スポーツ選手の動きを把握しリアルタイムでデータ化
ラトビア発ベンチャーと新たな領域へ挑戦

 豊富なアセットを用いてスポーツ産業の市場拡大に貢献する――こうしたビジョンのもと、NTTドコモは2017年7月に「スポーツ&ライブビジネス推進室」を新設し、次々とユニークな取り組みを展開している。今回紹介するのは北欧のIT大国、ラトビアが誇るベンチャーとの協業。そこには、スポーツの未来を切り拓こうとする力強い思いがあった。
 豊富なアセットを用いてスポーツ産業の市場拡大に貢献する――こうしたビジョンのもと、NTTドコモは2017年7月に「スポーツ&ライブビジネス推進室」を新設し、次々とユニークな取り組みを展開している。今回紹介するのは北欧のIT大国、ラトビアが誇るベンチャーとの協業。そこには、スポーツの未来を切り拓こうとする力強い思いがあった。

北欧の小国がもたらすITのインパクト

 NTTドコモでは現在、スポーツ×テクノロジーの新たなチャレンジに取り組んでいる。2017年7月には「スポーツ&ライブビジネス推進室」が発足し、ARスマートグラスを用いたラグビー観戦、VRによる選手目線での疑似プレー体験、チャットボットを活かした試合内容解説アプリなど、これまでにさまざまなサービスの実証を行ってきた。

 ラトビア発のITベンチャー「PlayGineering Systems」(以下PlayGineering)との協業も、これら新しい取り組みの一つだ。詳細に入る前に、まずはラトビアがどんな国なのかを説明しておこう。同国は北欧・バルト海に面したいわゆる“バルト三国”の一つ。面積は日本の約6分の1、人口は札幌市とほぼ同じ200万人ほどの小国ながら、隣国のエストニア同様にIT産業が盛んな国として知られる。例えば世界各国に利用者がいるオープンソースの統合システム監視ツール「Zabbix」は、ラトビアで開発されたものだ。

 PlayGineeringが提供するのは、映像によるスポーツ中継/解析サービス。具体的にはコーチングスタッフ向けの分析サービス「PlayAnalytics」、ビデオ審判の「PlayReferee」、トラッキングデータをもとに選手自身をカメラが追跡する高度な自動中継システム「PlayEntertainment」、据え付けた3台のカメラが自動に切り替わり試合の模様を中継する「PlayEntertainment LITE」の4つを柱とする。

 どれも核となるのは、スポーツ選手の動きをカメラで撮影し、リアルタイムでどのような動きをしているかを把握するといったものだが、その内容は未来感に満ちている。最大の特長はほとんど人手を介さずに「自動化」している点にある。この仕組みは、AI(人工知能)、コンピュータービジョンなどを融合し、独自のアルゴリズムによって確立したという。

 さらに、リアルタイムトラッキングの映像からデータを自動生成する。選手の動きはヒートマップなどで見やすく可視化され、ハーフタイムにタブレットを見ながら監督やコーチが詳細な戦術分析、選手の動きの判断などに活用できる。アリーナの天井に備え付けられたカメラにより選手の位置情報を補足、観客席四隅に据えた4台のカメラによって選手の背番号を認識するため、選手がわざわざ物理的なチップをユニフォームに装着する必要もない。

ハンドボールにおける解析画面(PlayGineeringの紹介動画より)

 すなわち、これまでのスポーツ中継で常識となっていた大がかりな映像チームやデータ分析チームが不要となる。この結果、野球やサッカーといったメジャースポーツ以外でも高品質な中継や映像を活用したデータ解析が可能となる。PlayGineeringは欧州を中心としてすでに50カ国以上で導入実績があり、おもにハンドボール、アイスホッケー、バスケットボールで採用されている。

PlayGineeringとドコモでスポーツの未来を変えていきたい

 プロジェクトをプロデュースするスポーツ&ライブビジネス推進室 担当部長の松永裕司氏は、協業に至った経緯を次のように語る。

 「スポーツのトラッキングに大きな可能性を感じていたのが発端です。その映像からリアルタイムでスタッツ(走行距離、パス回数など)を生成できれば、さらに面白い。この観点から国内を中心にいろんな企業に打診してみましたが、我々の考えるようなサービスはありませんでした。そんなとき、NTTドコモ・ベンチャーズから紹介されたのがPlayGineeringだったのです」(松永氏)

NTTドコモの松永氏

 その後ラトビアに足を運んで実際に見学し、可能性を肌で感じ取った。松永氏は「そこにあったのは基本的に自動で映像を撮影し、自動でスタッツを導き出すソリューション。PlayGineering はスポーツの未来を変える企業だと感じました」と、大きな期待を寄せる。

