日経ビジネス ONLINE SPECIAL

IoT時代に必要な現場力とは

10分で理解するデジタルの「旬」
デジタル×デザイン
事例で読み解くデジタル技術とデザイン思考の活用例
未来の新しい価値創出につながるヒントとは
 いかに最新のデジタル技術を活用し、新しいビジネス価値を創出するか——。これが重要なカギとなりつつある。業種業態を問わず、あらゆる企業にとってIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、クラウドといったデジタル技術をいかに使いこなすかは、もはや避けられないテーマだと言えるだろう。すでに多くの企業が、検討フェーズを終え、実践フェーズへと移行。デジタル技術を使った新しいサービスを市場に投入しつつある。

店舗をバーチャル上でデジタル化し、これまでにない買い物体験を提供

 小売店をバーチャル上でデジタル化することで、これまでにない買い物体験を提供しようとしているのがパルコだ。同社では、VR(仮想現実)を活用した新しいサービス「VR PARCO」を展開している。これはスマートフォンやパソコンなどを使って店内の映像を360度見渡しながら買い物を楽しめるサービスだ(パルコ福岡店の3店舗が対象)。スマートフォンを装着して利用する、VRゴーグルとも呼ばれる簡易型のHMD(ヘッド・マウント・ディスプレー)を使うことで、より臨場感を味わうことも可能だ。

 映像内に登場する約70商品はパルコのECサイトと連携。気になった商品があれば、ECサイトに遷移することで購入できる。ECサイトとVRを連携させるメリットの1つは、商品のサイズを実際に確認できること。家具などはECサイトに載っている商品写真や、高さ・奥行きといった数字だけでは、実際の大きさを実感しにくい。その点、VRを活用すれば実際のサイズ感を購入前に体感できる。またECサイトでの買い物にエンターテインメントの要素を組み込めるのも大きなメリットだ。

 AIを使って、選んだメガネの“お似合い度”を判定するサービスも出てきている。大手メガネチェーンのジンズ(JINS)が提供しているネットサービス「JINS BRAIN」がそれだ。約200タイプのメガネを数百人が装着した画像、計6万点をクラウド上に用意し、JINSスタッフ約3000人が「似合う」「似合わない」を評価。こうした膨大な画像評価データを、JINSのオリジナルAIに学習させることでレコメンドサービスを完成させた。つまり、店頭スタッフの目利き力を結集させたわけだ。

 その狙いは、ネット上でメガネを買う際のハードルを下げることにある。アパレルや靴と比べ、メガネはサイズ感、度数などの条件を考慮するとネット購入はハードルが高い。また「自分に似合うメガネが分からない」というユーザーも多い。その点、このサービスを利用すれば、スタッフの知見を参考にネットでメガネ選びを完結することも可能になる。

 デジタル技術を活用しているのは予算のある大企業ばかりではない。月額数万円で働くAIロボットが、ラーメン店や居酒屋などで稼働している。東京・浜松町近くの人気ラーメン店「鶏ポタラーメンTHANK」では、小型ロボット「Sota(ソータ)」に搭載されたAIが来客を識別し、それぞれの顧客にあった接客をする。この接客を受けられるのは、専用のスマートフォン向けアプリで、事前に自分の顔写真を登録した顧客。アプリに登録した顔画像をクラウド上で照合し、名前を呼んで来店回数に合った挨拶をするのだ。来店に応じて提供するトッピングの無料券は、Sotaとプリンターを連携させて発券。クチコミサイトにおいて、同店は味だけでなく、接客でも高評価を得ているという。

 働き方改革にデジタル技術を活用するケースも増えている。長時間労働の是正に向け働き方改革を推進するのが電通だ。その一環として目を付けたのがPC雑務を自動化する最新技術「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」だ。RPAはデータのコピー・アンド・ペーストなどPCを使った人手による定型作業を自動化する技術。人がこなす定型作業を記録し、ソフトウエアのロボットに肩代わりさせる。全社・全部門がRPAの適用対象だという。すでに2017年10月までに260件のPC雑務を自動化。2019年末までには約10倍となる2500件の自動化をめざしている。こうした業務の自動化は、伝票処理の多い金融機関にも広がっており、今後大きな潮流として定着していきそうだ。

道路や橋梁の劣化具合の予測やダイヤ編成、
混雑緩和に生かす取り組みも

 最新のデジタル技術を活用する動きは、自治体にも広がっている。街全体の効率化や、都市の利便性向上、セキュリティ強化などについて、多くの自治体でさまざまな取り組みが進められている。例えば、センサーを活用して道路や橋梁の振動を測定し劣化具合を予測したり、公用車にカメラを付けて路面の傷みを画像で把握したりする自治体もある。

 災害時を想定し、避難所の医師、職員、ボランティアにセンサーを付けることも検討されている。誰がどこにいて、何ができるかを把握し、的確・迅速に指揮するためだ。また、通学児童、認知症の老人など社会的弱者にセンサーを付け、日ごろの見守り活動に役立てることも検討されている。

