から30人の技術者がそれぞれ数件の案件を常に並行で抱えていた。

 「従来の改善活動では、個別プロセスの詳細分析に時間をかけた上で、改善の方向性を組み立てていくことに慣れ親しんでいましたので、TOCのアプローチには当初戸惑いを感じました。」と、2015年11月にPOCを始めた当時を小野氏は振り返る。しかしながら、「今思えば、業務プロセス全体を一本の流れ(フロー)として捉え直した上で、その流れを阻害している1点(レバレッジポイント)にダイレクトにアプローチしたからこそ、短期間のうちに大きな成果を獲得することができた。」とのこと。

 実はTOCではマルチタスクを嫌う。より正確には、「現在の作業を中断して、他の作業を行う」のを悪いことと考える。そのつど頭の切り替えが発生し、集中力やスピードが落ちることが理由だ。

 実際に設計・構築部門では、ベンダーに発注していた別案件用の機材が届くたびに開梱して中身を確認したり、作業用のスペースを先行して確保するといったことが常態化していた。そのたびに担当者の頭の中では切り替えが起きて効率が下がり、しかも開梱済みの機材が所狭しと置かれる状態になっていた。

 設計・構築担当者にそうした意識付けを行うとともに、作業中の案件が終わるまでは別案件用に調達した機材の開梱作業などを行わないように徹底。「早く着手しないと顧客納期が遅れてしまうのではないか」といった不安の声が上がったが、その懸念は杞憂に終わり、成果は目に見える形ですぐに現れた。

 「マルチタスクがなくなったことで設計・構築作業がスムーズに流れるようになり、また、開梱済み機材で雑然としていた一角が整理されスペースが生まれました。当初はTOCの適用に懐疑的な意見もありましたが、こうした『ビフォー・アフター』を示せたことで、多くの人が納得してくれました」と石野氏は述べる。

 設計・構築の実務には踏み込まず、実務を阻害している要因に着目するTOCならではの進め方といえる。

 2015年11月から2016年4月までの6か月間にわたって行ったPOCで、設計・構築作業において予想を上回る40%ものリードタイム削減に成功。TOCの有効性が実証された。

営業部門の協力を得ながらセンター全体に適用拡大

 同社は、POCでの成果を受けて、TOCの適用範囲をセンター全体に拡大するプロジェクトを2016年4月にスタートさせた(図1の緑枠部分)。おりしも2016年2月に、東芝全体として、売上・利益拡大を重視したプロセスからキャッシュフロー重視のプロセスに転換するとの方針が社内外に示されたタイミングであり、同センターにおいてもキャッシュフローに直接影響する在庫削減を推し進める必要があった。

 全体導入プロジェクトにおいては営業部門も巻き込んだ。というのも、営業からの伝票に従って同センターでは機材をすぐに発注していたが、その結果として実際の設計・構築作業に取り掛かるよりもかなり前の段階でベンダーから入荷されてしまい、構築待ち在庫を増やす要因になっていたためだ。

 また、営業部門が実納期ではなくいわゆるバッファを組み込んだ納期を同センターに指示することも多く、構築は終わっていながらも留め置きしておかなければならず、出荷待ち在庫を増やしていた。

 「TOCをやる前には気付きませんでしたが、営業担当者は顧客への納入を遅らせたくないため常に『なるはや』(なるべく早く)を要望し、当センター側でも作業を遅らせられないとの心理からすぐに発注を掛けてしまうことなどが重なって、それらが大きな在庫を生んでいることが明らかになってきました」(小野氏)。

 そこで、「全体の生産性はボトルネックの能力以上には高くならない」というTOCの基本原理に則って、前工程での詰め込みを排除するいわゆる「DBR」[*2](ドラム・バッファ・ロープ)の考え方を適用した。前述のPOCでの「投入制限」を調達にまで拡大したイメージだ。

 具体的には、キャッシュフロー指標や在庫削減の重要性を関係者全員に周知して理解してもらうとともに、営業からの早すぎる発注や「なるはや」依頼を減らすために、センターの担当者がエージェントとして営業部門に常駐して実納期入手と各工程のスケジュールを管理する体制を敷いた。次に、ベンダーの納期から逆算した発注タイミングの調整などを通じて、顧客への納品に合わせた最適なスケジュールで機材や構築作業が揃うように管理した。

 また、ITシステムでもTOCの運用をバックアップした。ただし既存の基幹システムにTOC対応機能を新たに実装するのは時間もコストもかかってしまうため、いわゆる「モダナイゼーション」[*3]の考え方を取り入れた。

 「弊社の基幹システムに、ビーイング社が提供するTOCソリューション『ProLaris』[*4]をWeb APIを介して連携させることで、調達品の納期をグループ管理してジャストインタイムを実現する機能を実現しました。このような工夫によって、時間とコストを抑えながら、TOCのプロセスを基幹システムに組み込むことができました」(小野氏)。

[*2] DBR:Drum-Buffer-Ropeの略。「ザ・ゴール」の中で書かれているボーイスカウトの例え話に由来する。(1) 全体の歩調を律速する「ドラム」、(2)早すぎる生産開始を制限する「ロープ」、(3) 前工程でのなんらかの遅れを吸収する「バッファ」、という3つの要素で工程の能力を最大化するという考え方。
[*3] モダナイゼーション:レガシーのIT資産を生かしながら企業が求める新たな機能を実現する、IT構築あるいはIT運用の考え方。
[*4] ProLaris(プロラリス):ビーイング社が出資するProgressive Labs社(イスラエル)が開発したSaaSベースのTOC-SCMソリューション。

構築前在庫と出荷前在庫の68%削減を実現

 全体導入の成果はすぐに現れ、在工場在庫(構築前在庫および出荷前在庫)は2016年第2四半期に37%減、同第3四半期に49%減、同第4四半期に68%減と、大幅な削減に成功(図2)。棚卸回転率やリードタイムにおいても顕著な改善が得られているという。結果として、目標であるキャッシュフローの良化を果たしている。(東芝デジタルソリューションズ調べ)

図2. TOCの全体導入による
       在工場在庫(構築前在庫および出荷前在庫)削減の効果
当初目標(58%)に対し、それを上回る「68%」を達成!

 ちなみに、TOCの国際資格認定機関であるTOCICO[*5]が2017年7月にドイツ・ベルリンで開催した国際会議で、石野氏や小野氏らが「Why did Toshiba Digital Solutions Choose to Adopt TOC?」と題した今回のプロジェクトの発表内容は、栄誉ある基調講演に選出され、体系的な取り組みや顕著な成果に対して各国の参加者から大きな賞賛が寄せられたという。

 最後に石野氏はプロジェクトを次のように総括する。「エリヤフ・ゴールドラット氏が書いた名著『ザ・ゴール』(ダイヤモンド社)を実践したかった、というのが私と小野のモチベーションにあったように思います。もちろん、トップの理解と、改革に熱意を持つ各部署のキーパーソンの協力がなければ成功しませんでした。また、今回お願いしたビーイングは、親身に、かつ、リアリティで話をしてくれ、私自身とても楽しく推進できたと感じます」。

 東芝デジタルソリューションズでは、今回得たTOC成功のポイント(図3)を貴重な経験としながら、自社のさらなる改善に努めると同時に、東芝グループなど外部にもTOCを広めていきたい考えだ。

図3. 東芝デジタルソリューションズが今回の経験で導き出した
       TOC導入の5つの成功要因

[*5] TOCICO:Theory of Constraints International Certification Organizationの略で、TOCの国際資格認定機関。

TOSHIBA
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