 日本初上陸となる今回の取り組みでは、バスケットボールでのトライアルを実施した。まず2018年2月23日に、男子Bリーグの西宮ストークス(B1)対バンビシャス奈良(B2)の練習試合で、同年3月10日に女子Wリーグの東京羽田ヴィッキーズ対日立ハイテククーガーズの公式試合で実証実験を行った。

 取材に伺ったのは後者のWリーグの試合。PlayAnalyticsでは天井と観客席四隅に解析用のカメラを設置し、撮影した映像データをもとにリアルタイムで選手の動きを把握する。そのほかタブレット上でヒートマップにより選手の動きを即座に可視化できることから、ハーフタイムの指示にも有効活用できる。

天井に据え付けた選手追跡用のカメラ(左)。四隅に置かれた解析用カメラ(中)。分析データはタブレットで表示(右)

 PlayEntertainmentでは、客席上部の隅と中央にカメラを設置して選手の動きを捉える。驚いたのは高価な業務用機材ではなく、コンシューマー向けの入手しやすいカメラだということ。「通常、このリーグの規模だと定点カメラを一台置いて、得点情報のテロップを流すのが精一杯ですが、この仕組みを使えば予算が潤沢なスポーツリーグに引けを取らない映像中継・データ解析が可能になります」(松永氏)。

PlayEntertainment用のカメラ。入手しやすいコンシューマー向けモデルを活用する

 実証は成功に終わった。公式発表では「走行距離や複数の視点から見える映像など、新しいデータが追加されたことで選手にさらに深い指導ができる期待が持てた」(西宮ストークス)、「これまで、公式戦におけるハーフタイム時の戦略は経験に頼るしかなかったが、視覚的データがリアルタイムに得られることで、見るだけで戦略とのズレや課題がわかるようになり、後半の戦術作成がより効果的にできるようになる」(東京羽田ヴィッキーズ)と、それぞれの関係者から高い評価を得た。

バスケットボール女子日本リーグ 事務局長の木下氏

 今回ご協力いただいた一般財団法人 バスケットボール女子日本リーグ 事務局長 木下亮氏は、「俯瞰で選手の動きを撮影して、それを背番号と組み合わせることで個々の動きをかなり正確に分析するのは、戦略を組み立てる上でも非常に有効なツールだと思います」と評価する。そして「現在、中高生の部活動で指導者不足が叫ばれていますが、こうしたツールがあれば解決の糸口になるかもしれません」と、社会的な課題解決にも役立つのではないかと話してくれた。

 一方、PlayGineeringは現状に満足することはない。CEOのRichard Fomrats氏は「背番号の認識技術がまだ甘く、人手を介して補正する必要があります。今後はAIとディープラーニングの精度をより高めて、できる限り早い段階で完全自動化を目指したい」と語る。

PlayGineering CEOのRichard Fomrats氏

 バスケットボールに関しては、将来的にリバウンドの回数も把握したいと意欲を見せる。「私たちはXY軸のデータをすべて採取していますから、アルゴリズム次第でどんどんシステムを発展させることが可能です。バスケットボールに限らず、アイスホッケーなどほかのスポーツでも新しい機能を追加していきたいと考えています」(Richard氏)。

 松永氏は「まずはプロのリーグに使っていただくのが最初。このソリューションでチームの強化に成功すれば“あのソリューション、うちのチームでも入れたほうがいいんじゃないの?”となって広がっていくはずです」と展望を語る。

 今はコーチングスタッフに目が向きがちだが、いずれは各種スタッツが映像とともにファンにも配信され、リアルタイムの“濃いデータ”を見ながら楽しめるようにしたいとも言う。

 「5Gの時代になれば大容量・超高速・多端末接続が可能になります。PlayGineeringの強みはメジャーだけではない、さまざまなスポーツを開拓できる点にあります。NTTドコモの技術と組み合わせることで、スポーツ観戦の裾野をぐんと広げていきたいですね。

 今後は、PlayGineeringのように斬新で驚きのある技術を持った会社を探しながら、ほかのスポーツでも可能性を探っていければと考えています。今までのスポーツ科学にこういうソリューションが入ってくると、がらりと世界が変わりますからね。“ドコモがベンチャーと一緒になってこんなことを具現化した”という事例が一つでも多く認知されれば、ドコモ×スポーツのイメージにも貢献するはずです 」(松永氏)

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ドコモ・イノベーションビレッジ事務局
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