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難易度が高くなるほど利用メリットが際立つ - 微細な穴あけ用レーザー加工機「ABLASER」

難易度が高くなるほど利用メリットが際立つ微細な穴あけ用レーザー加工機「ABLASER」

削機械や放電加工機など、工具をワークに接触させて加工する工作機械は、本来、微細で高精度な加工を大量に行うことが得意ではない。微細で高精度な加工を施すには、相応の小さな工具を使う必要がある。すると当然、その摩耗は早くなり、長時間にわたる連続加工が困難になる。つまり、微細で高精度な加工と、長時間・連続加工の両立は困難なのだ。こうしたジレンマを解消する微細な穴あけに特化した加工機がある。三菱重工工作機械の短パルスレーザーを用いた微細レーザー加工機「ABLASER」である。

 「ABLASER」は、穴径100㎛を切るような微細で高精度な穴あけに特化して開発されたレーザー加工機である(図1)。「ヘリカルドリリング加工」と呼ぶレーザーをワークに与える熱の影響を最小限に抑えた独自レーザー穴あけ技術と、工作機械メーカーならではの精密位置決め技術を駆使して、ミクロンオーダーの微細な穴を高アスペクト比、高精度であけることを可能にした。しかも、電極をワークに接触させて加工する細穴放電加工機とは異なり、非接触加工ができるため、加工の中断がなく、また電極の交換などが不要になり、連続加工が可能だ。従来の加工機では不可能だった微細で高精度な加工と長時間・連続加工の両立が実現する。

三菱重工工作機械の短パルスレーザー加工機「ABLASER」

図1三菱重工工作機械の短パルスレーザー加工機「ABLASER」

熱による損傷が起きる間もなく加工

 多くのものづくりの現場において、波長が1064㎚(赤外領域)のYAGレーザーを搭載した、材料を溶融させて切断・溶接・加工するレーザー加工機が活用されている。ABLASERの加工原理は、材料を溶かして加工するこうした従来法とは異なるものだ。

 ABLASERでは、波長が515㎚(YAGレーザーの第2高調波:緑色の可視領域)のパルス幅が10ピコ秒(ピコ:10-12)以下の短パルスレーザーをワークに照射。照射した部分の材料を固体から一気に気体へと昇華(アブレーション)させ、周辺に熱が伝導する間も与えず加工する(図2)。こうすることで、残留物の付着や熱によるワークの変質・変形・破壊のない、精密できれいな加工を可能にする。加工後の穴のエッジ形状は、ドリルや放電加工機によるものと比べても、ひと目で違いが分かるほどシャープになる。また、レーザー光を光学系で制御することで、微細な穴径にも自在に対応できる。

従来のレーザー加工と短パルスレーザーの比較

図2従来のレーザー加工と短パルスレーザー加工の比較

 さらにABLASERでは、微細で高アスペクト比の穴を垂直にあけるために、もう一工夫を加えている。それが、ヘリカルドリリング加工である(図3)。レーザービームを絞り光学系で垂直照射し、あけたい穴の円周に内接させてドリルのように高速回転走査することで掘り進む手法である。光学系には、組み合わせたプリズムを回転させることでビームを走査するプリズムローテーターを用いている。

「ABLASER」に搭載されている独自光学系ヘッドによる「ヘリカルドリリング加工」

図3ABLASERに搭載された独自光学系ヘッドによる「ヘリカルドリリング加工」

 パルスレーザーを使った穴あけの方法には、ビーム径をあけたい穴の直径に絞り照射し続ける「パーカッション加工」と呼ぶ方法がある。しかし、この方法では、レンズでビームを絞る際に穴の円筒部の光路が垂直にならないため、穴の断面がテーパー状になってしまう。ヘリカルドリリング加工を採用したことによって、「最小加工径50㎛(波長が515㎚の光源を使った場合)、最大アスペクト比10を超える穴あけができるようになりました」と三菱重工工作機械 技術本部 加工技術グループの中川清隆氏は説明する。また、多くのレーザー装置メーカーと違い、工作機械メーカーとして長年蓄積してきた精密位置決め技術も投入。位置決め精度も±2㎛以内に高めている。

中川氏

三菱重工工作機械
技術本部 加工技術グループ 中川清隆氏

加工速度は放電加工機の約6倍

 ABLASERの加工速度は速い。加工時間を細穴放電加工機比で約1/6(穴径120㎛、深さ1㎜の穴を1万個あけた場合)に短縮できる。一般に、レーザー加工機は高価だというイメージがあるが、「加工時間の短縮を加味すると価格対性能比は放電加工機と同等、またはそれ以上のパフォーマンスがあると思っています。加工品質の向上と連続運転が可能になるメリットを勘案すれば、投資価値の高い、自信を持ってお勧めできる装置であると言えます」と同社 技術本部 加工技術グループ 上席主任の赤間 知氏は言う。

赤間氏

三菱重工工作機械
技術本部 加工技術グループ 上席主任 赤間 知氏

 また、レーザービームの照射方向を制御することで、テーパー穴や逆テーパー穴、さらには5軸制御による異形状加工・曲面加工も可能である。

 穴あけ加工に対する要求の高度化はとどまることがない。より多様な材料に、より微細な穴をあけたいとするニーズに応えて、2016年には光源の波長を266㎚(YAGレーザーの第4高調波)の深紫外領域(Deep Ultra Violet:DUV)に変えた新モデル、「ABLASER-DUV」も投入した。これによって、穴径10㎛の加工も可能になった。さらに様々な材料において吸収率が高く、しかも光エネルギーも大きいため、ガラス材料やサファイア、SiCなど化合物半導体材料といった、より幅広い材料を対象にして加工できるようになった。

 レーザーを活用した加工技術は、まだまだ伸びしろが大きな若い技術である。ドリルや細穴放電加工機に対するABLASERの優位性は、加工対象が微細になるほど際立ってくることだろう。「現時点でもすでに、金属だけではなく、セラミックスのような割れやすく電気を通さない材料も加工できます。今後は、異種材料を積層したワークも加工対象にできるようにして、より応用を広げていきます」(赤間氏)と言う。

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