 バス、鉄道など公共交通におけるデータ活用も有用性が高い。天候、行事、時間帯などで人出がどう変わるかICカードを基に把握すれば、ダイヤ編成や混雑緩和に役立つ。さらに、駅の雑踏を行き交う人々の動きを画像診断し、犯罪の予兆を早期に検知することも可能になる。ただし、これらの実現にはプライバシー保護に向けたルールや仕組み作りが重要だ。

 デジタル技術により、実在するモノの「双子」を仮想的につくるデジタルツインを利用し、仮想都市を使って開発事業を検討するプロジェクトも進んでいる。その対象となっているのが東京・渋谷だ。

 その狙いは3D(3次元)を使って都市への具体的なニーズや障壁などを多角的に検証すること。都市の案内や工事状況の確認などさまざまな用途に利用できる。アップデートされていくさまざまなオープンデータと連携させて全体を俯瞰できれば、今よりも特色のある都市開発事業が可能になるという。こうした仮想都市の検証は、シンガポールをはじめ海外でも活発化しつつある。環境、防災、交通などさまざまなシミュレーションが可能で、問題が大きくなる前に把握して都市計画や都市政策に反映させることができるからだ。

製品やサービスに“魂”を込めるデザイン思考が重要なキーワードに

 デジタル技術は使いこなせば確かに大きな武器になるが、注意も必要だ。新しい技術をただ単に使うだけでは、“魂”を入れることはできない。常にその技術を使う相手やシーンを想像し、サービスや製品を作り上げていかなければ、一過性のもので終わったり、見向きもされない可能性もある。そこで注目を集めているのが、デザイン思考だ。デザイン思考とは、デザイナーが実践している思考法を取り入れ、ユニークな視点で課題を発見し、創造的に解決策を発見する方法だ。

 デジタルとデザインをどう融合するか。それに向けた取り組みを進める企業も出てきている。その1社がヤフーである。同社では2013年夏から希望者に向けてデザイン思考に向けたワークショップを開催し、社内の各部門でデザイン思考を推進するコアメンバーを育成している。社内で新しいネットサービスを開発する際は、そのコアメンバーがデザイン思考のアプローチをサポートしているという。

 デザイン思考によって新しいネットサービスを開発した一例が、タブレット用のゲーム情報紹介サイトだ。当初からタブレットのネットサービスを強化する狙いがあり、ゲーム分野に着目。まずはユーザーの実態について深く理解するため、新しいネットサービスの対象となりそうなユーザー10名程度にインタビューを実施した。「何か不便なことはありますか」とユーザーに聞いても本音が出てくるケースは少ない。そこで発想を変え、ユーザーの行動や操作しているときの気持ちについて質問。どんな画面を見ているのか、使用時間はどれくらいか、など具体的に掘り下げて聞いていったという。

 その結果、さまざまな気付きが得られた。当初開発メンバーは、「サイトに掲載するゲーム情報を詳細にした方が利便性は向上する」と考えていた。しかしユーザーの中には、むしろゲーム情報はサマリー程度にして、1つの画面で紹介するゲーム数を増やしてほしい、という意見もあった。ゲーム情報を詳細に掲載すると画面上に文字が多くなり、紹介できるゲーム数が限られるからだ。

 また、関係者たちは「最新ゲームの情報がユーザーのメリットになるはず」とも思っていた。だがユーザーは最新情報よりも、むしろツイッターなどで注目されているゲーム情報について知りたいと考えていたという。同社ではこうした意見を踏まえて改善を重ね、最適なサイト作りを行っている。

 デザイン思考をブームとして終わらせず、社内に定着させることも重要なポイントだ。新しい手法だからと飛び付き、成果が出ないとすぐにあきらめてしまっては始めた意義がなくなってしまう。こうした考えのもと、人材開発の一環として捉え、社内に浸透させているのがベネッセコーポレーションだ。

 同社がデザイン思考に取り組む理由も、新規事業の創造を通じて新しい時代に向けた人材開発につなげることだった。デジタル技術を教育に生かすなど、新しいビジネスが求められている。

 そこで同社では、人材開発部門が主導して、デザイン・シンキングを推進。すでに新規事業を実際にスタートさせている。「バケリ!」と呼ぶ女性向けのネットサービスはその1つ。これは、ユーザーの要望をネットで解決するサービス。さらに就活生の面接の研修をネットで行うネットサービス「ポケットメンター」もデザイン思考のアプローチから生まれた。

 両社に共通しているのはデザイン思考が導入目的ではない点だ。共にイノベーションを起こすためのスタート地点として位置付け、文化として醸成しようと全社的に取り組んでいる。

 今後もデジタル技術は進化の加速度を速めていくはずだ。ただし、あくまでも製品・サービスの使い手は人間であることに変わりはない。デジタル技術全盛時代だからこそ、ユーザーのニーズに耳を傾け、思いがけないシーズを嗅ぎ取るためには、デザイン思考のようなある種アナログ的な手法を掛け合わせていくことが必要なのかもしれない。
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